第78話 怒られたけど、とても満足

「腕輪?」

「うんそう。ベルトと迷ったんだけど、リッテンマイグスさんと考えてそっちは付け外しがどうしても必要になるから腕輪がいいだろうって」


 何故リカルドとリッテンマイグスが揃っていて鎧ではなく、腕輪とベルトの話になるのかさっぱりわからないラドバウト。

 わからなくて当然である。異世界日本の特撮の鉄板など知るはずもない。


「こうやって、闇の衣換装ニルヴ・ヴェスタって言ってみて」


 ラドバウトの困惑を他所に、リカルドは腕輪をつける左腕を縦に、その腕輪に交差するように右腕を横にして見せるリカルド。

 ラドバウトは意味がわからなかったが、言われるがままそのポーズを取って言った。


「………闇の衣換装ニルヴ・ヴェスタ


 呟いた瞬間、ラドバウトの目の前に漆黒の鎧の幻影が現れ引き寄せられるように迫ってきた。思わず身構えたラドバウトだが、ガシャーンという音のみで衝撃はなく――気づけば現れた幻影の鎧を身に纏っていた。いきなりの事で驚き固まるラドバウト。

 特撮の第一話初変身シーン(変身に戸惑う主人公)みたいな事になっているラドバウトだが、それとは対照的にリカルドは両手を口に当ててぷるぷるしていた。

 大柄で背丈のあるラドバウトが漆黒の鎧を纏った姿は、もう完全に厨二病学生時代に夢想した暗黒騎士そのものであった。迫力も存在感も百点満点を優に超えている。


(さ…さすが本物………)


 ラドバウトの職業は暗黒騎士ではない。

 というかそんなジョブはこの世界に存在しない。

 しないのだが、冒険者=戦う専門職=騎士も含まれる=暗黒騎士も含まれる、と無理矢理脳内変換して拝むリカルド。厨二病持病が再発して脳内がお祭り騒ぎである。


 ところで何故暗黒騎士にジャンルの違う特撮の変身シーンを合体させたのかだが、そこはもうリカルドの趣味だからとしか言いようがない。好きなものを詰め込んだらこうなりましたみたいな、カレーにタコわさ乗せて食べてるような。そんな感じだ。


 押さえる手を口から鼻に変えたリカルド(興奮し過ぎで鼻血が出そうな気がした。当然出ないが)は置いといて、リッテンマイグスの方は何の問題もなく装着された鎧に(下手をすれば変なところに鎧を出現させて装着者を肉塊にする可能性もある)、さすがこれ程の付与を完成させた術者だと内心リカルドの完璧な設計に尊敬を抱き無言で頷いていた。そしていきなり装着させられた側のラドバウトはというと、驚きから復活してそっと頭部装甲(兜)を外しテーブルに置き、頭が痛そうに額を抑えた。


「………お前、これは」

「換装機能だよ!」


 喜々として答えるリカルドを止めるように手を上げるラドバウト。


「そりゃわかる。そうじゃなくて……」


 さっきの幻が迫って来るのはなんだったんだとか、あの変な音はなんだとか言いたい事はあるが、ラドバウトは一番重要な事に絞った。


「本気でつけたのか、この機能」

「だって便利でしょ? 鎧の着脱って時間が掛かるから一瞬で脱ぎ着出来たら便利だし、こうすれば持ち運びにも嵩張らない。ほら付けない理由が無い」


 エフェクトを付ける意味は全くないのだが、そこには触れないリカルド。意図的である。

 ラドバウトはリカルドの言葉選びよりも問題を前にして額に手を当てたまま長い溜息を吐いた。


「……これ、空間魔法を仕込んでるって事だろ。どんだけ魔力喰うんだよ」


 魔導士に比べて格段に魔力量の少ない自分だとルゼに頼る事になる。仲間の負担になるような装備はちょっと困るラドバウトだ。

 まぁそもそもこの機能を使わなければ問題ないだろうがと呟いていると、リカルドがあっけらかんと答えた。


「装着者から魔力を取るような事はしないし、補充もほとんど必要ないよ」

「は?」


 空間魔法を使っておいてそんな事があるのか?と疑問が顔に出るラドバウトに、リカルドは軽く頷いて説明した。


「周囲から魔素を吸収して魔力に変換するようにしているから。他の機能も全部効率化して燃費良くしてるし。まぁいろいろ考えて魔力を溜めておけるアイテムも実装させたけど」

「リカルド待て、まずは装着時の違和感が無いかが先だ」


 えっとね、と本格的な説明に入ろうとしかけたリカルドをリッテンマイグスが止めた。


「あ、すみません。そうですね」


 鎧としての機能確認が先かと、気が早っていたリカルドは頭を掻いてリッテンマイグスに頭を下げ場を譲った。


「ラドバウト、問題はないと思うがどうだ?」


 周囲から魔素をとか、他の機能もとか、効率化とか燃費とか気になる単語が多くて仕方がないが、ひとまずラドバウトはその場で軽く体を動かした。

 手首から肘、肩、指の一つ一つを動かして、それから屈伸をして軽くその場で跳ねて、身体を捻り、最後に前蹴りや回し蹴りをしてみて感触を確かめる。

 その結果、全身鎧にしてはリカルドが話していた通り異常に軽く、そして関節の可動に問題があるようなところは全く無かった。今まで使ってきた鎧の中でも文句無しの可動性である。ラドバウトの動き難いのは嫌だという要望を見事に叶えていた。それに華美な装飾も施されておらず黒一色はラドバウト的にも抵抗感が少ない。何よりこの色合いでヒヒイロカネだと思う者は居ないだろうとも思えた。


「………問題は…無いな」


 動作と見た目に関しては問題ないのだが、さっきの話が気になってどうにも落ち着かないラドバウト。

 そんな気持ちを全く理解しない作成者のリッテンマイグスは当然だと言わんばかりに胸を張り、さすがですともう一人の作成者のリカルドは拍手をしている。


「あー、悪いがさっきの話の続きをしてくれないか」


 ラドバウトが手を上げて頼めば、リッテンマイグスはリカルドに視線をやって頷いた。


「リカルド、機能の説明を」

「了解です!」


 びしっと敬礼したリカルドは、シャキシャキと説明を始めた。


「じゃあまずはラドにも話した重さを変化させる機能から説明するね。

 これは最大で百倍の重さにする事が可能で、逆に軽くする場合は十分の一まで軽くする事が可能だよ。まあ軽くした場合はほとんど布の服と変わらない重さだね。やり方は口頭で加重アルドって言った後に倍率を言えばその分重くなって、減重ルクゼって言った後に倍率を言えばその分軽くなる。口頭でなくても頭に強く思うだけで読み取って出来るようにはしてるけど、こっちは慣れないと難しいと思うから練習してみて。あ、最初は必ず少ない倍率から重くしていってね。いきなりやったら事故るから。

 で、次は環境変動抑制機能ね。これは自動起動するように設定しているから必要な時に勝手に起動するんだけど、熱さや寒さを感知した時に鎧の周囲の熱伝導を遮断するんだ。要は熱くも冷たくもない状態を保つって事で。基本的には頭部の兜まで装着した状態が一番効果を発揮するんだけど、万一兜の部分が飛ばされた状態でも腕とか他の部位で顔を庇えばある程度は補えるようにしてるから。火竜のブレスぐらいなら余裕で耐えられるし、氷漬けにされても普通に耐えられるよ。あとこれ内部で熱がこもった場合は逆に換気というか、一定の温度に保つようにしているから。異常に熱が溜まるなんて事もないからそこは安心して。

 で、次は有害物質遮断機能。これはそのままなんだけど、周囲の有害物質を感知した場合濾過機能を起動させて人体への影響を抑えるようにしてるんだ。例えば火山地帯のガスとか吸ったらやばいでしょ? そういう所でも平気で動ける筈だよ。あと瘴気を遮断する機能も追加で付けてる。ついでに精神干渉とか呪術とか死霊術系の干渉も遮断するようにしてるから。それから帯電防止機能つけてて、雷撃とか受けても感電しないようになってるでしょ。あと自動修復機能付けてて、表層のヒヒイロカネの部分が損傷しても内部の術式――回路の部分が損傷を受けても時間掛けたら直るようにしてる。大体手のひらぐらいの傷なら一日かな? 回路の方はもうちょっと必要でたぶん三日ぐらいだと思うけど。あ、ちなみにこの自動修復の核は部位ごとにあって、どれか一つ壊されても互いに修復し合うようにしてるから完全に破壊されるのは鎧まるごと壊された時ぐらいだよ。それと修復繋がりで装着者への自動治癒も入れたから、骨折程度ならそれ着て一日ぐらい横になってれば治るかな。あとは……あぁそうそう、環境変動抑制機能の一環で水の中とか生き埋めになった時でも息が出来るように鎧の内部に空気を生み出して浸水とか防ぐようにしてるから。まぁ勝手に起動するから気にしなくてもいいか。あと衝撃緩和に、隙間を狙った刺突からの保護、腐食系の化学物質からの鎧の保護は自動修復と合わせた保険で……あ、そうそう! これ被ってくれる?」


 説明が長い上に機能が多いし、その機能も意味が分からなさ過ぎて途中から耳から耳へと言葉が素通りしていくラドバウト。

 リカルドの説明が本当なら、そのどれか一つだけでも備えていればそれは立派な魔法鎧と呼ばれる貴重な品物になる。だというのにそれが一体いくつ付加されているのか。

 俺はこれを着ていったい何と戦うんだ……?と思考が逸れていたところにテーブルに置いていた兜を渡されて、ラドバウトは何も考えず被っていた。


「視界不良を無くすために透視の機能つけてるから見やすいと思うけどどう?」


 言われて見れば視界を遮るものが何も無い。


「………よく見えるな」


 初めて経験する現象に、何と言っていいのかわからずそう答えるラドバウト。

 ちなみにこの透視の発想は某ロボットアニメ作品から来ている。ゲームに特撮にロボにと拝借先に節操がないリカルドである。


「望遠機能もつけてるけど調整が難しいと思うからそれはおいおい教えるね。それから音も阻害しないようにしてるから装着によるマイナス面はカバー出来ていると思うよ。あ、ちなみにその兜だけ単独で収納出来るようにしてるんだけど、これもまた後でいいかな。

 さっきも言ったんだけど、今説明した機能は全部周囲からの魔素を吸収して魔力に変換して動力としてるから、基本的にラドがその鎧に魔力を装填する必要はないよ。例外は部分的に壊れた時に修復を早めるためにやるぐらいかな?

 それでここからは拡張機能なんだけど、説明した機能の幾つかは予備魔力を溜めるタンクを使えば範囲を拡大させる事が可能なんだ。例えば自動治癒機能だとか環境変動抑制機能、有害物質遮断機能はパーティーで動いている場合、全体に効果を及ぼした方がいい場合があるでしょ?」

「………そう、だな?」


 範囲を拡大?何言ってんだこいつ?と、もはやそれは鎧を超えたナニカの話としか思えず理解不能な状態のラドバウトに、リカルドはちょっと失礼と言ってラドバウトの鎧に包まれた右手を取って左手の甲に触れさせた。

 その途端、そこににゅっと剣の柄と思われる棒が生えた。目の錯覚でも何でもなく、左手の甲から柄が生えたのだ。

 リカルドはそれを引っ張って自分の身長に匹敵するほどの漆黒の大剣を取り出した。


「で、これがその予備魔力を入れとくタンクね」

「おい待てどう見ても剣だろ」


 反射で突っ込んだラドバウト。働かない頭でもその程度はわかる。誰がどう見たって剣だ。だが、リカルドはけろりと言い返した。


「いやいや外側は保護材だよ。壊されたら困るでしょ? だからリッテンマイグスさんにお願いしてヒヒイロカネで覆って貰ったんだ」

「柄と刃がある意味は」

「格好いいし持ちやすいよね」


 暗黒騎士と言ったらでかい剣。という思考のリカルド。

 だがさすがに似合うからと言って鎧にいきなりこんな大剣をセットでどうぞと行ったらラドバウトは絶対断ると思ったのだ。

 だから外付けの魔力タンクなんて役割を考え出して、あくまでも鎧の付属品だと主張しリッテンマイグスにお願いした。リッテンマイグスの方も純度の高いヒヒイロカネで剣を打ちたいという欲求があり、リカルドと利害が一致。こうして大剣は日の目を見る事となった。


 一切の迷いなく白を切るリカルドに、ラドバウトは静かにその肩に手を置いた。


「あのなリカルド。依頼は鎧だ。剣じゃない。依頼の内容を守るってのは互いの信頼関係に繋がるんだぞ」


 子供に諭すように世の中のルールというか常識というかそういうものを教えようとするラドバウト。


「うんだから大丈夫、これ剣じゃなくて鎧に取り付ける魔力タンクだから。偶々剣の形をしてるだけでルゼの十倍ぐらいの魔力をちゃんと溜め込めるよ」


 だが相手は既に二十九年生きた男。修正不能である。

 あくまで付属品だと笑顔で親指を立てるリカルドに、ラドバウトはその親指を握って真横に折りたくなった。

 ただでさえ狂ってるとしか思えない機能満載の鎧に、その鎧の機能を拡大させる特大の剣(リッテンマイグス作ヒヒイロカネ製=名剣確実)とか、請求額がどうなるのかわからない。もう天井が見えない。現時点のラドバウトの全財産を軽く超えている。というかラドバウトの個人資産どころかクランの資産(国家規模)を使っても間に合いそうにない。


「リッテンマイグス」

「そのサイズの魔力タンクを持って戦闘は出来ないだろ。だったら合理的な形にすべきだ。そもそも通常時はそれ無しで構わないのだから目くじら立てる事はないだろ」


 駄目だこいつら。やっぱセットにすべきじゃ無かったと兜の下で気が遠くなっていくラドバウト。


「ねぇねぇそれよりラド、その剣をこうやって切っ先を上にして構えて」


 わくわく。という様子でポーズをやって見せた後に大剣を差し出してくるリカルド。

 嫌な予感しかしないが、断ったとてというこの状況。

 のろのろとラドバウトは大剣を受け取って切っ先を天井に向けて胸の前で構えた。


光よエインって言ってみて」

「…………光よエイン


 どうすんだよこの鎧……という気分のラドバウトが、ものすごく低いテンションで言った瞬間、鎧と剣が白い光を放ってその姿を漆黒から白銀へと一遍させた。ちなみに白い花びらが舞うエフェクト付きである。

 エフェクトが収まった後、ラドバウトはのっそりと動いて、自分が纏っている鎧が光を放つかのような(実際ちょっと光らせている)派手な白銀の姿に変わっているのを確認して、深い溜息を吐いた。これに関してはわかった。完全にノリで作ったなこいつと。

 観客のリカルドは両手を組んで暗黒騎士から聖騎士へのクラスチェンジに大興奮で、もう一人の観客のリッテンマイグスはやはりこちらの色もいいなとカラーチェンジを楽しんでいた。


「……で、これは何の意味が?」


 一応尋ねるラドバウト。


「それは照明だよ」

「………しょうめい」

「明かり。光。暗いとこで便利でしょ」


 どうしても聖騎士バージョンも見たかったリカルド。無理矢理つけた機能を悪びれず話す様子に、ラドバウトはそっと大剣をその場に置いてリカルドに手を伸ばし、その頬を両側から引っ張った。


「こんな目立つ照明があるか」

「あ、あ、ちょひょほっぺ千切れるほっへちひれる

「大体な、お前は俺を何と戦わせる気なんだよ」

「いやなひ安全第一に考えてあんへんはいいひにはんはえへ

「お前イツキの腕輪でも思ったがやり過ぎなんだよ」

いやいやそんなひやひやひょんな安全に絶対なんてないんだからあんへんにへっはいなんへないんはから

「やり過ぎなんだよ」

いやでもひやへも安全なほうがいいじゃあんへんなほうはひいは――」

「やり過ぎなんだよ」


 大事な事なので三度言うラドバウトに、さすがに黙るリカルド。

 ラドバウトはリカルドの頬から手を離して疲れたように椅子に座った。その姿は完全に燃え尽きた某漫画のあの人(但し聖騎士姿)である。頭の中は支払いについてというところがアレだが。


「こんな化け物みたいな鎧を一個人で持ってる奴がどこにいるんだよ……だいたいここまでの機能を備えた鎧の代金なんか払えるか」

「あ、それは大丈夫。材料はほとんど俺が持ってたのを使ってるから、残りはリッテンマイグスさんの技術代と足りない材料分だけだよ。俺が手を加えた分は俺がやりたくてやった事だし」


 まじで千切れてないよね??と頬を押さえながらリカルドはラドバウトにそこは大丈夫だと伝えたが、ラドバウトはさらに溜息を重ねた。


「……あのな、こんな事を無償でやるもんじゃない。何かをすればそれに対して正当な対価が支払われるべきだ」


 苦言を呈するラドバウトにリカルドは違う違うと手を振った。


「逆だってラド。これでお金を受け取ったら仕事になっちゃう。俺はこういう事を仕事でするつもりは無いから。めっちゃ神経使うししんどいし、正直いくら金を積まれても仕事でやるのは無理」


 わりと真剣に無理と言い切るリカルドにラドバウトは視線を上げた。


「まぁ……ちょっと趣味とかどこまで出来るか好奇心が爆発したのは謝るけどさ、でも安全第一にと考えたのは本当で、これでもラドの無事を祈って作ったんだよ」


 受け取って貰えないと持っていき先が無いんだけど……と、困ったように下手な笑いを浮かべるリカルド。


「こちらも別に代金は不要だがな。この純度のヒヒイロカネを扱えただけでこちらは勉強代を支払わなければならないぐらいだ」

「リッテンマイグスまで……さすがにそれじゃ筋が通らんから勘弁してくれ」

「なら文句を言わずさっさと受け取ると言え」


 横暴な物言いのリッテンマイグスにラドバウトは眉間に皺を寄せていたが、暫くしてお手上げだというように両手を上げた。

 受け取ってよ……という視線のリカルドと、早くしろという態度のリッテンマイグスに折れたのだ。


「わかった。ありがたく使わせてもらう」


 その言葉にリカルドはホッとしたような笑みを浮かべ、リッテンマイグスも小さく笑った。内心では計画通りとニヤついて。

 二人ともラドバウトの思考など予想済みだった。だから良心に訴えかける戦法で受け取らせる算段も設計時の段階でつけていたのだ。質の悪い二人組である。


「請求書を持って来てるなら出してくれるか?」

「あぁ、これだ」

「あ。ちょっと待ってラド、鎧邪魔だろうから脱ぐって強くイメージしてくれる?」


 鎧姿のまま書類にサインをしようとするラドバウトにリカルドが声をかけ、その通りにラドバウトがイメージした瞬間、鎧も大剣も消えて元の黒い腕輪に戻った。

 それを見たラドバウトは束の間じっと腕輪を見下ろして、徐にリカルドに視線を向けた。


「なあ、もしかしてこれ、頭で考えるだけで着けるのも出来るんじゃ……」

「あ。気づいた? 実はポーズは意味ないんだよね」


 思考の読み取りじゃない場合、意味があるのは言葉だけなんだよね。光るやつも同じだよと笑うリカルドに、ラドバウトは無言でその頬を限界まで引っ張った。

 言われたままにやったポーズが意味が無いとか、あとからじわじわくる恥ずかしさだった。

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