第4話レ・ノーフィアルドのファッションショー 前編

ヴィンセント・ヴァン・ノア・ハイヌダルは甲板の縁でバーラエナ・ホエイルの背を擦っていた。


「吐く…吐く…気持ち悪い…」


「魚人って船酔いするんだな」


「船は陸上生物が乗るものでしょ…。私達は普通泳ぐから船は慣れないの…オエッ」


「わ、馬鹿!ここで吐くな!我慢だ!」


「無理だよぉ…限界…うぷっ」


「わー!駄目だ!」


エナを船から海に突き落とす。


「ふぅー復活だよ!ノア、ナイス!もう私、先に行くね。荷物よろしく!」


「嘘だろ!?おーい!…もう見えん」


まさに水を得た魚、エナは凄い勢いで泳いでいった。


ーー数十分後ーー


「来たね、ノア」


港でエナが腕組みしながら待っていた。


「来たねじゃねーよ…早く荷物持てって…もう足プルプルしてんだよ、こっちは」


「wwwww」


「笑うなって…本当にやばいんだよ…」


グシャ


「あっ、あーーーー!ノアが潰れたー!」



2人は港を離れ、街を歩いていた。


今、訪れている国は再び人間が統べる国であるレ・ノーフィアルド。


織物がとても有名な国らしい。中でも首都のインターシャはファッションで最先端をいき、様々な人々がこの国でファッションを学ぼうと訪れる国。


そして俺たちはそのインターシャにいる。


「街と人が輝いてる…まだ俺に首都は早いって…。なぁ次の国から首都でいいから今回は見逃してくれ…」


「はい嘘。次は次はって言い訳して結局、行かないでしょ」


「…」


図星を突かれた気がした。


「いや別にそんなつもりないけど…いずれ時がきたら俺だって首都にいくつもりだったんだそれなのにエナが無理やり連れてきて俺の気持ちも考えないで…あーもう嫌だ凄い嫌だなんだろうこの気持ち…籠りたい…ゴニョゴニョゴニョゴニョ」


「ゴニョゴニョうるさい。観念して宿を探しにいくよ」


歩きながら宿を探す。多くの人々が訪れる国だけあって色んな種族を街中で見かける。


これだけ人が集まる街だ、ヴィンセント家を知ってる奴がいても不思議じゃない。


不安感からローブのフードを普段より深く被る。


「ノア。友達を作るために旅してるんだよね」


「そうだな」


「どんな人と友達になりたいと思っているの?」


「ど…どんな人と…?」


「例えばユニークな人がいいとか趣味が合う人がいいとか、色々あるよね」


そういえば考えたことがなかった。ただ友達が欲しいとしか考えなかった。もしかして俺、思慮浅い…?


「わ、わからん」


「わからんwww駄目じゃんwww」


「エナはどうなんだよ、酒は?あてはあるのか?」


「ないよ」


「駄目じゃん。いやーこれじゃ俺のほうが早く目的達成するかもなー!」


「あ、宿!」


「聞けよ、耳に魚詰まってんのか」


「wwwwwwうっ!」


笑っていたエナが耳を抑えて苦しみ始める。


「うぉぉぉぉっ!耳からホントに魚がーーー!!!」ピチピチ


「あっすいませ~ん。泊まれます?1名なんですけど」


「聞けよ!…って私もいまーす!」



無事にお互いに一部屋ずつ借りれ、これからについて話す。


「私はひとまず酒場とか蒸留所とか訪ねてみようと思ってるよ」


「俺はなんかブラブラ歩く…で人に声をかける」


「どうせブラブラするならついでに服も買いなよ」


「…?なんで?」


「ぶっちゃけるとそのローブ悪目立ちするよ。ずっとそれしか着てないし」


「善処するよ」


「絶対買ってよ、確認するから。それじゃまたこの宿でね」


「…はい」


「あ、声かけるのはいいけど挙動不審で通報されないようにね」


「うるさいぞ」


「wwwwww」


エナは軽くまとめた荷物を腰に下げ、さっさと出ていった。


「俺も行こう」



宿を出たノアは大通りを歩いていた。


やべー怖い、こんな都会歩くの初めてだ。絶対浮いてるよな…。


エナの言葉が思い出される。


((そのローブ、悪目立ちするよ))


服…買いにいってみよう…。


どの服屋がいいんだ、なるべく敷居が高くなさそうな…。


キョロキョロと見回すノアは腕を掴まれた。


っ!


再びエナの声が頭で響く。


((挙動不審で通報されないようにね))


腕を掴んできたのはお団子ヘアーに丸眼鏡を女性。


「あなた!」


ヤバい!通報される!


「ひっ!す、すみませn」


「あなた!モデルになりませんか!」


「えっ、えぇ!?」



ノアは道の真ん中であの女性にベタベタと体を触られていた。


「あなた身長は?」


「ひゃ、175」


「そう平均的ね。顔も平均的だけど日常みを感じやすい顔でイメージ通りだわ。ただ痩せすぎで頬が痩けてる、でも安心してメイクで上手くごまかしてみせるから」


「待て、なんでやることが決まっt」


「この髪色は地毛!?」


「あ、ああ」


「そういい色ね!やっぱりあなた最高だわ!早くきなさい、着てほしいものがたくさんあるわ!」


「だから、ちょっと待て!」


トンッ


先ほどまでグイグイとノアの腕を引っ張っていた女性が首トンされ力なく倒れる。


側にいつの間にかメイド服を来た褐色肌の女性が立っていた。


「本当にこの人は…」


彼女はため息混じりに呟くと倒れた彼女を抱っこする。


「この人が失礼いたしました」


「あんたら誰なんだ」


「私達はこういう者です」


「…」


「…あの手が塞がっているので名刺を取ってもらってもよろしいですか?右ポケットに入っておりますので」


「あぁ、はい。…では失礼して」


メイド服の右ポケットを探ると1枚の名刺がでてきた。そこには


老舗洋服裁縫店<ファーデンロウ>

代表取締役社長 シャルマント・ミルクティー


と記されている。


ということは…


「今あなたが担いでる人が代表取締役社長!?」


「いや、違います。私が代表取締役社長です、キラッ☆」


メイド服の褐色肌女性が謎のポーズをとる。


「ぐえっ!」


ポーズをとったことで担がれた女性が落ち、変な声をあげた。


「あ、ごめん」


「…シャル…何がおきたの?」


「貧血で倒れたみたい、働きすぎだよ」


あんたが首トンしたんだろと思ったが言葉を飲み込んだ。


「代表取締役社長ならなんでメイド服を着てるんだ?」


「趣味です」


「…そうか。ならその人は誰なんだ?随分と親しげだが」


「うちのデザイナー兼パタンナー兼私の姉です」


紹介された丸眼鏡お団子ヘアーの女性が地面に倒れたまま手を差し出してきた。


「リリナント・ミルクティーです。よろしくだわ」


「ヴァン・ノア・ハイヌダルです。どうぞよろしく」


握手を交わす。


「あ、ついでにそのまま立ち上がるの手伝ってくれると嬉しいわ」


リリナントを立たせると彼女は爛々と目を輝かせ言ってくる。


「ありがとう。で、モデルはもちろん受けてくれるわよね!?」


シャルマントはこう続ける。


「もちろんただとはいいません。引き受けてもらえれば服を差し上げます。それも無料で好きなだけ。どうです、悪い話ではないでしょう?」


ズイッズイッと2人かがりで詰め寄られ、ノアは思わず頷いてしまう。


「そうくると思ったわ!」


「やりましたね、イェイ」


2人は元気よくハイタッチをしている。


「今日はもう予定が詰まってますのでまた明日。宿を決まってますか?」


「ああ」


「ならば馬車を送ります。宿を教えてください」


場所を教える。


「分かりました。では明日の朝にお出迎えにあがります。では」


シャルマントはそう言うと姉と共に帰っていった。


…なんかクセのある人達にからまれたな


ノアはなんかどっと疲れていた。



一方その頃、エナは。


「ない!ない!なーーい!!酒場も蒸留所もどこにもなーい!!!」


「ママー、変な人ー!」


「しっ!見ちゃ駄目、行くよ!」


あまりの酒場、蒸留所の無さに発狂し変な人扱いされていた。


なんで無いの…この国には酒の文化が無いのかな?


ブラブラとあてもなく歩いていると喧騒が聞こえてくる。


なんだろう?


なんとなくフラフラと声のする方へ近づいていくと、洋服店の前に出た。


店の前で女性の店員と白シャツに黒ズボン、サスペンダーを着けた筋骨粒々なLマトンチョップ髭の男性と言い争っていた。


「だからこの店は女性専用店なんです!男性のみでのご利用はできません!」


「んもう!だから心は女性だから大丈夫って言ってんのよ!このわからず屋!」


「体は男性ですよね!?なら無理です!どうか諦めてください!」


「お願いよ~!参考にしたいのよ~!」


「もう!これ以上は営業妨害ですよ!いいんですか、出るとこ出ますよ!」


「うっ…わかったわよ。邪魔したわね」


とぼとぼと寂しげに歩く男性を見て、いてもたってもいられずエナは声をかけた。


「あの…大丈夫ですか」


「あなた…もしかしてさっきの見てたの、恥ずかしいわね。まぁ大丈夫よ慣れっこだわ、理解してくれない人ばかりだもの」


彼(?)は続ける。


「私、裁縫で食べてるのよ。女性物を主に作ってるの。実は10日後にこの国を挙げて盛大なファッションショーが行われるの。その大会に向けてインスピレーションを得ようと服を見に行ったんだけど男性であるだけでほとんどの店は入れてくれないのよ。もう!なんか腹がたつわ!あら、ごめんなさい、愚痴っぽくなっちゃって」


「大丈夫だよ」


髭の男性はエナを見ると名のった。


「私はマロート・エンディベッチよ。優しい人、貴女の名前は?」


「バーラエナ・ホエイルだよ、よろしく。エナってよんでよ」


「私のベッチーってよんでもらえると嬉しいわ」


「わかった、ベッチー。ところで提案なんだけどさ、私と見に行こうよ、洋服。女の私がいれば入れるお店も増えるだろうからインスピレーションを受けやすくなると思うよ」


「そんな気を使わなくていいのよ、エナ!貴女も用事があるでしょ!」


「んーいや。私、この国には洋服を買いにきたんだよね、だからちょうどいいよ。それにベッチー、センス良さそうだし一緒に選んでくれるとうれしいなって」


「エナ…!貴女いい子ね!もう好き!私の全能力を使って貴女に似合う服を見繕ってあげるわ!さ、さっそく行きましょ!」


エナとベッチーはインターシャ中の様々な店を巡った。


「本当にありがとう!この恩は絶対に忘れないわ、エナ!」


「こっちこそありがとう、可愛い服が買えたよ。さすがだね、ベッチー」


「もう褒めても何もでないわよ!」


するとベッチーは当然モジモジし始め、分かりやすく何かに悩むそぶりをしている。


数分後、ベッチーは覚悟を決めたように目を見開いた。エナの手を握るとこう言った。


「後生のお願いよ!エナ、モデルとして私の服を着てファッションショーに出てくれないかしら!」


「えっ!?」


「貴女は顔もスタイルも悪くない!むしろ最高よ!それどころか性格、中身まで綺麗!貴女しかいないと確信してるわ、お願いよ!」


ファッションショー…。エナは自分がランウェイを歩く姿を想像した。


ニヤリと思わず顔に出る。


悪くないかも、これも経験だよね…!


「うん、喜んで。その大役を受けさせてもらうよ!」


ベッチーの表情がパッと晴れた。


「やったわ!もう最優秀も決まったようなものよ!でも今日は遅いから解散よ!貴女、朝起きれるタイプ?」


「うん!」


「じゃ朝から色々とやりましょう。集合場所は今日私たちが会った店でいいかしら」


「いいよ!」


「それじゃバイバイ、また明日ね!」


エナはベッチーにハグされた。


「バイバーイ!」


エナは再びランウェイを歩く自分を想像しながらニヤニヤして宿への帰路についた。

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呪具師のノアは友達100人作りたい 佐野 瑛祐 @sukesan1228

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