第31話 後始末の後の訪問者
〝そこを咄嗟に私が捕まえたんですよ!〟
ソファで暫くぼんやりした後、毎朝の習慣になっている水やりをしながらリカルドはウリドールの話を聞き流していた。
昨夜樹が教会からいきなり家の庭にいた事に驚き、ウリドールの姿にも驚いてなかなか話が伝わらなかった事や、伝わっても教会に戻ろうとする樹をシルキーと一緒に止めたという話を繰り返しているのだ。要は誉めて、という事である。
「ああ助かった。感謝してる」
最初こそ普通に礼を言っていたリカルドだが、同じことを繰り返されるので既に棒読みで返している。それでもウリドールは嬉しそうにくねくねしていた。
水やりを終えてシルキーのお使いに出かけるといつもと変わらない賑やかな朝市の様子に、やっぱり平穏が一番だよなぁと思いながらお決まりのコースを歩いていくリカルド。
昨夜の教会の異変についての話は多少あったが、不届き者が捕まえられたという程度でそこまで騒がれてはいなかった。
これはリカルドが建物やら抉れた地面やらを修復し騎士達の傷も全部治したからで、目に着く痕跡が何も無かったからだ。もしそれが残っていれば、惨状が人目についてもっと大騒ぎになっていた。
顔見知りと世間話をしながら必要なものを買って帰ったリカルドは、家の前に佇む二人分の人影に足を止めた。
敷地のぎりぎり外に立つ人影に、結界も張ってないのに何故そんなところに留まるのかと疑問に思ったリカルドだが、正面入り口にもシルキーの力を感じて察した。
元々シルキーはリカルドが住むようになってから正面以外に結界のようなものを作り侵入者を阻んでいたのだが、リカルドが不在中の今、昨日の事件もあって警戒して正面からも敷地内に入らせないように阻んでいたのだ。
ただ、結界と言ってもシルキー自体が強い精ではないため、樹を追っていた初級から中級レベルの魔導士の実力ならともかく、そこに留まっている人物程の力量があれば容易に破られる程度ではあった。訪問者は結界の存在に気づき、敢えてそうはせずそこで家人が現れるのを待っていたため、そこでの遭遇となったのだ。
「こちらの家主のリカルド殿でしょうか」
二人ともその辺の町人風の服を着ているが、柳のような髪色とそれを濃くしたような色の優し気な目の男にリカルドは見覚えがあった。
「どちら様でしょう」
リカルドが首を傾げて見せると、男は丁寧に頭を下げた。
「ダグラスと申します。このような姿ですが、教会に所属する神官の一人です。こちらは聖女見習いのクシュナ。昨日は大変なご迷惑をお掛けしたため改めて謝罪に参りました」
横で固い表情をしている少女は間違いなくクシュナで、目は赤く充血していて腫れぼったい。ダグラスの方も少し疲労が残る顔で、明らかに完徹と思われる二人が深く頭を下げる姿にリカルドは咄嗟に周りを確認した。
「いえ、誤解が解けているのであれば構いません。どうぞ頭を上げてください」
「寛大な御心に感謝いたします。つきましては少しお話をさせていただきたいのですが、お許し願えないでしょうか」
「わかりました。どうぞ」
リカルドは水を汲みに出てきていた近所の奥様方が興味津々そうな顔をしているのを見て、ここで話すべきじゃないと急いで家の敷地へと足を踏み入れたのだが、その瞬間腹に金色の輝きが飛び込んで来た。
〝お帰り神様ー!〟
即座にリカルドが時を止めたのは言うまでもない。
「……ウリドール」
低い声を出したリカルドに、ウリドールは〝ん?〟と首を傾げてリカルドを見上げ、それから後ろにいる二人の人物に気づいて〝あ〟と声を漏らした。
〝でも見て! ほら敷地に入ってない! だからセーフ!〟
二人の足が敷地の外にある事を指さして主張するウリドールだが、セーフなわけがない。リカルドはウリドール(分体)の頭を両手で鷲掴みにしようとしてすり抜けたので、両手に魔力を纏わせ精神体に干渉できる術式を構築(何気に難しい)してから鷲掴みにし、ギリギリと締め上げた。
「おーまーえーはー!!!」
〝わわわ! い、痛いような美味しいような!?〟
「そんなとこから魔力を吸収するな! だいたいさっき食っただろ!」
〝成長期なんだもん!〟
「もん言うな! さっさと本体の中に戻ってろ!」
〝はいー!〟
リカルドがぶん投げると、そのままスッと消えて本体に帰るウリドール。
リカルドは額に手を当てて、助けて
泣く泣く次善策で行くことにしたリカルド。
先ほどと同じ態勢で時を戻し、そのまま何事もなくスタスタとドアの前まで行って開き二人を振り返る。
「どうかされましたか?」
しらばっくれるという古典的な方法しか残されてなかったリカルドに、ダグラスは瞬きをしてから周囲に視線を向け、首を振った。
「いえ、何でもありません。ありがとうございます」
「あの、ダグラス様? 今何か金色のものが」
「クシュナ。行きましょう」
「は、はい」
大人の対応をするダグラスに、気のせいだったのかなと目を擦るクシュナ。そして内心汗ダラダラのリカルド。
居間のソファを進めて台所にいるシルキーに買い物を預け、用意してもらったお茶を持って居間に戻った。
「奥様ですか?」
「ええ。人前にはあまり出られませんが」
「昨日は居られなかったようですね」
「偶々療養先に出ていたのです」
「リカルド殿も?」
「ええ。付き添いで」
「そうでしたか」と、ダグラス神官は返すと静かにお茶を口に運んだ。
その横に座っていたクシュナはソワソワした様子でダグラスの様子を窺っていたが、我慢しきれない様子で口を開いた。
「あの、イツキくんは大丈夫ですか? 怪我はしていませんか?」
「大丈夫ですよ。今は疲れて眠っていますが、どこにも怪我はしていません」
「良かった……」
リカルドの答えに心の底から安堵した顔で胸に手を当て涙ぐむクシュナに、この子自体は悪い子じゃないんだよなと思うリカルド。
「イツキさんはリカルド殿のお子様ですか?」
「いいえ。預かっている子です」
「なるほど……」
含みのある反応に、そういえばこの二人なんの話があるんだろうかと漸くそこに思考が至ったリカルド。ウリドールを見られたからといって焦り過ぎである。
何か面倒な事を言われるのかと警戒して確認したリカルドだったが、訪問理由がクレイモンド伯爵からの依頼だった事がわかり首を捻った。
(何であの人が?)
意味がわからず理由を調べれば、クレイモンド伯爵には昨夜の段階で樹の本来の保護者が姿を一度も見せず全てリカルド(グリンモア版)が対応していた事を不信に思われていた。そして樹をリカルド(グリンモア版)の子供だと勘違いし、一度も姿を見せなかった人間の元に預けていては危険なのではないかという心配から、ダグラス神官に預け先の家主、リカルド(日本版)の様子を確認してもらうという行為に出ていたのだ。
(伯爵いい人だけど……いい人だけど……)
ぬぅぅと額に親指を突き立てて言葉が出ずに唸るリカルド。
(……でも、そういう事なら普通に対応しても問題ないか)
保護者として適当なのか確認されているのだとすれば、それで問題ないだろうとリカルドは時を戻してお茶を飲んだ。
「リカルド殿は冒険者をされていると伺ったのですが」
「ランクが低いのによくご存知で」
「貴族街の死霊屋敷の話は有名でしたから。クシュナに聖魔法を指導したと聞いてもしやと思い確認したのです」
「失礼ですがリカルド殿の出身はどちらですか?」
「南の方です。今はもう国はありません」
魔族領と人間領の境にある緩衝地帯は元は国があったところもあるのでそう誤魔化せば、ダグラスは少し表情を固くした。
「もしやフルール王国ですか?」
「さあ。もう忘れてしまったので」
辛い過去は聞いてくれるなという空気を出してリカルドが言えば、ダグラスはその空気を受け取ったのかそこで話を変えた。
「昨夜こちらに姿を見せておられた緑の髪の方はご家族ですか?」
「家族……といえば、まぁ家族ですかね」
「髪色が違うのはご両親が違うからでしょうか」
「いえ、そういうわけではありませんよ」
「血の繋がりはないと」
「………」
何か変だな。と思うリカルド。
子供を預かる大人としての素行調査の質問ではない気がした。
もう一度時を止めて詳しく調べてみれば、確かに伯爵の依頼がきっかけで動いてはいたが、彼自身もある推測を持ってリカルドを調べようとしていた事がわかった。
「フルール王国の王族関係者?」
現在は緩衝地帯を挟んで魔族領と睨み合っているのはヒルデリア王国だが、十数年前はその間にもう一つフルール王国という国があった。
その国は大昔に呼び出された初代勇者の子孫が興した国で、聖魔法の使い手を多く輩出する対魔族に特化した能力者が多い国だった。
だが王級の魔族達による遊びによって落とされ、現在はその民は半数ほどがヒルデリアに逃げ、他は各地に散っている状態だった。教会にもその能力から籍を置く者が複数おり、彼らは同胞を見つけたら保護という名の素質のありそうな能力者を確保しようとしているのだった。
ダグラス神官は単純に彼らが謳う保護の名目に共感した協力者で、両リカルド(日本版、グリンモア版)の聖魔法使いとしての素養の高さと、リカルド(日本版)の黒い髪色、そして先ほど見えた
しかもリカルドが妻と言って見せない女性は、リカルドが守護している王族の生き残りではないかとまで考えていた。
過去に呼び出された初代勇者も実は日本人なので、故郷は同じという点で、ある意味掠ってはいるが残念ながら正解は
また面倒な誤解をと両手で顔を覆って背もたれに倒れるリカルド。
ここで質疑応答を繰り返してもダグラス神官の推測が覆る事はなく、教会内、それも上層部でリカルドの事が共有されるのは時間の問題だった。
教会なんてリカルドからすればアンチの聖地。そんな地雷原に引き込まれる事だけは避けたかった。
しばらくそのままの姿勢でリカルドは唸っていたが、やおら姿勢を戻し時を戻した。
「シルキー、悪いんだけどこちらに来てくれる?」
いきなりリカルドが奥の台所に向かって声をかけたため、ダグラスとクシュナの視線はそちらに向いた。
そして現れた儚げな西洋人形のような姿のシルキーに、二人とも目を見張った。
「お二人なら姿が見えると思いますが、この家の精であるシルキーです。
私はフルール王国の人間ではありませんよ」
フルール王国の者でもないし、人間でもない。後者はリカルドしかわからない事だが、リカルドの一番言いたいことはダグラスに伝わった。
「……しかし、先ほどのあれは高位精霊では。それを使役しているのは」
「あれは気まぐれでいるだけです。使役しているわけではありません」
ついでに言うと精霊でもないけどな。と心の中で呟くリカルド。世界樹(の分体)だと言えば余計にややこしい事になるので口にはしなかった。
「勘違いされているようなのでハッキリ言いますが、私が聖魔法を使えるのは血筋的なものではありません。ただの努力です」
努力というか、盛大な犠牲による報酬というか。
この手の話になると管理者の事を思い出すので若干憂鬱になるリカルド。後ろにいたシルキーに礼を言って台所に戻ってもらい、ダグラスに向き直る。
「教会内に元フルール王国の民がいるのは存じております。彼らが同じ民の保護を率先して行っている事も。
しかしながら私は違いますし、ご覧の通りどなたの保護も必要としておりません」
しばらくダグラスはリカルドの表情を見ていたが、その表情が僅かでも変化することはなかった。
微笑み固定なのでそれも当然なのだが、人の表情を読む事に長けたダグラスにしてみれば、全く表情が揺るがずその感情が読めない相手というのは教会本部の大神官や王族辺りと一癖も二癖もある相手ぐらいだった。それと同等の胆力を持つのかと思い、確かに自分の助けなど必要なさそうだと判断した。
「……申し訳ありません。私の早とちりだったようです」
目を閉じて深く頭を下げるダグラスに、引いてもらえたかとほっとするリカルド。確認してわかってはいてもダグラスの深くまで見透すような視線に緊張していた。
「……奥さんじゃなかったんですね」
言葉の合間を縫うようにぽつりとこぼれた声が、静かな居間に殊の外大きく広がりハッとしてクシュナが口を覆った。
「あ、すみません」
ぺこりと頭を下げるクシュナに、リカルドは首を振って話を戻した。
「他にお話はありますか?」
「いえ。あ、いえ、出来ればイツキさんと一度お話がしたかったのですが」
何もないと答えかけてダグラスは思い出したようにイツキとの面会を求めた。
そっちはたぶん伯爵の依頼絡みだろうなと思いリカルドは少し考えた。
「昨日の今日ですから出来れば日を改めていただけないでしょうか」
「………そうですね。性急でした。また日を改めて参ります」
「ありがとうございます。出来れば使者を出される場合も今日のお二人のように目立たないようしていただけると助かります」
ダグラスは心得ていると言うように頷いて、消化不良の顔をしたクシュナを連れて帰路についた。
「はー……終わった」
話が分かる人でまだ良かったなとソファに倒れてクッションを抱え込むリカルド。
綺麗な雲雀が刺繍されたそれはもちろんシルキーが作ったもので、微かに花のいい香りがするのは中に小さなポプリの袋が入っているからだ。
いい匂いだなーとくんくん嗅いでいると、バタバタと走って来る音が聞こえて弾けるように開いたドアから、樹が焦ったようにリカルドに駆け寄った。
「リカルドさん!」
「おはよー。大丈夫だよ。全部終わったから。樹くんは無罪放免。冤罪だってのはわかってもらえたし、向こう側の男は捕まったから」
「え……え? え?」
「だからもう心配要らないよ」
樹はしばし口を開けたまま固まり、リカルドの言葉をゆっくり飲み込むと、へなへなとその場に崩れた。
「もう少ししたらシルキーがごはん作ってくれるから」
「は……はい」
リカルドはソファから立ち上がると樹を引っ張り起こしてソファに座らせた。
「それにしてもよく逃げずに耐えたね」
樹の腕に嵌めてある腕輪を見ながらリカルドが言えば、樹はそれに手を置いて俯いた。
「逃げたらあっちの言い分が正しいと認めてしまう気がして……そうしたら、リカルドさんに迷惑が掛かると思って……」
手を握りしめる樹に、だから逃げなかったのか……と、リカルドは項垂れたその頭に手を伸ばし、一瞬ためらってからポンと頭に手を置いた。
「心配してくれてありがとう。
でもね、今度同じような事があれば逃げて欲しい。例え誰が樹くんに敵対したとしても俺は平気だから、まずは樹くんの身の安全を一番に考えて」
「……なんで、リカルドさんはそんなに優しいんですか」
鼻声になってぐっと唇を噛む樹に、リカルドは今度は苦笑を浮かべて笑った。
「そんなに優しいとは思わないけどね。樹くんを甘やかしてるつもりもないし、訓練は大変だろう?」
「それは俺に必要な事だから」
「まぁまぁ気にしなさんな。君はまだ子供だ。大人の庇護下にあって然るべきなんだ」
頭を撫でてぽんぽんと肩を叩き、鼻をぐずぐずさせているが会話が出来る樹を見て精神的ダメージは然程無さそうでよかったとほっとするリカルド。
「そうだ。樹くんが平気なら、今日先生になってくれる人が来てくれるんだけど、どう? 会えそう?」
明るく言って話を変えるリカルドに、樹は顔を上げて首を傾げた。
「先生って、前に言ってたサバイバルのですか?」
「そ、サバイバルとか、戦闘とか、俺が教えられない類の先生。昨日話をして受けてもらえる事になったんだ」
「大丈夫です。会います」
キリッとした顔で受ける樹。
「わかった。午後に来る予定だからそのつもりでいて」
「はい」
〝リカルド様、イツキさん、ご飯が出来ましたよ〟
「ありがとシルキー。じゃ樹くんはご飯食べてて、俺はちょっと庭に出てくるから」
ダイニングへと樹を送り、リカルドが向かった先は
「ウリドール。めし抜き三日」
〝えええええええ!?〟
大きく、すでに両手では抱えられないほど大きくなった世界樹の前に仁王立ちして宣言したリカルドに、たまらず飛び出てくるウリドール。
〝そんなぁ! 大丈夫だったじゃないですか!〟
「今後も大丈夫だとは限らない」
微笑み固定(無意識に威圧)で返すリカルドに、うぐっとウリドールは涙ぐむ。
樹くんの場合は心が痛むがこいつの場合全く痛まんなと観察しながら、リカルドはいじけたようにしゃがみ込むウリドールに自分もしゃがんで視線を合わせた。
「お前がここに居るって言うからだぞ? 今からでも
〝そこにいってもごはんおいしくないじゃないですか……〟
「そんなのわからないだろ? 耳長なら魔力持ちも多いだろうし気にいる相手だっているかもしれない」
〝でも神様ほど美味しいごはんじゃないですよぅ……〟
「そんなの行ってみないとわからないだろ」
〝……味見したからわかります〟
「……味見?」
〝聖樹にちょっとお願いして感覚共有して確かめたら薄くてもの足りませんでした!〟
下唇を突き出して堂々とぶーたれるウリドール。
(お前そんな事やってたのか……)
天然なのかと思えばしっかりしてるじゃないかと頭を掻くリカルド。
〝そんなので神様の一日分のごはん貰おうと思ったら十日もかかるんですよ!? そんなの餓死しちゃいます!〟
そんなの呼ばわりされたのは
「いや休眠はあっても餓死は無いだろ」
〝気分の問題ですよ! 神様だってシルキー様のご飯楽しみにしてるくせに! シルキー様のご飯三日無しって言われたらどうです!?〟
精神安定の支柱であるシルキーのご飯を引き合いに出され思わずたじろぐリカルド。
「うっ……いやまぁ……」
〝美味しいご飯が食べたいってダメなんですか!?〟
「………ダメじゃ無い、です」
誕生間もない天然気味の世界樹に言い負ける歴戦格の
結局ご飯抜きの刑は三日から一日に短縮し(それでもウリドールはごねたが、リカルドも一日ならシルキーのご飯耐えられるからと謎の理論を出して押し切った。話の論点がずれている事に両者気づいていないが)、リカルドは戻って食卓についた。
今朝の献立はハッシュドポテトっぽい上に目玉焼きがのっかったものと、豆のサラダにベーグル、昨日の残りのコンソメスープにソーセージが追加されたスープだ。
「リカルドさん、先生ってどんな人ですか?」
「冒険者だよ。歳は二十九。赤い髪のちょっとチャラい感じの見た目」
「ちゃらい……」
「あ、見た目はそうだけど中身は意外と真面目っぽいから大丈夫。変な人ではないから」
「そこはあんまり心配してないですけど……」
「気になるのはどんなとこ?」
「俺、まだここの事がよくわかってないから何か変に思われるかもしれないと思って」
異世界人だと見抜かれる事はないとは思っているが、それで何か問題が起きないだろうかと思っている樹に、リカルドは問題ないと手を振った。
「ハインツには――ハインツって言うんだけど、その人には樹くんが
「え」
ぽろっと豆のサラダを皿の上に落とす樹に、リカルドはあぁまだ他人に勇者だと知られるのは怖いかと頭を掻いた。
「樹くんの能力ってかなり高いんだ。その歳と見た目だと侮られる可能性があって下手すれば相手が怪我するから事前に伝えておいたんだよ。前もって話していいか確認取らなくてごめんな」
「あ……いえ、大丈夫です」
「樹くんが勇者だって知っているのはハインツと、ハインツのパーティーメンバーのラドバウトって二人だけだから」
樹は少し考え込むように視線を落としたが、すぐにその視線を上げて首肯した。
「わかりました。リカルドさんが信用している人なら大丈夫です」
そう言って信じ切っている目を向ける樹に、責任重大だなぁと思うリカルド。だけどそれが嫌ではなかった。
仕事では大きな責任を負わされると胃が痛む思いをしていたリカルドだが、今はむしろちょっとくすぐったいような気もしていた。
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