三、お膳立てすれば憂い無し? (回想の部 全六章中の二)
三日後、
「資料はお返しします。それとこちらが行動計画です。一枚目が概要です」
部長は目を通した。その目の動きに合わせるようにして説明を始めた。
「
「とにかく、彼女の能力では偽を減らし、真に紛れこませるのが良策かと考えます」
「つまり、そもそも偽装しない、と?」
「そうです。
「ここに『古代言語の変遷と伝播の調査』とあるが」
「そうです。そこで部長にお願いしたいのですが、彼女がこの題目で研究するよう担当教授から指導してもらってください」
「わしがか」
「はい。失礼ながら部長は各方面につながりをお持ちとうかがっております。王立高等学校にもお知り合いは多いかと」
「いつの間に調べた?
二人は笑った。
「それと、身分を詐称しない通常の旅行ということになると、
「だが、それはそれで不自然ではないか。三女とはいえ
「なるほど、おまえが付くのか。
「はい。そのほうのつじつま合わせもお願いします。
「わかった。高等学校と養成所、それから
部長は窓障子を開け放った。
「しかし、暑いな。日毎に暑くなる」
その後、日が落ちるまで細かい所を詰め、
自室でさらに行動計画の細部を修正し、資料を読みこんでいると使用人が来て御館様がお呼びだと告げた。散らかしっぱなしの書類を鍵のかかる箱や引き出しにかたづけてから奥の座敷に行った。
「ご主人様、お連れしました」
「よし、入れ。おまえはさがってよい。もう仕事はないから休め」声が静かに命じた。
「
「はい、父上。おかげさまで滞りなくこなしております」
「嘘をつけ。家にまで仕事を持ち帰りおって。遅くまで灯をつけてなにをしておる」
「国のための仕事は常にあります」
「諜報か」
あざけるような口調だった。
「なあ、
「なんど聞かれましても答えは決まっております。わたしは諜報を卑しい仕事だとは思っておりません」
「親にすら任務を明かせぬのにか。一年も家を空け、そのうえ商人などに身をやつしおって。この
「どのような仕事にも秘密はついてまわります。軍にいても機密事項はあるでしょう。また、任務遂行の方法もさまざまです。国のために働いているのに恥もなにもございませぬ」
それを聞くと
「それに、いい年をして独り身なのはおまえだけだぞ。兄たちのように身を固める気はないのか」
「この仕事、安定して一つところに居られはしません。家庭を持ったり、
「呑気な。末とはいえもうすこし責任感を持てぬのか」
「もちろん、国や王に対する責任は果たします。申し訳ありませんがまだ仕事がのこっておりますゆえ、そろそろよろしいでしょうか」
「勝手にせい」
苦虫を噛み潰したような
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