スマホ(バカエロアプリ入り)を拾っただけなのに

@hey-g

スマホ(バカエロアプリ入り)を拾っただけなのに

 夏の、深夜のことである。


 沼から這い出すガマガエルのごとく、沼田荘から蟇田蛙三が這い出した所から物語は始まる。


 沼田荘はいつから存在するか分からないほどの年期の入った安アパートである。

 日当たり悪く、昼でも陰気。

 2階建てで全8室。

 家賃は安いが、あまりにぼろいので満室にはなっていない。


 蟇田蛙三はその名の通りガマガエルにそっくりな男だった。

 ぶくぶくの肥満体。

 伸ばし放題のべたついた髪は不細工な顔面をさらに不細工に彩る。

 年は21だが、優に一回りは年上に見えた。


 ジメジメとした見た目にふさわしく、性格もジメジメとねじくれている。


 もちろん、友達などいない。

 それどころか実の親にさえ疎まれ、実家を追い出された結果、安アパートに独り暮らしをするハメになっていた。


 生ぬるい風の吹く夜道。

 ペタペタと歩く蟇田の目的地はもちろん近所のコンビニ。


 日課の揚げたてチキンとコーラの摂取のためだ。

 ほぼ毎日来店するため、コンビニ店員の間では「ガマチキン」とあだ名がつけられているが、蛙三の知るところではない。


 深夜に揚げ物と炭酸飲料。

 蛙三の生活リズムと栄養バランスはボロボロであった。

 せめてコーラではなく青汁を摂取するようにオススメしたい。


 部屋を出てから2分。

 ドチィッ、と舌打ちを一つ。


 これも毎日のルーティーン。

 徒歩5分のコンビニが徒歩2分の位置にないことにイラついているのである。


 普段ならこの後、毎分2~3回舌打ちを行いながらコンビニまでの道を歩くのだが、この日は違った。


「ん、なんだ。スマホ?」

 前方、路上にぼんやりと光るものを見つけ、蛙三が独り言つ。


 もっとも、コンビニ店員以外と言葉を交わすことがほぼない蛙三の声はかすれて小さく、ゲコゲコとしか聞こえない。


 だが、確かにそこには1台のスマートフォンが液晶画面を光らせていた。


 なんとなく辺りを見渡し、スマホを拾う。

 驚いたことに画面はロックされていなかった。


 拾う際に蛙三の手が触れたことで、ホーム画面が表示される。


「自動ロックがオフになってたのか?てか、なんだこれアイコンが1つしかねえ。」

 黒い背景に意味不明な幾何学模様が描かれたホーム画面。

 その中央にポツンと1つだけ、アイコンが表示されていた。

 他には時刻表示すらない。


 再びコンビニに向けて歩き出しながら、アイコンをタップする。

 どうせ他人のもの、という気安さからの行動だ。


 途端にスマホが下品なピンク色の光を放ち、安っぽいBGMとともに機械音声が流れだす。


『おめでとうございます。貴方はやりまくアプリのユーザーに選ばれました。』

 硬質だが、女声らしきやや高めの機械音声。


「やりまく…、ゲームか何かか?」

 首をひねりながらもタップ。


 すると画面が再度切り替わる。

 表示されたのはアンケートの回答入力フォームのようだった。


『このアプリは貴方が今すぐヤレる女性を検索することができます。』

「はあ?何言ってんだ」


 この時点で蛙三はスマホを誰かがふざけて作ったジョークグッズだと判断した。

 エロゲやエロ漫画でありそうなアイテムをヒマなオタクが再現したとかだろう。


 それでもまあ、暇つぶしくらいにはなるかと適当に操作を進める。


 女性の年齢、職業、スタイル、髪型を大して考えず、10代、JK、巨乳、黒髪ロングと選択。

 検索範囲という欄もあったが、デフォルトで半径10kmとなっていたので、いじりはしなかった。


 全て項目が埋まったところで、機械音声。

『条件が決まりましたら、検索ボタンをタップしてください。1度検索を行うとユーザーの正式登録が完了します。』


「なにが正式登録だ。くだらねえ」

 ゲロゲロと馬鹿にした笑みを浮かべながら画面をタップ。


 検索中の文字が表示された数秒後、さらに画面が切り替わり同時に機械音声が発せられる。


『残念ですが、検索範囲に条件に該当する女性は存在しません。』

「はぁ?」

 この時点でイラッときたが、機械音声はさらに畳みかけてくる。


『結果は変わらないと思われますが、検索条件の変更を行いますか。結果は変わらないと思われますが』

「はぁあ??」

 なに2回言ってんだこの野郎。


『そもそも、顔も身体も性格も最悪な無職の不審者がすぐヤレる女性なんているわけナイでしょう。よく考えてくださいよ。いや、考える頭があるなら人生こんな風になっていないですね。申し訳ありません。ご無理を申し上げました。』

「おま、お前エエエエエ!!」


 はっきり言って、蛙三の気は短い。そのくせ頭は悪いし、短絡的だ。

 突如スマホから発せられた罵声に対して、即座に怒髪天。

 奇声を発すると腕を振りかぶり、スマホを地面にたたきつけようとする。


 しかし、ここで日頃の運動不足がたたった。

 普段行う事がない行動に肉体がエラーを起こす。


 具体的には手がすっぽ抜け、地面にたたきつけるはずだったスマホが前方へと飛翔した。


「だっ!?イッテ」

 着弾場所から苦痛の声があがる。


「え?」

 顔を上げればソコはコンビニの駐車場。

 そして、3人のチンピラ。


「ぎゃはははははは。イッテーて、めっちゃクリーンヒットじゃん」

 仲間の一人を指さして爆笑しているのは痛んだ金髪の男。

 染めてから期間が経っているせいでてっぺんが黒くなったプリン頭だ。


「けっこう、イイ音したけど、大丈夫かよ。」

 笑うのを我慢するような顔で一応心配してみせるのは茶髪の蜥蜴面。


「痛ーッ。なんだぁ、ああ!?」

 突如の災難に大声を上げているのが、スマホの被害者。

 短い髪を金色に染めた、夜なのにサングラスをした男。


 驚きのあまりフリーズしていた蛙三と金髪サングラスの視線がかち合った。

 少年マ○ジンなら「!?」付きの大ゴマだっただろう。


 金髪サングラスの額に青筋が浮き、困惑が怒りに変換されていくさまがしっかりと見てとれた。

「デブが。てめえ死んだぞ!?」


 蛙三の判断は速かった。

「ひいいいいいいいい!!」

 悲鳴を上げて逃走を開始する。


 何を隠そう。

 その見た目、性格の悪さなどから学生時代から現代に至るまでこの手の輩に絡まれたことは数知れず。


 そもそもヤンキーに出会えばカツアゲされ、警察官に会えば職務質問、PTAは即通報、小学生にはすぐさま防犯ブザーを鳴らされる。

 蛙三の世界は敵だらけである。


 それゆえに培われた危機察知能力は蛙三の数少ない長所であると言えた。


「てめええ、待てやゴラアアアアアア!!」

 しかし、危機が察知できることと、察知した危機が回避できるかは別の問題である。


 不幸にして金髪サングラスは見栄えのために筋トレとかしてるタイプのチンピラだった。

 つまり、不摂生ではあったが、運動不足ではなかった。


「ひ、ひぎゃあああああああ!!」

 あわれのろまなガマガエルは20mも逃げられずに追いつかれ、襟首を掴まれ引き倒された。


 その瞬間、蛙三の脆弱な精神は限界を迎え、恐怖が悲鳴と吐瀉物となってあふれ出した。

「ゲロ、ゲっろろろろろろろろろろろろおろろろ」


 汚い、地獄絵図といっても過言ではない。


 汗、よだれ、涙、鼻水、とどめに吐瀉物。

 もはや産業廃棄物よりも価値のない生けるクソと言った状態だった。


「うげぇ、汚え。くそデブが!!」

 ぎとぎとベタベタデブは、いかに怒り心頭のチンピラとは言え触りたくないと思わせるに十分。


 金髪サングラスは吐き捨てるように言うと、比較的汚れていない蛙三の太ももやスネを2度ほど蹴ると踵を返した。

 靴を汚したくなかったのだろう。


 一方で轢かれた蛙のごとくアスファルトにへばりついていた蛙三はチンピラが十分に離れるのを見極めてから、ソロソロと動き始める。


 思ったより軽微な被害ですんだが、ここで元気な様子を見せたりすると、再度襲いかかって来る恐れがある。

 ゆえにのそのそフラフラと立ち上がり、蹴られた足をさも痛めたかのように引きずってみせる。


 背後のコンビニの駐車場からチンピラ達が自分を指さして笑っているのが聞こえる。

 蛙三は絶対に聞こえない声量で毒づく。

「うるせえ低脳ども。お前らみたいなバカを相手にしてられるか。くそが、死ね。」


 コンビニが見えなくなるまで演技を続け、その後は多少フラつくものの普通に歩いて帰宅。

 3日ぶりのシャワーを雑に浴びて吐瀉物を洗い流すと、カビの生えかかった万年床に潜り込んだのだった。


………。


 翌日の目覚めは最悪だった。

 痛む頭を抱えて、布団から這い出すと蛇口から直接水を飲む。

 身体もいつも以上に重かった。


 昨夜は軽い被害で切り抜けたが、それでも思った以上に心身に負担がかかっていたらしい。

「くそ、害虫どもが。あいつら今度見かけたら即通報してやる。」

 巣穴のような自室で独り毒づく。


 聞くもののいないはずのその言葉になぜか今日に限って返答があった。


『昨夜のことに限って言えば、蛙三様がスマホを投げつけたことが原因ですから、あちらだけを責めるというの不公平ではありませんか。』

「は?」


 自分しかいないはずの自室で、自分以外の声がする。

 明らかな異常事態に蛙三は狼狽し、素早く室内を見渡す。


 所々にゴミの散らばった床、湿っぽい万年床、そしてちゃぶ台の上で下品なピンク色の光を放つスマホ。


 下品なピンク色の光を放つスマホ?


「はああ!?なんだ、なんでここに」

 見覚えのある。しかし、そこにあり得ざるべきものを見つけて蛙三は驚愕した。


 腹立たしいジョークアプリの入ったスマホ。

 これは昨夜、コンビニの前でバカに向かって投げつけたはず。

 その後、拾ってなどいないし、そもそもそんな余裕はなかった。

 

『正式登録されたユーザー向け、紛失防止機能です。』

「はあ?紛失防止機能だぁ」


『豚、いえ蛙ぞ、間違えました。ガマガエル様にはむずかしかったですか。もうしわけありません。このスマートフォンはおとしても、じどうでてもとにもどってきます。おわかりいただけますか』

「おま、お前馬鹿にしてんのか!!」


 機械音声のあおりにぶち切れながら、同時に混乱の極みにあった。

 自動で手元に戻ってくる?

 そんな機能があるわけない。


 だが、事実として投げ捨てたスマホがいつの間にか自室にあり、あまつさえ現在進行形で会話までこなしている。


(え、AI?オカルト?呪いのスマホ?なんだよそれ、きいたことねえぞ)

 思考が空転し、吐き気がこみ上げてくる。


 目覚めは最悪だと言ったな。

 アレは嘘だ。なぜなら今の方が気分が悪い。


 気分の悪さはワースト記録を更新し、それをもって今朝の目覚めは最悪一歩手前だったということになった。


「ああああああああああああああああああああ!!」

 そして、発狂。


 蛙三は絶叫しながらちゃぶ台の上のスマホをわしづかみ、窓から全力で投擲。

 行く先を確認することもせず、すぐさま布団をひっかぶって目を閉じた。

 再び目を覚ましたとき、全てが悪い夢だったことになると信じて。


「うるさいよ!!静かにしな!!」

 2軒隣に住むの目高のババアのダミ声が薄い壁を突き抜けてきたが、それすらも完全に無視した。


 だが、眠りは訪れなかった。

 それよりも先にスマホが帰ってきたからだ。


『もしもし、わたしリカちゃん。いま、あなたのへやのなかにいるの』

 このスマホ、ノリノリである。


「ひぃいいいいいいいいいいいいい!!」

 思わず情けない悲鳴を上げる蛙三。


 しかし、その悲鳴は即座にぶち破られた。


「このガキー!!夜勤終わりで寝てるヤツもいるんだ!!ギャーギャー騒ぐんじゃないよ!!」


 轟く怒声!!

 ブチ破る勢いで開かれる玄関ドア。

 怒れるババアのエントリーだ!!


「うわああああ、ば、ババぁッ!!」

 仁王のごときババアの剣幕に再び悲鳴を上げる蛙三。

 その蛙三をババアの猛烈ビンタが襲う。


「クソガキが!!誰がババアだい!!」

 80代とは思えぬ声量と打撃力。


 吹き荒れる暴力の嵐はまさにララパルーザ!!

 世が世であれば女子格闘技の絶対王者になり得たであろう才能がソコにはあった。


 さらに、たまらずベランダへ逃げ出した蛙三に向かってとどめのドロップキック。

「イヤー!!」

「グワー!!」

 哀れ蛙三は爆発四散


 する勢いでぶっ飛ばされ、2階のベランダから裏の空き地に転がり落ちた。


「クソババァ!!殺す気か!!」

「アンタみたいな穀潰しは死んだ方が世の中のためだよ!!」


 土まみれ草まみれで叫ぶ蛙三の姿はどこから見ても立派なガマガエル。

 それを見おろす目高のババアの眼光は氷のごとくに冷え切っている。


 両者の間に緊張感がほとばしる。

 うらぶれた安アパートの一角が無法の荒野と化し、今まさに互いの命と誇りをかけた闘争が開始されようとしていたその時!!


 2人の間に緊張感のない声が割り込んだ。


「まあまあ、二人ともそれくらいにしときなよ~。」

 声の主は女。ババアの隣、205号室に住む五位鷺トキ子だ。


 人を見る目を持っていない蛙三には女性の年齢を看破することなど不可能。

 ゆえに五位鷺も(少なくとも蛙三視点では)年齢不詳である。

 30前かと思うが、正直分からない。


 ただ、それなりに整った容姿であり、蛙三の身近に存在する数少ない女性であるため、何度か彼女を想像して自慰行為を行ったことがある。


 水商売らしく、深夜あるいは明け方に帰ってきて、午前中は寝ていることが多い。

 蛙三&ババアの声量に目が覚めてしまったか、けだるげに髪の乱れた頭を掻いている。

 ちなみに着ているのはくたびれた田日出第二中学校のジャージだ。


「ごめんよ。トキちゃん、起こしちまったかい?」

 目高のババアが心底申し訳なさそうにそう言った。


「ん~ん。私はだいじょうぶ。でも、さっきカニちゃんとエビちゃんも帰ってきてたから、ソロソロ寝る時間かなって思ってね。」

 トキ子は右手をゆらゆらと振った後、下の階を指さしながら言う。

 1階の住人、警備員の蟹沢とビル清掃員の海老原のことだろう。


「そうだったね。お疲れで帰ってきたのに騒いじまったよ。お詫びにまたなにか差し入れでもしとこうかね。」


 このババア、今はボロアパートの管理人のようなポジションに収まっているが、かつては飲食店を営んでいたらしい。

 そろいもそろって食生活が怪しい住人達にちょくちょく差し入れをするのだが、これが美味かった。


 ババアはうるさいし邪魔くさいが、ニンニクがこってりと効いた唐揚げの旨さは蛙三ですら認めざるを得なかった。


「あ、だったらアレ作ってよ。こないだくれた豚の角煮。美味しくって、ご飯食べ過ぎちゃったよ。」

「ああ、東坡肉かい。いいバラ肉が入ったらね。」

 ババアは半ば蛙三に対する興味を失ったようにトキ子と言葉を交わす。


 そのまま自分の部屋へと帰っていくかと思われたが、最後に蛙三を一瞥する。

「ふん、命拾いしたね。これに懲りたらむやみに大声上げて騒ぐんじゃないよ。」


「この、」

 ババア、と言いかけたがうかつなことを口走って第2ラウンドが始まっても面白くない。

 蛙三はなけなしの理性と自制心でどうにか舌打ち1つにイラ立ちを押さえ込んだ。


 トキ子も「ご愁傷様」とでも言うように肩をすくめて見せた後、あくびをしながら自分の部屋へと入っていった。


 空き地に取り残された蛙三はブツブツとババアの悪口をつぶやきながら部屋に戻り、相変わらずスマホが寝そべっているテーブルの前にうんざりと座り込んだ。


 一連の騒動で驚きや恐怖がどこかへ吹っ飛んでいたので、ひどく冷静である。


「はぁ~。で、なんだってお前。なんとかアプリって言ってたか?」

 問いかけてみると、すぐさま機械音声の返答がある。

『やりまくアプリです。貴方が今すぐヤレる女性を検索することができます。』


 ここで、蛙三はちょっと考えた。

 昨夜はくだらないジョークグッズだと判断したが、どうだろうか。

 言葉の真偽はともかく、このスマホが独りでにこの部屋に来たのは間違いないのだ。


 とりあえず手に取ってみる。

 見覚えのある検索画面が表示されていた。


 試しに検索条件を全て「指定なし」、検索範囲を「100km」と設定。

 結果は、

『残念ですが、検索範囲に条件に該当する女性は存在しません。』


「クソッタレー!!」

 蛙三は吠えた。

 ババアにぎりぎり聞こえないくらいの絶妙な声量で。


『次点として、北東17km地点にデブ専のゲイ(バリタチ)、北北西27km地点にセッ○ス依存症の60代女性がいます。この2人なら、いくらか現金を積めば相手をしてくれるかもしれません。』


「ざっけんな!!せめて無料やろが!!金払うなら素直に風俗行くわ!!」

 蛙三は吠えた。

 激高のあまり一部エセ関西弁になったが、ババアにぎりぎり聞こえないくらいの絶妙な声量だった。


『金?そんな金がどこにあるんですか。毎日、コーラとチキンを食べてばかりで貯蓄も何もないじゃないですか。』

「くッそおおおお!!」

 本当のことな分、余計に悔しい。

 蛙三は歯がみした。


 そう、蛙三のことを見限った親族はつましくすればギリギリ暮らせる程度の仕送りの代わりに蛙三を亡き者として扱っていた。

 アルバイトでもしていれば別だが、蛙三は働く気などまるでないクソニート。

 そんなやつが毎日コーラとチキンを食べていれば金がなくなるのは当たり前だった。


 それならそもそもデブ専ゲイと依存症もどうにもならないのだが。頭に血が上った蛙三は気がつかなかった。

 そして、吠えた。


「くそがああ、やってやるよお!!ぜってぇ、やれる女捕まえて童貞捨てた後、てめえを真ん中でへし折ってやるからな!!」

 興奮しすぎて、声量の調整をミスった。


「この穀潰しが、うるさくするんじゃないよ!!息の根止められたいのかい!!」

 秒でババアが突撃してきた。


………。


 その日から蛙三の挑戦が始まった。


 朝は7時に起き、ランニング。

 その後必ず朝食をとってからさらに筋トレ。


 最初はほとんど成果は上がらなかった。

 ランニングは100mでウォーキングになり、ウォーキングも10分が限界。

 腹筋を2回でギブアップしたときなど、スマホに『ざぁーこ、ざぁーこ』とあおられて悔しさに歯がみした。


 そして、メスガキ系同人誌を購入した。


 自由に使える資金を得るためアルバイトにも挑戦した。

 無論、数年来のニートだ。アルバイトとは言え簡単には決まらない。


 特に近所のコンビニを受けたときなど、落ちた後でスマホに『貴方はあそこの店員に「ガマチキン」というあだ名つけられてますよ。』と言われて二度と行かないことを心に決めた。


 それでも、蛙三は諦めなかった。

 変化は少しづつ。しかし、確実にやってきた。

 徐々にランニングの距離がのび、腕立て伏せの回数が増えていった。


 その頃、人妻がスポーツジムに通うタイプの同人誌を購入した。


 アルバイトも決まった。

 家から徒歩15分のコンビニだ。

 アルバイト初心者の蛙三はミスも多かったが、同僚のフォローもありなんとか続けることが出来た。


 なお、親切な同僚女子にガンガンに下心を抱いていたが、ことあるごとにスマホが冷や水をぶっかけてきて現実に引き戻された。

 よって、セクハラや痴漢で訴えられることもなかった。


 親切な同僚女子を想像して自慰行為は行った。


 そして、スマホを拾ってから1年。

 蛙三は変わっていた。


 贅肉を脱ぎ捨てた肉体はたくましい筋肉のよろいをまとい、健康的な生活リズムで過ごすことで濁っていた瞳も輝きを取り戻した。


 もう、だらけきった不摂生な生活はしていない。

 彼の心にはさわやかな風が吹いた。


 この一年、多くの努力をしたが、なかでも気を遣ったのは食事だ。


 再び肥満体に戻ることがないように、カロリー調整された食事で十分な栄養を摂取するために、日本全国様々な食材を試した。


 そして、たどり着いたのがこの、


 健康すくすく青汁だ。


「なにか口寂しくなったとき、それこそ以前ならコーラを飲んでいた時なんかに飲むようにしているよ。コイツは本当に飲みやすいし、美味いと思うよ。」


 健康を支える身体作りこそ生活の基本だと蛙三は語る。


「大げさに聞こえるかもしれないけど、俺が変われたのは青汁のおかげだよ。もう、手放せないね。」


 2度とあんな情けない自分には戻りたくない。

 その誓いとともに今日も彼は笑顔で健康を守り続ける。


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