第21話「理不尽の行く末と日常的な出来事」

 果ての果てには果てがなく、先の先には先がない…

 る筈のものがそこに無くなる時、そこはそこにるのか無いのか、曖ただ昧な境界に包まれる…



「というわけで、事前に行ったアンケートの結果、この三ヵ国について歴史を紐解いて行きたいと思います。尚、ユーゴスラビアについては現在は既に───」

 女の声と共にとリズムのよい音が鳴り響き、に白い文字が綴られていく。

「あ……」

「どうかしましたか?」

「いえ、何でもありません」

 少女は思わず嘘を吐いたが、真実ほんとうは何でもない筈がなかった。

「何でもない?ふふ、嘘を吐くのはよくないわ」

「い、いえ、本当に何でもないんです」

「あらそう?でも駄目よ。私にはわかるんだから…」

 少女は再び嘘を吐いたが、その少女を含めて少女と同年代の少女ばかりが三十人以上その部屋の中でただ一人立っている成熟したはそれを信じようとはしなかった。

っ!なっ、なにするんですか!?」

「ほらね、嘘を吐いても無駄なのよ。こうして顔に書いてあるんだから」

「ひぎいっ!痛い痛い痛い痛い痛い!やめてください!な、なんで動けな…いぎいいいいいっ!」

 女は少女の左頬に自らの右手の人差し指を突き立て、その鋭く尖った爪先で少女の頬を引き裂いた。

 少女はその行為を拒みたくともその肉体からだが動くことを拒んだ。


 コ……


「あぎいいいいいいい!!」

「ほらほら、どんどん顔に書き出されていくわよ」

 女の爪先はと音を立てて少女の頬骨を削る様にして文字を刻んだ。


 ロ……


「あがあああああああ!!」


 シ……


「痛い痛い痛い痛い痛い!!誰か!誰か止めてえ!」

 頬骨を削られながら顔面に文字を刻まれている少女は周囲にいる同年代の少女達に助けを求めたが、助けを求める少女と同様に椅子へ座って机に向かっている少女達がその声に応える事はなかった。


 テ……


 左頬に二文字、右頬に二文字、合わせて四文字の言葉を刻んだ時点で女の手が止まり、少女の頬肉を引き裂き、骨を削っていた爪先は湿り気を帯びた音と共に少女の顔面から引き抜かれた。


 コロシテ……


 少女の頬には確かにそう書かれていた。

「お、終わったの?うう…どうしてこんなことを……」

 女が手を離した事でその行為が終わったと思った少女は涙を流しながら問い掛けたその時だった。

「いぎゃあああああああ!!」


 ヤ……


「目が!目がああああああ!!」

「あらあら、どうしたの?」

 女は少女の右の眼球へ文字を刻むと眼球から爪先を引き抜きながらやさしく微笑んだ。

 そして次の瞬間、女は少女の左の眼球へと最後の一文字を刻み込んだ……

「ひぎいいいいいいい!!」

「ふふ、嘘を吐くと顔に出るのよ?知らなかったの?……でも残念ね。あなたの思い通りにはならないわよ。それじゃあね……」

 女は不意に自らの顎の下へ鋭く尖った右手の爪先を突き立てた。

「プリーズフォロミー!エヴリワン!」

 その言葉の直後、女は自らの右手を顎の下から上へ向けて突き上げた。その右手は手首が隠れる深さまで女自身の顔面を抉り、女はおびただしい血飛沫ちしぶきを撒き散らした末に絶命した。

 そして……

「イエス、ティーチャー!」

「ハイ、先生!」

「オフコース!」

 三十人あまりいる少女達は次々と女を模倣し、同じ様にして顎の下から手首を突き上げては血飛沫ちしぶきを撒き散らして絶命した。

 辺りには飛び散った血が床を叩く音と少女達が自らの顔面へと右手を突き入れる生々しい音だけが響いていた。


 コロシテヤ……ル……


 光を奪われた少女は自らの顔面へと文字を刻んだ女を憎悪し、闇よりも深い黒闇くらやみの中で『コロシテヤル』と繰り返した。


○アイルランド共和国

○キルギス共和国

○ユーゴスラビア連邦共和国


 黒板には三国の成り立ちと歴史が綴られていた。


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【更新無期停止】水のように純粋な平凡。あるいは単なる日常的な狂気。 貴音真 @ukas-uyK_noemuY

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