3-3

 靄の内部には、別の〈海〉が広がっていた。

 周囲には見渡す限りの、星のような瞬きが浮かんでいる。海というより、宇宙空間にいるような眺めだ。

 瞬きの一つ一つは、このディレクトリに保存されているデータである。ドキュメントを始め、画像、映像、データセット、プログラムなど、考えつく限りの形式が揃っている。種類ごとのソートを掛けていないのが、ルカ先輩らしい。

 整理のことはさておき、これと似た眺めを、わたしは別のところでも見たことがある。

 軍の作戦用サーバだ。

「そんなに驚くことではないと思うけど」ルカ先輩が言った。「君は、これを見に来たんだろう?」

 そうだ。

 だが胸の隅では、こんなものは存在しないと信じようとしていた。

「そんな顔をしないで、ナギ。これは悲しむようなことじゃない」

 悲しい? わたしは何を悲しんでいる?

「これは必要なことなんだ。あの子たちのために」

「必要?」わたしは問う。「武装イルカのために、命を張るつもりなんですか?」

「あの子たちはあたしたちのために命を張ってる」

「そうですけど」そうなのだ。武装イルカは軍から支給された備品などではない。ルカ先輩の思考を読まずとも、そんなことはわかっている。わからないのは、わたしが先輩にどうしてほしいと思っているのかということだ。

 ややあってから、わたしは訊ねた。

「どうして、わたしにこれを?」

「君にも手伝ってほしいんだ」

「反乱に、加われと」

「もっと一緒に泳ぎたい」

「断ったらどうなるんです?」

「君は断らない」彼女は言った。「断るなら、もっと前にそうしてる」

「勝算はあるんですか?」

「もちろん。あたしは武士でも何でもないからね。誉れのために勝ち目のない戦なんてしないよ」

 わたしは目をつぶる。一度、頭の中から全ての言葉を追い出した。

「少し、時間をもらえませんか? そう長くは掛かりません」

 ルカ先輩が、頷く気配があった。

「いい返事を期待してる」

 彼女が心の底からそう思ってることが伝わってきた。

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