第46話 幼い決意と教会の危機

 ギルドを出たリカルドは、道を埋める人の多さにうわーと口を開けていた。


「しょうがないけど人混みがすごいな……樹くん、ナクルくんを——」


 リカルドが振り向いて言い切る前に樹は頷いてナクルを抱っこした。背丈の低いナクルだと、この押し合うような人混みでは転んでしまうのは樹にも容易に想像出来た。

 樹がナクルを抱っこしているのはともかく、リカルドがクシュナを横抱きにしているのは常なら目立つところだが今は非常事態。王都が魔物に襲われるという情報と魔物が討伐されたという情報、北門に早く逃げろという情報に、もう問題ないという情報が合わさり錯綜していて、リカルド達に目を止める者は居なかった。


「今日はもう催しを見て回るどころじゃないから戻ろうか」


 当たり前だが、商業ギルドの催しはとっくの昔に中止、避難に舵を切っている。この期に及んでそんな事を持ち出すのはリカルドぐらいだ。


「いいんですか? 何か言ってからの方がいいんじゃ……」


 催しの事よりもギルドに何も言わず出てきた事を気にする樹。歳若いがリカルドより余程しっかりした常識人だ。


「いやこれでいいよ。あのままいたらクシュナさんが揉みくちゃにされる可能性があるからね。七首鎌竜ニーヂェズを止めた結界って実はすごいんだよ。教会でも数人しか使えないから」

「え、そうなんですか?」

「うん。って事でさっさと戻ろう」

「わかりました」


 そういう事ならと樹もナクルを抱え直し、ちょっと捕まっててねと声を掛けた。

 リカルドもクシュナに少し我慢していてくださいと言ったが、クシュナは強張った顔で微動だにしなかった。これは結構精神的に来てたのかとリカルドはいきなりやらせた事をちょっと反省した。

 家路へと急いだリカルドだったが、クシュナは極度の緊張から具合を悪くしたわけではない。単純にリカルドに抱えられて頭の中が大騒ぎだっただけだ。具体的に言うと、おおお姫様抱っこ……!から始まって、顔が近い!かっこいい!喉仏が目の前に!鎖骨が見えてる色っぽい!やだもう私何考えてるの?!と、大フィーバー状態だった。顔が強張っていたのはそれを表に出さないために咄嗟に表情筋に力を入れていたせいだ。

 お前さっきまで家族や友人、大事な人を思い浮かべて必死の思いで破邪結界張ってた人物か?と突っ込まれてもおかしくないぐらいお花畑だ。

 さらに言うと、リカルドが人にぶつからないようクシュナを自分に引き寄せてより密着した時には、筋肉っ……!と、脳内で言語化出来ない衝撃に襲われ羞恥なのか喜びなのかお祭り状態に拍車がかかり気が遠くなる始末。残念ながらその筋肉は偽物(しかも見栄で嵩増し)だと告げる者もいないので帰るまでその状態は続き、玄関のドアをくぐったところでクシュナはようやく我に返った。


「す、すみませんリカルドさん! 大丈夫なので下ろしてください!」


 随分と堪能してから申し出る時点で今更なのだが、正気になるともう羞恥が勝って無理だった。


「ソファまで運びますよ」

「い、いえ、重いので」

「全然軽いですよ」

「かっ……」


 至近距離で会話する事自体心臓への負担が酷いのに、優しい微笑みでそんな事を言われたら全身の血が上って茹蛸になりそうだった。ちょろいヒロインである。

 ちなみにリカルドの方は社交辞令でも強がりでも何でもなく、事実を口にしている。見た目からは想像し難いが、リカルドの力は(中身骨だけのくせに)ラドバウトよりも高いのだ。

 だがそんな事実を知らないクシュナはどもりながら「も、もう本当に大丈夫なので!」と何とか降ろしてもらい、樹とナクルを追いかけ急いで家の中へと入っていった。抱っこなんて必要ないぐらいに元気である。

 それを見て、あぁもしかして恥ずかしかったのかな?と漸く思い至るリカルド。対象外だと思っているからこその察しの悪さである。

 そこへシルキーがふわりと現れた。


〝おかえりなさい〟

「ただいまシルキー。ちょっと騒ぎがあって催し物は中止になっちゃった」

〝そうなのですか? ではお昼は〟

「まだなんだ。あ、連絡入れれば良かったか。ごめん忘れてた」


 朝に出かけて今はもう昼を回っている。本当なら昨日と同じように出店で食べる予定だったのだが、騒動があったのですっかり流れてしまっていた。

 リカルド自身は空腹を感じないので忘れていたが、樹やクシュナ、特にナクルはお腹が空いている筈だ。頭を掻くリカルドに、シルキーはゆるく首を振って微笑む。


〝すぐに何かお出ししますね〟

「ありがとう。みんなお腹空いてるだろうからお願い」


 シルキーは頷いて、玄関の横に掛けてある布製のポケット収納に手を伸ばした。


〝リカルド様が出て行かれてからすぐに訪ねて来られた方がいました〟

「そうなの? 誰だろ」


 鳥型魔道具の映像を見てみようかと思ったところでシルキーが手紙らしきものを差し出した。


〝不在だと見越されていたのか、こちらを残していかれました〟


 そう言ってそれではと消えるシルキー。

 リカルドは差出人を見てみるが、そこにあったのはヘモッグという見知らぬ名前。誰?となって中を開いて見て、ようやく誰かわかった。


「本屋か」


 以前一度やった本屋の仕事の依頼だった。


(あの人ヘモッグって言うのか。そういや自己紹介とかしなかったもんなぁ)


 予定冊数は八冊。もし都合がよければ明日中に訪ねてほしい旨が書かれていた。

 前に聞いていた一週間と言う区切りよりも随分と急な話だが、割のいい仕事なので行ってこようとスケジュールに組み込むリカルド。

 手紙を仕舞って居間へと入れば、キッチンの方でおやつを出してもらっている三人の姿があった。

 あ、美味しそう。と思うリカルドにもシルキーは取り分けたタルトのようなものクロスタータを持ってきてくれたので食卓についていそいそと口にすると、タルトよりもしっとりとした生地が口の中でほろほろと崩れ、中に入れられた杏のような果実と合わさって甘いのに後味には爽やかな味わいが広がった。

 あぁおいしぃ……と毎度のことながら感無量のリカルド。ちなみに表情は微笑み固定だ。このメンバーで食べていた時に無表情になってしまい、何かあったのかと心配されてから、そこだけは気を抜かないようにしていた。


「リカルドさん」

「ん?」


 至福の時に浸かりながらもナクルの声にはちゃんと反応するリカルド。しっかりした大人という仮面もなんとか死守している。


「僕、頑張る」

「……うん?」


 どうしたんだろうと目を向けるリカルドに、ナクルはフォークを握りしめたまま決意を漲らせた顔をしていた。


「僕、本当は教会に入れられてからずっと何で魔法の練習こんな事しなきゃならないんだろうって思ってたの。ここに来てからも、やりたいとかやらなくちゃって思ってたわけじゃなくて、面白かったからやってただけで……」


 その言葉にリカルドはナクルの境遇を思い無言になった。

 無理矢理教会に入れられた後は大事なものを取られ、食事は抜かれ、人としてまともに相手をされる事もなく無視もよくされた。それなのに聖魔法の結果だけは求められて、出来なければ怒鳴られて――何でこんな事を思う気持ちになって仕方がないし、そうなるのが普通だとリカルドも思う。

 ナクルの口から出た重たい話に、クシュナの手も樹の手も止まった。だが、ナクルは次の瞬間笑っていた。


「だけど、今日クシュナお姉ちゃん見ててわかった」


 真っ直ぐな笑顔を向けられて、え?私?と動揺するさっきまでお花畑娘だったクシュナ。


「僕も守りたいものがあるから、だから頑張る。僕もクシュナお姉ちゃんみたいになる」


 クシュナみたいに大事な人を、この王都にある孤児院のマザーや仲間を守りたい。だから頑張る。

 それはナクルの決意で、それを言ったのは今までが流されるままにただ享受していた姿勢を改めるための宣言だった。


 決意を固めるナクルだが、実はクシュナよりも魔力操作が上手いので魔力量の補強さえ終われば余裕で破邪結界は使用可能だったりする。これで練度を上げると終いには魔力封印まで可能になり、教会内で聖魔法の一番の使い手になるのだが、それを知るのはリカルドのみ。

 下手したらクシュナさんが自信喪失しそうだなとちょっとリカルドは焦った。


「そっか。うん、応援してる」


 とりあえずあたりざわりのない言葉を返すリカルドに、ナクルはうんと大きく頷いて食べ終わった食器を流しに持っていき、「練習してくる」と勝手口から庭へ飛び出していった。


「……私も負けてられないですね」


 まさか自分の行動をそんな風に目標にしてくれるとは思ってなかったクシュナは、口元に隠しきれない嬉しさを滲ませた。最初は怯えられていたのに心を開いてくれたのがどうしようもなく嬉しくて、クシュナも触発されて奮起した。

 ナクルを追いかけるように庭に出て練習を始め、その様子にやっぱり魔力量が潤沢だなぁと感心するリカルド。ナクルの魔力量も少しずつ増やしてはいるが、まだまだクシュナのそれには及ばない。

 

「すごいですね……二人とも」


 並んで練習するあたりが可愛らしいなと、孫を見るお爺ちゃんのような眼差しで見守っていたリカルドだが、二人になったところで樹がそっと呟いた。


「あんなにみんなが怖がる魔物が出たのに、もう笑えるんですから」

「そうだね」


 樹にしてみれば、命のやり取りが日本よりも身近なこの世界の感覚というのは慣れないものだろうとリカルドは頷いた。


「この世界の人はたくましいですね」

「樹くんもたくましいと思うよ」

「そう……ですか?」

「うん。彼女たちにとってここはホームだけど、樹くんにとってはアウェーでしょ? 全然知らない世界に一人連れて来られてもめげずによく頑張ってるよ」


 真面目にリカルドが返すと、樹は気恥しくなって顔を伏せた。


「それに力を得てもそれに驕る事なく冷静なのもすごい。普通なら今日だって、俺には力がある! 今こそその力を発揮するときだ! なんて言って討伐に行きそうじゃない?」

「行かないですよ。ハインツさんにもアイルさんにも勝てないのに」


 役者のように片手を胸に当ててもう片手を天に翳すリカルドに、樹は苦笑して首を横に振った。


「まああの二人、普通に強いからね」


 人の世では。という部分は伏せてリカルドも苦笑すると、樹は気が抜けたように椅子に背を預けた。


「それにそんな度胸無いです。この腕輪だって結局ハインツさんに渡せませんでしたし」


 自分の腕に嵌っている例の腕輪をさする樹に、リカルドは首を傾げた。


「渡すつもりだったの?」

「そうしたら助けになるかなって。でもリカルドさんから借りたものだから勝手は出来ないと思って……いえ、これを外すのが怖かったっていうのが一番だったと思いますけど」


 樹も樹でとんでもない目に遭ってきたのだ。身を守るための腕輪を大事にする気持ちはわかるし別にそれは普通だと思うのだが、そういう事ではなくリカルドはさらに首を傾げた。


「でもそれ樹くん用だから渡してもハインツは嵌められないよ」

「え?」

「あれ? 言ってなかったっけ? それ樹くん用だって」

「………たぶん、初めて聞いたと思います」


 たぶん、ともう一度自信なさげに言う樹にリカルドは頭を掻いた。樹がそう言うなら確実に自分は言ってないだろうという悲しい自信があった。


「あーごめん。それね、樹くん以外が使えないように使用者を限定してるんだ。だから誰かに渡してもただの金属の塊で意味はないんだよ。なんか変に悩ませてごめん」

「あ、いえ……全然」


 樹はもう一度腕輪に視線を落として、不意に吹き出した。


「俺、無駄な事を考えてたんですね」

「いやいやいや、無駄じゃないよ。それは樹くんの優しさだと思うから、無駄じゃないから」


 申し訳なさから慌てて否定するリカルドに、樹はますます笑って首を振った。


「大丈夫です。なんか、意外と俺も大丈夫そうです」

「そ、そう?」


 何が大丈夫なのかちょっと判然としないリカルドだったが、笑いがこぼれてしょうがないという樹に、大丈夫ならいいかな?とリカルドは首を傾げつつ曖昧に笑った。頼りになるようなならないような保護者である。


 それから日が暮れていき、そろそろ中に入ってとリカルドが声を掛けるまで外でずっと練習していた二人。頑張るのはいいけど風邪をひかないでねとリカルドに言われて、二人して恥ずかしそうに顔を見合わせて笑っている様子はすっかり姉弟のようだった。


 そして時は深夜。

 七首鎌竜ニージェズが現れ慌ただしかった王都も深まる闇に人は身を任せて眠る頃、リカルドは占いの館を開けていた。

 結局その日のうちにジョルジュが戻ってくる事はなく、教会からの連絡も何もなかった。ごたついているんだろうとなとリカルドは特に気に留めず、今日は王太子が一番かも?と考えながら接続させた。

 すぐに札からの来客があり、やっぱり王太子かなと思っていると幕の向こうから現れたのは、


「……あなたが、占いの館の主ですか?」


 現れたのは、意外にもダグラス神官だった。

 予想していなかったリカルドは一瞬言葉に詰まったが、すぐに立て直していつもの定形文を口にした。


「ようこそ占いの館へ。今宵はどのようなご相談でしょう」


 神官服のままのダグラスはふらふらとリカルドの前まで進むとその場に膝をついた。


「クレイモンド伯爵の御息女を救ったそのお力をどうかお貸しください」


 膝をつくどころか両手までついて頭を下げるダグラスにリカルドはぎょっとして腰を浮かした。


「お客様、おやめください」


 どこの土下座商法だと机を回って、立ち上がるように手を貸そうとするが、ダグラスは頭を上げなかった。


「無理は承知の上です。ですがもはや猊下に説得していただく他、手が無いのです」

「お客様、まずは椅子にお座りください。このような形では話も出来ません」


 どうぞお座りくださいとリカルドが重ねて言えば、ゆっくりとダグラスは頭を上げて顔をリカルドに向けた。


(うわっ)


 目の下は隈があり頬も削げ目は充血、げっそりとしたやつれ具合を直視したリカルドはびびって思わず時を止めていた。


「……何があったのこの人」


 たった半月でやつれ過ぎじゃ……と調べてみれば、想像よりも教会が大変な事になっていた事がわかった。


 ダグラスは樹の件があってから今日まで教会内の不正について調査を進めていた。通常の神官業務と並行して調査の責任者のような立場で指揮を取り次々に不正の証拠を見つけ神官長と共にその対処に当たっていたのだが、不正の数が多過ぎたのだ。

 その数、騎士の三割、神官に至っては半数もの人間が不正に関わっていたのだ。全てを処分しては教会が回らなくなるのだが、この機会にやらねば次もあると思われると神官長が処分を断行。中央から寄越された神官だろうと貴族出身の騎士だろうと何だろうと役職を解いて教会に居たくば一からやり直せと叩きつけた。随分と苛烈な神官長である。

 その結果、通常業務が膨れ上がりただでさえ忙しいのにさらに忙しくなり、寝る暇もなく薬や魔法で誤魔化す日々。そんな中で起きた今回の七首鎌竜ニーヂェズの事件で、ジョルジュがとんでもない話を持ち帰ってしまったのだ。

 すぐに神官長に話を持って行き、固定式の通信魔道具を緊急使用して本部の知り合いに急ぎ確認してもらったところ、裏が取れた。取れてしまった。で、教会本部も上を下への大騒ぎ。公表するのか隠すのかで意見が真っ二つ。公表すれば教会はグリンモアに対して正式な謝罪と賠償を行わなければならず、そして何よりも民心が離れてしまう。

 主犯格の男は即刻独房に入れられたが、今後教会としてどうするのかその判断を行える者が残念ながら居なかった。本来であれば教会のトップ、神柱ラプタス(教皇などと同意)によって意思決定が為されるのだが、ひと月前からこの神柱ラプタスが即死病によって死にそうになっているのだ。本人はもう寿命が来たのだと周りを諭しているが、慕う者が多すぎて生かされている状態になっている。なので状態を悪化させないため七首鎌竜ニーヂェズの件もグリンモアの騒動も耳に入れないように徹底されており、本人はつつがなく教会の運営がなされていると思っていた。

 そして事件を公表すべきという者には、全ての責任をこの神柱ラプタスに負わせ死んでもらうのがいいと考える者もいた。丁度死にかけなのだから都合がいいではないか、と。

 それを知ったグリンモアの神官長(神柱ラプタスの直弟子)が激怒して、明朝全てをグリンモアに明かす事を決断。教会の内部事情も全て洗いざらいぶちまける事を知ったダグラス神官は、さすがにそんな事をしたら教会が教会としての役割(人を癒し救う)を果たす事も出来なくなると止めた。だが止められず、唯一説得が可能そうな神柱ラプタスに望みをかけるが、相手は死にかけの人。そこで思い出したのが、助からないと思った友人、クレイモンド伯爵の娘だった。

 実はクレイモンド伯爵に相談されて娘を見たときには、大神官ならあるいはと言ったものの、それでも無理かもしれないとも思っていたのだ。それが呪いの残滓を一切感じさせない程の治療を施され、後日渡されたという護符は見た事も無いほど強力なもので酷く驚いた。

 だから、ひょっとしてその人物ならば神柱ラプタスも救えるのではと、望みが薄いとわかっていながらクレイモンド伯爵の館に走り、訳を話す事も出来ないまま無理を言ってこの占いの館を教えてもらって来ていた。


「うわぁ……」


 不憫。の一言に尽きた。


 ダグラス神官自体は何も悪い事はしていないし、教会を正常化しようとこの上なく努力しているのに、事態が悪い方へと転がり落ちていき止められず、それでもどうにかしようと頑張っているのには、さすがにリカルドも同情した。

 封印廟の事を知らせるのは不味ったかなと思うリカルドだが、それも遅いか早いかの違いでいずれ明るみに出れば、結局は似たような状況になるだろうなとも想像出来た。


「だけど教会が無くなるのは困るよなぁ……」


 グリンモアの守りもだが、南で魔族領と接している国も教会の力は必要としている。それに何のためににナクルやクシュナをここまで指導して来たのかという話にもなるし、ナクルにとってもクシュナにとっても第二の家になる場所がそんな事になっては困るどころの騒ぎではない。


 ふむとリカルドは考えて、その神官長について調べた。

 仮に神柱ラプタスを助けたとして、果たして本当に止まるのか。まずはそこからだ。事態がわりと深刻なのでリカルドも真剣だった。


「すごいなこの人……本当に神柱ラプタス以外で止まらないのか……」


 ダグラスの勘は当たっていた。さすが神官長の下で長年働いて来ただけはあった。

 となると神柱ラプタスを治す方向になるのだが、即死病と聞くと思い出す人物がいた。


「どうしてるかな……」


 闇魔法のイメージ改善のため、努力をしているであろうザックの顔を頭に浮かべるリカルド。ぐいぐい来るタイプだったから指導する気は全くないのだが、もし魔力操作が向上して体内での消滅魔法が使用可能なレベルになっていたらまたとないアピールの機会だろう。試しに調べてみるが、やはりこの短期間でそこまで魔力操作は上がっていなかった。全く上がっていないわけではないのだが、人に消滅魔法を使えるほどの域には達していない。


「あの人でないにしても、他にできそうな人ってのはやっぱいないのかな」


 なんとなくそんな事を思って調べたリカルドは、え?となった。

 可能な人物にルゼがいたのだ。

 自分の調べ方が何か間違っていただろうかと何度か調べ直すがやはりルゼの魔力操作が格段に上達していた。

 なんで?とさらに調べると、どうやらリカルドの家でナクルがやっていた事を真似していたらしく、その影響で変化した事がわかった。敷地内でふらふらしているのは知っていたが、まさかそんな事をしているとは夢にも思わず、ちょっと笑ってしまうリカルド。


「抜け目ないのはザックの弟子っぽいなぁ」


 初見で砂時計の砂に干渉しようとしたザックだ。抜け目のなさは師匠譲りかなと苦笑する。


「ザックならまだこっちとの面識があるからいけそうな気がしたんだけど……まぁいいや。

 神柱ラプタスには治ってもらうとして……あとはそれでどうにかなるのか?」


 明朝の問題は回避出来たとしても、その後の展開が悪ければそれもどうにかしなければ意味がない。再び条件をつけて調べてを繰り返し、その結果かなり教会は大変だが件の神柱さえ健在であれば、どうにか乗り切れそうだということがわかった。

 それなら大丈夫そうだなとほっとしたものの、ふと、これって俺の仕事じゃなくてあの酒飲み女神の管轄じゃ?となるリカルド。

 何やってんだろと思い軽く調べてパーンとなって、そういやあの女神調べる時は注意しないとこうなるんだったと思い出すリカルド。ついでに女神に制限が多い事も思い出して、仕方ないかとため息をつき時を戻した。


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