第126話 援助する
最初の村に到着した。ある程度明るくなってから村の中に入る。
「村長さんの家はどこですか?あ、これどうぞ」
僕は適当に外にいた男性に声を掛ける。
あまりにもフラフラしていたのでパンを渡した。
「本当にもらっていいのか?金ならないぞ?」
男性は疑いながらもパンを受け取った
「差し上げますよ。それで村長の家はどこです?」
「ああ、村長の家はあれだ。ありがとな」
男性は1つの家を指差し、お礼を言ってからパンを食べ出した。
僕達は村長の家に入る。村長の家と言ってもボロボロだ。
「失礼します。村長の家で合ってますか?」
僕は中に聞こえるように呼ぶ。
「ああ、私が村長だ。どなたですかな?」
村長が出てくる。初老のおじいさんだ。
「話があるので中に入れてもらっていいですか?」
「……どうぞ」
村長は警戒しつつも中に入れてくれる
「こんな辺鄙な村に何用でしょうか?」
村長に聞かれる
「村長は昨日、帝国と戦があったことはご存知ですか?」
「ええ、存じ上げております。今回の戦では村民が徴兵されませんでしたので、皆喜んでおりました」
やっぱり誰も戦になんて行きたくないんだね。
「その戦ですが、帝国に完全に敗れて、王国は全ての領土を失いました。これからは僕がこの国の王となります。正確には王国は昨日なくなり、僕の治める新しい国になりました」
「え?あ、はい。え?」
村長は理解しきれていない。いきなりそんな事を言われても仕方ないか。
「すぐに理解しろとは言いませんが、村の人にも伝えておいて下さい。また後日、別の方から話があると思います」
「……新しい王様ということですか?」
村長が言う
「そうです。僕が王です。ハイトといいます」
「ご無礼を失礼しました。どうか私の命だけで許しては頂けませんか?家族は許して下さい」
村長は平伏して頭を下げる。村長の言葉で今までどれだけ酷い目に遭っていたかがわかってしまう。
「気にしてませんので顔をあげて下さい。僕はこの国を良くしたいと思っています。時間は掛かると思いますが必ず良くします。今困っていることはありませんか?」
「ありがとうございます。困っていることはありません。そう言って頂けるだけで幸せです」
村長はそう言ってまた頭を下げた。
「あの困ってないはずがありませんよね?さっき外であった人はフラフラでしたよ?国の復興の為に村に寄ったので、正直に話してくれないと困ります。遠慮は要りませんので言ってください」
僕は村長にもう一度困っている事を聞く
「……井戸の水が枯れかけていて、飲む分しかありません。畑に撒く水が足りずに今年も不作でした。それでも収穫出来た麦のほとんどは、徴税されて持っていかれてしまいました。食べるものがほとんど残っておりません。このままでは冬を越す事が出来ずに何人かは命を落としてしまいます」
村長は話してくれる
「水があれば作物は育ちそうですか?」
「井戸が枯れてさえなければ育つと思います」
「それならこれを使ってください。あと作物が育つまでには時間が掛かるでしょう。食料も多くはありませんが置いていきます。村のみんなで分けて下さい」
僕は水の魔石を使った魔道具と食料を置いて行く事にする。
食料は倉庫の場所を聞いて、村長が見ていない時に詰め込んだ。
粉の状態の麦も大量に仕入れて収納に入っているので、村を回っても無くならないはずだ。
まあ、無くなっても転移で買い出しに行けばいいだけなので問題はない。
後は魔道具。魔力を流すと水の魔石が魔力を水に変換してくれる。
誰でも簡単に水魔法が使えるようなものだ。
実際には空気中の水分をなんたらかんたらって錬金術師さんが言ってたけど僕には理解できなかった。
魔力は大量に使うけど、水が不足しているなら必要なものだろう。
これは井戸の側に設置する。
「これは何でしょうか?」
村長に聞かれる
「これは魔力を水に変換する魔道具です。魔力を大量に使いますが、魔力がある限りは水が出てきます。試しに使ってみますね」
僕は水が出てくる所にバケツを置いて魔石に魔力を流す。
すると水がドバドバっと出てきた。
「こんなにも水が……」
村長は感激しているようだ。
「こんな感じです。村長も使ってみて下さい」
村長は魔石に手を置き、魔力を流す。
チョロチョロチョロと水が出てきた。
「はぁはぁはぁ。ありがとうございます。これで水が手に入ります」
村長は今にも倒れそうだ。
出てきた水はコップ1杯分くらいなので、労力に対して得られる水は少ないように感じる。
「体験してもらってわかるように魔力を大量に使いますので、村の人達と協力して使ってください。くれぐれも魔力の多い人に任せきりにして無理をさせないようにして下さいね。魔力を提供してもらう代わりにその人の畑の世話をするとかうまく分担して下さい。それから水魔法が使える人が使うと、魔法の補助をしてくれるので、少ない魔力で水を出す事が出来ます」
「ありがとうございます。本当にありがとうございます。これで誰一人欠けることなく冬を越せそうです」
「それでは僕達は病人を治してから次の村に行きます。何か困ったことがあればこれからも遠慮せずに言ってください。領主が今と同じかどうかはわかりませんが、話を聞いてくれるようにはしますので」
前もって村長に言って怪我や病気を治して欲しい人は広場に集まるようにしてもらっている。
村長から説明はしてもらっているけど、僕達のことを信用出来ない人は仕方ない。集まった人だけを治す。
慈善事業ではあるけど、こちらから頼んでまで治そうとは思っていない。皇帝のせいで時間も限られているのだ。
信じて治されるのも、信じずに現状維持するのも本人の自由である。
広場に行くと10人くらいの人がいた。
みんなこちらを伺っている。
「こちらに順番に並んで下さい」
僕とミア、委員長の前にそれぞれ並んでもらうように言う。
でも誰も自分から並ぼうとはしない。誰かが先に試してくれるのを待っているのだろう。
気持ちはわからなくないけど、こちらとしたら気分の良いものではない。
「どうしたんですか?早くして下さい」
時間は有限だ。今日のうちに後2つは村に行きたい。
僕が再度呼びかけても、譲り合っているようで実の所押し付けあっている。
重症で死にそうってわけでもなさそうだし次に行くか
「治してほしい人はいないみたいだから次の村に行くよ」
僕はミアと委員長に言って広場から離れる事にした。
「良かったのかな?」
ミアが広場の方をチラチラと見ながら言う。
「本当に切羽詰まってるなら僕達がどれだけ怪しくても頼ってくるはずだよ。だからまだ大丈夫ってこと。それに今治さないだけで、今後病気や怪我をしたら治療が出来る環境は作るつもりだから完全に見捨てる訳じゃないよ」
「影宮君ってやっぱり変わったよね?」
委員長に言われる
「そうかな?」
「今のが良いのか悪いのかはわからないけど、自分の思ってる事を言うようになったなって。前は思っている事を全然言わなかったでしょ?」
うーん、そうだったかな。……そうだったんだろうな。
委員長はそう言うけど、今でも言えない事があるんだけど……。
馬車に乗り込もうとした時に、馬車の側に男の子がいる事に気づいた。
「お兄ちゃん達が怪我を治してくれるって聞いたんだけど……」
怪我を治してほしいようだ。この子はさっき広場にはいなかった。なんで広場に行かずにここで待ってるんだろう。
「そうだよ。君はどうして広場じゃなくてここで待ってるのかな?」
「僕はこの村の住人じゃないから……」
ん?どういうことかな……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます