最終話 逃走

称号[運命から逃げたもの 神]

神が用意した運命から逃げたものに送られる称号

定められた事象さえも逸脱する力を得る

LUKに+補正(特大)


この称号だけは他の称号と明らかに違うところがある。

それは使用に限りがあること。


魔王はLUKの差で魔王が操るスライムを僕が倒せたと言っていたけど、多分それだけじゃない。

他者の行動まで操るなんて運が良かっただけでは流石に片付けられない。


その時は気付かなかったけど、いつの間にか各種ステータス +補正(特大)が各種ステータス +補正(大)に変わっていた。

多分使うごとにどんどんと効果が低くなっていくのだと思う。

上昇するステータスをLUKに戻した今も(極大)ではなく(特大)となっている。

何度も使えるわけではないけど、その分運命レベルに大きく事象に干渉出来るのだと思っている。


何度か魔王にこの称号の力を使うぞ!と脅しのように言ったわけだけど、僕はこの称号を使用する方法を理解していない。


だからこその[逃走]スキルだ。

逃走スキルは逃げる為の最適解を自動的に導いて実行してくれるスキルだと僕は認識している。

SPDとLUKが上がったことで、ある程度僕の意思も反映されるようになったのは何度か試行して確認済みだ。


僕が使い方を知らなくても、[逃走]のスキルが[運命から逃げたもの 神]の称号をうまく使ってくれると信じてスキルを発動した。


そして今、僕は見覚えのある白い空間にいた。

目の前にはあの時シキと名乗った神様がいる。


「面白いスキルの使い方をするね。他の神は出し抜いていたみたいだからそのまま行かせてもよかったんだけど、少し話をしたかったから止めさせてもらったよ」

神様はあの時と変わらず軽い口調で重要なことを言う。

この神が僕を見逃していれば世界を渡れていたということだ。


「話とはなんですか?」

この神と敵対していいことはないと本能でわかるので、気持ちを鎮めて質問する。

こうなることも可能性の一つとして考慮はしていた。

ただ作戦の始まりとしては、考えられる中で最悪の選択肢が選ばれたかもしれない。


「君が元の世界に帰るのを邪魔するつもりはないから警戒しなくてもいいよ。君達がこの世界に連れてこられたのは、君も知っての通り贄を捧げられたからに過ぎない。贄は地球を管理する神に送られ、その対価として地球の住人の中から条件に合う者が差し出される。贄は世界を管理し、良くする為のエネルギーとして使われることから、神の立場として住人を差し出す結論を出さざるを得ないのは仕方のないことだね。僕としては管理するこの世界の住人が増えるだけだから大歓迎だ。それ以上のことは期待していなかったけど、君は良くも悪くも世界に革命を起こしてくれた。本当はもっと緩やかに変革して欲しかったけど、許容範囲かな」


「……そうですか」

結局、何が言いたいのかがいまいちわからない。


「そういうわけで、世界を豊かにしてくれたお礼を言いたかったんだ。お礼に何か気になっていることがあれば答えてあげようか?」


「……桜先生が巻き込まれた立場だったのは何故でしょうか?」

他に聞きたいことがもう一つあるけど、そっちを話すことで結末が変わることを避けたい。


「召喚される者の条件に若者というのが含まれていたからだね。あの人が若くないと言うつもりはないけど、召喚者が求めている騙しやすい年代という意味合いからは離れている。他にはなにかあるかな?」


「いえ、大丈夫です。答えていただきありがとうございました」


「それじゃあゲートを開くからそこから元の世界へと帰るといいよ。君が作ったゲートは僕が握り潰してしまったからね」

記憶にないけど、どうやってか僕は異世界へのゲートを開いていたらしい。


「助かります」

そう答えた瞬間、一瞬目の前が暗くなる。


周りは白い空間のままだけど、目の前にいる相手が変わっている。


「本当に帰ってこれたことを嬉しく思います。よくご無事で」

女神アステリナ様が優しい笑みを浮かべる。

隣には最高神様の姿もある。


「なんとか帰ってくることが出来ました。これも最高神様と女神アステリナ様の助けがあったからです」


「役に立ったようで何よりだ。あちらの世界のことを知る術は限られていてな。向こうでのことを教えてもらえるか?」

最高神様に聞かれ、殺されそうになった所から、ミアと出会い、一緒に旅をして、王となり、帰ることを決めたところまでざっくりと説明する。

その中でたくさんの人に出会い、助けられたとも。


「また辛い別れをさせてしまったようだな」

最高神様はミアと別れて戻ってきたことを言っているのだろう。

だけど僕はミアと別れたとは思っていない。


「大丈夫です。よく考えてどうするか決めましたので」

最高神様と女神アステリナ様を信用していないわけではないけど、何が結果を変えるかわからないので詳しくは語らない。


「女神アステリナに君を家まで送らせよう。その前に君がキリオスで得た力は封印させてもらう。君が力を悪用するとは思っていないが、その力を残したまま帰すわけにはいかないのはわかってもらえるだろう」

それは困る。それだけは了承することは出来ない。


「それは絶対でしょうか?これは僕があの世界で生きた証です」


「絶対だ」


「……やりたいことがあるんです。悪用はしないと約束しますので、少しだけ時間をください」


「だめだ。何をしたいのか知らないが力を封じるまでここから出すことはない」


「ごめんなさい。先に謝っておきます。逃走!!」

僕は再度[逃走]スキルを使い、今度は最高神様から逃げる。

やろうとしていることを話そうか少し迷ったけど、話せば許してもらえるなら、逃走スキルが僕の記憶に残らないところで最高神様を説得してくれるだろうから、僕が自分の意思で話す必要はないと判断した。


経験上、この空間から逃げることが出来れば最高神様は追ってこない。


僕が召喚陣から逃れた時もアステリナ様が来て、最高神様は地上に姿を現さなかった。

キリオスの神シキもそうだ。あれだけ世界が混乱していても神自身が世直しをやりにくることはなかった。


都合の良い僕の勝手な予想だけど、世界のバランスを崩しかねない神は直接世界に干渉出来ないのではないだろうか。

あの時女神アステリナ様が世界に降り立ったのは力を制限されての特別措置だ。女神様自身が力を制限されていると言っていた。



気付くと僕は見覚えのある夜の学校の屋上にいた。

あまり良い思い出のない学校の屋上だ。


「ステータスオープン」

僕はまずステータスが確認出来るのか、確認出来るとして封印されていないのか確認する。

それから、[運命から逃げたもの 神]の称号がどうなったかも確認しておきたい。


「良かった。封印されずに逃げ切れたみたいだ」

ステータスに大きな変化はなく、[運命から逃げたもの 神]の効果がLUKに+補正(特大)からLUKに+補正(中)になっていただけだ。


LUKの数値も、全ての称号の+補正をLUKに改変しておいたので、まだ999でカンストしたままだ。


最高神様から狙われているかもしれないことを除けば、問題は今のところない。


僕は収納から金属の板を2枚取り出す。

この金属板には委員長とオニキスさんが調整した召喚術の術式が彫られている。


1枚には1人を召喚する為の術式が彫られており、もう1枚には一度に複数人を別々の所から召喚するための術式が彫られている。


まずは1人を召喚する為の金属板を地面に置いて魔力を流す。


召喚術には対価となる贄が必要だ。流した魔力は発動させる為に必要なだけであり、贄ではない。

僕が対価として支払うのはあの世界で手に入れた物の全てと、ステータスだ。

金貨をはじめ、魔物の素材などこの日のために価値のありそうなものは色々と集めておいた。

それだけではなく、称号、スキルなども惜しみなく差し出す。必要最低限のスキルと称号は残して。


他にも委員長が少しでも多くの人が帰れるように仕掛けを盛り込んでくれているので、あの国王がやったように人の命を贄として支払わなくても発動するはずだ。


召喚術を発動させて少しした後、ミアが現れる。


「大丈夫?苦しかったりしない?」

前に桜先生からミアは地球では生きられないと聞いている。

だからこそ僕達がキリオスで生きれるようになったように、召喚術を使うことでミアに地球のシステム?を取り込んでもらった。


「大丈夫だよ。ここがハイトくんの世界なんだね。暗くてよく見えないけど、なんだか高い建物がいっぱいあるね」

最重要であるミアを無事に召喚出来たことに一安心する。

ミアを鑑定すると、レベルが1になっていた。

職業は渡航者に変わっており、称号とスキルは何もない。


「無事でよかった。でも、ミアのステータスは全て持っていかれたね。わかっていたことだけど、なんだか少し寂しいね。渡航者っていうのは世界を渡ったからかな」

出来るだけ多くの人を地球に召喚するために、当初の召喚術から不要なものを極力削ぎ落としてもらってある。

召喚する者の条件は無く、どこから召喚するかも指定していない。

さらに、召喚された者に力なんて与えられず、与えられるどころか、召喚される者の力を根こそぎ奪う。

召喚される者から奪った力も贄の対価とする為だ。


「どのくらい残ってるの?」

ミアに聞かれて収納と自分のステータスを確認する。


「収納の中身の2割くらいが無くなったよ。かなり集めたつもりだったけど、これでも全然足りなかったね。もう1枚の金属板でも発動させるから少し待っててね」

ミアを召喚出来なければ、両親にミアという大事な人が向こうの世界で出来たから向こうの世界で暮らすことにしたと話をして、キリオスに戻るつもりでいた。


その心配がなくなったので、戻る為に残していたスキルと称号も贄に捧げることが出来る。


先程とは違う金属板で召喚術を発動すると、少し待った後14人の人が現れた。


委員長や小山君などあの時城から逃げ出した8人と、姫野さんと武藤さんに篠塚君。それから、坂原さん達戦に駆り出された3人だ。


思ったより多かったかな。

本当は奴隷となっている人以外は帰してあげたかったけど、これ以上は無理だ。

帰ってきた人の顔ぶれを見る限りだと、やっぱり僕が帰したいと思う人から順にという感じだ。


「帰ってこれた……」

珍しいものを見た。委員長が泣いている。

委員長はみんなの為に身を粉にして頑張っているように見えたけど、やっぱり委員長自身も帰りたかったんだなと、当たり前のことを思う。


「喜んでいるところに水を差すけど、僕達はこの世界でいなかったことにされてるんだ。それぞれの家族には戻ってきたら記憶を戻してもらえることになっているけど、それ以外の人からは忘れられている。前みたいに生活することは難しいかもしれないから気を付けて」

委員長達は以前に話したから知っていることだけど、姫野さん達は知らないことなので注意事項として伝える。


「元々は家族からも忘れられるところを影宮君が神様に話をしてくれたおかげで家族からは忘れられずに済むの。苦労が絶えないと思うけど、ここにいるみんなでこれからも力を合わせていきましょう」

委員長が僕を庇うように補足を入れてくれる。


「そうだね。定期的に連絡を取り合おうか。僕は他にやることがあるから今日はこれで解散にしよう。とりあえず、1週間後くらいに集まるのがいいかな。悪いけど日程の調整を任せていいかな」

僕は委員長にまとめ役を頼む。


「いいわよ。それじゃあ改めてお礼を言わせて。ありがとう」

委員長達がお礼を言って屋上から出て行き、僕とミアだけが屋上に残される。


「アステリナ様、近くにいますか?」


「気付いていたのね」

アステリナ様が貯水槽の裏から姿を現す。


「いえ、そんな気がしただけです。止めずにいてくれてありがとうございました。もう運が良いだけになってしまいましたが、どうぞ封印してください。もう逃げません。それから、また覚えていませんが、何か失礼を働いていると思います。すみませんでした」

LUKだけはランダムでも僕が帰してあげたいと思っている人が選ばれるように贄として捧げなかったので、封印が必要なのは実質LUKだけだろう。

スキルも称号も全て贄として捧げてしまったので、魔法を使うことも出来ない。


「最高神様は怒っているご様子だったけど、本気で怒っていたらあなたは消滅しているわ。だから大丈夫よ」


「聞くのが怖いですけど、僕が何をしたのか聞いてもいいですか?」

恐る恐る尋ねる。


「以前私にやったような酷いことはしていないわよ。目眩しをして走って逃げただけよ。目眩しといっても街一つ燃やし尽くせそうな火魔法だったけどね」


「…………すみませんでした」

全然目眩しという次元ではないけど、そのくらいしないと逃げられなかったということだろう。


「いいのよ。それじゃあ封印するわね……はい、封印しました」


「ステータスオープン……ステータスも確認できないんですね」

封印された影響か、ステータスを確認出来なくなっていた。


「キリオスのシステムそのものが封印されたと考えて。それから、これは私と最高神様からあなたへの餞別です。受け取ってください」

アステリナ様から宝石のような石が嵌められた指輪を2つ受け取る。


「高そうな指輪ですけど本当に頂いていいんですか?」


「結婚式を挙げることも難しくしてしまったのですから、それで気分だけでも味わってくださいね」


「ありがとうございます。それじゃあミア、手を出して」

僕はミアの左手の薬指に指輪を嵌め、ミアに僕の指にも嵌めてもらう。


「その指輪には魔除けの効果があります。付けていれば病気になりにくくなりますよ。用事も済みましたので私は戻ります。お幸せに」

アステリナ様の姿が消える。


「僕達も行こうか。お母さんとお父さんにミアのことを紹介するね」


「うん」



                完




あとがき

最後までご愛読ありがとうございます。

完結まで書き切ることが出来て一安心しています。

投稿を始めたのが2021年の4月。完結まで1年半と長い間お付き合い頂きました。

この作品は私の処女作で、右も左もわからないまま書き始めました。

この作品のラストは元々考えていたものとは異なり、一度練り直しています。

元々のラストは、ハイトが両親に会う為に地球に帰るか、それとも元の世界に帰ることは諦めてミアを選ぶのか、究極の選択を迫られるという流れでした。

どちらを選んでも読者視点でおかしくないよう、始めに地球での話を長々と書いたわけですが、技量不足もありミアを選ばないとおかしな展開になってしまいました。

ミアを選ぶ予定ではあったんですが、それだとドキドキもワクワクもないわけで……。

最初の作品くらいは幸せに満ちたハッピーエンドで終わらせたいという作者の感情も入って今回のラストにすることにしました。

ミアと一緒に地球に帰り両親と再会する。この最後には満足しているわけですが、そこまでの道のりは自分にもっと技量があればもっと良くなったのでは?という思いはあります。

書き終えて1番思うのは書き始めるよりも終わらせる方が何倍も難しいということ。

それでも最後まで書き切れたのは、投稿ペースが遅すぎるこの作品を読んでくれる人がいたことに尽きません。


応援ありがとうございました!!




下記の作品も投稿しています。

まだ読んでいないという人がいましたら、覗いてみてください。


「イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・」

https://kakuyomu.jp/works/16816452220288537950


「クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです」

https://kakuyomu.jp/works/16816700427057496202


「天職が『盗賊』という理由で追放されました。盗みを極めし男はやがて魔王と呼ばれる」

https://kakuyomu.jp/works/16816927859088841470


「やりなおし勇者は悪役王女を救いたい」

https://kakuyomu.jp/works/16816700428538774974

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クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される こたろう文庫 @kotarobunko719

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