第97話 これが器のデカさか
「……な、何で俺がここにいるって」
動揺したリカルドが口走ったのは、そんな追い込まれた犯人のようなセリフだった。
「イツキに連絡するように言っておいたからな。連絡があるとすればイツキのいるここからだろ」
家にいるとも言ってないのに的確にリカルドの居場所を当てて来たラドバウトは、そう言ってリカルドの横にいる樹に視線を向けた。
「ハインツから問題なさそうだとは聞いていたが……大丈夫そうだな」
「はい、いろいろありがとうございました」
「おう。ちょっとこいつ借りるぞ」
立ち上がって頭を下げる樹に頷き、リカルドに来いと視線で促すラドバウト。
リカルドは心配そうな顔をする樹にどうにかいつも通りの微笑みを浮かべて見せた。が、内心はドナドナである。
「お前の部屋は?」
「部屋?」
ラドバウトに続いてキッチンを出たところでそんな事を聞かれ、部屋はこっちだけど……と案内すれば、ラドバウトは部屋に入ったところでドアを閉めその前に立った。
もうここまで来たら逃げるとかしないんだけどなとリカルドが思っていると、ラドバウトは真顔で言った。
「無事なのか」
「……え?」
唐突な言葉に、何が?となるリカルド。
ラドバウトは表情を変えず繰り返した。
「お前は無事なのか?」
「俺? 無事だけど……?」
見ての通り。と、なんでわざわざ聞くのかがわからず両手を広げて見せるリカルド。
服はもう教会のズタボロ騎士服から変えているので戦闘の跡はどこにも無い。ありきたりな生成りのシャツにズボンという一般市民の服装だ。強いて言うとすれば雪が降るグリンモアでは少々薄手という程度。
ラドバウトは首を傾げているリカルドを上から下まで確かめるように観察していたが、急に息を吐き出して力を抜いた。
「そうなんだろうとは思ってたがな……」
ラドバウトはどっと疲れが出たという様子で額を押さえ、それから批難するような目をリカルドに向けた。
「お前なぁ、普通
「あぁ、龍を信仰してるとこだとそうやって願いを聞き届けてもらう話があるらしいね」
その情報は
実際、過去に存在していた白龍や黄龍が魔力の高い人間を要求して、代わりに願いを聞き入れたケースもある。いずれも今回のように生まれたばかりの龍ではなく、数百年生きた人間に詳しい龍の仕業であるが。
「あるらしいねじゃないぞ……まったく……」
がしがしと頭を掻いて零すラドバウトの様子に、あれ?これもしかして俺、心配されてたのでは?と、やっと気づくリカルド。
(迷惑しか掛けてないのに……やだ。ラドが優しい)
ちなみにラドバウトがリカルドの部屋を聞いたのもドアの前に陣取ったのも、樹に聞かれたく無い事があるかもしれないと思っての配慮だ。リカルドを逃がさないようにとかそんな思惑は無かった。完全にリカルドの邪推である。
「ま。無事だってんなら遠慮なくいろいろ聞けるな」
だが頭から手を外したラドバウトは一転して不穏な空気を纏い、口元だけに笑みを浮かべていた。
あっ……。と思うリカルド。
「あっちはハインツに任せてきたから今日はゆっくり話が出来るぞ」
ラドバウトは部屋の中に一脚だけある椅子を無造作に掴み、不穏な空気を察して固まっているリカルドの肩を押してベッドに座らせると、その目の前に掴んでいた椅子をドンと置いてどっかりと座った。
「じゃ、最初から説明してくれるか?」
疑問形を取っているが、実質命令である。
リカルドは目の前の圧に押されまくりながら、ラドバウトを巻き込む発端となった古龍の卵の件を精霊が家に現れたところから孵化した龍がラドバウトの持っていた大剣をごはんにしただろう事まで全部説明した。
一瞬精霊の事は伏せようかとも思ったのだが、そもそも精霊に乞われてそこに行っているので根本理由を伏せるのは難しく(というか伏せて説明するのが面倒くさく)、どうせ怒られるのは確定だろうしラドならいいかと、もうどうにでもなーれ、の心境である。
ラドバウトはリカルドの話を黙って聞いていたのだが、途中で何かに気づいたような顔をし、そして頭が痛そうな様子でこめかみを揉み解すように指でぐりぐりとしていた。
「どこから突っ込んだらいいのかわからんが……」
ひとまず最後まではと聞き終えたラドバウトはそう言って、ひたりとリカルドに視線を合わせた。
「これだけは確認させろ。
お前、その龍の巣にあった大量の魔物の死骸、どうした?」
「え?」
てっきり余計な大剣なんか作らなければ龍に咥えられての口腔フライトなんて経験せず、今回の大騒動に巻き込まれる事もなかったのにと言われると思っていたリカルド。ラドバウトが巻き込まれたのは大剣に込められた自分の魔力を龍に狙われたからというのが一番大きいので、突っ込まれるのもここだと思っていたのだ。
「死骸は景観が酷かったから適当に転移で動かしたけど……」
正しくは匂いと見た目で吐きそうでしょうがなかったから転移しただが、馬鹿正直に言って呆れられたくもないのでそこはオブラートに包んだ。それより何でそんな事を聞くんだろうかと考えていると、思ってもみなかった事を言われた。
「それな、生息域と全然違うところで見つかって騒動になってるぞ」
「……え?」
「たぶん間違いない。他に原因が考えられないんだよ。調査してみても戦闘の形跡も無いしポンとそこに置かれただけで、転移で置かれたと言われたらあぁなるほどなって思うぐらいに状況が符合する」
「…………え?」
「俺達はお前が適当に転移で動かした魔物の死骸のせいで、騒ぎになった国から依頼を受けて調査をしてたって事になるわけだ」
リカルドは口を開けたまま固まった。
ラドバウトが依頼を受けて例の森に入っていた事は
「………まじで?」
「まじだ」
「………まじか」
じわじわと理解が進んで、あれがそれで依頼にまでなっちゃってたの?と今更どうする事も出来ない事態にちょっと言葉が出て来なくなるリカルド。
「一応……人の居ないところに、と思って転移させたんだけど……」
どうにか出したのも言い訳のような言葉で、ラドバウトは溜息をついた。
「あの森は結構な範囲が魔物の素材の狩場になってるからな。人が入らないのは奥の方だけだ。やるならもう少しその土地の事を調べてからにしろ。というかそれ以前に死骸をそのままにするな。下手したらあちこちで不死者化してるかもしれないんだぞ」
今のところその報告は入ってなかったけどなと話すラドバウトに、不死者化……?!と内心青褪めるリカルド。その可能性を全く考えていなかった。お前それでも
ちなみにだが、今回に限っては不死者化の可能性はほとんど無い。野良の不死者(この場合、出来上がるのは生きる屍と呼ばれる類)というのは死んだ時に肉体が保有していた魔素が放出され、それを元にして不自然な形で魂が肉体に留まる状態の事を示すからだ。なのでその魔素を卵がほとんど吸収した事で不死者化は阻止された。危ないところでさらなる被害を回避していたリカルドである。
「死骸を見つけたら処理してくれ。お前なら焼くなり埋めるなり出来るだろ」
「……できる。……本当に申し訳ない。考え足らずだった」
全くもって抗弁の余地がなく、しかも想定外のお叱りに普通に謝るリカルド。
と同時に時を止めてすぐに確認した。その結果、不死者化の可能性が低い事も、今のところ不死者化しているものも無い事が確認出来てほっと胸を撫でおろした。
まさか己がそんなものを作り出しかけているとは夢にも思わず、今度から死骸は焼こうと固く心に決めたリカルドである。
「転移先は覚えてるから後で確認しておく」
時を戻して、そうした方が心配が少ないだろうと真面目に対応すれば、ラドバウトは覚えてるのか?と少し驚いたような顔をして、それが出来るならそうしてくれと頷いた。
「ギルドの方には俺から龍の仕業だったと報告しておく」
「……いいの?」
本当の事を言わなくて。とリカルドが聞けば、ラドバウトは言えるかよと首を振った。
「今、精霊だの龍だの言ったらお前も噂の精霊使いのリサの関係者かと思われるぞ」
「それは……困る」
「だろ。だから黙っとけ。
報告ついでに、もう一つの調査内容についても聞きたいんだが」
「もう一つ?」
「魔物の数が減少してるって内容だ。さっきの話からして親の古龍が集めて倒したのが原因っぽいが、どう思う? 龍の他に何かいると思うか?」
「……減少……うーん」
問われてリカルドは腕を組み考えるふりをして時を止め、
「親の龍もだけど、孵化したあの龍がお腹空かせて狩ってたのも原因かも? 他にそんな事をするような魔物の気配は無かったし。ラドがあの龍と遭遇した時も、あいつ相当腹空かせてたでしょ?」
「あー……」
リカルドの問いにラドバウトはどこか微妙な反応をした。
「確かに大剣に異様に執着してた……な」
ラドバウトの脳裏に蘇ったのはイメージしていた龍という生き物とは違う、ちょっとどうなんだと言うような姿だ。
世間一般で言われている龍というのは強く賢く人を寄せ付けないイメージが定着している。
だがあの森で出会った龍は、ラドバウトがブレス対策として出した大剣に一目散に近寄って咥えてどこかへ行こうとして、帰還機能によってラドバウトの元に戻った大剣を見失い、キョロキョロしてハッと気づいてまたラドバウトから奪って行こうとして――という事を五回ぐらい繰り返した。
全然賢くなさそうで、むしろかなり馬鹿っぽく見えて、ラドバウト達パーティーメンバー全員が本来抱かなければならない警戒感を失うのに十分な光景であった。
「俺の魔力の事を覚えてたのもあって、ご馳走だと思ったみたいなんだよね」
「だからお前が母か」
納得するラドバウトに、あーそれはちょっと違うかなと否定するリカルド。
「龍に母とか父とかそういう概念は無い筈なんだよ。だから俺も大丈夫だろうと思って卵に魔力を注いだんだけど……そこに精霊がいたでしょ?」
「居たらしいな。俺以外は見えてたようだが、俺はぼんやりしかわからなかった」
そういやシルキーもぼんやりしか見えないもんな、ラド。と頭を掻くリカルド。
「じゃあ聞こえてなかったかもしれないけど、その精霊があの龍に人間は母のところに行けばご飯もらえるらしいよ、だから君も卵の時に魔力をくれた人、母のとこにいけばごはん貰えるんじゃない? ついでにその剣を持ってきた人、父を一緒に連れて行けば母にもすぐにわかって貰えるんじゃない? みたいな事を言って俺のところに送ったっぽいんだよ。ぶっちゃけ父と母が逆でもどうでも良くて、ごはんくれそうな存在っていうその程度の認識しか無かったと思う」
「俺はついでか」
「う……まぁ。大剣に帰還機能つけてたから、そうしないと道中大剣から吸収出来ないっていう理由もあったみたい」
「………」
「………ごめんなさい」
項垂れて謝るリカルドの旋毛を見下ろし、ラドバウトはもう何度目になるかわからない溜息をついた。
「お前が意図した事じゃなく偶然だったって事はわかった。この件に関しては死骸の件以外で特に言う気はない」
「ラド……」
恨み言の一つぐらいはあると思っていたリカルドは、いいの?と顔を上げて、あ、全然良くなさそうだったと気づいた。
「だがな、龍に連れていかれた後が問題だ。あの話はなんだ。何であんな余命僅かとか人の興味を引くような話にしたんだ。おかげでこっちは要らん気を使われたり妙な慰めを掛けられたり対応に苦慮してるんだぞ」
物凄いしかめっ面で苦労を吐露するラドバウトに、あぁうんやっぱそうだよね……と申し訳なく思うリカルド。
「それはあのリサって人物を残しておきたくなかったからなんだけど……余命僅かな方が自分を犠牲にする根拠っていうか、不自然さを隠せるかなって」
「ならそれだけで十分というか、恋人設定なんか要らんだろ。お前があんな思わせぶりな事を言わなきゃ……」
それは俺も思ったんだけどと弱るリカルド。
ちなみにラドバウトだってセリフが浮かばずリカルドを抱きしめていたので、思わせぶりという点ではリカルドとどっこいどっこいなのだが、さすがにその辺を指摘する勇気はリカルドには無かった。
「あの状況だと俺をラドが引き留めようとしたら自然とそういう風に受け取られちゃうと思ったんだよ。それならもうそれに乗っかった方がいいかなぁって」
「じゃあ引き留めなかったら良かったのか」
「引き留めなかったら恋人を生贄にした極悪人にされてたと思う」
リカルドが
「余計酷い事になると?」
「たぶん。ほぼ確実に。だからまだ恋人を失ったって言う方が世間からの目は優しいかなと思って」
「無関係にしてくれたらいいじゃないか」
「龍が一番最初に父母って思念で俺達に呼びかけたでしょ? あれ、あの場にいた全員が受け取っちゃってるから頑張って無関係装ってもそこから邪推されたと思うんだよ。実際そういう話を聞かない?」
そういう話(龍の卵を二人で孵化させたのではないかといった話)をいくつも聞いていたラドバウトは逃げ道がないのか……と呟いた。そしてそのまま暫し目を閉じて黙っていたが、やがて口を開いた。
「リカルド」
「はい」
静かな声に、リカルドも同調する日本人らしく静かに答えた。
「今回、お前がいなかったらヒルデリアは蹂躙されていた可能性が高いと思ってる。お前の判断が悪かったとは思っていないし、むしろお前の行動で助かったとも思っている」
そこまで言って、ラドバウトはがっくりと肩を落とした。
「だが何で俺なんだよと愚痴らせてくれ。マジで何で俺なんだよ。ハインツとかならもっとうまく躱せるだろ」
はああああ。と、伏せた顔を情けなく両手で覆って嘆くラドバウト。そんな見た事もないラドバウトの弱った姿にリカルドは慌てた。
「ごめんって、ほんと、俺もいろいろ考えたけどあれぐらいしか思いつかなくて、あー……あ! 認識阻害の魔道具作るよ、ほら、ラドだとわからなければそういう視線もないわけだから」
「仕事する時はそうもいかんだろ。そんなものつけてたら信用されるものも信用されなくなる」
「それは……」
ラドバウトが現状から隠れる気も逃げる気も無いとあっては、どうする事も出来ない。基本的にこの件に関してはリカルドは隠れる、逃げる、という分野でしか助力出来ない。どうあってもリサとして表に出る気はないからだ。
「わかってる。だから愚痴だ。今回一番危険で損な役割を担ったのはお前なんだからな……そんなお前にこれ以上は言わん」
自分で踏ん切りをつけるように言って顔を上げたラドバウトに、……ん?となるリカルド。
リカルドとしては今回の事は危険はともかく(人の基準では危ないという認識ぐらいはあった)、損だとは特に思っていない。ただただ自分の平穏な生活を魔族によってぶち壊されたくないという思いと、自分が発端となった問題をどうにかするためにやっていたので、むしろご迷惑をお掛けしてすみませんでしたという気持ちが大半だった。
その気持ちが首を傾げさせていたのだが、わかっていない様子のリカルドにラドバウトは呆れた。
「龍を連れて魔族との激戦の中に留まったんだ。そんなところに居て安全なわけがないだろ。しかもこれで死んだ事にしたら本来お前に向けられる筈の名誉も栄誉も何も無い。雇われてた教会から報酬はあるのかもしれないが、それだって公にしてれば各国からの優遇待遇と特別報酬が与えられていた筈だ」
「あぁ……なるほど。いや、逆にそれは遠慮したいし別に要らないかな……」
生活する分のお金はあるし目立つのも困るし。と言いながら、内心ではこれで利益得たら壮大なマッチポンプだよと微妙な反応になるリカルド。
そんなリカルドの気が乗らない様子にラドバウトは苦笑した。
「ほんと、お前は冒険者に向いてない奴だよな」
「いやまぁギルドに登録したのは小銭稼ぎのつもりだったから」
「そういや弟弟子が言ってたな。日銭稼ぎって。何の冗談かと思ったが……」
思い出すように話すラドバウトに、本当にそうなんだけどな……と頬を掻くリカルド。
「——そのギルドなんだが」
ラドバウトは不意に短く息を吐くと笑みを消した。
その切り替えに、脅した件だとすぐに察したリカルド。こちらも真面目な顔で背筋を正しごめんなさいをする姿勢を取った。
「イツキからサイモンがやった事を聞いた。サイモンにも確認を取った。だからあの爺さんには俺とハインツから他に洩らせば二度とグリンモアで依頼を受けないと釘を刺しておいた。それで許せとは言わんが、せめてギルドを敵視するのだけは止めてくれないか」
真剣にお願いするラドバウトに、怒られるとばかり思っていたリカルドは面食らった。
「……え……え? 怒んないの?」
「いや。お前にしちゃよく抑えたなと思った」
戸惑い気味に尋ねるリカルドに、首を横に振ってやはり真面目に答えるラドバウト。
「お前にしちゃって……」
「身内を害されたらお前かなり怒るだろ?」
「それは……そうだと思うけど……いやでも、結構俺、意図的に脅したっていうか……犯罪すれすれっていうか……むしろ犯罪かもっていうか」
日本にいた頃の倫理観で話すリカルドに、先に手を出したのはサイモンだからなと軽く返すラドバウト。
「俺は話を聞いてよくサイモンが生きてたなと思ったよ」
リカルドは樹に絶対防御とも言える腕輪を付けさせ、樹に手を出そうとしたディアードを単身で瓦解させた実績がある。ラドバウトからすれば、樹に対して脅しという手段を取ったサイモンが五体満足でいる事の方が奇跡だった。
「いや……いやいやいや」
怒るにしてもどんだけ殺意高いのラドの中の俺?!と戸惑う己の所業の自覚が無いリカルド。
「なんでそんな物騒な発想に……やるとしても記憶を消すぐらいだって。やったら人格が壊れると思ってやらなかったけど……」
ぶつぶつ言うリカルドに、あぁお前ならそんな事も出来そうだよなと驚きもしないラドバウト。笑いもせず真剣な面持ちでリカルドの言葉を待っている様子に、何だか調子が狂うなとリカルドは居心地が悪くなってもぞもぞと座り直した。
「えー……と。俺としては秘密を守ってくれるならとやかく言う気はないよ。ギルドに対してもどうのこうのする気もないから。っていうかラドとハインツの方こそいいの? グリンモアで依頼受けないとか言って、クランの方針とぶつかったりするんじゃない?」
「別に構わん。グリンモアの依頼を受けないなら他のメンバーと交代して離れるだけだからな」
「え……それはやだな」
酒飲み仲間が……と呟くリカルドにラドバウトはそこでちょっと笑った。
リカルドは基本的にはお人好しで単純で、酒飲んでくだらない話を楽しむ、そんなどこにでもいるような気のいい男だとラドバウトは思っている。常識が無かったり時々とんでもない事をしでかしてこの野郎と思う事もあるが、それ以上に根が真面目で、ちゃらんぽらんなように見えて道理を重んじるところがあるから結構気に入っているのだ。リカルドにやだなと言われて嬉しく思ってしまうぐらいには。
まぁサイモンに対してハインツと連名で釘を刺したのはそれとは別に、こんな爆弾みたいな奴を刺激してギルド全体に被害を出すなという気持ちからだが。そこは言わぬが花だ。
「心配しなくてもサイモンは言ったりしない。もともと脅すなんてあの爺さんのやり方じゃないからな。ヒルデリアの状況が悪かったから焦ったんだろ。年取って耄碌したんじゃないかって言ったら珍しく気落ちしてたわ」
サイモン個人に対して樹が絡まなければ興味もないリカルドは、ふぅんと気の無い声を返し、その歯牙にもかけていない様子にラドバウトは苦笑した。さすが龍を連れて行って魔族を倒させただけの事はある。Sランクの冒険者であろうとどの国のどんな実力者であろうと、一体誰がそんな事が出来るだろうかというような偉業をけろっとした顔でやっているのだ。そりゃあギルドの一職員など歯牙にもかけないだろうよと。
「それにイツキの事がバレるような事があったら俺が壁になる。下手な権力者でも今の俺が保護してると言えば、イツキが頷かない限り無理矢理連れて行く事は難しい筈だ。世間が味方しないだろうからな。
正面から来なければあとはリカルド、お前が防げるだろ?」
リカルド(リサ)のせいで間違いなく今一番有名で、そして一番迷惑を被っている筈のラドバウト。ついさっきも盛大に嘆いて愚痴っていた。なのにその迷惑になっている話を利用してでも樹を守ってやると言う言葉に、リカルドは参ったと顔を両手で覆った。ラドバウトの器がデカすぎてもう何も言葉が浮かばない。
「ありがとう……俺、ラドの為ならなんでもするよ」
「やめろするな頼むから大人しくしていてくれ」
どうにか絞り出した言葉を即行で拒否されるリカルド。
え?なんで?!となるリカルドに、自覚が無いのが一番性質が悪い……とラドバウトは疲れた溜息を吐いた。
実はリサによる悲恋の話の他に、クランの仲間からトンデモ性能の鎧について問い詰められまくっているラドバウト。これ以上は本当にもうお腹一杯だった。
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