第69話 無理だと思っていたこと

 聞いておきながらだが、ええ……そんな事ある?と思うリカルド。

 魔導人形ハントハーベンについては先日ハインツから聞いたばかりだが、そんな死霊術みたいに魂を定着させるような要素は無かった筈なのだ。まぁ人形という形態をとっている時点で魂の器として入れ物にはなるが、でも本人が出られないというような事はあまり考えられない。


「……相性が良すぎたとか?」


 人形との相性が良ければそういう事もあるのかな?と、事実レイスになってしまっている男が目の前にいるのでそう解釈するリカルドに、男はどことなく恥ずかしそうにまぁそのようなものですと頷いた。


〝戻れずにいたら、歳だったのもあって老衰扱いされてしまってこんな有様です〟

「歳?」


 見た目はそんな歳には見えない男だ。リカルドの疑問に男はあぁと頷いて、一瞬姿が揺らぎ、あっという間に白髪の腰が曲がった老人の姿になった。


〝こちらの姿は気分的に動きづらいんですよ〟

「なるほど」


 レイスなら姿も思いのままなのかと納得するリカルド。


〝こんな歳にもなって魔導人形ハントハーベンに入って出られないとか、そんな情けないところをシルキーに見られたくなくて……咄嗟に家の外に出て友人に助けを求めようとしたんですけど、その間に知り合いが訪ねて来てあれよあれよと言う間に……まぁ、運が無かったです。肉体の方が滅んだらあっさり魔導人形ハントハーベンから離れられたのは良かったんですけどね〟


 再び姿が揺らいで元の三十代ぐらいの姿に戻った男は、へにょりと眉を下げて情けなさそうな顔で笑った。


「……ええと、大変でしたね」


 他に言いようがなくてそう言えば、気を遣ったリカルドに男は気にしないでくださいと慌てて手を振った。


〝これもまぁ天に向かって投げた石が頭に落ちてきたようなものなので〟

「天……石?」

〝あぁこの辺の諺です。因果応報という意味で。

 実はですね、シルキーが入れる魔導人形ハントハーベン作ろうとして精巧に作り過ぎて、ちょっとその身体に入ってみたいなぁとか思っちゃったりして……ほら、女性の身体は神秘って言うじゃないですか。どんな感じなのかなぁとかって〟


 後ろ頭に手をやってアハハと明るく笑っているが、つまり、シルキーそっくりの魔導人形ハントハーベン作って、作ってみたら興味が湧いて(神秘とか言う時点で十中八九エロ目的)入ってみたら抜けられなくなったと。そう意味を理解したリカルドは真顔になった。そして滑らかに手を翳して浄化を発動しようとした。ら、男は察して慌てた。


〝いや一度だけですよ!? 魔が差したのは一度だけ! 本当に! 誓ってそれ以外不埒な真似はしてませんから! 清廉潔白! 奥手のノルマと仲間内ではそう呼ばれていましたから私!〟

「こうなってる時点でただのエロ爺でしょ」


 ばっさり言い切るリカルドに、いやいやいやと大きく手を振る男。


〝違います違います! 本当に本当ですって! シルキーの魔導人形ハントハーベンを作ったのはそういう目的じゃなくて、純粋にシルキーに家の外を歩いてもらいたかっただけです!〟

「外……?」


 男の言葉に思わず手を下ろしたリカルド。

 リカルドの反応に、ここぞとばかりに男は頷いた。


〝そうです! シルキーは家憑きの妖精だから外に出れないでしょう? だけど一度でいいから一緒に街を歩きたかったんです。老いぼれの夢みたいなもので、それで作ったんです〟

「………」


 男が言った街を一緒に歩きたいという夢。それはリカルドも考えた事だ。だけどそれは実現不可能と虚空検索アカシックレコードで調べて分かった事でもあった。


「……残念ですけど、それは無理ですよ。

 シルキーは家に憑く妖精。やるなら家ごと動かすしかありません。もしシルキーを家から引き離すなら、それはもうシルキーではない別の何かになります」


 やり方があればリカルドだってとっくにやっていた。

 首を振って静かに否定するリカルドに、男は気にせず頷いた。


〝もちろんそうです、だから魔導人形ハントハーベンを家だと思って貰えば出来る筈なんですよ〟

魔導人形ハントハーベンを家?」

〝家の中ならシルキーはどこへでも行けるでしょう? 家の中にある魔導人形ハントハーベンの中に現れる事も可能な筈ですから、そこに現れてもらってそのまま外に出れないかって〟

「………」


 リカルドが虚空検索アカシックレコードで調べたのは、シルキーを家の外に連れ出せないかという事だけだ。家の中に居る状態で外に出れるかなんて矛盾している条件で調べてなどいなかった。


〝あの時は完成に浮かれてお酒を飲んで、定着の術式を入れてたのを忘れちゃってたんです。ヘマしなければ成功してたんじゃないかなぁ〟

「盲点だった……」

〝え?〟

「いえ、こっちの話です」


 と言って時を止めて虚空検索アカシックレコードで調べれば、精霊が宿る石座のように魔導人形ハントハーベンを家と認識させて、家の中に居る状態でシルキーを連れ出す事が可能だった。

 嬉しい発見なのだが、その答えをくれたのがエロ爺というのがどうにも喜び切れないリカルド。

 しかしこのまま、いい事聞いたわ!ラッキー!と言ってエロ爺を浄化して終わらせるのもやり難くなった。


「………どうしたいです?」

〝え?〟


 時を戻して尋ねたリカルドに、男は主語がない問いに戸惑った。


〝どう?〟

「このまま浄化を受け入れるか、よそに行くか」

〝………見逃してくれるんですか?〟


 驚いた顔で聞き返す男に、リカルドは悪さをしなければと内心悩みながら答えた。


〝ええと…………そうですね〟


 男は工具を手の中で遊ばせながらしばらく考えていたが、やがて顔を上げてリカルドに視線を向けた。


〝あの……さっきは嫌がっちゃいましたけど、やっぱり浄化を受け入れます〟


 逃げると思っていたリカルドは、どこか諦めた表情を浮かべる男に何故?と聞いていた。


〝だって私、いるだけで駄目なんですよ。どんなに抑えようとしても瘴気が出て影響を出してしまうんです〟

「それは……でも、人のいないところに行けば問題はないでしょう」

〝そうなんですけど、それは寂しいでしょう?〟


 切なげに工具を弄りながら笑う男に、不死者が何をと言われるかもしれないが、リカルドはその気持ちがわかってしまった。

 己だって不死者だとわかっていた癖に人間領に入ろうとしたのだ。周り全てを瘴気で汚染して生命を奪うとわかっていながら、どうにかしてそれを抑えて今もここに住んでいる。山暮らしだって別に出来ないわけじゃない。だけどやっぱりそれだと楽しくないし――寂しい。

 きっとやろうと思えば高い精神耐性のおかげでやれるのだろうが、リカルドも最初からその選択肢は無かった。


〝それに今はまだこうして正気を保っていられていますけど、これがいつまでも続くとは思えませんから。最近少しずつ人らしい感情を失っている気もしますし〟


 なので、怖いですけどやっぱりひと思いにやっちゃってください。とお願いする男に、リカルドは手を翳して――時を止めた。

 男の瘴気を抑え、正気を保つ方法はと虚空検索アカシックレコードで調べて、その結果に頭を掻いた。それしかないかと。


「もし、瘴気を抑える事が出来て、正気を保つ事が出来るとしたらどうしますか?」

〝いえ、そんないいですよ。出来ない事はわかっていますから。お気持ちだけで〟


 リカルドは諦めて受け入れている男に溜息をついて、ずんずんと家の中へと入って行った。


〝え? あの?〟

「外だと目眩しを掛けていても誰かに押し入られる可能性があるので」


 そう言ってドアを閉め、リカルドは自分の本当の姿を見せた。

 男はいきなりリカルドが骨の姿になったので、ぎょっとして一歩後ずさった。

 すぐに元の姿に戻したリカルドだが、男はお化けを見た顔をしたまま固まってしまっている。

 その反応に、お前も不死者だからな?と言いたいリカルドだが、自分だって同じ状況なら同じ反応をするだろうなと思って口にはしなかった。


「私もあなたのお仲間のようなものです」

〝まさか……死霊魔導士リッチ? いや、でも瘴気が……〟

「瘴気は聖魔法で漏れないように覆っています」

〝は……? なんで死霊魔導士リッチが聖魔法を? いやそれよりそんな事をしたら微かとはいえずっとダメージを受ける事になるんじゃ……〟

「なりますよ。でも全部魔力でカバーしています。

 私があなたを従属すれば、あなたは正気でいられますし瘴気も私が抑えられます。どうしますか?」

〝そんな事が? ……でも……〟

「強要はしませんよ。もちろん従属したとしても私の正体を伏せる事以外命令するつもりもありません。あなたが飽きたら責任を持っていつでも浄化します」


 リカルドの提案に、しかし男は眉を寄せた。


〝……そんな事をして、あなたに何のメリットが? 私はレイスとしては戦闘に慣れていないお粗末な存在ですよ?〟


 それを言うならリカルドだって戦闘慣れしていない血もお化けも駄目なお粗末な死霊魔導士リッチなのだが、男はその辺を知らないのでしょうがない。


「お礼です。シルキーと街を歩いてみたいと、私もそう思っていましたから」


 苦笑を浮かべて言うリカルドに男は目を丸く、それからやっと得心がいったというように表情を緩めた。


〝なるほど………ええと、じゃあ……………お願いしてもいいですか?〟


 おずおずと頼む男にリカルドは頷いた。


「私はリカルドと言います。長い付き合いになるでしょうが、宜しくお願いします」

〝あぁ、これはご丁寧に。こちらこそ、ノルマと申します。ってご存知でしたね。老いぼれですがどうぞ宜しくお願いします〟


 互いに頭を下げ合う不死者というのも奇妙な図だが、本人たちは至って真面目だ。


「それじゃあすぐに済ませますから、抵抗しないようにして貰えますか?」


 頷くノルマに手を翳して、リカルドはクロにやったのと同じ魂の眷属化を行った。あの時とは違い対象者の同意があるので反発が無くスムーズに作業は進み、数秒と言わず僅かな間で終わった。


「これで完了です。瘴気を抑えるのは私と同じ聖結界で閉じる方法になりますから、耐えられるようにダメージを魔力で受ける方法を伝えておきますね。……こんな感じですけど、わかります?」

〝えー……と、たぶん? こうですかね?〟


 リカルドから魂のラインを使って開示された情報に、慣れないながら頷くノルマ。


「試しに聖結界をやってみますよ」

〝え? いきなり? まだちょっと心の準備が〟

「さっき浄化に耐えてたじゃないですか。それなりにしぶといんですから多少失敗してても平気ですよ」

〝しぶといってちょっと雑過ぎやしませんか? ってぅわ!〟


 聖結界の気配に大げさに身構えたノルマだが、しばらくしても何の痛みも苦しみも無く、全く問題なかったので力を抜いた。


〝……平気ですね〟

「ほら、だから大丈夫だって言ったでしょ?」

〝言ってませんでしたよね? 多少失敗しても平気とか言ってましたよね??〟

「まぁまぁ細かいことはともかく」

〝細かいですか? 細かくないと思うんですが〟

「魔力の総量も生成能力も高いみたいだから維持は出来そうですけど、どうですか?」


 ノルマの訴えをスルーして進めるリカルド。シルキーを連れ出せる情報には感謝しているが、その前の話にはそれなりイラッとしていたのでその報復だったりする。みみっちい死霊魔導士リッチである。

 ノルマは、怖い主ですね……とぶつぶつ言いながら感触を確かめた。


〝問題ないと思います。でも私よりも主の方が大丈夫なのですか? 聖魔法を継続使用というのは難しいのでは?〟

「いえ、そこはそんなに大変じゃないですけど……でもレイスだから不定形なのはちょっと面倒ですね……」


 形がはっきりと定まっているなら、聖結界もそれにそって張りやすいのだが、レイスのように形が揺らいでいるような存在に合わせて結界を張るのはなかなかに面倒だった。

 リカルドは少し考えて、ポンと手を打った。


「ノルマさん、魔導人形ハントハーベンに入りましょう」

〝は?〟

「その方が結界維持が容易ですから」


 と言いながら虚空検索アカシックレコードで作り方を調べるリカルド。


「あー材料が足りないか。

 一旦戻りましょう。ここの依頼達成報告もギルドにしたいですし」

〝え? 待ってください、私が魔導人形ハントハーベンに入るんですか? 死因がそれの私が?〟


 ちょっと抵抗があるんですけどと言うノルマに文句言わないでくださいと流すリカルド。死因(エロ目的)を持ち出されても忖度する気になれるわけがなかった。


「とりあえず影に入って貰えますか? そのままだと問題があるので」

〝ぇえ? ……はい〟


 物申したい表情を浮かべつつ、するりとノルマはリカルドの影へと溶け込むように入り込んだ。

 しっかり影の中に入った事を確認して、ひとまずギルドからだなとリカルドは貸し物件を後にした。

 ギルドに戻って依頼達成の報告をして鍵を返し、ギルド職員の確認が終わる三日後にまた来るように言われて家へと戻った。


〝あ、あの、すみません、ちょっといいです?〟


 家が近くなったところで影からこそこそと呼びかけてくるノルマに、リカルドは細い路地に入って周囲に目くらましを掛けた。


「なんです? もう少しで家なんですけど」

〝知ってます。住んでたので。シルキーいますよね?〟

「そりゃ家ですから。居ますよ」

〝あの、たぶん私が影に隠れてるのバレますよね?〟

「……どうでしょう。隠れ方にもよると思いますけど」


 クロならバレないだろうなと思いながら答えるリカルド。魔力量に関しては実はノルマの方が素だと多いのだが、魔族としての小手先の器用さは圧倒的にクロの方が上だ。


〝お願いがあるんですけど、バレても私はいないものとして対応してもらえませんか?〟

「シルキーに会わないんですか?」


 てっきり会いたいんじゃないかと思っていたリカルド。正直エロ爺を会わせるのはアレな気がしないでもないが、たぶんシルキーの方は主に会いたいんじゃないかとそう思って何も言わなかったのだ。

 ノルマはリカルドの問いに影の中で否定するように揺れた。


〝シルキーにあんな情けない死因を知られるくらいなら死んだほうがましです〟


 キリッとした声だったが、ましも何も既に死んでいる。

 とりあえずその辺は分り切った事なので口にはせず、リカルドはそう望むのならそうしますとだけ返した。同時に、でもだとすると魔導人形ハントハーベンに入っても、いや入ったら余計に家には居たくないのかと思案するリカルド。

 家に居たくないなら他所を探さないといけないが、リカルドの知り合いのお宅というと、ジュレのクランハウスぐらいしかない。さすがにそこに預けたらザックの興味を引きそうで身の安全が保障出来ないよなと考えた。


 答えが出ないまま細い路地から出て家へと戻ったリカルドは、いつものようにおかえりなさいとシルキーに出迎えられた。


「ただいま。変わったことはなかった?」

〝特には。上も落ち着いています〟

「そっか」


 マフラーと外套を外して壁のハンガーに掛け、廊下を進めば、ノルマが影の中でそわそわしているのがわかるリカルド。

 死因なんて言わなければわからない。会いたければ会えばいいのにとリカルドは思うのだが、会いたくないなら別に無理に会わせようとも思わなかった。そこはいい大人なのだから個人の判断だろうと。


〝リカルド様……もしや何か連れて帰られました?〟


 そんな事を考えていたら居間に入る前に早々にバレ、影の中でびっくぅ!としているノルマにリカルドは苦笑した。


「ちょっとね。恥ずかしがり屋だから挨拶は無理だけど、気にしないで」

〝そうなのですか……〟

「そうだ、俺ちょっと地下にいるから。お昼には出てくるつもりだけど、来なかったらハインツに先に食べてもらってて」

〝わかりました。出来上がるまでそう時間は掛からないと思いますから〟

「うん。了解」


 片手を額に当ててリカルドは空間魔法で閉じている地下へと行き、そこでもう出て来ていいですよと声を掛ければ薄暗い明かりの中、ぼんやりしたリカルドの影から滲むようにノルマが姿を現した。


〝……シルキーだった。変わらない……やっぱりいつ見ても可憐だ〟


 ぼんやりしているノルマはほっといて、リカルドはノルマの住処をどこにしたらいいだろうかと虚空検索アカシックレコードで調べた。

 家に置いておけないとなると、もう頼れるのは虚空検索アカシックレコードだけだ。ノルマの身の保障が取れて、魔導人形ハントハーベンを持っていてもおかしくない相手で、ノルマと相性のいい相手。

 居るのか?と思いつつも調べれば、返ってきた答えになるほどと手を打った。


「魔道具を作ってたからか」

〝はい?〟


 リカルドの声に過去の思い出から戻ってきたノルマ。目を瞬かせるノルマにリカルドは今後の話として提案をした。


「ノルマさん、これからあなたが暮らす場所なんですけど、まだ年若い魔道具士のところなんてどうでしょう?」

〝魔道具士?〟

「はい。かなり腕のいい職人なんですけど、アイデアに対して手が足りない状態なので、それのお手伝いをするのはどうかなと思って」

〝お手伝いですか……私が役に立ちますか?〟


 たぶん私の技術って遅れたものになっているでしょうから。と心配するノルマに、リカルドは問題ないと首を振った。この家の防衛機構を設計出来る頭と手先があれば十分だからだ。


「ノルマさんなら大丈夫です。とりあえず魔道具作りに耐えられる手先の操作が可能な魔導人形ハントハーベンを作らないとですね……」


 改めて材料はと調べて、なるべく耐久性や作業に支障が出ない可動性を考えて設計していくリカルド。ものの数分でそれらを纏めて手を叩いた。


「オッケー。設計は出来たので材料採りに行きましょう。影に入っててください」

〝はい? 設計って、今の一瞬で?〟

「ほらもう行くので入ってください」

〝あ、は、はい〟


 あれ?魔導人形ハントハーベンって人形部分だけでももっと時間を掛けて設計するものだったんじゃなかったっけ?となりながら影に入るノルマ。

 そしてその後いろんなところへと転移で連れていかれ、さくさく希少素材を採取したり剥いだりもいだりしていく姿(耐えてやっているが側からはわからない)に、やばい普通の死霊魔導士リッチじゃないと遅まきながら気づき出した。


無水揚羽アドラ宝石蜘蛛リィドル虹鮮虫ワズイェ………欲しかった素材がこんなあっさりと……主、死霊魔導士リッチにしては頭がまともだと思ってましたけど、頭以外まともじゃなかったんですね〟


 再び家の地下に戻ってきて、さっそく作り始めたリカルドの尋常じゃない手際を見ながら呟くノルマ。


「喧嘩売ってます?」

〝滅相もない。どうやったらこんな死霊魔導士リッチになれるのか謎だっただけですよ。死霊魔導士リッチと言えば気狂いの代名詞ですから〟


 話をずらそうとするノルマの言葉にリカルドは手を動かしながら、少し前に死霊魔導士リッチになろうとしていた男を思い出した。


「私はなりたくてこうなったわけじゃないんですよ。だから普通の死霊魔導士リッチの考え方はわかりません。

 あと、主じゃなくてリカルドでいいですよ」

〝いいんですか?〟

「従属は魂のラインを結ぶためにやった事で、支配下に置きたいわけじゃないですから」

〝……じゃあリカルドさん〟

「はい」

〝……あの、ありがとうございます。いろいろしてくださって〟


 律儀に頭を下げるノルマに、リカルドは手を動かしながら、私もノルマさんに答えを教えてもらいましたからと小さく笑って返した。

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