ほねがらみ読書感想文

あきかん

私は虫になりたい

 私は虫です。芦花公園でぶんぶん飛び廻っているゴミ虫です。


 大型新人・芦花公園著作『ほねがらみ』を読み終えて、古参面をしたく冒頭のような文章が思い浮かんだのがいけなかった。

 ロカ先生、ロカ先生と心の中で呟くも表に出すことはしなかったけれども、この際、大きな声で叫んでしまいたい。

 あなたは『ほねがらみ』読みました?ねぇ、早く読んでくださいね。と、登場人物に成りきって薦めたくなる。そんな傑作だ、『ほねがらみ』という本は。

 怖い。身の毛のよだつという感覚を久し振りに体感した。ずずずずず、と読み進める度に這い寄る■■■。それが何とも恐ろしい。まるで、力士の摺り足の音のようなそれは、逃げても逃げても近づいてくる。土俵で囲まれた綱が結界であるように、そこから逃げ出すことはできないのだ。

 ロカ先生。ロカ先生。最近の相撲は物足りないと思いませんか。個々の力士の技量は上がっている。大関になってもおかしくない力士は両手で数えきれないほどだ。正代、朝乃山、高景勝の大関はもちろんのこと、奇跡の復活を遂げた関脇照ノ富士、小結の高安、御嶽海、大栄翔にしても優勝争いをするだけの力を備えている。まさに、今の相撲界は群雄割拠の戦国時代と形容してよい。

 しかし、ロカ先生。ご存知の通り、最近は綱取が不在なのです。まぶたを閉じれば思い出す、朝青龍と白鵬の大一番。強烈な両者のぶつかりは観客の声を奪う。それはまた、視聴者や解説者の声すらも奪ってしまう激しいものだった。そこから始まる力と力、技と技の応酬に心奪われたのは今でも鮮明に思い出せます。

 相撲は神事であると言います。横綱は神のよりしろであると言います。つまり、ここ数場所の相撲は神が不在であったと言うことです。

 何で『ほねがらみ』の感想で相撲の話をしているのか、と言われましても、すべての話はつながっていると答えるだけです。つながっています。綱取。綱。それは蛇を模したものであると言われる事があります。神社のしめ縄は蛇を模したものであると言います。横綱とは、綱を取るもの。つまり、蛇を取るもの、占めるものでもあるのです。

 ここ数年、大横綱の白鵬の休場が続いております。これは我らが国、日本を占める神の不在、転じて魔と現世の境界が曖昧になっているということです。だから、■■■が現世へと姿を現してしまう、または拡散してしまう事につながっているのです。

 相撲の起源であるところの野見宿禰と當麻蹶速対戦、勝者である野見宿禰の出身である出雲の国の、同心円上に広がる共通の方言がある地域は、■■■を拒む境界線であるとは考えられないでしょうか。

 ■■■の三文字の伏せ字。これに当てはまる文字は、本当は『りきし』ではないかと邪推します。そうです。全てはつながっているのです。

 そもそも、相撲とはヘブライ語のシュモーの当て字であると言います。旧約聖書の創世記第32章には、イスラエル民族三大父祖のひとりであるヤコブが、天の御使いと夜明けまで、暗闇の中で取っ組み合いの格闘をしたことが書かれています。夜、川沿いに一人残されたヤコブは、突如として暗闇に現れた神の使いと組打ちをし、夜明けまで格闘したのです。そして神の使いはヤコブを打ち負かすことができず、力づくしで勝ったヤコブに、「イスラエル」という新しい名前を与えたのです。この格闘の結末こそ、イスラエルが神の選民であることの証であり、ヤコブは「わたしは顔と顔をあわせて神を見たが、なお生きている」と驚嘆したのです。それはイスラエル国家の始まりをも意味していました。

 これが相撲の起源であります。力士とは、神に抗うもの。神とは異なる力を持つものでもあります。つまり、ロカ先生。全てはつながっているということですよね。先生は直接述べるような野暮なことをなさるお方ではないと存じ上げております。しかし、ロカ先生。『ほねがらみ』を読み終えて、わたしは気がついてしまったのです。あれは『力士』なのだと。あぁ、そうに違いない。それは誰もが寝静まった丑三つ時に、柱稽古をする音だったのですね。ずずずずずずずずずずずずずずず、は摺り足の稽古。手足がねじ切れるような柔軟訓練を積みあげ、人は『力士』になるのだと、そういう事ですよね、先生。わかりました。とても良くわかりました。すべての話はつながっていると。『ほねがらみ』は力士へと至る過程であると。そして、誰もが力士二十人ミサキになってしまうのだと。そういうことですよね、先生。

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