第125話 話をつける

僕が王座に座って待っていると貴族らしき男が3人入ってきた。

兵士を何人も連れている。


鑑定してみると、やはり貴族だった。男爵2人と伯爵が1人。

確か男爵よりは伯爵の方が偉いよね?伯爵ってどのくらいの位置なのかな?偉そうではある。


「侵入者というのは貴様か?この忙しい時に……」

伯爵は大分イラついている。


「僕が王になった今、今まで貴族だった者をどうするかは僕の気分次第だよ。言葉遣いには気を付けた方がいいと思うよ?」


「何を意味不明なことを言っている」


「王国は帝国との戦に負けたんだよ。完全に負けて全ての領土を失った。僕の策略で王国の領土は、帝国のものではなく僕のものになった。わかるかな?」


「戦場まではここからどれだけ急いでも3日は掛かる。戦は今日からだ。よって貴様の言っていることを信じることは出来ない」


「遠くの人と連絡を取る方法はある。それから長距離を短時間で移動する方法もあるよ。どうやったかを君に教えるつもりはないけどね」


「おい、こいつを捕まえろ」

伯爵は僕の言うことを無視して捕まえるように兵士に命令する。

兵士達は僕を捕まえようと槍を構えて迫ってくる


「王になったことを今証明することは出来ないけど、僕の地位を証明するものは1つあるよ。ほらこれを見せてあげる」

僕は襲ってくる兵士の槍を掴んで、ギルド証を見せる


「……ひっ!」

ギルド証を見た兵士は腰を抜かして、尻餅をつきそのままズルズルと後退りしていく。


周りの兵士はそれを見て、僕を囲んだまま動きが止まる。


「そこの君、そう。あの伯爵にも見せてあげてよ」

僕は兵士の1人を近くに来るように手招きする


「え、あ、はい」

呼ばれた兵士は槍を構えたままゆっくりと警戒したまま近づいてくる。


「はい、これをそこの伯爵に見せてね。知らなかったんだから今回だけは見逃してあげるよ」

僕は警戒する兵士にギルド証を無理矢理渡す。

ギルド証を見た兵士は動揺して槍を落とす。


「はい」

僕は槍を拾って兵士に渡す


「す、すみませんでした」

兵士は真っ青な顔で謝る。


「今回だけは見逃すって言ったよね?許してあげるから伯爵に渡して来てね」


「は、はい」

兵士はダッシュで伯爵の元まで行き、ギルド証を伯爵に渡す


「え、Sランク冒険者……」

伯爵はギルド証を見て驚く。


「僕と敵対しない方がいいことはわかるよね?」


「い、いや、しかし……Sランクの冒険者は把握しておりますが、あなた様のような方は存じておりません。いえ、疑っていると言うわけではないのですが……」

否定しつつも、話し方が明らかに変わった。

ギルド証は魔道具だ。簡単には偽造できない事を理解しているのだろう。


「訳あって王国には僕の情報が流れないようにしてもらっていました。僕の顔に見覚えはありませんか?」


「……まさか。いや、しかし。あの者は処刑されたはずだ」

確信はないようだけど、気づきはしたようだ。


「自分を死んだ事にするくらい簡単に出来るんですよ。まあ、これでSランクということは信じてもらえたかな?信じられないなら、信じてもらう為に城を破壊でもしましょうか?それか信じてくれる人が出てくるまで倒していけばいいですかね?」


「やめてくれ。いや、やめてください。それでは今回の騒ぎもあなた様が?」


「そうだよ。召喚した異世界人がいなくなったんだよね?」


「はい、その通りです」


「今この城にいる中で1番権力があるのは君でいいのかな?」


「は、はい。その通りです」


「数日もすれば、王国が戦に負けたと知らせが届くだろう。それまで異世界人に危害を加えないと約束してもらう。今は隠れてもらっているから探すのをやめるだけでいい。いいね?」


「し、しかし……」


「数日もすれば僕の言っていることが真実だったとわかるよ。それまで探す手を止めればいいだけ。僕の言っていることが嘘だったら再開すればいい。それとも僕と敵対する?Sランクであることは信じているから対応を変えたんだよね?」


「わ、わかりました。おい、今すぐ召喚者捜索の手を止めるように城中に言ってこい!これは命令だ」

伯爵が兵士に指示を出す。

兵士達は慌てて部屋から出て行く


「これでよろしいですか?」


「うん、話を聞いてくれてよかったよ。無駄に血を流さなくて済んだ。僕はこれで一旦出て行くけど、城の中には僕の協力者がいるからね。約束を違えたらすぐに制裁しにくるから気を付けてね」

僕は伯爵と話がついたので転移で篠塚君の所まで行く。

伯爵の目の前から消えたことで僕の言っていることの真実味が増しただろう。


「お待たせ。とりあえず、今この城で1番偉いらしい伯爵と話はついたから、捜索は一旦終わるはずだよ。それでも隠れてた方が安全ではあるから、あと1週間くらいはこのまま隠れていて欲しい。僕が王になったことがこの城にまで伝われば、出てきても問題ないからね」


「おう、ありがとな。この場所はうまく隠してあるから見つかることはないはずだけど、上でバタバタしていればみんな不安がるから助かるよ」


「僕は戻るけど、捜索が再開されるようなら念話で教えて。すぐに来るから」


「おう」


僕はそれから食料庫に行き、城で生活している者がギリギリ困らないくらいの食材を残して収納へと入れる。


これで王城で今やることは終わったので、ミア達の所へと転移で戻る。


委員長は既に戻ってきていた。先生もいる。


「遅かったけど、何かあった?」

ミアに聞かれる


「特に問題はなかったよ。王城にいる人は、まだ負けて領土を全て失った事を知らないから、時間が掛かっただけだよ」


「そっか。何もなくて良かったよ」


「うん、それじゃあ行こっか」

僕は馬車に乗り込む


何故か先生も馬車に乗った


「先生、この馬車は逆方向ですよ?」

僕は先生に教える。先生はフィル達と帰る予定のはずだ


「私も行く事にしたわ。残してきた生徒が心配だから……」


「そうなんですね。わかりました」

さっきミアに叱られたばかりなので、ちゃんと学習して何も言わない事にする。


「……あれ?そうなると坂原さん達はどうするんですか?」

何も言わないようにと思ったけど、気になった。


「フィルちゃんにお願いしたから大丈夫よ。それに街まで行けば姫野さんも小山君もいるからね」

フィルが了承しているなら別にいいか。


「それなら心配いりませんね。夜間で大変だとは思いますけど、王城までお願いします」

僕は御者の方に馬車を出してもらう。


夜間で危ないので、スピードは落としてもらって光魔法で辺りを照らしながら進む。


光魔法は委員長も使えたので3人で順番に使う。

先生も代わると言ったけど、杖の能力だけで魔法を使うには、先生のステータスでは厳しかったので諦めてもらった。

使えることは使えるけど、消費魔力が多すぎたからだ。


順調に進み、予定通り馬車は朝になる前に最初の村に到着した。


———— ———— ———— ————

新作始めました。

今作は短編で完結まで書き終えてからの投稿になります。


「やりなおし勇者は悪役王女を救いたい」

https://kakuyomu.jp/works/16816700428538774974

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る