エキストラの魔法 二詠唱目

 魔法によって武田との二人きりの空間を疑似的に作り出すことに成功したエマだったが、武田の心は一向に恋愛のそれへは変容しなかった。

 エマは焦って事あるごとにエキストラの魔法を駆使したが、望むべく成果は得られずに段々と魔力の回復が追い付かずに疲弊していった。


「エマ、大丈夫か?」


 席をくっ付けて昼食をエマと共にしている武田が、血色悪く浮かない顔をするエマを心配げに見つめた。


「顔色悪いぞ。どこか具合でもよくないのか?」

「……いえ」


 エマらしくなく暗い声で応じて俯いた。


「無理するなよ。身体壊して休んだら一緒に昼が食べられなくなる」

「……はい」

「食欲もなさそうだな。冗談抜きで心配だぞ」


 机の上でパンの袋を置いたまま開封しないエマに、武田は心底不安げに声をかける。


「大丈夫です。最近忙しいだけです」

「頼っていいんだぞ。俺に何ができるかは知らないけど、できることなら手を貸すぞ?」

「ショウゴさんに頼るなんて申し訳ないです」


 武田の厚意を遠慮し、パンの袋をぼうっと眺めた。

 どうにも極度の疲労で食欲が湧かない。


「喉、通らないか?」


 虚ろにパンを見つめるエマに、武田はすかさず優しい声音で尋ねる。

 エマは小さく頷いた。


「ごめんなささい。せっかくお昼一緒にしてくれてるのに」

「謝るなよ。俺はこうしてエマといるだけで楽しいんだから」


 下心なく純粋な気持ちで武田は微笑んだ。

 そんな彼の言葉がエマの疲れた身体にはよく染みる。


「でも、今は楽しくないですよね」

「楽しいよ。けど、エマが食欲ないのが心配だな。少しは食べないと余計に身体悪くするんじゃないか」

「そんなことないですよ。少しの間ぐらい食べなくたって大丈夫です」


 そう虚勢を張って、作ったような笑みを浮かべる。

 武田が心痛めたようにエマを見つめた。


「エマ、俺の前でぐらい気丈ぶるのはやめてくれ」

「気丈ぶってませんよ」

「一時離れていたとはいえ幼馴染だろ。俺にはエマが無理してるのがわかる」


 武田の瞳に確信の色が宿る。


「……」


 図星を衝かれてエマには返す言葉がなかった。

 俄かに沈黙が降り掛けた時、武田がエマの机の上のパンに手を伸ばした。


「あっ……」


 エマが反応してパンを保守しようとする間もなく、武田はパンを手に取ると開封してしまった。

 開封した袋からパンを取り出し、端を小さくちぎる。

 そしてちぎったパンの断片を呆けているエマの口へそっと近づけた。


「ほら、口開けろ」

「……ううっ」


 エマの瞳がジワリと潤んだ。

 超常的な魔法の力でズルして二人きりになろうとした自分に、武田がここまで優しくしてくれるとは夢にも思わなかった。 

 魔法を使わなくてもワタシの事を気にかけてくれている。

 エマの魔法を解かれた。


「なーに目の前でイチャイチャしてくれてんの?」


 武田の背後で本澤春香が喧嘩を売るような口調で言った。


「おい、武田がエマちゃんを泣かしてるぞ」

「何を破廉恥なことをしたんだ?」

「エマちゃんが可哀そうでしょ」


 エキストラだったクラスメイト達がたちまち干渉してくる。

 非難に晒される中、武田はエマに向かって苦笑いを浮かべた。


「どうも数日前からおかしかったんだ。あれだけ恥ずかしいことしてるのに誰の視線も感じないんだから」


 訳わかんない事言ってんじゃねーよ、と怒りを含んだ野次が飛ぶ。

 野次など意に介さず、エマの武田を見る目が熱っぽくなった。


「ほんとに、ショウゴさんには敵いません」


 そう呟いて目を閉じると、武田の差し出すパンの断片にぱくついた。

 エマのキスに近い顔が眼前に迫り、武田は狼狽え照れる。

 周囲からシュプレヒコールのように二人を囃す声が沸き起こった。

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久しぶりに会った二人の幼馴染が、忍者と魔女になっていて迫ってくる 青キング(Aoking) @112428

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