第4話 一旦閉店。そして同居人に挨拶と再オープン

 リカルドの占いの館は、それから盛況した。

 どうやらエマとブラネストはうまくやったらしく、エマから話を聞いたという女性がやってくるようになったのだ。

 リカルドも内心嬉しくにこにこだったが、表情筋は微笑みの形で固定しているので穏やかに接客をこなしている。


 相談内容はやはり恋愛がらみが多く、告白して大丈夫かとか、長く付き合っているが相手から結婚の話が出ないなど、その手のものが多かった。

 どの女性も真剣に悩んでいるのでリカルドも真剣に調べ、中には女性をもてあそんでいるような男もいたので、その場合は他の良縁が無いかなんとか調べてそちらに誘導した。遊ばれてますよと事実を言ってもただ否定されただけと受け取る女性は多いので、今の方とは縁が薄く本当の縁である運命の方が貴女をお待ちですよ、と言ったのだ。大体の女性はそれでそちらに惹かれていった。


 そうこうしているうちに段々と占いの館は口づてに広がり、女性から男性へと客層も広がった。

 悩みの内容も恋愛がらみから、仕事、人間関係、金運へと広がり、リカルドも冷やかし以外は真剣に相手をしていた。


 そうしていつの間にか百発百中、彼に聞けば答えられぬものはないという噂まで広がってえらい事になった。

 具体的にいうと、テントの外に長い列が出来た。

 残念ながらリカルドは一人。外に出て客の交通整理をするには手が足りない。

 誰かを雇うという発想も無くはなかったが、そうすると雇用契約を結ばないといけなくなるわけで、ちょっと煩わしい。


 悩んだ結果、リカルドは一度店をたたむ事にした。

 馴染みの客だけに終わり際、内緒の札を渡し、もしまたここへ来たい時には夜にそれが光っている時、握って願うように伝えた。

 客は不思議がっていたが、騒がしくなってきたのでここでの商売は一旦閉める事を話せば納得したように頷いた。それから札の事は秘密にと願えば、みな快く応じてくれたのだった。


 札を三十枚程配ったところでリカルドは店を完全に閉めた。

 場所代をぼったくられるようになってきていたのもあるし、ちらほらと商業ギルドの人間や、国の調査かと思われるような役人風の人間も混じり始めていたので潮時でもあったなと思っていた。


 期間にすれば三ヶ月程度であったが、そこそこ稼ぐ事は出来た。

 そこでリカルドはこれまで山中泊していたのを、街中に居を移す事にした。

 ここ三ヶ月、それこそ飲まず食わずで働いていたので(全然平気なのだが)、いい加減屋台に出ているいい感じに焼けた肉とか、見たこともない派手な色のスープだとか、何でもいいから口にしてみたかった。そして何よりいくら平気とはいえ文化的な生活を送りたいという欲求があった。


 リカルドは姿形を日本製リカルドに戻して商業ギルドに向かった。賃貸契約は商業ギルドの管轄になるので、まず住を整えようとやってきたのだ。


 そうして窓口で住居の賃貸契約の話をしたところ担当の職員に連れられて、別の窓口でどういうところがいいのか希望を聞かれ、リカルドは大家があまり干渉しないところを希望した。

 普通は部屋の広さや設備を気にするものなのだが、そこはリッチ。そんな事よりも問題は突撃お宅の晩御飯みたいな事をしてくる輩がいないかどうかの方が問題だった。


 担当の男性職員は一瞬怪訝そうな顔をしたものの、冒険者ギルドに登録している者などは詮索を嫌う事があるのでリカルドもそうなのだろうと理解した。身分証明として冒険者ギルドのドッグタグを先に確認していたので、そこからの連想だった。


 貸し出す部屋の維持さえきちんと出来れば干渉しない大家というのはそれなりに居るので、その中からさらに希望があればと尋ねる男性職員。

 リカルドは少し考えてから食堂や屋台を出している通りに近いところを希望した。

 その答えにあぁ冒険者らしいなと男性職員も頷き、該当する物件の資料を出した。


 リカルドは五つある資料の中で、最も賃料が安いものに目を止めた。

 他と比べてなんと驚きの四分の一の値段だ。しかも一軒家。築年数はそれなりだったが、設備は他の候補の共同住宅アパートと変わらないし、部屋数は勝っている。疑問に思っていると、男性職員が少し訳アリでと語った。

 曰く、その家を借りた住人は夜な夜な変な声を聞くというのだ。そして朝起きると作った覚えのない料理があったり、衣類が別のところへと動いていたりするらしい。


 文句なしの心霊物件だった。


 一瞬固まり、無理。とリカルドは即座に切り捨てようとして、いや待てよと思った。

 現在己はリッチである。不死者の中でも高位不死者である。さらに言うなら、己のスキルの中に同族系統を支配下に置くようなスキルも存在していたような気がする。


 リカルドは時を止めた。そして、虚空検索アカシックレコードで調べると、その家に住み着いているのは霊ではなく精の類だった。

 種族名、シルキー。家付き妖精だ。どうも住み着いているシルキーは主となる者を待ちわびているらしく、主になりそうなものが来るとせっせとお世話をしているらしい。結果として怖がられて逃げられているのだが。


 不死者と妖精の組み合わせでは嫌がられそうだとリカルドは思ったのだが、虚空検索アカシックレコードで念のため調べて見ると、思いのほか問題無い事がわかった。主となってくれるのなら、もはやなんでもいいらしい。


 それならば、まぁいいかな。と思うリカルド。

 人には見えないシルキーなので、リカルドがリッチだと気づいたとしても人に言う事もない。

 契約金が安いのも後押しとなって、その家を借りる手続きをした。職員の男性は曰くつきであることを念押ししてきたが、止める事はしなかった。不良物件がお金になるなら商業ギルドとしては揉めない限りウェルカムだからだ。


 特に部屋の内装を見ずに決めたリカルドだったが、広さだとか設備だとかは実は空間魔法やその他魔法でどうにでもなるので、とにかく箱物さえあれば良かった。

 そういう意味では非常にお買い得な部屋だったわけで、鍵と周辺地図を受け取りさっそく借り受けた家へと向かった。


 途中、屋台で気になっていた肉やスープ、果物を買い込んで家へと辿り着く。

 問題の家は、メイン通りから二本横道の住宅街にあった。住宅街と言っても家と家の間はそれなりに幅があり、狭いながらも庭がある。赤い屋根のレンガで出来た家はちょっと可愛らしくもあったが都会の狭小アパートに住んでいたリカルドからすれば立派な家に見えた。

 渡された鍵をドアノブの下に差し込み回すとガチャリと重たい音が鳴り、ドアが一人でに開いた。


 心霊現象に思わず後ずさりそうになるリカルドだったが、ここにはシルキーが居るんだったと気を取り直して開いたドアの向こうに目をやった。

 ドアの向こうには案の定というか、金髪の色白な少女が立っていた。少し古びた感じのヴィクトリア朝のフリルで飾られたシャツ風ドレスを着ており、頭には白いレース編みの飾りをしていた。


 とりあえずリカルドは中に入ってドアを閉め、念のため防音魔法を部屋にかけた。


「どうも初めまして。君はシルキーでいいのかな?」


〝あ……私の事が見えるのですか……?〟


 薄い青い瞳を大きく開いて驚く少女に、リカルドは頷いて家の中へと足を進めた。


「今日からここを借りる事になったリカルドっていう。よろしく」


〝よ、よろしく……お願いします?〟


 ごく自然に挨拶をするリカルドに戸惑うシルキー。


「しばらくはここに住み続けるつもりだから、先に話をしておこうか」


 玄関からその奥、居間へと移動してそこあったテーブルに外で買ってきた食事を置いて椅子に座り、シルキーにも椅子を勧めるリカルド。

 シルキーの方は戸惑いっぱなしで、言われるままに椅子に座った。


〝あの、私は出ていかなければならないのでしょうか……〟


「出ていきたいならそれでもいいし、俺としてはこのまま居てもらってもいいよ。どっちでもいい」


 ごく自然な態度でリカルドは返しているが、見た目は華奢な西洋人形のようなシルキーにドギマギしたりしている。

 伊達に年齢=彼女居ない歴の男ではないのだ。

 例え化生のものとわかっていても二次元から飛び出してきたような美少女のシルキーに緊張するなと言う方が無理だった。表情筋が穏やかな微笑みで固定されているだけで内心は大変荒ぶっている。


〝……居てもいいのですか?〟


「うん。特に悪さをするってわけではなさそうだったから。気が向いたら料理とかしてくれると嬉しいな。必要なものは買ってくるから」


 母親以外の手料理など食べた事のないリカルド。さらっと己の欲望を混ぜて話す。

 料理と言われたシルキーは青い目をぱちくりとさせた。


〝料理、してもいいのですか?〟


「俺は出来ないから、やってくれると嬉しいな」


〝じゃあ部屋の掃除や洗濯も〟


「洗濯は必要ないかな……あ、でもカーテンとか布ものは汚れちゃうか。結構大変だと思うけどいいの?」


 自分の衣服関係で洗濯は必要ないが、部屋を整えるためのカーテンやベッドにかけるシーツなどは何もしなくとも埃などで汚れていくだろう。そう思って逆にリカルドが聞くと、シルキーはちょっと自慢気に頷いた。


〝得意ですから〟


「それならありがたい。せっかくだからこれ、一緒に食べる?

 適当に外で買ってきたやつだけど」


 シルキーはほほ笑んで首を横に振った。


〝家の事を任せてもらえるなら、何も要らないんです〟


 シルキーってそういうものなのかとリカルドは頷き、タレをつけて焼いてある肉を口に入れた。が、何の味もしなかった。

 何故?と思って気づくリカルド。味覚を再現していなかった。

 一口食べて固まったリカルドに、どうしたのだろうかと小首を傾げるシルキー。


「あぁ……気にしないで。ちょっとびっくりしただけだから」


〝苦手な料理ですか?〟


「いや、そういうわけじゃないんだけど……ちょっと待って」


 と言いながら時を止めるリカルド。

 そして虚空検索アカシックレコードで味覚の再現方法についてじっくりしっかり確認して、自分の身体を作り直した。

 そして時を戻し、再度肉を口へ。今度はきちんと味がした。ピリリとしたスパイスのくせになりそうな味付けだった。


〝……? 今、何かしました?〟


 シルキーが訝しむように首を少し傾げ、リカルドの動きが止まった。


「何かって?」


〝……気のせい? 何か揺らいだ気がしたけれど……ごめんなさい。気のせいです〟


 申し訳なさそうに謝るシルキーに、リカルドは早々に隠すのを止める事にした。そもそも虚空検索アカシックレコードで、シルキーは家主になってくれるのなら誰でもいいと思っているとわかっているのだ。


「あのさ。先に話しておくべきだったんだけど、俺ってリッチなの」


 シルキーは言われている意味がわからなかったのか、首を傾げた。


「びっくりしないでね?」


 と言って、仮初の肉体を消すリカルド。

 突然現れた骸骨に、シルキーは大きく目を見開いて、びっくりと言う顔で口に手を当てた。


〝まぁ……不死者の方でしたか〟


「あまりびっくりしないんだ?」


 びっくりしないでね。と言ったものの、本当に大した反応を見せないシルキーにちょっと肩透かしを食らうリカルド。


〝私もある意味、似たようなものですから。妖精の括りにされていますけど、結局は家付きの霊のようなものですし〟


 すぐに仮初の肉体を纏い、何事も無かったかのように食事を再開するリカルド。

 ちょびっと腕の骨が視界に入って鳥肌が立つ思いだった。


死霊魔導士リッチの方が人の家を借りるというのは珍しいのではないですか?〟


 珍しいというか、まず無い。基本的にリッチは人間の魔導士が不死を求めていきつく形のものなので、大抵は人里離れた研究所のようなものを持っており、そこを拠点とするのが大半だ。

 野生のリッチと言ったらいいのか、リカルドのようにいきなり何もないところから生まれるリッチというのはかなり稀なケースだ。


 おっとりと尋ねるシルキーは種族的にのんびり屋なのか、このシルキーがのんびり屋なのかどちらだろうかと考え、どっちでもいいかと思うリカルド。


「どうなんだろう? 俺、ちょっと特殊な経緯でリッチになったから」


〝そうなのですか?〟


「うん。まぁいろいろあって。

 それで、さっき調べものしようと時を止めたのね。たぶんシルキーが違和感を覚えたのは時を止めたからじゃないかと思うんだ」


〝時を? すごい力をお持ちなのですね〟


「いやいやそれほどでも。

 俺、占いの仕事してるから、部屋の一つを空間魔法で占い部屋にして時をちょくちょく止めると思うんだよ。だから、気にしないでもらえるとありがたいな」


〝空間魔法まで……ええ。はい、私は問題ありません〟


 良かったと返しつつ、リカルドは後で時魔法について感知される可能性があるのか確認しておかないと危ないなと脳内にメモした。いつもならすぐに虚空検索アカシックレコードで調べるのだが、一旦時を止めないと下手したらパーンを見せる事になるので自重した。


 それから部屋の内装を整えるべく必要なものをシルキーに聞きながらメモを取り、さらに仕事部屋となる占いの館を、地下の物置の中に作って追加で必要なものはないか確認してから外へと出た。


 昼時を少しまわった時刻なので、まだまだ人通りは激しい。

 商業ギルドでもらった地図を頼りに、雑貨屋で新しいシーツや布地を買って、さらに鍋やフライパンなどの調理器具一式も揃える。あとはシルキーの希望で裁縫道具に食料品と次々買っていって、日が暮れた頃にようやく家へと戻った。

 戻ると、何故か不安そうなシルキーが出迎えて、ほっとしたように〝おかえりなさい〟と言った。


「どうしたんだ?」


 さすがに様子が変だったのでリカルドが聞けば、シルキーは言い辛そうに目を逸らしながら答えた。


〝ちゃんと帰って来てくださるか……少し、心配でした〟


 それは、今まで多くの家主が怖がって出て行ったからだろうかと想像するリカルド。

 ついでにその恥じらう様子にちょっと心臓(無いが)を射抜かれていた。もう、人間じゃなくてもいいかも。と、霊障全般が駄目なリカルドにしては大変革新的な事を思っていた。


「借りたばっかりで出ていくわけないよ。ほら、これ」


〝あ、ありがとうございます〟


 シルキーが希望していた布や調理器具、食料品をテーブルに出していくと嬉しそうに微笑んで、さっそく仕舞っていく。

 リカルドは家事系は全くの戦力外なので、邪魔をしないように椅子に座って眺めていた。


「そうだ。シルキー、ちょっと時を止めたりしてるけど気にしないでね」


〝はい。大丈夫ですよ〟


 一声かけてから時を止めて虚空検索アカシックレコードで、時を止める際に感知されるかどうかの確認をするリカルド。

 可能性としては、シルキーのような妖精系や精霊系、精神体を本体とする高位魔族、高位神族が該当する事がわかった。

 人間の中では察知する可能性のあるものは、勇者や聖女といったごく一握りの人間であることもわかったので、とりあえず一安心だ。

 よもや占いの館にそんな輩が来るはずもない。


 その日の夜は占いの館にした物置と、そこに招くための入り口を街中に作るための術式を練り練りして過ごした。

 そう、リカルドは占いの館の入り口を己の苦手な心霊現象風に変更したのだ。

 具体的に言うと、真夜中の時間帯のみにオープンさせ、入り口はこの街のどこかの路地とし、心底困っているという相手だけに見えるようにしたのだ。

 これであればまず冷やかしは入って来ないし。長蛇の列になる事もない。

 ただ、完全に閑古鳥が鳴く可能性があったので、例外的な入り口として事前に配った札で固定客を確保した。


 翌日の夜、オープンをすると早速最初のお客がやってきた。

 唐突に占いの館の中に転送された老紳士は驚いていたが、リカルドが「ようこそ占いの館へ。今宵はどのようなご相談でしょうか」と穏やかに声を掛けると我に返り、リカルドを見てホッとしたように会釈して対面の椅子に座った。


 その老紳士は、以前孫娘の病が良くならないという相談で来たお客だった。

 孫娘は喘息を患っており、なかなか症状が改善せず苦しそうにしているのが見ていて辛いのだと話した。金を詰めば高位の回復魔法の使い手によって癒す事が出来るのに、それもままならないと。

 身分について明かしはしなかったが、グリンモアの下級貴族でそこまでの金銭を用意できない事は調べているうちにわかり、ならば普通に治療するしかないなと治療可能な、かつ老紳士の手に届きそうな人物を探し出して伝えたのだ。

 そこから度々孫娘の経過を話しにやってくるようになり、ついでに簡単な占いをしていくお得意さんとなった。


「驚きましたな。まさかいきなりここに招かれるとは」

「以前の場所では長く並んでいただく事になってしまいましたから。

 これならば足元の悪い日でもご足労かけずに済むかと思いまして」

「なるほどなるほど。なかなか不思議な技をお持ちだ。さすが希代の占い師殿ですな」


 褒める老紳士にリカルドは穏やかな微笑みを返した。


「……ところで、占い師殿は失せ物探しは可能だろうか?」


 いつも孫娘の話をする老紳士にしては、それを抜きにしていきなり占いの話に移行するのは珍しかった。

 表情もやや固く、訳ありかなと思うリカルド。


「可能ですよ」

「では、これの片割れを探してもらえないだろうか」


 そう言って老紳士は懐からペンダントを取り出した。

 見た目は金色で、華奢な鎖の先にはくすんだ灰色の石を絡めとるような蔦の意匠があった。

 リカルドは時を止め、虚空検索アカシックレコードでそのペンダント、聖女の祈りというらしいものの片割れを探した。

 すぐに見つかりはしたが、どうも特殊なもののようだった。というものも、普通片割れと言ったら同じ形のものとか、組み合わせると一つの形になるとか、そういうタイプのものが連想されるのだが、それは全く違うものだった。

 とりあえずリカルドは時を戻して、結果を老紳士に伝える。


「こちらの片割れ、と申しますか……既に形は失って別なものへと宿っているようですが、それでもよろしいでしょうか?」

「……わかるのですか?」


 半ば諦めていた老紳士は、驚きを自制するように強く手を握りしめていた。


「現在はアクラインの骨董店にございます。形はこのくらいの青いイヤリングとなっております」


 指で大きさを示すリカルドに、老紳士は深く頭を下げた。


「……ありがたい」


 そう言って挨拶もそこそこに代金を支払い、急いで行ってしまった。

 天幕を出ると同時に元居た場所へ戻った筈なので大丈夫だろうが、帰り方も聞かず飛び出していったのはよほど大事なものなのかなぁと思いつつ、うーんと伸びをするリカルド。


 裏道オープン初日なので札のお客だけだろうなと、イミテーションの水晶をなでなでしているとと、いきなりドサッという音と共に何かが入り口あたりに転がってきた。


 リカルドが何だと思って立ち上がり見てみれば、瀕死そうな男が転がっていた。

 見た感じ上等な服装で、片手には血付きの抜き身の剣。男自身もあっちこっち切られているのか血濡れだ。汚れているせいで風貌はよくわからないが、なんとなく整った顔立ちをしているようにも思えた。


 心底困っているという相手だけに入り口を見せるようにしたのは確かだが、こういう意味ではないんだが……と血の匂いと生々しい光景に眩暈がするリカルドだった。


(放り出していいだろうか……これ)

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