不透明で曖昧で。

夏艸 春賀

声劇台本

《諸注意》

※なるべくなら性別変更不可。

※ツイキャス等で声劇で演じる場合、連絡は要りません。

※金銭が発生する場合は必ず連絡をお願いします。

※作者名【夏艸なつくさ春賀はるか】とタイトルとURLの記載をお願いします。

※録画・公開OK、無断転載を禁止。

※雰囲気を壊さない程度のアドリブ可能。

※所要時間約15分。男2:女2の四人台本です。



《役紹介》

山口 哀和(やまぐち あいか)

28歳、155cm、女性

料理は好き。片付けは嫌い。ズボラ。

黙っていると美人。


星野 久住(ほしの くずみ)

26歳、175cm、男性

きっちりしていそうでどこか抜けている。

掃除が好き。爽やか系。


海堂 喜由美(かいどう きよみ)

28歳、150cm、女性

可愛らしい見た目をフルに活用している。

家事は得意。


岩田 有坂(いわた ありさか)

26歳、170cm、男性

女好きだが、どこか憎めない。



《配役表》

哀和(女):

喜由美(女):

久住(男):

有坂(男):



↓以下本編↓

────────────────────




哀和M

「出会いはいつあるか分からないとか、ちれば早いとか、始まりはいつも突然だとか。そんな事は知ってる。でも、必要ないと開き直って。胸の奥底から湧く感情を、抑え込むすべだけ身につけてた。それでも突き落とされたら、あたしはどうするのだろう。」



【間】


《飲み屋街、路上》


喜由美

「あ〜いかぁ〜! も〜一軒行こぉよー!」


哀和

「いやいや、駄目だろ。へべれけじゃん、無理だって」


喜由美

「やぁだ〜! 私は飲み足りません〜! んね〜?」


哀和

「ちょ、待って待って、他の人に絡みに行くなって。どうもすみません」


喜由美

「えっへへ〜、きーもちイイ〜!」


哀和

「もう……失恋したからって飲みすぎだろうよ。酔っぱらいめ」


喜由美

「ヒック。酔ってません。酔ってませんもん。ほら、真っ直ぐ歩けますし」


哀和

「いやいや、全く真っ直ぐじゃないし。ほら、こっちおいで」


喜由美

「ぶつかりません、大丈夫れふ」


哀和

「まぁ、とりあえず家来るかい? そんで飲み直そう、ね?」


喜由美

「う〜……うん。んんんー!」


哀和

「……ぅわ、こら、いきなり動くな……!」


久住

「おっと」


哀和

「あ、すみません」


久住

「あーいや。……大丈夫?」


哀和

「えぇ、大丈夫、です。慣れてるので」


久住

「そうか」


喜由美

「あいかぁー? ナンパか、こらー!」


哀和

「違うわバカ。もう、行くよ!……あ、ぶつかってすみませんでした」


久住

「いえいえ。気を付けて帰ってね」


喜由美

「まったね〜!」


哀和

「またねじゃねぇわ。ほらほら歩けー」


久住

「……」


有坂

「……アレ、どったの、久住くずみ?」


久住

「何でもない。酔っぱらいの介抱って大変だなって話」


有坂

「えー? 何それ、オレのこと?」


久住

「さあね」


有坂

「はー?」


久住

「気にするな。ほら、行くぞー」


有坂

「立ち止まったの久住くずみのクセにー。待って待ってー」



【間】



久住M

「一瞬だった。よくある日常の中、見付けた気がした。ぶつかった拍子にれた肩は細く、柔らかく響いた声は耳に残る。見付けた瞬間に、俺はそれを手放した、はずだった。」



喜由美M

「恋多き乙女、なんて聞こえは良いけれど。はたから見ると単なる尻軽女なのかも。私が本気でも、相手はそうじゃないことがほとんど。フラれては泣き付く。毎回最後まで付き合ってくれる、優しい親友。そんな彼女を泣かすヤツは、絶対に許さない。」



【間】


《飲み屋街、居酒屋店内》


有坂

「おっつかれさーん!」


久住

「おう、乾杯」


有坂

「カーンパーイ!……くッハーー!」


久住

「飲みすぎるなよ、有坂ありさか。介抱すんの面倒だから」


有坂

「そう言うなってー、少しくらいいいだろ? 明日休みだし」


久住

「お前の場合、絡みがウザくなるんだよ」


有坂

「え、オレ、そんなにウザい?」


久住

「いや、冗談」


有坂

「へ?……めっずらし」


久住

「ん、何が?」


有坂

「あんま冗談言わねーじゃん。何、どったの。いい事でもあった?」


久住

「……あったけど」


有坂

「けど?」


久住

「お前には言わねぇ」


有坂

「は? ひっど。期待させといてそれはないっしょー」


久住

「っはは、まあまあ。飲め飲め」


有坂

「あんだよー、言えよー! 言わねーなら介抱させるぞー!」


久住

「適度な量に留めてくれ」


有坂

「無理ー、もうオレは飲みすぎることにしましたー、残念ですネー! おっちゃん、オカワリ!!」


久住

「へいへい、好きなだけ飲めや」



【間】



有坂M

「思えばその日から変わった、感じがした。飲みに誘ってもあまり乗り気でなかった彼が、誘いに乗るようになった。外を歩くと視線で何かを探す。聞いてもはぐらかす。けど、そうなる現象、オレは知ってんだ。」



哀和M

「どうするのだろう、だなんて。分かってる。あたしはきっと繰り返す。抑えて、隠して、蓋をして。そうやって見て見ぬふりを繰り返す。」



【間】


《飲み屋街、路上》


喜由美

「ね〜、あいか〜」


哀和

「なぁに、喜由美きよみ


喜由美

「私さ〜、もう少し気を抜いてもいいと思うの〜」


哀和

「ん? ちょっと意味分からない事言わないでくれる?」


喜由美

「たまにね、思うんだ〜。哀和あいか、疲れないのかなって」


哀和

「疲れた時ゃ寝落ちてるが」


喜由美

「体としてはそうだろうけどさ。心の方だよ〜」


哀和

「ほう、なるほど。今日は高説こうせつ垂れるほうの酔いかただったのか」


喜由美

「私はぁ! 哀和あいかがぁ! 心配なのぉ!!」


哀和

「はいはい、心配あんがと」


喜由美

「こらぁ! マジメに聞きなさい!」


哀和

「聞いてる聞いてる。とりあえず立ちな? 座り込んでたらめっちゃ迷惑だぞ?」


喜由美

「やだ!」


哀和

「やだ、じゃねぇんだわ。良いから立て、ほらー」


喜由美

「あ〜ん! まだ飲むの〜」


哀和

「飲んでいいからとりあえず立てってば」


喜由美

「飲むぅ〜!」


哀和

「全く。とは言え少し困ったな……」


久住

「……良かったら、手、貸そうか?」


哀和

「んえ? あ、いや、大丈夫ですから」


久住

「そう?」


有坂

「……あーもう。くーずみ。そこで引き下がるなっての、ったくよー」


喜由美

「ちょっとぉ! 私の哀和あいかを取らないで!」


哀和

「いや、あたしは喜由美きよみのもんじゃないし」


喜由美

「私のだもん!」


哀和

「へいへい、そうですか」


有坂

「おねーさん。一応ココ、店先だからさ。邪魔になんないとこ行こ?」


喜由美

「ふえ?」


哀和

「あ、あの」


久住

「ここはこいつに任せておこう。慣れてるから」


哀和

「慣れてる……?」


有坂

「飲みなら付き合うし。はーい、ほら立ってー」


喜由美

「ん〜……立たせて〜」


有坂

「それでは、お手を拝借はいしゃくー」


喜由美

「は〜い」


哀和

「あら、お見事。ありがとうございます」


有坂

「どういたしましてー」



【間】



久住M

「ただ声を掛けるだけだったのに。初恋と言う訳でもないのに。それなのに、妙に緊張した。」



有坂M

「見つけたんだな、と思った。視線がそこに定まって一直線。手を差し伸べたクセに引っ込めるの早すぎだって。仕方無いから少し手伝うことに決めた。さいわい、オレは女好きで通してる。大丈夫。」



【間】


《飲み屋街、居酒屋店内》


喜由美

「ダブルデートとかどう?」


哀和

「随分唐突に言うねぇ、どうした?」


喜由美

「ふっふっふ〜。まあ私がまだ二人きりで会うのは早いかな〜って思っただけなんだけどね」


哀和

「おやおや珍しい。いっつもさっさと済ませるじゃんか」


喜由美

「体だけとか、さすがにそこまで若くないんで〜」


哀和

「そう言うからには、本気か」


喜由美

「何となく、ただの女好きな人じゃない気がしてさ。ちゃんと優しい人な気がする」


哀和

「気がする、だけか」


喜由美

「直感大事よ?」


哀和

「ふーん。で、なんであたしを巻き込もうとするのかなー?」


喜由美

「だって〜! 共通の知り合いってなると哀和あいかしかいないんだもぉん!」


哀和

「そりゃーまあ、そうだけどさ。あっちはやっぱ……」


喜由美

「うん! 久住くずみさんと、有坂ありさかだよ!」


哀和

「いつ聞いても名字みたいな名前だよなー」


喜由美

「ほんとそれ。最初聞いた時ビックリしたよね。それで? ダブルデート、着いて来てくれるよね?」


哀和

「……あー……まぁ……うん、いいよ、行く」


喜由美

「えへへ、やった〜! ありがと!!」


哀和

「……おう、どういたしまして」



【間】



喜由美M

「少しずつつのらせてるのは見てて分かった。だから私は手を組んだ。見返りは特にない。お互い純情ぶるつもりも無い。私はただ、親友に悪い虫は付けたく無かった。割と、悪い訳でもないけれど。」



久住M

「コロコロ変わる表情を見る。その度に俺の心は舞い上がったり沈み込んだり忙しい。手に入れたいと思えば思うほど、尻込みしてしまう。引っ込めた手は。」




【間】




《数年後》



喜由美

哀和あいかー! 準備出来た〜?」


哀和

「おーう……多分……大丈夫!」


喜由美

「開けるよ〜……うわ」


哀和

「あんだよ。馬子まごにも衣装ってか?」


喜由美

「……」


哀和

「おい、え、なんで泣いてんの」


喜由美

「……だって」


哀和

「なんだよ!」


喜由美

「ウェディングドレス、キレイすぎるよぉ〜〜!!!」


哀和

「どあ! 寄るな! シワになる!」


喜由美

哀和あいかが綺麗すぎるぅ〜!!!」


哀和

「バカか、喜由美きよみも同じようなモン着たんだろぉが!」


喜由美

「それはぁ〜、1ヶ月前だもぉん!!」


哀和

「そうだろ? あたしはそん時めっちゃ感動したぞ」


喜由美

「でも哀和あいかがちゃんと着るまで実感なかったんだもぉん〜!」


哀和

「全く。……なぁおい。旧姓、海堂かいどう 喜由美きよみさんよ」


喜由美

「はい、なんでしょうか? 旧姓、山口やまぐち 哀和あいかさん」


哀和

「ありがとな」


喜由美

「〜〜〜ッ!!!」


哀和

「どあ!!! 抱き着くなぁ!!」


喜由美

「うあああん! 結婚してもぉ! 親友なんだからねぇ!!!」




【間】



哀和M

「繰り返す内、積もり積もった想いはあふれた。決壊したらもう、手を握るしかすべを知らなかった。ほぐして、ほどいて、けて。出会いは本当に偶然だった。これからも多分、気持ちを閉じ込めたり、手を引っ込めたりするんだろう。それでも少しずつお互いに、寄り添いあって逝ける。あたしはそう信じていたい。」





終わり


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不透明で曖昧で。 夏艸 春賀 @jps_cy729

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