第120話 夜の語らいと怖い事を言い出す双子

(何で閉めようとしたタイミングで……)


 はー……疲れた。とため息をついて階段を上るリカルド。

 鉱山の移転作業を終えて占いの館に戻ってきた後、やっぱり疲れたし今日はもう閉めようと接続を切ろうとしたのだが、その瞬間に路地裏から客が来てしまったのだ。

 しかもそれが珍しく招かれざる客という類の客で、リカルドは今後の事も考えてをしてお送りし、今しがた閉店作業を終えたところである。


 あの類には二度と来て欲しくないわと呟きながらリカルドは居間のソファに寝転がると、息を吐いて力を抜き――ふと窓から差し込む月明かりがいつもより強いような気がした。


(今日は満月か……)


 ソファから降りて窓に近づけば、冬の冴え冴えとした夜空にくっきりと丸い輪郭を描く月の姿があった。

 先程まで地中の構造ばかりをイメージしていたせいか、リカルドはなんとなく空のものに惹かれキッチンを抜けて庭に出て、月が良く見えるところに椅子を作って座った。


〝何してるんですか?〟

「ん? んー……」


 ぱっと現れたウリドールに、特に何をするつもりも無かったリカルドは少し考えてから酒瓶を取り出した。


「月見酒でもするか。お前も飲む? 普通の果実酒だけど」


 ウリドールに杯を作って出すと、ウリドールは受け取ってリカルドの横に座ったような姿勢で浮いた。


(……微妙に浮いてる)


 酒をウリドールの杯に注ぎながら、空気椅子のような状態のウリドールを見るリカルド。どうにもそれが落ち着かなくてその場にもう一つ椅子を作れば、ウリドールはすぐに気づいてにこにこしながら座り夜空を見上げた。

 リカルドもちゃんと座っている見た目に満足して自分の杯に酒を注ぐと、夜空を見上げ口をつけた。

 そうして並んで酒を飲んで、しばらくするとウリドールが聞いた。


〝これって月を見てお酒を飲んだらそれでお終いですか?〟

「ん?」


 もう飲んじゃいましたと空になった杯を見せるウリドールに、リカルドは苦笑して酒を注いだ。


「月見酒の本来の意味は……収穫を神様に感謝する祭りだったかな? 今はただ酒を飲む口実に月を使ってるようなものだから、黙って月見て酒一杯飲んでお終いって事は無いよ。前にもこうやって酒を飲んだ事があったろ? 一人で飲む事もあるけど、大抵あんな感じで誰かと話しながら飲んだりするんだよ」


 そうなんですか?と首を傾げるウリドールに、夜の静寂を妨げないよう防音を張って俺の場合はなと答えるリカルド。

 じゃあ……とウリドールは話題を探して考え、一つ思い付いてリカルドに聞いた。


〝聖樹の精霊が神様のお店に行った精霊がいるって言ってましたけど、来たんですか?〟


 忘れてかけていた恐ろしき異形の存在もの達の話に、リカルドは遠い目になった。


「……来たよ……数日前に連続でおいでなすったよ……」

〝本当ですか? 全然気づきませんでした。どこから来てるんだろ?〟

「地下で店をやってる時は空間を閉じて特定のところにしか開けてないからな……気づくのは難しいかも」

〝あぁ閉じてる空間なら納得です。神様の空間は頑丈だからちょっと干渉出来ないですし〟

「精霊は無理矢理入って来てるけどな」


 そう毒づきながら、あいつらある意味裏口から入ってきてる迷惑客じゃねぇかと気づくリカルド。だからといって本来の道である路地裏や札の近くをウロウロされてもそれはそれで他の客に迷惑なのでどうしようもないのだが。


〝へー。さすが精霊ですね〟

「来て欲しくはないんだけどな……」

〝そうなんですか? でもお店そっちならいいって言われたって聖樹の精霊が言ってましたよ? だからわざわざ人の形をして行くよう伝えたんだって〟


 リカルドは口元で傾けていた杯を止め、ウリドールを見た。


「……今、なんて?」

〝家の方に来られるのは困るからお店にって話になったって言ってましたけど、違いました?〟

「いやあってるけど、そこじゃなくて聞きたいのは人の形で行くってとこ。そんな事俺は頼んでないぞ」

〝神様が言ってないなら聖樹の精霊が考えたんじゃないですか? 人が行くお店にお客として行くんだから人に合わせないとって〟

「…………」


 ありそう。と無言になるリカルド。

 すぐに時を止めて虚空検索アカシックレコードで確認してみればその推測は正しく、今まで占いの館に来た精霊達のほとんどが人型をわざわざとっていたという事が判明した。

 リカルドは束の間固まった後、無言で酒を呷った。


〝聖樹の精霊なら人そっくりになれますけど、でも他の精霊はそれと比べると面白いぐらいすべすべですからねー。あれだと人っていうか、どっちが前でどっちが後ろかわからなくて……ふふ〟


 笑っちゃいますよねーと楽しそうに笑っているウリドールに、笑えないんだよ……と内心マジレスするリカルド。


「……ちょっと行ってくる」


 とにもかくにもこのような事態は放置しておけぬとリカルドは気力を集めて立ち上がり、酒瓶と杯を椅子に置いて転移した。

 向かった先は当然聖樹のところである。だが転移した瞬間、そこに長耳族エルフが複数いるのが見えてぎょっとした。


(あっぶな……時を止めててよかった)


 幸い虚空検索アカシックレコードを使った後だったので時を止めていたが、そうでなければ深刻な顔をした彼らの前に姿を晒すところだった。


〝あれ? しばらくこっちには来ないと思ってたけど、どうしたの?〟

「……大事な話があって来たんです」


 気を取り直して聖樹に近づき見上げるリカルド。


「うちの店を他の精霊に紹介するとき、人の形で行くようにと言われているみたいですが、それを止めていただきたいんです」

〝あーあれ? でも人が行くお店でしょう?〟

「そうですが、人の形でなければ対応しないという事はありません。むしろ中途半端に人の形をされて来られる方が困ります」


 ですから普通に丸い形とかで来てくださいとお願いするリカルドに、精霊はやはりわかっているような気配はなく、そうなんだ?と不思議そうな雰囲気を漂わせていた。


〝んー。じゃあそう伝えておくよ〟


 軽い返事にリカルドは、お願いします、お願いしますからちゃんと伝えてくださいね、と念押しして家へと戻った。

 そして時を戻すと椅子に置いていた酒瓶と杯を取って座り、徒労感からそのまま月を見上げた。


〝聖樹の精霊のところですか?〟

「あぁ。とにかく人型で来る必要はないって言ってきた」


 ちゃんと伝えてくれるといいんだけどな……と呟くリカルドに、精霊なら言った事は守ると思いますよと返すウリドール。

 と、そこにシルキーが勝手口から腕に籠を引っ掛け丸めた毛布のようなものを抱えて持ってきた。


〝遅くなりました。よければこれをどうぞ〟


 リカルドは極寒の地だろうと凍える事は無いのだが、薄手の服のまま出ている自分を見て気を使ってくれたのかな?と思ってテーブルを作って酒瓶と杯を置いてシルキーから受け取ると、意外と重みがあった。そして暖かかった。


〝スネ肉のシチューです〟


 毛布のようなものをシルキーが開けばそれは小さな鍋で、蓋を開ければ熱々そうなブラウンシチューが白い湯気を上げながら美味しそうな匂いを漂わせた。


「え、いいの?」


 これ明日のご飯に仕込んでたんじゃないの?と尋ねるリカルドだが、頭の中は絶対美味しい奴じゃん!と先ほどまで下降していたテンションが急上昇していた。


〝また作れますから大丈夫ですよ。これならお酒のアテになるかと思ったのですが〟

「なるなる! 嬉しい! あ、シルキーも飲まない?」

〝いえ、私は食事は〟

「あ……そうか。ごめん、そうだった……」


 前にも断られた事を思い出しストンと肩を落として謝るリカルドに、シルキーは籠の中から器を取り出していた手を止め、少し迷ってからテーブルに置かれていた杯をそっと手に取った。

 シルキーにはご飯を食べて楽しむという考えはなく、作ったご飯を食べて貰って楽しむというのが基本だ。お酒に関しても飲めるが酔うことはなく、それを楽しむという感覚もわからない。けれど、目の前で落胆するリカルドに絆されてしまった。


〝……あの、味見ぐらいなら〟


 シルキーの声で視線を上げたリカルドは、そこで遠慮がちに杯を手にしている姿を見て驚いた。だが我に返るとすぐさま新しい杯を作った。


「それ俺が使ってた奴だから、はいこっち」


 弾んだ声で作ったばかりの杯を渡して、それからシルキーの椅子も作って、座って座ってと促して。三人並んで座るとそれぞれの杯に酒を注いでかんぱーいと合わせた。

 誰も酒に酔わない人外の月見酒の始まりである。ノンアルコールで酒宴を開いているようなものだが、シルキーがこの家で生まれた頃の話(まだ家事が上手ではなく家の主人の妻の真似をしていた)をしたり、ウリドールが千年呪木ウリアネスになる前の弱小魔族だった頃の話(高位魔族同士の戦いに巻き込まれて上半分炭化して根っこでどうにか逃げたとか)をしたり。穏やか(?)な話をして時は過ぎ、月が見えなくなってもしばらく三人の雑談は続いた。

 

 そんな楽しい時間だけが続けば世の中幸せなのだが、そうで無いのが世の常。

 夜が明けてリカルドがいつも通りの朝のルーチンをこなし、いつもと変わらぬ美味しい朝ごはんを食べ、出掛ける樹を見送った後、それはやってきた。


 リカルドが居間で寝転がっていると来訪者を知らせる小鳥の声が聞こえ、間を置かず玄関のドアを叩く大きな音が聞こえてきて何事かと飛び起きた。

 居間からでも聞こえる程の叩き方に、なんだなんだ誰だとドアを開ければそこに居たのは着膨れしたリッテンマイグスであった。

 ドアが開いた瞬間リッテンマイグスはドアに手を掛けてぐいっと大きく開け、一歩前に出て急いだ様子で挨拶もなく話し始めた。


「リカルド、里が気づいた」

「え?」

「ヒヒイロカネの使用量が里から出している量と合わないと各地に使者を送っている」

「ヒヒイロカネ?」

「ラドバウトの鎧だ。あれをヒルデリアで見たクーノルスタフが里に報告し発覚した」

「ラドの鎧が……え?」

「ヒヒイロカネの不正採掘の嫌疑が掛かっているため里に赴かねばならない。だが私は今剣を打っている最中。本来ならば共に行き嫌疑を晴らすところだがそれはできない。よって万一に備えて幸運のお守りに声を掛けておいた。リカルドは里の者達と共に里へと向かい精錬を直接見せてやって欲しい。集合場所は南門、朝の鐘五つだ。目印に腕に緑の布を巻いておいてくれ」


 いやいやちょっと待って、着膨れしてるインパクトが強くてそっちに意識がいっちゃうし、話も早くてわからないと時を止めるリカルド。

 そしてすぐに何が起きているのか確認して、あー……と声を漏らした。


(ヒヒイロカネって出荷制限してるっていうか、出荷後も管理してるのか……)


 いろいろ端折って簡単に言うと、ラドバウトの鎧に使用されているヒヒイロカネの出所を穴人ドワーフ達が特定出来ず、誰かが不正に採掘したのではないかと彼らの国で騒ぎになっているという事だった。

 そしてその不正採掘の可能性が最も高い容疑者というのが、ラドバウトが拠点にしているグリンモアの王都に工房を構えているリッテンマイグスだった。一応リッテンマイグス以外の可能そうな者達にも帰還命令は下されているのだが、どちらかというと氏族会議をするから帰って来いという意味合いが強く、ほぼほぼリッテンマイグスがやったのかどうかを確認する場とするつもりらしかった。

 で、当のリッテンマイグスはというと全く危機感を抱いていなかった。

 というのも、穴人ドワーフ達は鍛冶師としての技術と同じぐらいヒヒイロカネの精錬技術に重きを置いており、純度100%のヒヒイロカネを生み出せるリカルドを連れて行けば間違いなくみな黙ると踏んでいたからだ(リッテンマイグス自身、それを見せられた時に認めざる得ないとそれが理由で酒を交わした)。

 実際その考えは正しく、目の前でその光景を見せられれば里の穴人ドワーフ達もリカルドに対して敬意を払うようになり、リカルドが穴人ドワーフが保有している鉱山ではなく、魔族領の誰も手を付けていないところから採って来たのだと言えば、そうなのか?と話を聞くぐらいには態度が軟化する。

 という事でリッテンマイグスは、里の穴人ドワーフ達が万一リカルドを認めなかった場合の護衛として幸運のお守り信用している冒険者を付けて送り出そうとしており、こうして朝一番にそれを伝えに来たというわけだった。


(行った方がいいのは理解出来たけど……急なんだよなぁ。しかも呼び出されてる当人のリッテンマイグスさんは来ないつもりだし)


 リッテンマイグスにとっても急な話であったのでそこは仕方がないのだが、今取り掛かっている剣を作り上げたいからという理由で里からの呼び出しをバックレるつもりというのがリカルドには苦笑いものだった。


(まぁ原因は俺だからいいんだけど……剣も早く作って欲しいし)


 ちなみにだが、リッテンマイグスがリカルドの家の玄関先で急いでいたのも早く工房に戻って作業を続けたいからだ。前述の通り里に気づかれて焦っているとか嫌疑を掛けられて狼狽えているとかではない。あと、着膨れは普通に寒さが苦手なだけである。


「わかりました。明日の朝、鐘五つに南門ですね」


 時を戻して答えれば、リッテンマイグスは気を付けてなと一応気遣う一言を残してさっさと踵を返し去っていった。その迷いのない足取りからも全く問題視していないのが窺えるが、出来ればヒヒイロカネがそんな厳しい管理下にあるなら事前に教えて欲しかったなぁと思うリカルド。


(……まぁでも、教えてもらったところで結局ラドの鎧には使ったと思うけど)


 であれば、いずれは通る道だったかとリカルドはドアを閉めて踵を返した。


(移動に最大で二週間か……)


 穴人ドワーフの里まで徒歩で普通に行けば二週間は掛かる。さすがにその期間丸々何も出来ないという話は困るが、夜を自由時間にして貰えば(場合によっては強制的に自由時間にする腹積りのリカルド)、どうにか出来るだろうと頭の中で計算しながらキッチンへと戻り、シルキーとウリドールに声を掛けてしばらく日中は留守にする事を伝えた。

 ウリドールは毎度の事で悲壮な顔をしたが、夜は戻れると思うと言えばケロリと元に戻った。相変わらず現金というかわかりやすい世界樹である。

 リカルドはその様子に呆れつつシルキーには何かあった時のために事情を説明して情報を共有しておき、もし戻らない事があればウリドールには例の非常食を使うようお願いして外出の準備に取り掛かった。

 基本的に手ぶらで動き回るリカルドは旅装というものを理解していないのだが、今回は同行者がいるので怪しまれないよう虚空検索アカシックレコードで確認して、必要最低限のものを街で揃えて荷物袋に纏めた。そして出来上がった荷物袋を見て、なんかちょっと冒険者っぽいなとわくわくした。お前冒険者じゃなかったのかという突っ込みはいつも通り——以下略。


 そうして夕方になって帰ってきた樹にも話さなければと思っていたら、樹の方から先に明日から二週間程依頼で戻れない事を伝えられてリカルドは驚いた。


「長期の依頼を受けるのはこれが初めてじゃない?」


 ヒルデリアの例外を除くとここまで長い依頼は初めてで、大丈夫かな?とリカルドが心配に思って聞けば、樹が実はと事情を説明した。


「今は俺、ケイオスさん達と依頼を受けてるって話をしたと思うんですが、俺が未成年だからかあんまりリスクが高くなるような依頼は避けてたみたいなんです……でも今回昔から付き合いのある人に頼まれたので断れなかったって言われて、俺は付き合わなくていいと言われたんですけど」

「あー……なるほど。それは付き合いたくなるね」


 おそらく未成年だからではなく、ディアードの件が関係して過保護気味になっているんだろうと予想するリカルド。

 何にしても自分のために依頼をセーブされていたなら、そりゃ協力したくなるかと頷いた。

 

「了解。樹くんなら大丈夫だと思うけど気をつけてね」

「はい。すみません剣舞の相手をするって言ったのに」

「いやいや大丈夫。だいぶコツは掴んだし、それに実は俺もちょっと出掛ける予定でさ」

「そうなんですか?」

「うん。やる事やったら現地解散してさっさと戻ってこようとは思ってるけど」


 行きは同行者に合わせて普通に行くつもりだが、帰りは別れて先に帰る予定のリカルド。冒険者なんてそう顔を合わせる相手でもないし現地解散してさっさと帰ってもバレなかろうとザル思考である。


「じゃあ俺が戻る頃にはリカルドさんは家に居る感じですか?」

「うん、たぶんそうなるかな」


 リカルドの言葉を聞いてどことなくほっとしたような様子を見せる樹。別にリカルドが居なくても困る事は無いのだが、リカルドが家を不在にしている時は何かしら大きな事をしている時だったので、自分より先に戻ると聞いて無意識に安心したのだ。


「あ、これ」


 ほっとしたところで大事なものを思い出し樹は腰に付けているウエストポーチから封筒を取り出した。


「ケイオスさんがリズさんに渡して欲しいと。無理なら構わないからって言ってたんですけど……」


(おお……手紙だ……)


 紐で縛られた茶色い封筒を受け取り、頑張って書いたんだな……と思ったリカルドは中を確認するような事はせず、すぐにシルキーを呼んでお願いした。


「……大丈夫かな」

「まぁ何かあれば対応するから。俺たちは見守っていよう?」


 心配そうに呟いた樹にリカルドは微笑んで肩を叩き、最後の練習に付き合ってくれる?と庭に誘って最終調整に協力してもらった。


 そして翌朝、何事もなく(リズが手紙を読んだのか読んでないかはシルキーに聞かなかった)早朝に樹を送り出して、リカルドも久々に外出のため家を後にした。

 冬の時期だとまだ薄暗い時間帯だが、待ち合わせの南門はそれなりに人の姿があった。大抵は商人と思われる人々で、馬車の車輪部分がソリになっている冬仕様の装備を門から中に入ったところで通常の車輪に付け替えたり、逆に外に出ようとしているところはソリに付け替えたりと馬車商売をしているらしい建物の周りは賑やかだった。

 ああやって移動してるんだなと横目に見ていたリカルドは、人混みの中で妙に目立っている双子らしき女性に目が止まった。

 歳の頃は二十前後。二人とも白髪で同じ顔なのだが、一人は鮮やかなオレンジの目でもう一人は透き通るような水色の目をしていた。色白で華奢ではあるが冒険者のような出立ちをしており髪は短くボーイッシュ、特別綺麗とか美人とかではなかったので(失礼)双子っぽい事と目の色のコントラストで人目をひいてるのかな?とリカルドは思った。


「あ、あの子いいかも」

「どれ? あ。ほんとだ。ちょっと声をかけようか」


 聞こえたハスキーボイスは全く同じで、声も同じなのかと視線を外しながら思うリカルド。


「ねぇねぇ、君。君だよ! 君、私たちと結婚してくれない?」


 聞く気は無かったのだが、聞こえてきた内容にリカルドは吹き出した。

 この世界そんなノリで結婚申し込むがいるの?と驚いて視線を向けて、申し込まれた相手を無意識に確認し――ギョッとした。


「ちょっ、ちょっと待った!」


 反射的に彼らの間に入ってストップを掛けるリカルド。


「え、リカルドさん?」


 何故なら声を掛けられていたのが早朝に見送った筈の樹だったからだ。

 背に庇った樹の戸惑った声に、咄嗟に動いたリカルドはハッとした。

 もしや俺は今、余計な事をしたのでは?と思ったのだが、しかし樹はいずれ日本に帰る身。そしてまだ十五歳。法律的に結婚はアウトだし、いきなり結婚してくれと言う女は常識的にもちょっと怪しい。だが自由恋愛を阻む権利は自分には無いような……?とも思って引くべきか引き離すべきか考えてしまった。

 その間双子らしき女性は目を細めてリカルドの事をじっと観察していたのだが、水色の目の女性がオレンジの目の女性に耳打ちすると同時にニッと笑い、左右からリカルドの腕に抱きついた。


「お兄さんもいいね!」

「私たちと結婚してよ!」


 リカルドは一瞬何を言われたのか、何をされているのか理解出来なかった(非モテの弊害)。


「——……はっ?!」


 遅れて理解したリカルドは、君らさっき樹くんに言ってたんじゃないの?!と女性達の意味不明さにビビった。


「だって絶対面白いよ!」

「間違いないね! 面白い子供が出来る!」


 子供っ!?と話が飛躍してさらにビビるリカルドだったが、その二人の頭上にいきなり米袋(10kg)ぐらいの直方体の岩が出現して真下に落ちた。

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