第110話 損得だけで回らなくてもいいじゃない

 幸い館の備品はリカルドの魔力で出来ているので燃える事はない。なので実質的な被害はないのだが心臓(無い)に悪かった。

 とは言え、いろいろな精霊に出会ってきたリカルドだ。もういい加減慣れたわとすぐに落ち着きを取り戻し、時を戻して驚いて蹴立ててしまった椅子を直した。


「お客様、この炎を収めていただけますか? 館を燃やされるのは困ります」


 まったくもう。とため息を呑み込んで声をかけると、炎は揺らめいて隅の方から盛り上がりオレンジと赤と白のマーブル模様の人型に収束した。


(ひっ!?)


 現れたのはわらび餅でもミミズタイプでもなく、まさかの人型。先程までの落ち着きはどこへやら、全身に鳥肌(妄想)を立てて硬直するリカルド。残念ながらこの人型に関してのみ全く慣れていなかった。

 暖色系マーブル人形となった精霊はそんなリカルドの動揺に気付く様子はなく、よた……よた……と不気味な動きで近寄った。

 まるで足跡に血痕でも残しているのではないかという足取りに、反射的に後ずさりそうになるリカルド。だがここが占いの館であり今は占い師の姿である事を思い出し、謎の矜持で踏みとどまった。


〝待った〟


 落ち着け、落ち着くんだ、こいつは精霊だ。霊的なアレじゃない。それにブルーベリー色よりも明るい良い色じゃないか。と意味不明な論法で自分を励まし、逃げ出したくなる気持ちを宥めてどうにか背筋を伸ばした。


「……申し訳ありません。いろいろと立て込んでおりまして」

〝待った、の〟


 カクンと抗議の意味でか精霊の首が真横に折れた。

 どこからどう見ても心霊現象にしか見えない首折れ状態である。直視してしまったリカルドの意識は一瞬飛びかけた。


〝お願い、いい?〟


 頭に響いた声でどうにか復帰するリカルド。

 見なければ大丈夫、見なければ。とそっと額を押さえて己に言い聞かせ、息を吸って吐いて目を閉じ、いつもの微笑みを固定して顔を上げた。


「なんでしょう?」

〝楽しいの、足りない〟

「楽しいの?」

〝楽しいの〟


 一応お客だからと聞いたものの、聞いてもわからないタイプだとすぐにリカルドは察した。精霊の中でまともに話が出来るのは聖樹のとこの精霊ぐらいかもなと思いつつ虚空検索アカシックレコードで調べ、その精霊が言っている『楽しいの』が竜人の里で行われている祭りである事、そして『足りない』というのがその祭りで発生する火の量を示している事がわかった。

 わかったところで、いや、だったら直接その竜人とやらに言ってくれよと思うリカルド。竜人という新しい種族ワードが出たが、心霊現象の塊みたいな奴がそこにいると思うと心をときめかせる余裕もなかった。


「祭りの事でしたら、当事者である竜人の方に直接お話しされてはいかがでしょう?」

〝?〟


 思うままにそうリカルドが提案すれば、精霊は折れた首をそのままの角度でぐるりと後ろ側に回して反対側に移動させた。目を瞑っていて正解の不気味挙動である。

 リカルドは少し待っても精霊からの返答が無かったので、そもそも会話した事がないのかも?と調べてみて、それが正解である事を知った。そしてそれならこの精霊がその竜人達相手に正しく希望を伝えるのは難しいのか?という疑問も湧いて、調べてみると思った通り言語による意志疎通率が低い事もわかった。


(うーん……)


 そうなってくるとリカルドが間に立って竜人に精霊の希望を伝えるというのがシンプルな対応になってくるのだが、リカルドの頭には排他的な者が多かった獣人達の姿が浮かんでいた。

 獣人達であれなのだから、それよりなんとなく上位っぽい竜人は気位も高そうだし、他種族の事なんて見下してそうだよなと偏見丸出しの感想を抱いたのだ。


(でもやらないといつまでもこいつ居座る可能性が高いよな……)


 やるしかないか。と竜人に聞き入れてもらう方法を調べたところ、友好的交渉時間が掛かるものから武力支配効率重視の方法までいろいろと返ってきて、リカルドはその中から手っ取り早くてかつ穏便な方法を選択した。


「お客様——」


 選択した方法が精霊に少し協力してもらう必要があったので、それをお願いしようとリカルドは目を開けて――未だに折れたままの首(しかも最初とは反対側)が目の前にあって束の間言葉を無くした。


「……お客様。申し訳ありませんが頭の部分を縦に戻していただけますか?」


 どうにか持ち直し止めてくれとお願いすると、精霊は折れていた首をバネのように跳ね上げて真っ直ぐに戻した。

 その急な動きにビクッとしそうになるリカルド。いちいち挙動がアレで精神を削られるが、お帰りいただくためだと頑張って話を続けた。


「これから竜人の里に行って祭りで起こす火を増やして貰えるように話をしようと思います。ただ、私は彼らからすると完全な部外者なので話をしてもすぐに聞き入れて貰えません。そこでお客様にも協力していただきたいのですが、宜しいでしょうか?」

〝きょ?〟

「協力です。手伝ってもらう事ですが……わかりますか?」

〝わかる〟

「では、私がお客様を見た時に頷いていただけますか?」

〝うな?〟

「このように頭の部分を動かすのですが」


 頷くという行為をやって見せるリカルドに精霊は考えるような間を空け、唐突に頭部をもげそうな勢いで前方に振った。


「…………」


 二秒程思考が停止したリカルド。

 ふっと思考が戻ったところで、ちょっとお待ちくださいと動悸のする胸(妄想)に手を当て、虚空検索アカシックレコードにこれでいける?と、無理かもと思いながら確認を取ってみると——いけた。


(これでいけるんだ……そんなに精霊の幻覚ってすごいのか?)


 全く幻覚が効かないリカルドは半信半疑だったが、でも虚空検索アカシックレコード先生がそう言ってるしな……と自分を納得させて話を続けた。


「ではお客様、私がお客様を見た時に先ほどのように頷いていただけますか?」

〝ん〟

「一度やってみますね?」


 と言って実際合図で出来るかどうか確認のため、わざと視線を外していた状態から精霊に視線を合わせると、お願いした通りにもげそうな首振りが返ってきた。

 見た目はともかく、ちゃんと合図通りに反応を返して貰えたので這い上がるものを振り払ってリカルドは頷いた。


「大丈夫です。では行きましょう」


 もうさっさと終わらせるぞ!と気合を入れて狐のお面を付け、転移した先はもちろん竜人の里だ。そして余計な騒ぎを起こさないため、話を通す相手である里長の家へと直接転移した。

 転移した先は木で作られた質素な家で、こちらはまだ明るい昼間であった。大陸の西端にある里とグリンモアでは時差が大きいためだが、リカルドはそんな事はどうでもいいとばかりにさあ交渉だと息を吸い込んで――しかし言葉を紡ぐ前に、目の前でゴザのようなものに座っている竜人を見て恐怖とは別の意味で固まった。


(……え?)


 獣人の件があったので、てっきり竜人もトカゲ人間だと思っていたリカルド。

 だがそこに座っていたのは想像していたトカゲ人間などではなかった。


(…………え?? いや、は? ちょ、え? なんで? なんで人なの??)


 もふもふケモ耳お姉さんの夢が潰えたというのに、それを嘲笑うかのように目の前には些かどころかかなり渋いイケオジがこめかみの上から赤い宝石のようなツノを生やして存在しており、それがもうなんというか、完全にゲームとかアニメから出て来たような格好いいザ・竜人だったのだ。


(おいおい……おかしいだろこの世界……! なんで獣人あっち獣か人かアレ竜人こっち丁度いい混ざり具合コレなんだよ……!)


 理解不能な世界の不条理を前に、愕然と立ち尽くすリカルド。

 対して竜人の男性の方はそんなリカルドの個人的葛藤など知る由もなく、突然変な仮面をつけた怪しい風体の相手が睥睨してきたので、すわ襲撃かと咄嗟に膝をついて背後にある武器に手を伸ばし――それを我に返ったリカルドが慌てて一歩踏み込んで掴み止めた。


「申し訳ありません。失礼しました。突然このような形で押しかけた事は謝罪します。ですからどうかこちらの方を紹介させてください」


 男性の動きで何のためにやって来たのか思い出したリカルド。慌てて止めて、その場で膝をつき頭を下げた。

 男性は険しい顔をしたままリカルドの頭を見下ろし、リカルドの後ろで動かないもう一人にも目を向け――大きく目を見開いた。


「ま……さか……」


 そのお姿は……と掠れた声で呟き、それから慌てたように武器から手を離してその場に平伏した。


「し、失礼いたしました……! 火精様が居られるとは思わず、無礼をっ!」


 板張りの床に額を擦りつけるようにして必死に謝罪する姿に、リカルドはほっとして肩の力を抜いた。

 彼らがこの火に属する精霊の事を神聖視して祀っているのはわかっていたので、その態度の変わりように驚きはしない。というか、それが目的で精霊を連れて来たのだ。精霊の威光万歳のリカルドである。


「少し話をさせていただけますか?」


 男性の前に正座し、ゆっくりとした口調を心がけて声を掛ければ、男性はそろりと頭を上げてリカルドの方を伺い見た。

 その目に、こちらも精霊か?というような疑問があるのを見てとり、リカルドは首を横に振った。


「私は精霊ではなく、こちらの方にあなた方との交渉を頼まれた占い師です」


 そうですよね?と後方にいる精霊にリカルドが視線を向けると、精霊はもげそうな首振りをした。

 幻覚が効かないリカルドには恐怖映像にしかなっていないが、男性の目には精霊が、逆巻く炎に身を包む凛々しい男性の姿(ツノ有り)に見えており、もげそうな首振りも重々しい首肯に変わっていた。精霊の幻覚の威力恐るべしである。


「うらない……祈祷師か」


 精霊の方を気にしつつ身体を起こした男性に、そのようなものですと適当に頷くリカルド。


「しかし、どこの里の者だ?」


 もうどことも縁は途絶えたと思っていたのだが……と小さく呟く男性に、リカルドはもう一度首を横に振って否定した。


「私は竜人ではありません。ここからかなり東にある人の国で暮らしている者です」


 竜人ではないと言ったところで男性の顔に驚きが広がり、後方で突っ立ったままの精霊とリカルドを見比べるように忙しなく視線が動いた。


「精霊にとって竜人であるかどうかはあまり関係ありませんし、距離というのも意味を成さないものですから」

「それは……確かに火精様は自由であると聞き及んでいるが……」

「私の事はお気になさらず。ただこちらの方の希望を伝えるだけの存在です」


 困惑している男性に話が長くなるのも面倒なので、断ち切るように言って話を進めるリカルド。


「希望というのは、こちらで毎年行われている祭りの規模をもう少し大きくして欲しいというものです」

「……大きく」

「具体的に言うと剣舞というのでしょうか? それで起こす火を増やして欲しいとの事です。それを見るのが楽しいそうなので」

「……楽しい……楽しまれておられるのか?」

「はい。火が足りないと残念に思って、私のところへどうにかして欲しいと来られる程には楽しみにされていますよ」


 男性は精霊に目を向けると、戸惑ったように再びリカルドに視線を戻した。


「その……本当に?」


 リカルドに座ったままにじり寄り、小声で尋ねる男性。

 その様子に、ん?と思うリカルド。

 虚空検索アカシックレコードでは、精霊を連れて来てその精霊が望んでいる事だと伝えれば竜人は全面的に受け入れるという結果が出ていた。なので、すぐにわかりましたと言うものだとリカルドは思っていたのだが、何だか雲行きが怪しかった。


「本当ですよ。ですよね?」


 とりあえず視線を精霊に向けてもげそうな首振りを貰うリカルド。合図として肯定を貰ったが、これに関しては本当にそうである。

 ね?と、リカルドが少々近い距離に居る男性に首を傾げれば、男性はどこか放心したような様子で精霊を見ていた。


「てっきり我らは火精様がお怒りなのだとばかり……」

「はい?」


 怒り?と、リカルド聞き返せば男性は精霊を気にしたように、あ、いや……と口ごもった。


「すみません、どういう事か教えていただけますか?」


 何となく気になって尋ねるリカルドに、男性は暫し逡巡した後、小さな声でリカルドに説明した。


「……我らは長らく加護をいただけていなかったのだ。だから何か怒らせるような事をしてしまったのだと思っていたのだが……いや、我らの努力が足りなかっただけの事だと今わかったが」


 ずっとお祀りしてきたというのにこうして人から教えられるのは恥ずかしいばかりだが、と口ではそう言いながら安堵したように泣きそうな苦笑いを浮かべる男性。

 リカルドはその顔を見て時を止めた。

 相手は竜人で人とは違う種族だが、それでも大の男が初対面の相手の前で泣きそうになるなど余程の事だと思ったのだ。それに加え、加護だとかいただけていなかっただとか未出の情報が気になり、リカルドは改めて竜人達と後ろの精霊の関係を調べ直し――そういう事かと、やっと今回の経緯を理解した。


 まず男性が口にした加護についてだが、これは精霊が祭りを楽しんだ時に気まぐれに与えていた火を扱えるようになる力(精霊の欠片を竜人に宿したようなもの)の事だった。そしてこれが発端となってこの里の竜人達はこの精霊の事を火精様と呼んで祀っており、その始まりはもう千年以上前に遡る。

 寿命が二百年程と長い竜人にしてみてもそれなりに長い歴史を共にしてきた精霊なのだが、それがここ百年、誰にも加護が与えられない期間が続いていた。

 これは精霊が怒ったとか祭りが気に入らなかったとかそういう理由ではなく、単純に精霊が他の土地に遊びに出掛け、そっちで楽しくなって祭りの事を忘れていたからだ。要するに里のイベントに不参加だっただけという事なのだが、竜人の方はそうとは知らず、急に加護が貰えなくなったと大騒ぎとなった。

 何か火精様の気に障るような事をしてしまったのだろうか?祭りが気に入らなかったのだろうか?と、当初は祭りを変えてみたりといろいろな試みが行われた。だがどれも成果は得られず(そもそも見てないので当然と言えば当然)、次第に精霊に見捨てられた里だと他の里の竜人達の間でも言われるようになってしまい、そうこうするうちに若者が一人、また一人と里を捨てて出て行き、今ではもう過去のような賑やかな祭りを執り行う事が出来ない程に里の人数は減少していた。

 だから戻ってきた精霊が祭りを見て足りないと感じたのだ。


 ハインツの剣に夢中になってルゼの事を忘れていたリカルドが言えた義理では無いが、それでも百年も忘れるなよ……とため息が出た。


「……お客様、今回限りでいいので祭りを少しでも楽しいと感じられたのなら加護の大盤振る舞いをしてくださいませんか?」


 余計な首振りを避けるため視線を床に落とし、精霊に頼むリカルド。

 自分が首を突っ込む事ではないとは思ったが、それでもそこで涙を堪えながら苦笑いを浮かべている男性の苦労を考えると、このまま他人としてさようならは心情的に出来なかった。


 この男性が先代の里長から里長の役を引き継いだのは今から七十年前。

 おそらくお前の代で里は無くなるだろう。それでもこの里を頼むと先代から言われ、最後の里長になる事を覚悟して男性は役を引き受けた。精霊の加護を失った里だと他の里からは距離を取られ、里の若い者にもこんな未来の無い里と心中する気は無いと出て行かれ、残った里の者にもどうせ何をしたところでこの里に火精様が戻る事は無いと溜息を吐かれ。それでも毎年祭りの準備をして、無駄だと面倒がる里の者を説得して小さくても欠かさず続けてきた。

 そんな誰にも評価される事なく人生のほぼ半分もの時間を里のためにと捧げてきた男性が、誰を恨む事もせず、精霊が怒ってないと知ってただ安堵に涙を堪える姿を見たら、その献身に何か報いがあったっていいじゃないかとリカルドは思ったのだ。


〝おおば?〟

「この里に居る者全員に加護を与えて欲しいのです」


 わかりやすく言い直すと、精霊はくにゃりと上体を横に倒した。

 視線を外している為、何をしているのか確認出来ないリカルドは返答が無い事から言葉を重ねた。


「そうすれば今後ここで行われる祭りが楽しいものになります。というか、そうしなければおそらく祭りは無くなります」

〝無い?〟

「無くなります。竜人がここから居なくなってしまうので」

〝居ない?〟

「はい。ですから、加護――火の力を与えてください」

〝楽しい、出来る。足りない、出来ない〟


 楽しいと思えばやれるが、楽しいと思えないならやれない。そういう趣旨の答えを返す精霊に、リカルドは狐の面の下で口の端を持ち上げた。それなら楽しいと思わせればいいんだな。と。


 リカルドは里長の男性に向き直り、時を戻した。


「いや、過去の事を反省してばかりはいられないな。なるべく大きな祭りに出来るよう、里の者一丸となって――」

「里長さん」


 男性の言葉を遮って、リカルドは言った。


「私を次の祭りに参加させてください」

「……は?」

「私が参加する事に異論はありませんよね?」


 リカルドは視線を後ろの精霊へと向け、自動首振りマシーンと化している精霊から肯定を貰った。


「いや……だが、この祭りは」

「わかっています。伝統的に竜人の方だけで行われてきた祭りだという事ですよね?」

「あぁ、その通りだ。竜人以外が参加したなど聞いた事がない」

「ですが竜人以外が参加してはならないという規則も聞いた事が無いのでは?」

「それは……そうだが、しかしあの祭りは人の身で参加出来るようなものでは――」

「問題ありません。私、燃えにくいので」


 戸惑う男性に畳みかけるリカルド。

 言い方が不燃物のゴミみたいになってしまっているが、本来不死者は火に弱い。従って正しくは燃えやすいのだが、リカルドの場合無限魔力のせいでいろいろと不死者という概念からはみ出てしまっている。まぁ本人は便利だなぐらいの感覚であるが。


「燃えにくいって……」

「とにかく問題ありません。何が起きようと何も言わない事を約束いたします。次の祭りを必ず成功させるためにどうかお願いします」


 その場に手をついて頭を下げるリカルドに、男性は余計に戸惑った。


「何故そこまで……そちらに益など無いだろう」

「……確かに世の中、損得で回る事の方が多いですが、そうでないもので回ってもいいとは思いませんか?」


 顔を上げお面越しにじっと男性を見つめれば、男性は諦めたような息を吐いた。


「……祈祷師殿は変わっているな」


 変わっていようがなんだろうが了承が頂けたのでリカルドとしては問題ない。

 早速祭りについての詳細を男性と詰め、再び祭りの日にくる事を約束して精霊を連れてグリンモアの占いの館へと戻った。

 本当はその場に精霊を置いて来たかった気持ちもあったのだが、意志の疎通がうまくいかず変な事になったら面倒だったので一応連れ戻ったのだ。


「お客様、祭りは後日になりますので結果はそれを見てからという事で宜しいでしょうか?」


 リカルドが尋ねると、精霊はもげそうな首振りをして姿を消した。

 最後の首振りが肯定の首振りだったのか、それともリカルドが見たから首振りしたのか不明だったが、帰ったという事は納得したという事だろうと解釈してリカルドは狐の面を外して椅子に腰を下ろした。


「剣舞の練習しないとな……最悪虚空検索アカシックレコードでカンペは出来るけど、そしたら余裕なくなっちゃうし……やっぱ暗記して遊びを持たせながらやった方がいい結果になりそうだから……」


 祭りの日までの日数を数え、出来るならリズさんに手伝って貰えるといいんだけどと考えたところで再び空間が揺らいだ。

 すぐに気がついたリカルドは身構え、今度は天井から垂れ下がるようにして黒い人型が現れた。


 何でまた精霊なんだよ!しかも何で天井!と思うリカルドだが、残念ながらこの後逆さ黒人形精霊に続いて館を訪れたのは、銀色宇宙人型精霊と、黒と赤の斑人型精霊の人型精霊のみで(精霊が順番待ちしていたせいで一般客?が入れなかった)、無事にリカルドの精神の耐久を削り切った事を記しておく。

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