② 初詣

先週にクリスマスをしたばかりだというのに、神社に行くのは罪なのか。という俺の質問に先輩は面倒くさそうな笑みを浮かべて「ただの行事でしょ」と言った。


クリスマスも初詣も今日の多くの日本人にとっては、ただの行事なのか。となるほどと感心した。感心のあまり、昨日の大掃除の時から流れ続けている鼻水が、鼻ちょうちんを作っているのに気づかなかったほどでもある。


神社への道は混んでいた。初詣のために設けられたらしい臨時駐車場からはありとあらゆる年齢の人が同じ方向に歩いていく。俺たちもその列に続き、歩みを進めるごとに赤い鳥居が近づいてくる。「鳥居って女性器が元になってるって説があるらしいよ」「なに正月から変なこと言ってんのよ。」などとたわいのない会話を繰り返すうちに、気がつくと俺たちは階段をのぼり終え、賽銭箱の目の前までやってきていた。



「内定もらえますように。内定もらえますように。」人生の夏休みも終わりに差し掛かっている中、何よりも大切な神頼み。手を合わせ、すり合わせながら何度も何度も唱えて、目を開けた。

神頼みの時間が余程長かったのか、指の先は冷たくなっている。


帰り道。

ふとある屋台が目に止まった。たい焼きだ。縁起がいいと思ったのか、甘いものが食べたくなったのか自分でもよく分からないが、無性に食べたくなった。とは言え、昼ごはんを食べたばかりだし、屋台の看板によると大きいたい焼きというのがこの店の売りらしい。


「先輩、食べます?俺のやつ」

と言いながら振り返ると、先輩は顔を赤くしていた。白いマスクに赤い顔。前髪がぱっつんだからか、その顔はなにかの国旗のようになっている。


「顔、国旗っす。」と思わず言ってしまうほどには似ている。オーストリアかどこかにこんな国旗があったような気がしたのだ。




「ねえ、付き合おっか。」

「え?いいんすか?」

「童貞捨てたいってお願いしてたし、お姉さんが貰ってあげよう。」


などと酒で酔った勢いからか童貞を捨て、付き合い始めた原因は、俺の鼻がホコリに弱いから。なんてことは墓場まで持っていくつもりの秘密である。

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五分後に笑えるミステリー 短編集 里仲光 @hikarusatonaka

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