第104話 作業は朝ごはんに間に合うまででお願いします
治療して予防方法を伝える。それが大体の方針だ。
原因については前述の通りリスクがあるので伝えない。知りたがる獣人が少々揉める事になるだろうがそこはもう頑張っていただこうとリカルドは割り切った。
それじゃぁやりますかと時を戻せば、数メートルの距離を空けて相手方の気配が止まった。
少しばかり木々の茂みを間に挟んでいるが、暗闇でも視界が保たれるリカルドには相手の姿がよく見える。
大きくてピンと立った耳に細面の獣の顔。身体から少しだけはみ出てチラ見えしている尻尾はふっさりとしていて、ゆったりした服から覗いている毛は喉元は白くそれ以外は全て柔らかな色合いの小麦色だ。
(人型の狐って……こうなるのか……)
今回リカルドを取り囲んでいるのは
さすがに生きているのがわかるので怖いとは思わなかったが、同時にやっぱりなんで人の姿にケモ耳&尻尾じゃないんだ……という残念な気持が蘇ってきてしょうがなかった。
「お前、回復魔法を使えるな?」
前置きなく尖った口から紡がれたのは滑らかな人の声。
明らかに口腔の構造が違うのに人と変わらぬ発音というのもなかなか不思議な現象なのだが、これで人の顔ならなぁ……と考えていたリカルドは気にする事もなく、当初の予定通り警戒感を出す為に声を低くしてどちら様ですか?と返した。
獣人に向かってどちら様ですか?などど尋ねる人間はいない。つまり、こいつ見えてない、と言う事だ。
ほんの少し前までリカルドは明かりをつけず森を駆けていたのだが(
リカルドは後ろから間合いを詰める音を捉えそっと腕の力を緩めた。その直後押し倒され、リカルドの腕の中に居た
なんで??という疑問を抱く
居ても危害を加えられる可能性は低いのだが、敢えて付き合わせる必要も無いのでここで退場させたのだ。
風で舞い上がり逃げた(ように見える)
「余計な事はするな。命が惜しければ言う事を聞け」
「……わかっ…た」
背中を膝で押さえられ、ついでに両腕を後ろに捻られ、顔を地面に擦りつけた状態で痛みに顔を歪めるふりをするリカルド。
そのまま後ろ手にきつく縄を掛けられたリカルドは、あーこれ生身だったら痛かっただろうなぁと他人事のように思いながら引っ張り立たされ、言われるまま足を動かし彼らの村へと向かった。
そして子供を集めている簡素な木造の建物(村の集会場)のところまで連れて行かれると、説明もなく中の子を治せと言われた。
普通ならまごう事なき無茶振りである。
しかも、ちょっとでも変な事をすればどうなるかわかっているだろうな?と鉄板のセリフと共に大ぶりのナイフを突きつけられた状態なので、防衛手段を持たない人間であれば精神状況は著しく悪くなるだろう。だが人間でもなく防衛手段も持ち合わせており、事情もわかっているリカルドは違うところに意識を奪われていた。
(獣人って牙とか爪で脅さないんだ……)
アニメの見過ぎである。
確かに噛み付けば人間に致命傷を与える事は可能だが、それはナイフでも出来る事で、加えて噛み付いたら普通に不味いので誰もしない。威嚇で見せるにしてもわざわざ自分の口の中を見せるような変な趣味の持ち主は居ないので、やっぱりこちらも誰もしない。
獣人は文化的な生活を送る極めて人に近い感性の種族なのだ。
ちなみに爪もアニメのように伸びたりしないので、そもそも脅しに使うのは不向きである。
意外だなぁと思っていたリカルドを、恐怖で固まってしまったと受け取った
つんのめるふりをしながらリカルドが入れば、歳のばらばらな子供(こちらは獣ではなく人の姿)が7人、薄暗い中、床に敷かれた敷布の上に寝かされていた。
看病のために付けられている明かりは壁際にある数本の蝋燭のみ。子供らの痩せてやつれた姿とすぐそばで蹲るようにしてその小さな手を握る親と思われる
そして蝋燭の燃えるジジジという音すら聞こえる静寂の中、突如乱入したリカルド達に誰も反応せずうつらうつらしている姿には疲労感がありありと見て取れた。
あぁ、これは確かに限界だなと内心率直にそう思うリカルド。
すぐに一番近くで自分を見張っていた
「すみません、これ外して貰えませんか?」
さすがに後ろで縛られた状態で診るのは難しいと言う(出来ないとは言ってない)リカルドに、その
「前で縛れ」
という事で一度拘束を解かれ、今度は身体の前で両手首を縛られるリカルド。
拘束に変わりないが、可動域が随分と広がったのでリカルドとしてはこれで十分だった。
ギチギチに手首に食い込む縄から視線を外し、さてやるかと顔を上げれば子供達の親と思われる
すぐ傍で縄を寄越せだとかもっときつく縛れだとかごそごそとやっていたので途中で気づいて目を覚ましていたのだが、リカルドを見るその目には不安が宿っていた。
獣人の表情がイマイチわからないリカルドだが、状況からそれを察してまぁそりゃそうだろうなと思った。
自分の子供を得体の知れない人間に見せる親の気持ちなど不安や恐れでしかないだろう。だからと言ってリカルドが微笑んでみたところでなんでこいつ笑ってんの?と不気味だろうし、口で何を言っても気持ちは休まらないだろう。出来るのはさっさと子供を診る事ぐらいだ。
リカルドは悩む事も無く一番手前の子の前に膝をついた。単純にその子が一番状態が悪いからだ。
だが子の傍に居た
「変な事はさせない。大丈夫だ」
その動きを制するようにリカルドを縛るよう指示をした
「いつからこうなったんです?」
リカルドは身体を魔法で綺麗にしてから、5歳ぐらいの男の子の痩せてすっかり薄くなってしまった腹に手を置き、情報収集するふりをして尋ねた。
「……ひと月前ぐらいからだ」
リカルドの手が淡く光り回復魔法を使っていると知れると、若長と呼ばれた
「わかった事があるなら隠してないで言え」
「まだこれだけでは何も言えないですよ。
ここには子供ばかりですが、お年寄りや大人は他のところに?」
逆に尋ねるリカルドに若長と呼ばれた
「それがこの病と何の関係がある?」
「病気になる者の共通点がわかればそこから見える事もあります。年齢、性別、習慣、そう言ったものも解決の糸口になったりするので」
「………子供だけだ。子供だけがひと月程前から急に元気が無くなってずっと眠るようになった」
警戒しながらも情報が欲しくて正直に答える若長と呼ばれた
母親らしき
「子供だけ眠る……。何かいつもと違うものを食べたりは?」
「そんな事はしない。何を食べてはダメか良く言い聞かせているから毒なんかじゃない。それにそれならすぐにわかる」
「では周りで何か変わった事はありませんでしたか?」
「ない……と、思うが……」
確証が持てずその言葉は濁った。
リカルドは考えるように沈黙し、
「………内転器官の働きが不自然です」
暫くしてから探り当てたという体で口にした。
「なに?」
予想もしていなかった言葉に若長と呼ばれた
ちなみにこの内転器官というのは、獣人が人と獣の姿を行き来する時に機能している器官で、肝臓と右側の腎臓の間に収まっている。大きさは胆嚢ぐらいで、リカルドが偶に使っている生体操作に近い事をやってのける獣人固有の特殊な器官だ。
「……子供だけと言う事は、おそらく子供の未熟な内転器官が何かの影響を受けて異常をきたし、本人の意思とは関係なく姿を変えようとして失敗。体力を消耗しているのではないかと。ずっとそこが活性化している反応があります」
「細かい事はいい、治るのか」
リカルドの説明を聞き流すようにして肝心な事を聞く若長と呼ばれた
リカルドは子供の腹から手を退けて視線をそちらへと上げた。
「治しました」
―――。
束の間、変な間が空いた。
誰よりも早くに立ち直ったのは母親らしき
「……本当に? 本当に治ったの? この子はもう大丈夫なの?」
「内転器官については治しました。他にも診ましたが病変、病気になっているような箇所は見受けられませんでした。脱水と低栄養ではありますが、もう少しすれば目を覚ますと思うので
「
いずれもこの森で採れる薬になる植物の名だ。全て滋養の効果があり今回の事で親達が採って来た中にもそれらは含まれている。
「はい、そうです。他の子も診ますからちょっと失礼しますね」
と言って固まっている
絶望的と思われていた状況だっただけに
「ちょっといいですか?」
息を吹き返したように動き出した
その瞬間、舐められないためにか
「お前にはまだやってもらう事がある」
リカルドがもう解放してくれと言うと思ったのかそう牽制されたが、あぁ他の村の子ねと想定内のリカルドは聞き流し、それはいいんですけどと言ってから小声で要件を切り出した。
「さっきは何かの影響で内転器官の異常が起きていると言いましたが、おおよその見当はついています」
「なに?」
「あまり不安にさせたくないので別の場所で話せませんか」
若長と呼ばれた
「何が原因だ」
連れて来られたのは村から少し離れた森の中。子供達が目覚めたという事で村のあちこちに松明がつけられ活気づいた様子が確認出来る程度の場所だった。
「おそらく
「アナフィス?」
「魔素や魔力に吸着する性質を持っている物質なんですけど、それが魔力を多く溜め込む内転器官にくっついて、成長に合わせてそのまま取り込まれ形成不全を起こしたのだと思います」
「けいせい……」
「形が本来の形ではなくいびつになり、そのため働きも正常では無くなったという事です」
初めて聞く症状に、そんな事が……と
「……何故そこまで詳しい事がわかる……そもそも人間がどうしてそんなに獣人の身体に詳しい――お前、まさか」
何かに気づいたように細い目を開く
「あのですね、私がこの病をもたらした黒幕だとしたら私は馬鹿ですよ? なんで治療するんですか」
「……何か目的があって」
「どんな?」
「……俺たちの何かを欲しがっているとか」
「何も要りませんし用がないならさっさと帰りたいです」
即行で否定するリカルドに
大丈夫そうだなと思うリカルドだが、一応念のために追加で言葉を重ねた。
「私がこちらに来たのはあの
「
「人間に捕まって逃げ出していたところを偶々私が保護したんです。それで独り立ち出来るように訓練をしていたんですが……あなた方に邪魔されて中途半端な状態で森に帰す事になってしまいました」
無事にやっていけるといいんですけど。と、本当は帰すにあたって全然問題無いのだが、ささやかな意趣返しも込めて嫌味っぽく言うリカルド。
子供を治すと決めたのはリカルドだが、だからと言って男達に押し倒されたいとは露程も思わない。あれはああするのが手っ取り早いから受け入れただけで、お前ら協力して欲しいなら普通に頼めよというのがリカルドの本音だ。それが難しい精神状態だったというのを理解しているのでこうして黙って協力しているが。
子供達が救われた事で精神的に余裕を取り戻しつつあった
「まぁそんな事は置いといて」
手首を縛られたまま小さく手を叩いて話を戻すリカルド。
「病の事についてですが、
「経路……」
「ちなみにまだ母乳以外を口にしていない赤子はいますか?」
「一人いるが、その子は元気だぞ」
「大人の方で同じように体調を崩した方は?」
「いや居ない」
「であれば大人の方は肝臓かどこかでそれを取り除いているんでしょう。母乳は血液から作られますから取り除かれていなければ真っ先にその子が影響を受けているはずです。
で、そうなってくると大人はいいとして今後も問題になるのは子供達ですね」
「今後? ……まさか、また?」
細い目を開いて、毛を僅かに膨らませる
「
「考えて行動って――」
考えたところでどこから取り込んでいるのかわからなければ対処のしようもない。そう続けようとした
「先ほど話した薬草、その中の
「
「一度取り込んでしまうと治療はかなり難しいですが、予防なら
ただし摂取経路がわからない以上、
「毎日……」
「はい。出来れば
「それはそこまで難しく無いだろうが……具体的にはいつまでだ?」
「排泄機能の方はわかりませんが、内転器官であれば歳で言うとだいたい16から18。その姿と人の姿を一瞬で行き来出来るようになったらです」
「……16から18。結構長いな」
「大人になれば問題ありませんから。
ただ、この事を周知すると不安がって
「……だから俺だけに話したのか」
「若長と言われているのなら適任ではないかと思いまして」
「その辺は健康のためにという事でどうにか言って聞かせよう。
もし病になってしまったら……どうにかしてまた治癒者を連れてくるか」
「あ、それは無理です」
また流行病だなんだと追い返されそうだなと嘆息する
「治療には闇魔法の消滅魔法と部位欠損を治せるレベルの回復魔法が必要です。そんな人間まずその辺に居ません」
無言になる
「予防が重要です」
重く頷くリカルド。
暫し村から聞こえてくる声や音だけが二人の間に流れ、予防の重大さに気づいた
「何がなんでも徹底させよう」
「と言っても万一もありますからこれをどうぞ。先程言った治療が出来る者のところへと転送してくれる札です。それが光っている時に会いたいと願えば起動して相手のところへ連れて行ってくれますから。お代は取ると思いますけど、この辺で取れる果実とか持っていけば問題ありません。たぶん、
はい。とポケットから取り出すふりをして空間の狭間からストックしている占いの館の札を取り出し渡すリカルド。
村の子を守ると決意を新たに固めたところでの情報出しは先程に続く意趣返しであり、そして占いの館の報酬はこの辺で気になっていた果実のおねだりであった。何にしても人の弱みを突く
まぁ今回は暴力によって事を進めようとした
渡された
「お前……これが目的じゃ」
「言っときますけど、今回の治療を人間のお金に換算するとこの辺の資源を全て売っぱらわないと無理ですからね?」
実際に換算するとリカルド以外に出来る者が居ないので、森を丸裸にしても無理である。自信満々に話すリカルドだが、安定のザル勘定だ。
「まぁ信用ならないなら捨てといてください。
それで、まだやってもらう事があるみたいな事を言われていましたけど、私は何をしたらいいんですか?」
「この森には俺たちの村の他にもいくつかの種族の里、村がある」
「あぁそっちでも同じ病になっている子がいるんですね。で、治療しろと」
「………そうだ」
はいはいなるほどと妙に飲み込みの早いリカルドに、なんでこいつ縛られたまま平然と頷いているんだろう?と今更な事を考え始める
「わかりました。でも私、朝には帰りたいので急ぎましょうか」
夜明けまであと3時間ぐらいかな。と計算したリカルドは、はい案内してくださいと要求した。
「いや、こんな夜中に行っても」
「何を言ってるんですか。今この時も衰弱している子がいるんですよ?」
「………わかった」
お前絶対早く解放されたいだけだろ。と思ったが、実際子供が苦しんでいる事は確かだと思ったので折れる
「時間が惜しいので失礼しますね」
「何をするっ!」
「ちょっとその村の場所を確認してました」
反射的に振り払う
転移した先は
「——え」
「——あ」
突然の出現に驚く、黒く丸い耳が特徴の
だがすぐさまリカルドが眠りの魔法を掛けて
「さて、話がわかる方はどなたでしょう?」
「お前…眠らせ——いや、これ……転移じゃ……」
「転移ですね」
「……だからか、お前が落ち着いていたのは」
だがなんでそんな魔法が使えるのに自分達にわざわざ捕まっていたのか意味がわからないという雰囲気を見せる
「まだ近くに保護した
堂々と思っても無い事を言うリカルド。
「だが――」
「正直」
それでも疑問を抱く
「こんな手荒な事をされたら私だって適当なところで逃げてましたよ。でも目の前でやせ細った子供を見て何も思わない程人の心が無いわけでもありません」
前半は嘘だが、後半に関しては本心だった。
あなた方のやり方は如何なものかと今も思ってますけどね。と先程の嫌味な口調とは違い淡々と口にしながら治療をするリカルドに、
「だったらどうすれば良かったと?」
お前達は変な病を持ち込むなと、穢らわしいと俺達の話をまともに聞きもしないじゃないかと苛立ちを見せる
「さあ。私は部外者ですからそれに対する答えなんて持ち合わせていませんよ。
そんな事を考えているよりも今は偶々捕まえた使い勝手のいい私を利用して、どれだけ自分達の利になる事をさせるのか考えた方がいいんじゃないですか? 私、朝になれば帰りますよ?」
答えの出ない思考に時間を割くよりもすべき事があるんじゃないんですか?と言うリカルド。
ちなみに朝になれば帰ると言っているのは、長居をすると獣人同士の争いの種になりかねないからというのと、こうでもして無理やり行かなければ相手側が
「こいつを起こしてくれ、こいつに話を通す」
「了解です」
はい、どうぞ。とすぐに眠りの魔法を解いて頷くリカルドに、
そして目覚めた
すぐに時を止めてシルキーの方かと確認したが、そちらではなかった。
じゃあラドかと考えて、そういやハインツの様子がアレだったもんなと思い出し、何か悪い方に転がっちゃったかなぁと頭を掻いて調べたら違った。ルゼの事だった。
あ。となるリカルド。
(……連絡入れようと思って忘れてた)
さすがにルゼの方からラドに何か連絡が行ったかと思って
んん?と首を傾げるリカルド。
ルゼならともかくアイルが出てくる意味が分からずもう少し調べると、どうやら訓練をすっぽかされたまま連絡がない事にルゼが落ち込んでいて(ちょっと不眠にまでなっていた)、その様子に気づいたアイルがどうしたのかとしつこく話を聞いて事情を知り、うじうじしてないで聞けばいいだろ!と間接的に連絡を取り合っているラドバウトにギルド経由でどうなっているのか問い合わせていた。
(あのぐいぐい来るルゼが意気消沈かつ不眠……)
なんかものすごく悪い事をした気持ちになってくるリカルド(事実として悪い)。
実際のところルゼはリカルドの事を魔神だと思っているので、やっぱり自分なんか見てもらうなんて烏滸がましかったんだよな……と諦め気味だったのだ。これに関してはラドバウトも龍に咥えられたり悲劇の人にされたりと散々な状態で気にかける余裕が無かったし、リカルドは言わずもがな。アイルが気づかなければ相当放置されていたのでファインプレーである。
リカルドは時を戻して
『あー……リカルド?』
「どうしたの?」
遠慮がちなラドバウトの声に極力普通の反応を心掛けて返すリカルド。
『悪いなこんな夜中に』
「いやいや全然。それでどうしたの? 何かあった?」
『いや、ルゼの事なんだがな。お前の弟弟子がルゼの訓練に顔を出してないみたいで……何かあったんじゃないかと思ったんだが』
「あいつが? いや、特になにかあったとは聞いて無いけど……ちょっと連絡してみるよ」
『悪いな。理由なくすっぽかすような奴じゃないと思ってな。何事もなければいいが』
「大丈夫だと思うけど、わかった」
ラドバウトにまで何かあったんじゃないかと心配されて申し訳なさに胃(無い)が痛くなってくるリカルド。通信の魔道具を切って、さっさと帰ろうと改めて決意した。
そんな流れで治療を行い続けざまに十か所以上巡り、どうにか各村に予防方法を知る者を作って
若長と呼ばれる
何しろこうも立て続けに他の村の者と話をする事は無く、しかも承諾も得ずに村に入り込んだ上での事情説明がとにかく骨が折れて精神的に疲れたのだ(普通はその村の者に承諾を得て入るのが獣人の常識)。それでも若長という立場上やらなければならない事を頭に浮かべて呟いた。
「とりあえずこれで子供らは大丈夫だろうが……
人間が獣人達を病原扱いして追い返した事でヘイトが溜まっていた事もあり、リカルドは
ここで帰してしまえば何をしているんだと詰られそうな勢いまであるが、止める力がない事は次々と村へ転移し眠らせていく
それでもどうにかしなければならないかとため息をついて視線を上げれば、件の
「……何をしているんだ?」
いつの間にか手首を縛る縄が切られていたが、そのぐらいの事は出来るのだろうと気にはならなかった。それよりも奇怪な動きをしている事の方が気になった。
「いや、この後知人に謝罪しないといけないもので。その前にちょっとでも幸せ気分というか萌え成分でも蓄えておけないかなって」
「しあわせ?」
「人の顔にその耳が付いたら最高に可愛いと思いません?」
「………」
人の顔に
海溝よりも深い意見の相違がそこにはあった。
リカルドは、なんだこいつ……という異物を見るような目をしている
「駄目だ。やっぱ素体が男だと思うとうまくいかない」
真顔で無念がるリカルド。アホである。
「まぁいいや。じゃあ私はこれで失礼します。お疲れさまでした」
しかも合成を諦めたリカルドは、定時上がりを至上命題としている会社員のように速やかに
一方、引き留める間もなく消えられた
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