五分後に笑えるミステリー 短編集
里仲光
① 死体発見
「おい!」
と寝ている人を起こすにしては少々乱暴で、でも酔っ払いにとってはちょうどいいくらいの強さで俺はたたき起こされた。
すぐ目の前には、さっきまで一緒に飲んでいた吉田と三谷。
「なんだよあれ。」
「あー?知らねーよ。寝かしてくれよ。」
「どう見ても死体だよな。」
部屋にいる三人の中で一番そんなことを言わなそうな吉田が柄にもないことを言って、初期に戻りたいと言わんばかりに、テーブルの上のコップを取り、一気に飲み干した。
俺が「テキーラだぞ!」という前に。
「グエエエエエエエエーエッ」
小さな恐竜の鳴き声のような声を出しながら床にひっくり返っている吉田を放っておいて、俺と三谷はどう見ても”死体”らしいものに目を凝らす。
時刻は三時半。四限が終わってすぐに集まり、四人で買い物に行ったから、もう八時間くらいは飲んでいたのかもしれない。その間に三谷も寝てしまっていたらしく、頬には赤い跡そして寝ぐせ。
死体らしきものはなぜかつけっぱなしのベランダの蛍光灯の明かりに照らされながら、ビニールシートから頭と足を突き出した状態で夏の夜風に吹かれている。
「人ってのはまちがいないよな?」
「そうだろう。」
目の悪い三谷はメガネはどこに言ったのか懸命に目を凝らしている。
「カギ、しまってるよな。」
「ああ。エアコン付ける時にしめた。」
「なるほど。」
三谷がエアコンをつけたのは、ちょうど九時のニュースの天気予報のコーナーが始まったころだった。
それより後に何者かが入ってきてベランダに死体を置いて行ったか、外から死体を放り込んだやつがいるということだ。
「そういや、お前はいつ起きたんだ?」
「お前が起きる少し前。吉田にひっぱたかれた。」
なるほどな。
となると疑うべきは......。
「お前、人は殺さないよな?」
「俺は、ってなんだよ!!!」
口の端にテキーラをブクブクさせながら、おぼつかない足取りでもさすがは哲学科。
「こういう時は、第一発見者を疑うってのがセオリーだろ。」
「それはフィクションの話で、リアルの俺には関係ないだろう!」
「いや、割とそうでもない。」
法学科の三谷。
「よくあるんだ。こういうケース。大抵は知能犯を装った稚拙な人殺しなんだけど、これが本物のシリアルキラーだったりした事件が、アメリカの......」
ああ、こいつ酔うと話長くなるだった。と吉田と顔を見合わせる。
"死体"はすやすやとベランダで横になっている。
テーブルの上には20本はありそうなストロングゼロの山。テキーラショット対決の時のコップが4つ。
「寒くないか?」
1人で熱弁をふるっていた三谷はそう言ってエアコンの温度を上げた。26度。
と、しばらくすると暖房のような熱風が俺の首筋に当たった。今までどんだけ温度低かったんだよ!とツッコミたくもなるが、あんなに酔っ払っていたんだ。仕方ない気もする。
三谷能力話が長かったからか、吉田はもう寝息を立てていて、三谷もエアコンのリモコンを持ったままウトウトしている。
ベランダまでの引き戸を開けると、夏の生暖かい夜風が頬を撫でる。
「おい!クーラー付けてるし中で寝ろよ」
俺は"死体"にそう言ってから、窓を閉めた。
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