五、親心あれば任務開始(回想の部 全六章中の四)
「
娘は一礼すると部屋を出た。家にいる点を割り引いても基礎訓練を受けたとは思えないほど隙だらけだった。
「
「打ち割った所を申し上げますと、いまでも任務を取りやめにして頂くようお願いいたしたいと思っております」
「それほどか」
「はい。人には向き不向きがございます。
「有り体を申せ。
「欠けているのではございません。素直すぎまする」
「素直すぎる?」
「人や、観察した状況をそのままとらえておられます。人心や物事の裏を見ようとなされておりません。それどころか裏側を想定していない様子がうかがえます」
「あまりないい様ではないか」
「しかし、わたしをうたがおうともされません。
「のう、
「おうたがいですか」
「いや、実力ではない。心を計りたい」
「心を計る? よくわかりません。しかし、
「そんな堅苦しいものではない。では、よいな」
「お好きに」
壁にならぶ木製の模擬武器を指す。
「よいのか? 間合いには入れさせぬぞ」
「言葉はいりませぬ。始めましょう」
おたがい距離を置き一礼する。
再度突進し、短刀で上半身を突くよう見せかけた。防ごうとした刀が上がり、腹が空いた。そこへ飛びこもうとした時、見せかけの突きに気づいた
「参りました」
「顔をあげよ。なぜ出しかけた術を止めた。光球だな。目くらましをするつもりだったか」
「お見通しとは。この
「答えよ。なぜ使わなかった。刀を上げさせた時に使えばわしとて間に合っていなかった」
「わかりません」
「なに、わからんとは」
「最初の突きでとうていかなう相手ではないと見積もりました。光球は無我夢中で出しかけてしまいましたが刀で立ち向かってみたかったのです。理屈ではありません」
「愚か者。勝ち筋を逃すやつがあるか。それで
「お恥ずかしいかぎりです。まだ自分を捨て去る境地には至っておりません。胸中の名誉や恥が正々堂々とした刀の試合で魔の術をもちいることをよしとしないのです」
二人は無言のまま部屋に帰った。使用人が
手当てを終えた使用人がさがると
「
「どうか、お顔をお上げください」
「それでも任務を止めない。親馬鹿であろう? わしは」
「理屈ではない。わしは
顔を上げると
「わがままで愚かな親子だが、
「
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