第7話 話し合い
松本先輩から鍵を受け取り、僕は部室がある六棟二階に向かった。現場に到着すると宇野さんが弁当などを持って待っていた。
「遅れてごめんね、ちょっと鍵を取りに行ってた」
「私もさっき来たばかりです」
僕は遅れたことに謝罪して、鍵を使い部室の扉を開ける。
部室の広さは教室を同じぐらいであり、一番奥にはホワイトボードが黒板代わりにあり、そこには予定など様々な事が掛かれている。
ホワイトボードに向かうように机と椅子が並んでおりその上にはパソコンが置いてある。個人での活動スペースとして使用されているので場所によって書類や置物が置いてある。
その後ろに話し合いが出来るように机などが設置されている。壁の端には様々な本や書類などが置かれおり、分野ごとにしっかり区分され整理されている。
僕はいつも話し合いに使用されている大きな机に弁当などを置く。
「宇野さんも好きな所を使ってください」
「ありがとうございます」
宇野さんは僕の対面になる席に座る。まあ、話し合いをするなら対面だろう。
「それで宇野さん、話す事とは何ですか?」
「色々ありますが、最初に多くの迷惑を掛けている光井君は知る権利があると私は考えています」
宇野さんは真剣な顔をして言ってくる。
「知る権利とは・・・・・・」
「言葉通りですよ、光井君。例えばあの日に公園にいた理由とか」
どうやら宇野さんは自身とって最も教えたくないであろうと思われることを僕になら教えてもいいらしい。
さて、どうしたものか・・・・・・非常に返答に困る。これにはどう返すべきか、知りたい気持ちがないというわけではないが、正直言うとここで知る必要性が一切感じない。
ここで知ったとしても僕には何も出来ない、ここで宇野さんの抱えるている問題を知って辛かったねと同情でもすればいいのだろうか?
いいや、違うな。少なくとも僕が望む結果にはならない、ならば僕の答えは決まっている。
「いえ、僕から質問して聞きたいことはありません」
「本当に聞かなくてもいいんですか?」
宇野さんは再度僕に聞く。だけど僕の答えは変わることはない。
「はい、大丈夫ですよ。そういうことは宇野さん自身が話したと思った時に聞きたいです」
「そうですか、光井君は強い人ですね」
「僕は強い人ではありませんよ」
宇野さんの中で何か分かったことがあったのか、その顔は少しだけ晴れやかな顔つきになった。
ただ、僕は強い人ではない。宇野さんの過去を知っても何も出来ないと判断したからこその答えであり。知りたいと思う気持ちを抑えた訳でもない、自分の実力不足から逃げただけだ。
強い人とは厳しい状況であろうと、犠牲を一切出すことなく逆転していくような人を指す。
そんな強い人はこのチャンスをものにして宇野さんを救い出しているはずだ。だけど僕はそれを出来ていない。
だから僕は強くはない。
「この件はこれでおしまいでいいですか、宇野さん」
「そうですね、まだ決めることはありますからね」
そういって僕たちは話を次に進める。昼休憩の時間は限られている、あまり無駄な話は出来ない。
「次は集合場所についてです、一緒に帰る所をほかの人に見られると互いに大変ですから」
「そうだね、それで何処にする?」
次の話題は事前に予想していた集合場所についてだ。校門の前など人目がある場所では余計の噂が流れるかもしれない。
僕は席を立ち一つの資料を取り出して机の上に広げる。
「ここ周辺の地図だ、必要なら使ってください」
「ありがとうございます、オリジナルですか?いろんな情報がありますね」
「ああ、部活の一環でね」
広げた地図には公園などの状況だけではなく、コンビニなど事細かい情報が載っている。気分で作成したものだが、かなり凝ったものにしている。
その地図を独自に開発したアプリで見ればおすすめのスポットが立体的に表示されここら一体の情報を瞬時に知ること出来る。
一応地図がなくとも用意したサーバから周辺地域の情報を手に入れることが出来る。基本そっちの方が使われる。ちなみに情報は独自で調べたものなのでここ周辺地域でないとその利便性はそこらのものより低い。
そういって宇野さんはその地図を見て集合場所であろう所に指をさす。そこはコンビニのマークの所だった。
「私としては少し歩いた先にあるコンビニで集合したいと思っています」
宇野さんが指定した場所は学校から三番目に近いコンビニだ。
一番近いコンビニは多くの生徒が知っており徒歩五分以内の所にある為様々な用途で生徒に活用されている。
二番目の所は人混みを避けたい人がたまに活用する可能性がある為安全を取っての三番目の所にしたのだろう。
しかし、その場所は徒歩10分以上かかる上に独自に調べた情報によれば生徒の帰宅ルートにもなっていたはずだ。
一緒に下校するということがバレない点ではいいかもしれない。しかしながら、隠れて付き合っているカップルではなく宇野さんの様子を監視する目的があり、それを軽視してはいけない。
何故、沙耶ばあは下校時だけ一緒に帰れと言ったのか、宇野さんの様子を監視するなら登校時も一緒の方がいいはずだ。
沙耶ばあの話や宇野さんの行動からも考えられるに現在彼女を不安定にさせているのは家族間との関係などの可能性が高い。
また宇野さんが同じようなことにならないように監視するのであれば登校時も義務付けることの方が自然だ。
何かが起きるとしたら、それは宇野さんが家にいる間に起きる可能性が高い。何かが起きた場合その異変が一番最初に現れるとしたら朝の登校の時間。宇野綾香が表の場に姿を現さないといけないとき。
いち早く異変を知れるタイミングであるはずなのに沙耶ばあは何もしなかった。
つまり、沙耶ばあからの視点では問題が別の所にあったのか、もしくはそうすることが解決方法になりえるということ。
考えすぎならいいのだが、その可能性は極めて低い。それは沙耶ばあが長年勤めてきた旅館の女将という立場であるから。
人との関わりが一番大切になってくる職を長年やってきている人がそんな考えなしの事はしない。
なら下校時に一緒に帰るといる行為にどういった意味があるのか?
少なくとも沙耶ばあはその意味を教えてはくれなかった。質問した訳ではないが事前に教えないということはそう言うことだ。
つまり、僕はこの一緒に帰るという行為をただ実行するだけではいけないということ。
ならば、どうするべきか?その答えはまだ分からない。しかし、どうすればいいのかは分かる。
「宇野さん、その場所だと少し距離があります。それに生徒が下校に使っているルート付近にあるので僕はこちらの方がいいと思います。」
「何もマークがありませんが、何かあるのですか?」
宇野さんは疑問そうに僕の指定した所を見て言う。
それもそのはず僕が提案した場所は地図には何も載っていないところであり、周囲にもないもない。
「それは行くまでのお楽しみです」
僕はそう言って笑って見せる。
何が正解かは分からない。
ならどうするべきか、それは簡単だ。
考えたことを一個一個試していけばいい。
進まないと何も始まらない
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