第147話 挨拶回り

「そろそろ出発しようと思っているんだけど、準備は出来てる?」

帰還をしてしまったらもう会うことは出来ないので、お礼と別れの挨拶をこれからしにいく予定でいる。


「大丈夫だよ。行き先はハイトくんに任せるね」

ミアに告白した後、しばらく経った頃から、ミアは僕のことをお兄ちゃんとは呼ばなくなった。

ミアの中で気持ちを切り替えたのだと思うけど、なんだか寂しく思う僕もいる。


「とりあえず魔王のところに行ってくるから少し待っててね。魔王に召喚してもらうから」

僕はミアに告げてから魔王城へと転移する。

魔王城は今は空に浮かんでおらず地上にある。これは、一度は捨てた地上でもう一度魔族の居場所を作ろうとする魔王の気持ちの現れだ。

今はまだ一部の人間以外の立ち入りは魔王によって拒まれているが、逆に言えば一部の人間とは交流を始めているということだ。


「そろそろ帰還することになるので挨拶に来ました。魔王様にはミアと一緒に元の世界に帰る方法を教えていただいて感謝しています」

城門にいた魔族の方に魔王のところまで案内してもらい、魔王に感謝の気持ちを伝える。


「僕の方も感謝しているよ。おかげで人族を滅ぼさずにすんだからね。本当は最後にもう一度君と手合わせ願いたいけど、今の君と戦っても面白くなさそうだから勘弁しておいてあげるよ」


「もしかしたら今の僕を倒す方が以前よりも苦戦するかもしれませんよ?」


「かもしれないけど、勝っても負けてもスッキリはしなさそうだから遠慮しておくよ」


「僕も勝てたとしても嬉しくはなさそうです。魔王様は僕のステータスを鑑定してたんですよね?もしかして以前からLUKの値だけは魔王様より高かったですか?」

未だに魔王に鑑定はしていないので、僕は魔王のステータスの詳細は知らない。

僕とはかけ離れているんだろうなと思っているだけだ。

ただ、これは以前から気になっていたので今更ではあるけど聞くことにする。


「君の運の良さは異常だよ。僕がここまで強いのはレベルの上限が神の加護によってなくなっているからだって話はしてあったかな?」


「聞いてないです」

どんな経緯で加護を授かったのか気になるけど、とりあえず魔王が強すぎる理由には納得だ。

ただ、普通ならレベルの上限まで上がらないので他にも秘密はあると思う。

実際、レベルがカンストしているのを僕の関係者以外で見たことがない。


「僕は最高神から加護を授かっていてね、ハイト君も授かっているみたいだけど、多分ハイト君のは地球という世界の神で僕のとは違う最高神だと思う。どこまででもレベルが上がればステータスもどこまででも際限なく上がっていく。それでもLUKだけはほとんど上がらない。運が良い、悪いっていうのは本来生まれた時には既に決まっていることなんだよ。称号や加護によって上がることはあるけど、それもたかがしれている。ハイト君はレベルが上がるとLUKも含めて2ずつ上がるみたいだね。多分それも最高神の加護によるものだと思うよ。でなければ、状態異常にならないだけというのは最高神の加護としては弱すぎる。地球の最高神がこの世界の最高神に比べて極端に劣っていない限りはね」


「確かに他のクラスメイトはレベルが上がっても僕みたいにはステータスが上がらないので、不思議には思ってました」


「だから、最初に僕がスライムを使って負けた時は負けるべくして負けたんだよ。あの刹那の瞬間に、たまたま使用人に邪魔されるなんてことは普通あり得ない。しかも彼女は時間を勘違いしていたと謝っていた。多分運が介入出来る勝負で僕が君に勝てることは一生ないと思うよ。だからこそ君と再戦した時には、運だけで勝てないように誰にも邪魔されないリングをわざわざ作ったんだから」


「やっぱりそうですよね。力量的に勝てるのはおかしいと思ってました」


「そういうわけだから、運命は君の味方をするはずだよ。君がミアちゃんと無事に帰れることを僕も願うことにする。そしたら、僕のLUKの分も成功率が上がるかもしれないからね」


「ありがとうございます」


「今聞くことじゃないかもしれないけど、失敗した場合のことは決めてあるのかな?」


「もちろん決めてあります。うまくいってほしいと思ってますが、失敗した時に焦って後悔しないようにちゃんと考えてます」


「そう。それならよかった」


「心配ありがとうございます。帰る前にお世話になった人に挨拶したいんです。ミアの移動を頼んでもいいですか?」


「もちろんそれくらい構わないよ」


「助かります。まずはハイトミアにお願いします。その後、カルロという人が村長をしている村にお願いします」


「わかったよ。召喚!」

魔王がミアを召喚する。


「魔王様、お久しぶりです。魔王様がハイトくんとお別れしなくてもよくしてくれたと聞きました。ありがとうございます」

ミアが魔王に頭を下げる。


「最愛の人と別れるのは悲しいからね。ハイト君にさせたことを考えればあれくらいは当然のことだよ。それじゃあ、ハイトミアの屋敷に転送するよ。転送!」

ミアの姿が消える。


「それでは僕も行きます。お世話になりました」

魔王に頭を下げてから僕もフィル達のところに転移する。



「前に説明した通り、僕はもう少ししたら元いた世界に帰るよ。会うのはこれで最後になる。フィル達のおかげで楽しかったよ。重役を引き受けてくれたクルトには感謝してる。後のことは頼んだよ」

みんなを集めて話をする。


「僕の出番は無いと思うけど、その時がくるようならちゃんと軌道修正するからハイトは安心して帰っていいよ」

クルトには僕がいなくなった後の王となってもらった。

王といいつつも、クルトにやってもらうのは裏の王だ。何かを率先してするわけではなく、表向きに王となった人がおかしな行動を始めたら、それを抑止するのがクルトの役目になる。

僕のものとなっていた領土は全てクルトに譲渡済みだけど、その事実を知るのはごく一部の者だけだ。


この世界は個人の力に差がありすぎて、力さえあれば結局思い通りになってしまう。

僕が王国、帝国両方の領土を短い期間で奪えたのが良い例だ。

だからこそ、民主主義が根付き力あるものが偉いという考えがなくなるまでは、裏で暗躍してもらう人がどうしても必要になる。


クルトが悪の道に逸れてしまったらそれまでだけど、僕のそばにミアがいたように、クルトにはフィルが付いているから要らぬ心配だ。

クルトの後任はクルトに任せる。



「僕はミハイル様のところに行ってくるから、ミアは待っててね」


「うん」

しばらく談笑して別れを惜しんだ後、ミハイル様の屋敷前に転移して中に入れてもらう。


「お世話になりました。後数日したら出発します」


「世話になったのはこちらの方だ。何から何まで世話になりっぱなしになってしまったな」

ミハイル様はこういうけど、そんなことはない。ミハイル様が僕のためにしてくれたことは姫野さんのことを筆頭にたくさんあるけど、実のところ僕がミハイル様の為にしたことは何もない。

結果的にミハイル様の助けをしていたにすぎない。


「そんなことはないです。姫野さんのことは特に感謝しています。今彼女が笑えているのはミハイル様の助けがあったからです。ダンジョンを半独占した時にも手を貸してもらっています。十分すぎるほどに助けてもらいました」


「借りを作り過ぎたまま別れることになると思っていたが、そう言ってもらえると少しは肩の荷が下りる気持ちだ」


「それでですね、図々しいお願いではありますが、僕がいなくなった後も姫野さんのことを、彼女が望む限りは手助けしてあげてください」

元々、姫野さんが僕の知り合いだからミハイル様は手を貸してくれただけで、姫野さん単体であれば捕まっている。

今は姫野さんとミハイル様との間で、雇い雇われの関係ではあるけど信頼関係が芽生えているとは思っているけど、再度頼んでおく。


「それはもちろん構わない。彼女は自分の過ちを認め、自分の罪と正面から向き合い、罪を償うために自分に出来ることをやっている。好感の持てる相手であれば君の頼みがなくとも関係を続けたいと思うのは当然のことだ」


「よろしくお願いします。それと、もしかしたら僕が帰還した後姫野さんが急に消えるかもしれませんが、それは姫野さんも元の帰る場所に帰れたということです。変に期待をさせたくはないので姫野さんにはこのことは伝えていません。別れも言わずにいなくなってもそれは僕のせいなので許してあげてください」

結局何人帰れるかはわからない。何人か帰れてもその中に姫野さんが含まれているのかもわからない。

これは、そんな淡い期待なら知らない方が幸せなんじゃないかという僕の勝手は優しさの押し付けだ。


「わかった。彼女にはそれとなく餞別の品を渡しておくことにする。君の言うことが起きなければ日頃の仕事の礼となるだけだ」


「それではこれで失礼します。お世話になりました」

再度別れの挨拶を言ってから屋敷を出る。



その後、ミコト様を介して犬塚さんに挨拶をしてから、ミアと一緒にルカとルイに別れを言い、カルロさんのところに移動してから城へと戻ってくる。


「これでこの世界でやることは全部終わったね。これから作戦に抜けがないか最後の確認をしてくるよ。問題がなければ3日後に僕は帰還する。ミアも何かやり忘れたことがないかもう一度考えて、何かあったらそれまでに言ってね」


「うん……うまくいくか不安?」


「もちろん心配だよ。試すことが出来ないからぶっつけ本番でやるしかない。でも魔王や委員長、桜先生にオニキスさん、他にもたくさんの人に協力してもらって実行する。僕も出来ることはやった。運命の女神様がいるのならきっと僕の味方をしてくれるはずだよ」

何一つ上手くいく保証なんてない。

でも、周りのみんなが夢物語のような希望が現実になるように舞台を整えてくれた。

僕に出来ることもやった。

きっと上手くいくはずだ。



「行ってくるね」

3日後、僕はミアをぎゅっと抱きしめ、絶対に成功させると気合を入れ直した後、一つのスキルを発動する。


「逃走!!」



最終ステータス


影宮 灰人

Lv:99

職業

[逃亡者]


称号 

[運命から逃げたもの 神]

[最高神の加護]

[女神アステリナの加護]

[妹属性]

[ジャイアントキラー]

   ・

   ・

   ・


スキル

[逃走][生活魔法Lv:10][偽装][鑑定][収納][改変][念話][転移]・・・


HP:2060

MP:206


ATK:206

DEF:206

INT:206

RES:206

SPD:206

LUK:999

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