4-2

「一〇七号より定時連絡。

 第十三海洋生物小隊基地船内サーバに於ける不明瞭領域の内容調査について。

 当該の不明瞭領域には強固な情報保護措置が講じられており、未だ内容を確認出来ず。よって、同小隊長および同船長であるルカ・イヌイ少佐に掛けられた嫌疑が妥当であると断定するに値する証拠はなく、最終判断は更なる調査の後に下されるべきと進言する。

 当方は残り二十七時間を使い、調査を続行する。浄化部隊の投入については、こちらの要請を待たれたい。

 以上、報告終わり。」

 報告書を送信して五分も経たないうちに、端末に暗号通話での着信があった。わたしは回線を開いた。

『報告書を読んだ』上司の声が、頭の中で響いた。『一体どういうつもりだ?』

『どういうつもり、と申しますと?』わたしは内省で問う。

『到着から二十時間以上も経っているのに、領域の中身を確認できていないのはどういうことだと訊いているんだ』

『それだけ強固なプログラムに守られているんです。こちらのバグでも全く歯が立ちませんでした』

『ログを見るに、ダイブの時間が短いようだが』

『あまり長時間潜っていると対象に疑われます』

『彼女を庇っている、と見られても仕方のない内容だ』

『わたしもそう思います。ですが、ここに来させたのは〈件〉です』

 上司が言葉に詰まる。〈件〉の決定に異を唱えられる人間など、元帥も含め国防軍にはいない。

『時間はまだあります。期限までには必ず、答えを出します』

『セキュリティ突破の手立てはあるのか?』

『そのための顔見知りです』

 電波不良を装って通信を切った。上司は何か言おうとしていたが、わたしの利になる話でもないだろう。

『いいのかい、ナギ?』

「何が?」

『僕はあくまで支援AIだから、あまり余計なことは言いたくないんだけど』

「大丈夫」と、わたしは言う。「口うるさい監視人だとも思っているから」

『ならよかった。それじゃあ忠告するけど、今のままなら君は大人しく任務を遂行した方がいい』

 わたしがスタンドアロン領域の中を見たことは、記憶に残っている以上、わざわざ報告せずともクラウスに知られている。わたしの個人情報全てを持っているが故にわたしの利を最優先することを義務づけられた(軍の方針ではなくどこかの人権団体によっての、と付け加えておく)この相棒が、わたしの意に反して本当のことを漏らす心配はない。まあ、それも〈信じている〉といった程度のことでしかなく、やろうと思えば軍はいつだってクラウスの記録にアクセスできるはずなのだが。

「それはつまり、知っていることを報告しろということ?」

『〈件〉ほどではないけど、賢明な提案だと思う』

「たしかにね」わたしは頷く。「その提案にそぐわない行動をわたしがしたら、あなたはどうする?」

『どうもしない』クラウスは言った――ルカ先輩と同じ声で。『ただ、少し残念に思うかもしれない』

 わたしは背もたれに寄り掛かり、何の表情もない天井を見上げた。それから、外の光を取り込んでいる船窓へと目を向けた。白い曇り空が、丸く切り取られていた。

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