青春の香り

@to-ko

第1話

何かが足りなかった。

周りでよく言われている、友人や先生とのコミュニケーションとかとは別の何か。


2020年の新型コロナ一斉休校が解除されてからずっと漠然と持っていたこの感覚が何なのか、それに気付いたのは年が明けて春が近づいたある日の登校途中、白木蓮の香りを感じた時だった。


白木蓮、

駅を出て高校まで向かう道のりで先輩の卒業の寂しさとクラス替えの不安・期待を思いながら感じていたその香り。

去年はその香りに出会うことができないまま花は散ってしまった。


それに気付いてから次々に思い出されるあの日々のこと。


雑草の青臭い香り、

梅雨前に行われる、友人とひたすらお喋りしながらの学校敷地内一斉草むしりが去年は中止になった。


いろんな制汗スプレーが混ざった何ともいえないあの香り、

夏の女子更衣室、「利用は短時間で」と強く言われていたので友人同士で貸し借りしての制汗剤の香り品評会ごっこはできなかった。


ソースの甘辛い香り、

夕方以降学生は半額で買えるから、と部活帰りに先輩とよく寄り道したたこ焼き屋もお店を開けなくなってしまった。


・・・


去年の私には周りとのエピソードだけでなく『青春の香り』が足りなかったのだ。


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