第146話 嘘発見器

僕が王になってから3年が経ち、僕がこの世界から離れる日が刻々と近づいていた。


民主主義への移行はまだ実現出来ていないが、着々と準備は進んでいる。

急に変えるとパニックを生むので、これは僕がいるうちに実現させるには無理があった。

今後変わることへの周知から始めている。


引きこもっていたクラスメイトの対応は桜先生の努力の甲斐もあって全員無事働くことになり、問題が1つなくなった。


1年間の奴隷としたクラスメイトも自由の身となり、大体は奴隷の時にやっていた仕事をそのまましている。

奴隷の時と違うのは働いた対価が得られるということと、首輪が外れたことでサボろうと思えばサボれるようになったということだ。

サボっていれば周りからの信用は得られず追い出されるので、ちゃんと働くしかないことには変わらないけど……。


奴隷ではなくなり仕事を選べるようにはなったけど、別の仕事をやりたい人には仕事の斡旋はしていない。ただでさえ処刑されてもおかしくないのを1年という期間で許しているのだから、これ以上の優遇は出来ない。

この件に関しても、手が離れたと考えていいだろう。



今日は新しく開発してもらった魔導具の使用テストも兼ねて、奴隷期間を暫定的に3年としたクラスメイトの反省具合を確認する為に、対象のクラスメイトを城の会議室に集める。


3年というのは桜先生と話して決めただけなので、本人達は死ぬまで奴隷と思っているだろう。

本当に死ぬまで奴隷としたクラスメイトとは、やらされる仕事の過酷度が違うだけだと。


会議室には桜先生も来ており、成り行きを見届けてもらい、自由の身とするかどうかの相談に乗ってもらう予定だ。


「これから隷属の首輪を外すけど、これは他の魔導具の使用テストをするからであって、奴隷でなくなるわけじゃないから勘違いしないように。これからいくつか僕と受け答えをしてもらうけど、それが終わったらまた嵌めてもらうから」

全員集まった所で隷属の首輪を一時的に外すことを伝える。

隷属の首輪が付いていたら、魔導具の使用テストにならないからだ。


何か暴言でも飛んでくるかと思ったけど、皆黙ったままなので、詳しい説明をする必要はないと判断して隷属の首輪を外していく。


「はい、それじゃあまずは高橋君からね。目の前の板に手を乗せながら質問に答えてくれればそれでいいから。高橋君は人は殺してないみたいだけど、街の人に暴力を振るっていたね。火魔法を使えばどうなるかくらいわかると思うけど、なんでそんなことをしたのかな?」

以前書いてもらった紙を見ながら質問する。

この質問の答えは紙に書いてあるので、これはとりあえず聞いただけだ。


「高村に脅してくるように言われたから……」

高橋君がおどおどしながら答えると、高橋君が座っている椅子に付いている小さいランプが黄色に光る。


「断ることも出来たよね?」


「断ればどうなるかわからないし、高村に反抗する奴の食事はかなり減らされていた」

またランプは黄色に光る。


「減らされていたと言っても、城で働いている使用人の人と同じになるってだけだよね?減らされていたというより、贅沢出来なくなると言った方が正しくないかな?」


「……そうです」

今度はランプは青色に光る。


「高橋くんは自分が贅沢をする為に高村の下についたってことで間違いないよね?」


「……はい」

ランプは黄色に光る。


「一歩間違えれば焼き殺していたわけだけど、自分のやったことを心の底から反省してる?」


「反省してます」

ランプは青く光る。


「それじゃあ次は中野君ね」


同じように残りの人も受け答えしてもらう。


「それじゃあ、また全員隷属の首輪を嵌めてください。その後もう一度同じ質問に答えしてもらいます」


全員に隷属の首輪を嵌めさせてから、高橋君から順番に先程と同じ質問をする。


さっき椅子のランプが青く光っていた質問には同じ答えで、黄色や赤に光っていた質問には違う答えが返ってきた。


違う答えが返ってくるのは隷属の首輪によって嘘や誤魔化しでの返答が出来ないからだ。

今回は椅子のランプは毎回青く光っている。


うん、魔導具は問題なさそうだね。

ちゃんと嘘を言えば赤、嘘や誤魔化しが混じれば黄色、本当のことを言えば青く光っている。


黄色を入れてもらったのは、最初の試作品は少しでも嘘が混じると赤く光ってしまい、本当のことを言っているつもりでも嘘だと判定されることが多々あったからだ。


僕には詳しいことはわからないけど、あの板が魔力の流れを感知して本当のことを言っているのかどうか判定しているらしい。


今後、国の定例会議などはこの部屋を使って行ってもらおうと思って、魔導具職人の方には知恵を振り絞ってもらって作ってもらった。

会議中に嘘を言ったとわかれば、どれだけ魅力的な話だったとしてもそれが相手を騙そうとしているとわかり、悪意のある発言や私腹を満たす為の発言を除外することが容易になるからだ。


傍聴席も作ってもらい、会議は誰でも見れるようにしてある。入れる人数には限度があるけど、悪い噂はすぐに広まるだろう。


罪人を裁くのにも使えそうだと思い、今回クラスメイトに協力してもらった。

毎回嘘が言えないように誓約書を使えばいい話ではあるけど、アレは作るのにもある程度手間が掛かっているので、気軽に何度でも使えるこの魔導具の方が使い勝手が良い。


「必要なことは済んだので与えられた仕事に戻ってください」

全員の受け答えが終わった後、桜先生を残して全員仕事に戻す。


「中野君は高村に命令されたから無理矢理って言っていたのに結局は自己のために高村に協力していたし、全然反省もしてないみたいですね。未だに周りのせいにして、自分の落ち度は低いみたいに思っているのは庇いようがないです。他は奴隷に落ちて頭が冷え、程度の違いはあってもちゃんと自分の過ちを反省しているようなので、中野君以外は自由にしていいと思います。桜先生はどう思いますか?」


「元々反省していれば解放するという話だったので、それでいいと思いますよ」


「それじゃあこの後首輪を外しに行ってきます。話は変わりますけど、この3年でこの世界は良くなったと桜先生は思いますか?」


「影宮君はどう思っているのですか?」


「元々、この世界に住む人全てが悪いわけじゃなくて、圧政を敷いていた国王と、それを放置して自分の国の発展だけを気にしていた皇帝やそれに同調する貴族達という膿を排除しただけで大分住みやすい世界になったとは思ってます。ただ、民主主義の件とか納税の量を全体的に減らした件とか、長い目で見た時に果たして良い方向に進むのか不安です。今は治める税が減って喜んでいる人は多いですが、それは何かあった時に国が使える資金が減るということで、それで多くの人が苦しむなら本末転倒なんじゃないかなって。それから、引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、結末を見ずに元の世界に帰るのは無責任だと感じてます」


「何が正解かは私にもわかりません。ただ、この世界を良くしたい、生活を豊かにしたいという気持ちが大事だと私は思って動いてます。そうすれば紆余曲折しながらでもきっと明るい未来はいつかやってきます。そう信じて進むしかないです。それから、確かに無責任かもしれませんが、影宮君が始めたことで何か悪い結果になったとしても、以前の王のままよりはマシなはずです。気にするなというのは無理かもしれないけど、元々私達はこの世界の住人ではない部外者です。後のことはこの世界の人が良くしてくれると信じて帰るべきです。影宮君はずっと帰りたいと思っていて、せっかくミアちゃんと一緒に帰れる可能性も見つかったのに、帰らずにここに残って後悔しませんか?」


「多分後悔します」


「それなら考えるだけ無駄ね。さっきの質問に答えるけど、私はこの3年でこの世界は大分豊かになったと思っているわよ。税を軽減したといっても今までが重税過ぎただけだし、不作だった土地には食糧を配るように制度も整えた。影宮君が王になってからのことだけじゃなくて、フィルちゃん達が頑張ってくれているおかげで獣人の人が普通に街中を歩いているのを見かけるようになったわ。確実にいい方向に流れ始めていると私は思うわよ」


「ありがとうございます。少し気持ちが楽になった気がします」


「委員長ちゃんに頑張ってもらっていたけど、うまくいきそう?」


「わからないです。もしかしたら全員帰れるかもしれないけど、ミア1人も無理かもしれないです。何を犠牲にしてでもミアと別れるつもりはありませんけど……」


「ふふ、以前とは違う意味でラブラブね。準備は万全?やり残したことはない?」


「やれることはやったと思います。やったのはほとんど僕じゃなくて委員長とオニキスさんがですけど」

オニキスさんは錬金術関連だけでなく、術式の解読に必要な知識まで持っていた。

失われた秘薬を生成するのに必要な知識として学んだそうだけど、その知識を活かしてもらい1人でも多く帰還できるように協力してもらった。


「後は無事うまくいくことを願うだけね」


「はい」

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