第112話 思いの外楽しい酒盛りと遠方からの客

 その日の夕食後、リカルドは昨日に続いてルゼの訓練を見てから占いの館に戻りさぁやるかと空間を接続しようとして、躊躇った。


(また精霊達あいつらが来たらどうしよう……)


 さすがに二夜連続は嫌なリカルド。かと言ってここで開けなかったらずっと開けられない気もして、意を決して虚空検索アカシックレコードで精霊達が来るかどうかを確認した。

 結果、本日の精霊の来訪は限りなく低い事がわかり心底胸を撫でおろした。

 やっとまともに営業できると気持ちも安らかに営業用の微笑みを浮かべ、占いの館を路地裏に接続、札を起動させ――


「ようやっと入れたわ」


 目の前に現れたのは人間離れした美貌の存在。平和と安寧の女神であった。

 無言で顔を覆うリカルド。

 しかし酒飲み女神が早々に帰る事などある筈もなく、顔を覆っているリカルドを無視して勝手に机の上の水晶をどかし、いつものように盃と酒瓶を置いてほれほれはよう出せとシルキーの料理を強請った。

 その居座る気満々の姿にリカルドは諦めた。そうしてストックしてある料理を出せば女神は上機嫌で自分の盃に神酒を注ぎ、リカルドの盃には別の酒瓶から酒を注いだ。


「一晩中はやめてくれよ」


 予防線を張るリカルドに女神は目を眇め、これ見よがしにため息を吐いて見せた。


「ケチ臭い奴よのぅ。昨夜は精霊どもに先を越されて悔しい思いをしておったのだ。一夜ぐらいよかろう?」

「先を越された?」


 女神なのに?と思わず聞き返すリカルド。

 女神は制限は多いものの、この世界を回している側の存在である。それが精霊に負けるという事がリカルドには驚きだったのだが、当の女神は何でもない事のように肩を竦めた。


「ああも張り付かれていては仕方あるまい。あやつらは世界の断片であるからな。女神この役に収まっている妾では押しのける事など出来ん」

「世界の断片……」


 女神も自分の事を世界の一部だと言っていたので、じゃあ精霊は女神とそう変わらない存在という事?と考えるリカルド。


「そのような事よりもだ」


 まずは一杯と盃を掲げた女神にリカルドは逸れていた意識を戻し、まぁ最初ぐらいは付き合うか……と盃を手に取って女神のそれに軽く合わせ口を付けた。


「? これ、神酒じゃない?」


 口に含んですぐ、リカルドは気が付いた。

 神酒は芳醇な香りのする酒なのだが、口にした酒は爽やかな香りのキレのある味わいだった。そして何より違ったのは、魔力でダメージを受けた感覚が無かった事だ。


神酒これだと主が楽しめぬであろう?」


 造るのに苦労したわと口の端をあげる女神に、リカルドはあっけにとられた。

 まさかこの他人の都合など考えなさそうな女神が、自分のためにわざわざ(ダメージ無しに)飲める酒を造ってくるなど思ってもみなかったのだ。


「主のおかげで酒の楽しみを思い出せたからの……」


 女神は小さく呟くと、反応出来ずに止まってしまっているリカルドを見て満足気に笑い、手にした酒をくいっと飲み干した。


「それは……どうも、ありがと」


 女神の空いた盃に神酒をつぎ、言葉少なく礼を言うリカルド。

 占いの館に酒盛りしに来るなよという気持ちではあったのだが、自分の為に用意してくれたのだと思うとさすがに心動かされるものがあった。


 そこから先は特にいつもと変わらずナクルの話や人の信仰心の低下っぷり、自分を神の座につけた存在に対する愚痴なんかを垂れ流していく女神。

 あーそうなんだ。良かったね。大変だねぇそれは確かにやだねとリカルドもいつも通り聞いていたのだが、聞いていて疲れたなと感じないのは口を潤すキレのある味わいの酒があるからなのか。それともいつもより神撃が放たれる回数が少ないからなのか。

 長々と紡がれる愚痴を聞きながらこっちの揚げ団子も美味しいよと勧めたり、この青菜炒めが絶品だと褒める女神に何故かリカルドが満更でもない気持ちになって、直後にソーセージはノーマルかピリ辛かで揉めて神撃喰らって、ソーセージが無くなればジャガイモのニンニク炒めは正義だと意気投合し、いつの間にか日本で仕事帰りに同僚と飲んでいた時のようにバカ楽しくやってしまっていた。

 チョロい上に流されやすい死霊魔導士リッチである。


「あ、そういえば」


 盃を重ね、並べた皿が空になったところでリカルドはデザートにとプリンを取り出し、女神に渡しながら思い出した事を聞いた。


「『創造主の遺物』って知ってる?」


 虚空検索アカシックレコードでは無理だったが、女神なら何かしら情報があるかも?と軽く尋ねれば、女神はプリンを受け取りながら、ん?と聞き返した。


「『創造主の遺物』。このぐらいの鈍色の丸い物体なんだけど」

「……創造主の遺物。鈍色……ちょいとまっておれ」


 プリンをひと匙すくって口に咥え、そのまま視線を上に上げて何かを見る女神。


「……いくつか該当するものはあるの。いずれも世界の切れ目に使われた形跡がある」

「世界の切れ目?」

「生物が死滅した時代の事だ。妾が神の座につくよりも遥か以前にこの世界はそういう時代を二度迎えておる」

「生物が死滅……」


 地球で言うところの巨大隕石による恐竜絶滅みたいな事か?と頭に思い浮かべるリカルド。そのタイミングで使われたとなると物凄く重要な物だったのでは?という予感がしてきて、おそるおそる聞いた。


「……どういう使われ方をしたのかは、わかったりする?」


 もし『創造主の遺物』がノアの箱舟的な使われ方をしているのなら盛大なやらかしである。生きとし生けるものを救済する手段を潰した事になるので、リカルドはどう頑張っても取り返しがつかない気がしてならなかった。


「使われ方……駄目だの。あやつが手を加えたような跡があって詳しくはわからぬ」

「……そっか」


 わからないとなると、救済手段だった可能性は否定出来ない。

 暗い声になるリカルドに、どうしたのだ?と女神は視線を向けた。

 視線を向けられたリカルドは束の間沈黙し、口を開いた。


「……ちょっと、やってしまったかも」

「なんだやってしまったとは」

「……実は昨日、その『創造主の遺物』を精霊が持ってきて……壊してほしいと迫ってきたので、壊してしまいました」


 ぎこちなく小学生の作文のような回答をするリカルドに、は?と女神は聞き返した。


「壊した?」

「……はい」

「あやつが手を加えたものを?」

「……はい」


 咎められる者として頭を下げたリカルドに、女神はしばし目を瞬かせていたが、やおら大きな声をあげて笑った。


「あっはっはっはっはっ! 壊した! あやつが手を加えたものを!」


 腹を抱え(プリンを落とさないように持っている方の手は上げて)、堪えられないと言った様子で目に涙を浮かべて笑う女神。 


「やはり主は最高だの!! いいではないか! 壊せ壊せ! 残っておるのも全て壊してしまえ!」

「いやいや、やっといてあれだけど何に使うものかわからないものをそんな簡単に壊せとかまずいって」


 それにお前、アレが関わってるってだけで壊せって言ってるだろと突っ込むリカルドに、女神は笑いを一瞬で収め目を細めた。


「違うわ。それが生物を死滅させるきっかけとなる代物だからだ」

「え——え? そっち?」

「そのものが死滅させるのか、何らかの現象を起こして死滅させるのかまではわからぬが、使われたタイミングから見てまず間違いなくそうであろう」

「ええと……救済措置的なものではなく?」

「死滅したと言うたであろう。残った生物などおらぬ。

 大方、位相の違う上の奴らがこちらを勝手に用無しだと思うた瞬間一掃するために造ったのであろうが……ふんっ、胸糞の悪い」


 特に今は妾の愛し子がいる時期なのだぞ……奴らの気まぐれでそのような事させてなるものか……と私情を挟みまくる女神と、セーフ?セーフって事なんですね?とほっとするリカルド。


「今のところあちらから反応みたいなものはないんだけど、バレてると思う?」


 ほっとしたところでリカルドがもう一つ気になっていた事を聞けば、女神は当然のように頷いた。


「それはそうであろう。手を出した瞬間に必要とあらば主を存在ごと消し去るのも躊躇わぬ輩だ。今ここに主が在るという事は容認したという事か……もしくは壊される事など想定外でどういう対応を取るのか決めかねたか……そちらの可能性の方が高いのではないかえ? 妾とてあやつが手を加えたものを壊せるなどと考えもしなかったからの」

「……それは、これからなにか起きるかもしれないって事?」

「可能性は十分あるであろう? 気になるなら主の面妖な技で見てはどうだ?」

「いや前にも言ったと思うけど、アレが関係している事ってなかなか見れないんだよ。実際『創造主の遺物』を調べようとしても全く見れなくて——」

「なればこそだ」


 ぴっとスプーンをリカルドに向ける女神。


「そのものを見るのではなく、壊した事で何か起きるのかどうか、そちらだけを確認すればわかるのではないかえ?」


 見れないのであればどこかで関与されるという事であろう?と話す女神に、リカルドはしばし考え――確かに。と納得した。そしてすぐに虚空検索アカシックレコードで『創造主の遺物』を壊した事で何か起きるのかを調べてみた。


「…………」

「どうであった?」


 パーンせず、結果を確認出来たリカルドはとてもほっとした。


「何も起きないみたい。今が続くって結果だった」

「では容認されたか、そもそも廃棄されていたか。その辺であろう」

「あぁ、遺物ってあるからね。その可能性は俺も考えてた」

「その割にやってしまっただとか焦っておったように見えたがのぅ?」

「誰だって生物の死滅とか聞いたら焦るって。仮に救済の為だった場合、壊した俺って完全に全生物の敵じゃん」


 そうならなくてまじで良かったよ……とため息を吐くリカルドに、死霊魔導士リッチが何を言うておるのやらと相変わらず不死者らしくないその様子に女神は無言で笑った。


「それにしても、精霊が持ってきたと言うておったな?」

「ん? うん」

「あやつらはあまりそういう事をせぬものなのだが、何の精霊であった?」

「あー、わかんない」


 興味もないし怖くて見る余裕など無かったリカルドである。


「今わかるかえ?」

「ん、ちょっと待って」


 たぶんわかると思う、と虚空検索アカシックレコードで調べると本当の名前の方がわかってしまい、こっちじゃないなと鑑定でわかる名前の方をもう一度調べるリカルド。


「えーと、繋ぐ生命の精霊、だって」

「…………知らぬ系統か」


 スプーンを持ったまま顎に手をかけ視線を落とす女神。


「用が出来た。またの」


 そしてそのままあっさりとプリンとスプーンを持って消えてしまった。

 用?と首を傾げたリカルドだが、路地裏から繋がる感覚がして慌てて机の上のものを全て空間の狭間に放り込み、部屋全体と自分に清潔の魔法をかけ、ついでに館の空気を外の空気と入れ替えて匂いを消した。この間一秒に満たない。さすが歴戦格の死霊魔導士リッチ、早業である。


「ここかっ……!」


 そしてそこに荒々しく幕を捲って入って来たのはフードを被った背の高い男だった。


「ようこそ占いの館へ。今宵はどのようなご相談でしょう」


 酒盛りなどなかったように穏やかな微笑みを浮かべて定型文を口にするリカルド。内心、やべ……水晶も放り込んじゃった……と気もそぞろであったが、占い師のプライドとして顔だけは固定していた。

 男はリカルドの事情は知らずづかづかと大股でやってきてリカルドを見下ろした。


「貴様が占い師か? 大した力を持っているようには見えないが……」


 開口一番値踏みするようにそんな事を言われ、リカルドは中性的な顔立ちの男を見上げたまま噂か誰かに聞いて来たパターンかと推測した。


「何かご相談がございましたら承ります。特に御用がなければどうぞ」


 とりあえず営業妨害ならばさっさと帰っていただきたいので、お帰りはあちらですとリカルドが手で示すと男は顔を顰め、荒く椅子に座った。

 客のつもりではあるようだと理解するリカルド。


「料金は一度のご相談で300クルとなります」

「金など持ち合わせていない」


 これでいいだろ、と男が机の上に置いたのは小瓶。鑑定してみればかなり質のいい回復薬だった。グリンモアで換金するとだいたい10万から12万クルになる品である。

 リカルドは微笑みを固定したまま、それを男の方へと押し戻した。


「いただき過ぎです。相場で言えばお客様がお持ちのルゥルの実一つで十分です」


 男はピクリと頬を動かし、改めてリカルドを見た。


「……ただの人間ではないという事か」


 手持ちの物を言い当てられて少しだけ認識を変えた男に、リカルドは微笑みを固定したまま何も返さずただ男の対応を待った。

 男はやがて小さく息を吐くと、腰に下げている袋から親指の先程度の大きさの茶色い皺々の実を取り出し、リカルドの前に置いた。


「これでいいか」

「はい。問題ございません。ご相談が終わってから頂きますので一旦これはこちらに置かせていただきます」


 リカルドは机の横にその実を置いて、ご相談はどのような事でしょうか?と尋ねた。

 男は少しだけ躊躇って、被っていたフードを後ろに降ろすと菫色の三つ編みに編んだ髪を後ろに払い、自分の素性は見ての通りだと尖った長い耳を見せた。


「事は我らの秘儀に関する。口外すれば全ての耳長族エルフが貴様の敵になると理解しておけ」

「相談内容はどのような方が相手でも秘密を厳守としております」


 射るような視線に対し、落ち着き払った態度で対応するリカルド。だが心の中は、耳長族エルフだったの!?耳まじで長っ!と、突然のファンタジー種族に大騒ぎだ。

 なにせ耳長族エルフが暮らしている場所はグリンモアからかなり離れているので、リカルドは正直このファンタジー種族と言えば?で第一位に来そうな耳長族エルフに会えるのはずっと先の事だと思っていた(聖樹のところで顔を合わせたら敵対しそうなのでそこで会う気は無かった)。それがまさか占いの館にやって来るとは思わず、やってて良かった……と当初面倒そうな客だなと思っていた事を忘れてリアル耳長族エルフに感動していた。

 実にミーハーな占い師である。


「……貴様も我らが守る聖樹の存在は知っているだろうが……今その聖樹に問題が起きている」


 深刻な顔で話し出した男に、ん?あいつに何かあったの?と時を止めるリカルド。

 聖樹の精霊とウリドールはそこそこ仲が良さそうなので、何かあればウリドールが言いそうなものだけど……と思いつつ、虚空検索アカシックレコードで調べてみたが特別何かあったという事はなさそうだった。

 んん?と思い、今度はこの男が話す問題とやらを調べてみると、聖樹が耳長族エルフに対して葉や枝、雫が欲しいなら何か面白い話か面白い事をしてと言い出し、いろいろと話をしたり舞を披露したりしたが全部知っていると言われて全敗。素材を入手する事が出来なくなってしまっている事がわかった。


(……ええと……これは)


 なんとなく身に覚えがあるような……と思うリカルド。

 なんとなくではなく、どう考えても聖樹の精霊が要求しているのはリカルドが対価に差し出したものなのだが、目を逸らしたいリカルドは自分が原因ではない可能性を考えて虚空検索アカシックレコードで調べ、やはり自分が原因だったとわかって(聖樹に宿る精霊はリカルドから聞いた事が無い話、初めて聞く話に興味を惹かれそれが楽しくて、他にもと思うようになり同じ事を耳長族エルフにも求めていた)、まじか……と額を押さえた。

 このまま聖樹の素材が得られないと耳長族エルフとしては薬が作れないだけでなく、人間達との交易に差し障りが出てくる。そして人間達の方も貴重な素材が手に入らないのは困る。今は在庫で凌いでいるが、それも無限にあるわけではない。対価を釣り上げて出庫数を減らしている影響が少しずつ人間側にも出始めている状況だった。


(でもなぁ……今まで通りにしてくれ、なんて言ったって聞くような奴じゃないだろうし)


 一番手っ取り早いのは精霊にウケる一発芸をいろいろ教える事なのだが、聖樹の前で真面目な顔して一発芸をする美麗な耳長族エルフなど、リカルドの中にある憧れのファンタジー像に喧嘩を売る所業である。なにより、それを教えようものなら目の前の男がガチギレしそうで出来れば最終手段にしたかった。

 一応精霊にお願いしたらこれまで通りに戻してくれないか調べて見るが、予想通り精霊は、何故?楽しいのに。と疑問だけを返す事がわかった。

 じゃあもう対価を出すのは仕方がないとして、一発芸以外で妖精族エルフが出せる対価はあるのかと調べてみれば、これが意外と多かった。というか、すごく簡単な事だった。それが分かってリカルドはほっとして時を戻した。


「これまで我らの願いに応じて貴重な素材を分けてもらっていたのだが、それが最近難しくなっている。いろいろと手を打ってはみたが……結果の方は——」

「お客様、素材を分けてもらう時に最近生まれた子を連れて行き、その子の話をしてはいかがですか?」


 リカルドが提案すると、男は怪訝な顔をした。


「子供?」

「今日はこんな事をして笑ったとか、何をしたとか、泣いた事とか、その様子が可愛いとか」

「馬鹿にしているのか? そんな話が聖樹が求めている話だと…………」


 言いかけて、聖樹が話を求めているとまだ話していない事に気づく男。


「お前、聖樹が話を求めていると何故わかった?」


 リカルドは微笑み固定のまま、首を少し傾げた。


「何故と言われましても。私は占い師ですから」


 答えになっていないのだが、男は考えるように沈黙した。


「歴史上の偉人の話や伝統的な舞はさすがに聖樹も見知っているでしょう。ですが、日々成長し毎日が新しい出来事に溢れている子供の話は聖樹も知らない事が多いと思います」


 自分達がどんな話をしたのか、どんな事を試したのかまで言い当てられ、男は眉間に皺を寄せた。


「……いいだろう、そこまで言うならその方法試してやる」

「ではこちらをお持ちください」


 そう言ってリカルドは館の札と代金として出されていた実を一緒に男に差し出した。


「その札が光っている時にこちらへ来たいと念じれば直接ここへ来れます。代金は聖樹から素材を貰えた時に改めて頂きたく思います」

「うまくいかなかった時は?」


 うまくいかない場合というのは、おそらく耳長族エルフが真面目に取り組まなかった場合だろうなとリカルドは思ったが、そんな反感を買うような事は言わない。


「その時はその札を使っておいでください。どうにかして素材を頂けるように対処致します」


 自分が蒔いてしまった種なので、恥も外聞も捨てて、占い師としての矜持も捨てて、一発芸をする所存のリカルドである。

 それで素材を貰えれば、さすがに耳長族エルフ達も自分の言葉を信じて子供の話を真面目にするだろうという寸法だ。


 真剣な顔で答えるリカルドに男は少し目を見張ってから、その言葉忘れるなよと言って館を後にした。

 男の背を見送ったリカルドは、己の為にもうまくいってくれ……と手を合わせて拝み、時間も押していたのでそのまま館を閉めた。

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