最終話

 炎の学園祭は大盛況で終わった。

 空が白み始めた頃、校舎の炎が綺麗に消えて、美しい宮殿に戻った。大捕り物が大成功、死者も一人も出ず。用意していた新学園新聞『ブレック&ベティ』の号外が配られる。


 帝国に巣くう侵略者。

 国交がないが、帝国には多くのニニヨ人が暮らしている。

 彼は圧政の続くニニヨ国から逃げ出してきた善良なる人々、ではない事をこの学園祭で理解したはずだ。

 知人にニニヨ人がいるのなら、否定的な意見もあるかもしれない。彼らは善良で、賢く、頼りになる。

 だが国に残してきた家族、友人、一族を人質に取られ、とりとめのない情報、兵を匿え、と脅されれば従ってしまうはずだ。こうした静かなる侵略が行われていた。


 この状況を憂い行動したのが第二皇子オレイアス・デュ・ダエリである。

 在学中であり片腕と言われるニューヴァ・ド・ナタの作戦により秘密裏に敵を集められたのが炎の学園祭であった。


 協力者としてエレステレカ・デュ・ロミとリリア・ライトの活躍があった。彼女たちは仲たがいを演じ、学園に入り込む隙を見せることにより敵を呼び寄せることに成功したのだ。


 そのような内容が書かれている。

 当日に号外が配られている時点で、捏造だ。

 敵は何人か死んでいるし、そもそも黒幕はエレステレカだ。


 ブレックとベティは、大活躍、侍女のベラリナ男漁りノートにより見つけ、エレステレカ本人が、それとなく面談して厳選した2人だ。

 彼らは誰かさんと違い、情報の危険性と強さ、それらを扱う覚悟のある人物だ。彼らは今後、エレステレカが出資をする新たな新聞社の代表になってもらう予定だ。

 信用できないレティア・マレとのっぴきならない関係を楽しむのもいいが、彼女が没落していく姿を嘲笑うだけで勘弁しよう。


 そして・・・


 活気のある店内、カウンターに向かうと若い男子が対応しようとしたが、すぐさま顔見知りに変わった。

「やぁ、ウェンズ。久しぶりじゃないか、お父さんはどうしたんだい?」

「一人で遊びに来るぐらいには成長したつもりよ?」

 化粧の濃い男は笑みを浮かべながら、後ろを働きまわる美男美女に料理を持ってくるように命令する。


 彼らはまだ若い役者たちで、楽しそうに働いている。

 この酒場の壁には演劇のポスターが張り付けられ、吟遊詩人たちは歌い、その賑やかさを求めて客も多い。

 料理も美味くて量がある。大きなパン二つに加工肉を分厚く2枚、マッシュポテトに塩がきついベーコンのスープだ。

「エレンって知ってる?」

「知ってるさ、生意気なそばかす女だろ? ほんと誰にでも噛みつく嫌な女さ。だが、演技は本物だ」

「詳しく聞きたいけど・・・連れがいるから今度ね」

 コインを置いてお盆を取り、席に戻っていく。


「騒々しい場所でしょ?」

「はい、エレステレカ様」

 テーブルに食事を置き、周囲を見渡す。

「まだ若くてお金のない役者を雇っている食堂なの。歴代の名役者もここで働いていたのよ。身分を隠してよく父さんと来ていたの、ここの料理は私のおふくろの味ね」

 硬いパンを勇ましくかみちぎり、遅れてスープを口に入れる。

「今日は当たりよ。素材が安物だから料理人次第で味が変わるの」

「お母さんの料理ってそういうものですよ」

 彼女は嬉しそうに料理に手を出した。


「エレステレカ様は、本当に演劇が好きなんですね」

「え、ええ。好きよ」

 6人の王たる役者、大きな劇場が2つある。

 優れた劇がこの10年多くの傑作が生まれていた。帝都には優れた作家が集まり、今日も物語が生まれている。

「古いワールの神話を集めたワール悲劇が支流よ。子供から大人まで夢中になっているわ。だけど新しい演劇もどんどん生まれているの。悲劇、喜劇、即興劇に歌劇」

「田舎者だから、演劇にこんな種類が多いなんて知りませんでした」

 目を輝かせるリリア。


「その、退屈な話でしょ?」

「いいえ、もっと、もっとエレステレカ様の話を聞きたいです」

 その瞳に嘘偽りはなかった。

 だからこそ、エレステレカは困ってしまう。

 自分にとって興味のない話は、苦痛でしかない。好きなことを話せて相手が嫌がる、最高の嫌がらせだ。

 それなのにリリアは、もっともっととせがんでくる。


「たぶん、こういうことがしたかったんです」

 リリアは、子供のような笑顔を向けてきた。

「今日のために、今のために」


 何か気の利いた返事をしようと口を開き、何も出てこなかった。

「私も、話したいことがあるわ」

 不器用に、笑い返した。

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悪役令嬢は燃え尽き症候群 新藤広釈 @hirotoki

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