第82話 もはや仕事でもなんでもないけど

 内心はともかく、いつもの微笑みを浮かべ表情を固めた武装したリカルド。

 幸いだったのは、どうやら彼と同様神族の先祖返りと思われている事だ。その誤解をそのまま使わせてもらえばどうにかなりそうな気はしていた。出来るなら虚空検索アカシックレコードで確認したいところだが、それはさすがに頭パーン失敗した時が怖くて出来なかった。


「ご想像にお任せ致しますが、今はお客様の話です」


 落ち着いた態度をと心がけて軌道修正するリカルド。

 王弟は特に拘る事はなく、そうですねとどこか嬉しそうに肩を揺らした。


「初めて会う人って楽しくていいですね。こういうやりとりも新鮮です」


 会話自体を純粋に楽しむ様子に、深く突っ込まれずに済んでほっとするリカルド。そうですかと無難に返せば王弟はやおら立ち上がって机の方に行き、その上に置かれている本の山の一つに手を置いた。


「外に出ても仕方が無いって思いましたけど、ちょっとその気持ちが変わりました。占い師さんみたいな人がいるのなら、ここから出てみるのも悪くないのかもしれません」


 さっきまで否定的だったのに風向きが変わって、お?と思うリカルド。

 最初のまま話が終われば王弟の母親にとっては最悪の結果になっていただろうから、個人的にこの変化は喜ばしい。きっかけは滅茶苦茶心臓(無い)に悪かったが。


「だって占い師さん、いろいろな匂いがしますしね」


 無邪気に笑って言われたリカルドは、一瞬言われた意味が理解出来なかった。が、意味が理解出来た瞬間、え?俺臭いの!?と思わず袖の匂いを嗅ぎそうになった。占い師この姿でくんくん匂いを嗅ぐのは絵的に無いわとギリギリ耐えたが、ちょっと腕が動きかけた。


「だから楽しそうだなって、そう思いました」


 屈託なく笑う王弟だが、だからの意味がわからない。

 食べ物の匂いでもしているのだろうかと晩ご飯を思い浮かべるリカルドだが(今日はポトフと南瓜で作ったニョッキのボロネーゼだった)、毎食後に清潔魔法を使う習慣があるのでその匂いがしたとは思えないと内心首を捻る。

 よくわからないがとりあえずそれは置いといて、外に向いたその気持ちが変わらない内にとリカルドは話を進めた。


「それはここから出る意思があるという事でしょうか?」

「……そうですね……はい、今はそう思います」


 自問するように呟いて、それからはっきりと王弟は頷いた。

 よしと思うリカルド。本人がその気ならば話は早い。


「わかりました。目の力を抑える魔道具を用意致します。それから王の目を欺くための偽装もこちらで準備致しましょう」

「ありがとうございます。占い師さんはグリンモアにいるんですよね?」

「……ええ…そうですが」

 

 何故それを再確認するのか。

 一抹の不安を覚えながらリカルドが頷けば、王弟は満足そうに頷き返した。


「じゃあ外に出たら占い師さんに会いに行きますね」

「………はい?」

「ただ外に出るというのも目的が無くてつまらないでしょう? それに僕はずっとやってみたかった事があるんです」


 リカルドの困惑を他所に両手の指を合わせて口元に寄せ、ふふっと笑う王弟。


「友達の家に遊びに行くってわくわくしますね」


(ともだち……? ……え? 友達? 俺と……って事だよな? いやいやどのタイミングで友達になったんだ?)


 ハテナが舞うリカルドだが、王弟が先ほど手を置いていた本のタイトルが目に入って——それが小さな子が読むような童話っぽいタイトルである事に気づいて、訂正も否定も出来なくなってしまった。当たり前だが、こんな環境では友達なんていないのだろうとわかってしまったから。


「あぁ、どこに住んでいるのかは言わなくていいです。宝探しみたいで面白そうですから」


 たぶんやってみたい事に宝探しも含まれているんだろうなと、角が擦り切れている本の背表紙(ムルクの冒険と書かれている)を見て察するリカルド。

 まぁやってみたいと思ったとしても普通は友達の家を宝探し感覚で見つけようとは思わない。なかなか変わった思考の持ち主である。


 少々奇抜な発想をする王弟にリカルドは面食らったが、だが何の情報も無い状態で自分を、それも占い師の自分を探す事はさすがに無理があると思って首を横に振った。


「ご自身で言われた通り外の世界に慣れていない状態で私を見つけるのはとても難しいと思いますし、危険です」


 ひょろりとした体躯を見れば鍛えていないのは明らかで、いくら神族の先祖返りと言ってもその力をいきなり十全に使えるとは思えなかった。まずは母親の手を借りて外の世界に慣れた方がいいのではと話そうと思った瞬間、リカルドの周りを風が渦巻いた。

 激しくはないが、グリンモアに比べると随分と暖かな風が取り巻くように上に向かって噴き上げる現象に、リカルドはまさかと王弟を見た。


「内緒ですよ? 兄に知れたらすぐに僕は脅威と見做され殺されちゃいますし、母に知れたらどうにかして僕の価値を周りに認めさせようとするでしょうから」

「………風を操れるのですね」

「はい。やった事は無いですけど、この城ぐらいなら吹き飛ばせると思います」


 誇るでもなく事実として肯定する王弟。十分な戦力をお持ちだった。

 それならまぁ、暴漢に襲われても撃退は出来るか?と考えるリカルド。


「それに音だけはそこから拾ってきて聞いていましたから、少しぐらいなら外の事もわかっています。だからきっと大丈夫です」


 王弟が指さしたのは鉄格子が嵌った窓の、ほんの少し開いた隙間だった。

 ね?と同意を求める王弟に、リカルドは真顔で内心眉間に皺を寄せて悩んだ。

 大丈夫かもしれないし、大丈夫じゃないかもしれない。本人がそうしたいと言うのに他人の自分が口を出すのはどうなんだろうかとも思うが、それでも何かあってからでは遅いし……とついつい心配性の思考が巡る。


「あぁ擽ったいなぁ……」


 無意識に視線が下に落ちたリカルドの前で、王弟は何故か照れたように頬を掻いて小さく呟いた。

 その呟きはリカルドには届かず、束の間悩んだリカルドはええいもういいやと、後で全部まとめて確認する事にして割り切った。


「わかりました。ではこちらの方を起こしますね」


 ソファに横たえた女性を起こそうと動けば、王弟が手を上げた。


「待ってください。母上には何も言わないでください」

「……何も、ですか?」


 今回の依頼者はそこで眠っている女性なので、何の説明もしないというのはさすがに出来ないんだけどと思うリカルド。


「今この国を出ると話しても聞き入れて貰えなさそうですし、妨害されたら面倒なので」


 王弟の言葉に、それは確かに……と先程までの女性の様子から思わず納得してしまうリカルド。虚空検索アカシックレコードが無いとブレブレの思考である。

 少し考えた結果、これについても数分先の未来の自分に丸投げする事にした。


「申し訳ありませんが依頼を承った関係上何も説明しないという事は出来ないので、ある程度は説明させていただきます」

「そうですか……お仕事ですからね」

「但し、あなたがここから出るに当たって支障がないようには致します」


 どうやってそうするのか現時点では全くわからないが。王弟を不安にさせないように自信たっぷりに宣言するリカルド。


「本当ですか? それなら助かります」

「後ほど改めて参りますので、一旦ここで失礼させていただきますね」


 笑顔を見せる王弟にリカルドも微笑み軽く頭を下げた。


「はい。待っています」


 軽く手を振る王弟の姿を最後に、リカルドは女性を抱えて占いの館へと戻った。

 寒い季節に入ったグリンモアの気候に合わせ着込んでいた女性は汗をかいてしまっていたので、ひとまず清潔の魔法を掛けて長椅子を作ってそこに横たえる。

 それからさあ確認だとリカルドは時を止めた。


 まず一番最初に確認したのは王弟がリカルドの事を何と見ているのかという事だが、ここは想像通り神族の先祖返りで自分と同じだと考えている事が確認出来た。とてもほっとするリカルド。

 それから王弟が今のまま外に出たとして無事に生きていけるのかだが、何度も頭をパーンさせながら数ある未来を確認したところ、直近ではあるがほとんどの未来で全く問題ない事が判明。今まで限られた人間としか接していなかった筈なのに、旅をする上でコミュニケーションに問題が出るようなところは無く、詐欺やスリの被害に遭う可能性も低く、暴漢や魔物などといった腕っぷしを必要とする場面ではむしろ無双状態であった。


(何この主人公みたいな人。全然心配いらないじゃん……)


 俺の葛藤は……となるリカルドだが、勝手に悩んで勝手に葛藤したので誰に文句を言えるわけでもない。

 とりあえず王弟が一人で生きて行くのは問題なさそうだと気持ちを切り替えて、次は母親への説明だ。

 母親の本意は周囲に王弟の存在を認めさせたいというところにある。だからどうにかしてそこに近づけられないかという考えになっているのだが、完全に諦めて貰うのは今の段階では難しかった。


(兄が殺そうとしてるってのを伝えても否定しちゃって話にならない感じだなぁ……これはもう実行しちゃって強制的にっていう方がいいのかも。ここからファガットに戻るのに最短でも五日は掛かるから……道具はすぐに作るとして……死体の偽物も作っとくとして………なる早で動くとして……あーそれでもここで計画を話したら魔道具で連絡を取られるのか……いやでもそれはどうにかすればいいか……やっぱお客さんへの筋は通さないとだから話すとして、その上で脱出させよう。そっちの方が後々の疑念を消せるしいいな)


 あーだこーだと悩みながら計画を考えて穴が無いかを確認していくリカルド。出来る限りの確認を行って、これで行こうと決まってようやく時を戻した。


「お客様、お客様」


 女性を元の椅子に座らせて元の姿勢を取らせ、肩を支え魔法を解いて呼びかければ薄っすらと女性は目を開けた。


「………あ」


 ぼんやりと彷徨っていた視線がリカルドと合った瞬間、ハッとしたように顔を上げて周りを見て、そこが占いの館である事に気づいて、夢?と呟いた。


「ファガットにおられる御子息に会いに行ったのは夢ではありませんよ」

「夢じゃない……?」


 どこか呆けたような女性に、リカルドは向かいの椅子に座って話をした。


「直接御子息にどうしたいのかを確認したところ、あの場所を出て外で生きて行くことを選択されました」

「……外って、それはどういう」

「王家の人間としてではなく、個人として生きて行くという事でしょう」


 女性は息を呑んだ。


「目の力を抑える魔道具をお渡しすればそれも容易だと判断致しましたので、魔道具についてもご本人にお渡しいたします」

「……待って、待ってちょうだい、私はそんな……そうじゃなくて」


 話を進めるリカルドにお願いだから待ってと手を上げて、こめかみに細い手を当てる女性。が、リカルドは話を進めた。


「王家の人間として日の目を見る。これはもう不可能な事だとお考え下さい。

 理由は二つあります。一つは先ほども説明しましたが、人と同じ時を過ごす事が出来ないという事。そしてもう一つは、王家の人間として表に出た時、真っ先に兄である王によって殺されるからです」


 虚空検索アカシックレコードによって話しても倒れない事が判明していた

(安らぎの雫によって一時的に精神キャパ拡張)ので、気にせず話すリカルド。


「なっ!? ――無礼者!! そなた我が子が血を分けた兄弟を手に掛けると申すか!」


 椅子を蹴立てて立ち上がり机を叩く女性にリカルドは表情一つ動かさず、真面目な顔で淡々と返した。


「失礼を承知で申し上げますが、その通りです。神族の先祖返りという事までは把握しておられないでしょうが、見目若いまま老いる事のない御子息を周囲がどう見るのか、王の立場としてそれをどう捉えるのか。王は兄である前に王であろうとされるでしょう」


 歳をとる気配の無い王弟の姿に人々が不安を覚えれば、兄といえど王として対処しないわけにはいかない。と、幾分マイルドに変換して伝えたリカルドだがそれでも女性は口を戦慄かせてリカルドを睨みつけた。


わたくしが浅はかでした……このような怪しげな者に救いを求めるなど……」


 射殺さんばかりの目で呟くと、ここで話した事を外で漏らすような事があればその首は無いものと思いなさいと告げて身を翻し、そのまま館を出て行った。


「………外で漏らしたのかとか、どうやってあの人確認するんだろ?」


 占い師の正体を知っている者は今のところウリドールとシルキーと精霊達ぐらい(ルゼもだが、リカルドは気づいていない)なので、前王妃であろうといくら手を回そうともほぼ無理である。

 あれが捨て台詞っていうものなんだろうなぁと思いながら、すぐに札と路地裏からの接続を遮断するリカルド。

 そして王弟に渡す魔道具の作成に取り掛かる。ラドバウトに作った鎧程複雑なものではないのですぐに完成し、偽の死体も作成し、これから一人旅になる王弟への餞別を少々見繕ってリカルドは再びファガットの王弟のところへと戻った。


「あ、お帰りなさい。思ったよりも早かったですね」


 王弟は最初に来た時と同様、窓辺でリカルドを出迎えた。


「先ほどの女性に説明をしたところ、やはり受け入れられないご様子でした。

 横槍が入る前に動いた方が良さそうなのですが、今からでも大丈夫でしょうか?」

「今からですか?」


 それは急ですね。と言いながら、王弟はわくわくといった様子でリカルドに近づいた。


「それでは僕はどうしたらいいですか? そこの窓でも壊せばいいですか?」

「いえ、それは私がしますので。

 ひとまずこちらの説明をさせてください」


 リカルドは先ほどまで座っていた小さなテーブルの上に、空間の狭間から眼鏡二つと腕輪とペンダントを置いて、最後にウェストポーチのような黒い鞄を置いた。


「この眼鏡がお客様の目の力を抑制する魔道具になります。保護を掛けているので滅多な事では壊れないと思いますが、念のため予備をもう一つ。それからこちらの腕輪は眼鏡が使用できない場合の魔道具です。こちらは眼鏡と違って神族としての力自体かなり抑えるのでその点をご注意ください。こちらのペンダントは姿を変える魔道具です。追手が差し向けられないようにする予定ですが、念のためです。最後にこの鞄ですが、中に少しだけ食べ物とお金を入れてあります」


 ふんふんと話を聞いていた王弟は、お金というところであぁと手を打った。


「外はお金が必要ですものね。そうでした。でもいいんですか?」


 お金まで貰ってしまって、と話す王弟にリカルドは構いませんと笑った。

 実はそのお金、手持ちにファガットで流通しているお金が無かったので、グリンモアで使われている金貨を潰して作ったリカルドのお手製だ。ファガットで使われているものより金含有量が高かったりするが、まぁ使う分には問題ない。無駄に金貨を保持しているリカルドなので塵も積もればの気持ちで放出している。そもそも女性が怒って館を出た瞬間に依頼主とは依頼の関係が切れてしまっているので、これは完全にリカルドの趣味でやっている事だ。


「気になるようでしたらいつか出世払いという事で」

「出世?」

「お金を稼げるようになってから返してくださいというような意味ですよ」

「なるほど。出世払い。面白いですね」


 ふむふむ頷いて感心している王弟に、とりあえず眼鏡とペンダントを付けるリカルド。

 ペンダントを付けた瞬間、ちょっとハインツっぽい感じに王弟の印象が変わった。同じファガット出身だったので周りから浮かないように顔立ちを拝借させてもらったリカルドである。


「これからファガットの北側にあるエッグルという町に行きます。そこには冒険者のギルドがありますから、そこで登録をしてみてください。身分証になるので国外に出る時も困りませんよ」

「あぁギルドの話はよく聞きました。武勇伝を楽し気に語る人が多くて楽しくて」


 リカルドは腕輪を鞄に入れて手渡し、渡された王弟が腰に巻いて装着したところで準備は完了だ。


「持っていきたいものはありますか?」


 そう尋ねるリカルドに、王弟は一度部屋を見回した。


「うーん。特にないです。僕のものだと思ったものは一つも無いので」

「………そうですか」


 擦り切れる程に読み込んだ本も自分のものだとは思ってないんだなと、そんな事を思いながらリカルドは行きますよと声を掛けてエッグルの町へと転移した。

 夜明前の薄暗い町の中に出たところで、リカルドはギルドの方を指さし囁いた。


「あそこがギルドです。私は残りの作業をしますのでここで失礼させていただきます」

「わかりました。いろいろとありがとうございました」


 初めて外に出たというのに不安がる様子もなく王弟は踏み出し、思い出したように振り返った。


「必ず行くので、待っていてくださいね」

「………気長にお待ちしております」


 どう答えるのが無難なのかわからなかったが、リカルドが思ったまま苦笑してそう答えると、王弟は破顔して背を向け、ギルドの中へとその姿を消した。


(……独特な人だったなぁ。まぁそう簡単に再会する事は無いだろうけど。さて、あとは……)


 リカルドは後の処理をすべくすぐに城へと戻って王弟の姿となり、派手に窓辺を壊して庭に出た。

 まだ夜が明けきらない静かな夜に突如として響いた破壊音に、王の指示によって配備されていた警備兵がすぐさま駆け付けた。


「っ、貴様は!? 皆目を見るな! 悪魔の目だ、魅了されるぞ! 視線を首から下に固定しろ!」


 リーダー格と思われる、警備という名の有事の際の執行人が周りに警戒するよう声を上げ、それに他の兵はびくりと肩を震わせて手にした槍を構えた。


「こんにちは、じゃないですね。ぎりぎりおはようございますかな? 朝からすみません、ちょっと散歩に出かけようと思ったのですが」


 リカルドが王弟を演じて足を踏み出すと、橙色のお揃いの兵服を着た男達は化け物を前にしたようにたじろぎ後退った。


「怯むな!

 罪人よ! 王の慈悲にて命があった事を忘れたか! それ以上進むのならば容赦はしない!」


 すかさず威嚇する男だが、これはたぶん自分の恐怖を誤魔化す為でもあるんだろうなと観察するリカルド。


「僕は何もしませんよ。ただ少し散歩したいだけ——」


 リカルドがその男に近寄った瞬間、槍の先端が胸に突き刺さった。

 むろん痛くもなんともないのだが、リカルドは顔を歪めて槍を掴んだ。そして傷口から、口内から血を溢れさせる。

 いつだったかはフルーティな血を再現したのだが、ここでフルーティな匂いがしたら台無しなので我慢して鉄錆臭いあの匂いにしている。だが、胸元はまだしも口から溢れさせたそれを鉄錆の匂いにしたのはやり過ぎだった。

 血の匂いをダイレクトに受けたリカルドはよろめき、その場にうずくまった。吐き気、吐き気が……と口を押さえながら、演技しないとという理性も働いて血を吐くという演出を追加して、その匂いと感触と視覚情報で余計に吐き気(妄想)がして、ちょっと演技どころじゃなくなったところに、後ろから槍で刺された。

 すっかり己のことに手一杯になっていたリカルド。周りを取り囲まれて滅多刺しにされ始めるまで、それに気が付かなかった。


(ちょいちょいちょい! 刺し過ぎ刺し過ぎ! オーバーキルだって!)


 途中で時を止めて、偽の死体と入れ替わったがまぁえげつない程刺された。

 王弟は子供の頃に死んだ事にされているので、ここにいるのは恐ろしい悪魔の力を宿した極悪人という設定にされている。だがそれにしたって怖がり過ぎというか、集団心理の成せる技というか酷い有様だった。


(まぁでも未知の脅威に対しては人間ってこんなもんか……)


 なんて思いながら時を戻し、きちんと死亡確認されて王に報告されるところまで見届けるリカルド。

 その際、遺体が運ばれた先で目玉が繰り抜かれそうになったのにはドン引きした(保存されても困るので眼窩から離れた瞬間溶けたように見せて消した)。

 数ある未来の一つとして知ってはいたのだが、レアケースだろうと高を括っていたのだ。それがまさかの現実となり、ファガットの王ヤバいと震えるリカルドだった。

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