第20話 文化祭(6)
「小学4年生の時、学校で描いた絵で賞を取ったことがある。
母と、生まれたばかりの悠を描いた。賞は題材によるものだったと思う。
俺は絵の才能などない。
賞を取った絵が展示されたので家族で見に行った。
その時に稲葉の絵を見た。一目惚れだ。」
「その時から私を?」
「会ったこともない人を好きにはならない。
だが、名前は覚えた。
中学に入学したとき、自分のクラスを探すときに稲葉の名前に気づいた。
入学してから美術部を覗いて稲葉を確認した。
描いている絵を見て同姓同名でもないと確信した。」
「その時から私を?」
「描いている絵が好きなだけで、その人を好きになったりしない。
その後、目で追っているうちに好きになっていた。おそらく。」
「いつの間にかか?いつの間にかなのか?・・・おそらくってなんだ?」
「この前、稲葉が俺の事を好きだと知った。
家に帰ってから、悠に告白されたと伝えた。」
「安藤、告白されたら妹に相談するのか?小学生だぞ。」
「まさか。」
「ならばなぜ?」
「ポケットの事件の時に悠が稲葉に興味を持った。毎日のように今日の稲葉はどうだったと聞かれた。あの日も聞かれた。」
「そうなのか。私の毎日は安藤の妹に筒抜けだったのか・・・。
ん?それがどうした?あれ、何の話をしている?」
「説明の途中だ。」
「続けてくれ。」
「稲葉に告白されたことを知った悠が俺は稲葉の事をどう思っているのか聞いた。」
「それで?」
「俺は稲葉が好きだと気が付いた。」
「ずっと気づかずにいたのか?」
「気づかなかった。悠に稲葉を知ったのはいつか聞かれて、そこからさかのぼっていつ稲葉を好きになったのか調査した。」
「調査した結果どうなった?」
「だから目で追っているうちに好きになった。」
「そうだった。」
「ならば私はどうだ?いつ安藤を好きになった?むむ、思い出せん。いつのまにかか?私もいつの間にか安藤を好きになっていたのか?」
「駄々洩れている。」
「し、しまった。またか。」
よく考えてみると、中学の3年間はクラスも違うのになぜ安藤を好きになった?
「安藤、クラスが違うのにいつ私を目で追うのだ?」
「休み時間や放課後、あと帰り道だ。俺の家は稲葉の家の先にある。帰る方向が同じだ。帰宅途中の稲葉の後ろ姿を見ていた。」
「下校途中に何か事件が起こったことは無いのかしら? 稲葉なら何かやらかしそうだけど?」
いつの間にか3年生の先輩が私の背後に来ていたらしい。安藤に質問した。
「・・・」
安藤が黙り込む。否定しないという事は何かあるのだ。
「安藤、何かあるな?行ってくれ。私は覚えていないぞ?」
「いいのか?」
「かまわん。」
「1年の11月に、稲葉が用水路に落ちた。それを助けた。」
「ん? そんな助けてもらわなければならないほど用水路は深くないぞ?」
「四角い、水が溜まるところだ。」
「ああ、あの少し広くなっているところね。結構深いわね。危なかったのじゃない?」
先輩がそう言うと、安藤はうなずいた。
「案外狭かったので、ばんざい姿で落ちていた。首まで浸かっていた。」
「なぜ、そんなところに落ちたのか気になるけど、それ以上に何故覚えていないのか気になるわ? どうなの稲葉?」
私は首をかしげた。覚えがない。どういうことだ?
私のそのしぐさを見て、安藤が言った。
「稲葉は次の日から高熱を出して3日休んだ。」
「なるほど。それで忘れたと言うのね。」
「安藤、どうして私に教えてくれなかった?」
私が尋ねると、安藤は言った。
「帰り道、稲葉は恥ずかしいから忘れてくれと言った。」
「それで今まで誰にも言わなかったのね。それにしても稲葉、高熱が出たからって忘れるものかしら?」
「私は都合の悪いことは忘れることができる女だ。」
あれ?今のセリフはまずくないか?私の株が絶賛下落中?用水路の水の中まで落ちた?
「先輩、告白中はあまり人が入らないようにしてくれるはずでは?」
安藤は私のセリフをスルーして先輩に言った。
「何を言っているの? 稲葉が「もちろんだ。受けて立つ。」って言った時点で告白は終了でしょ? それに、長いわ。時間切れよ。」
美術室には結構人が入っていた。絵を眺めているふりをしているが、明らかに私たちに注目している。
いつの間にか悠ちゃんとうさみんの妹も離れたところからこちらを見ていた。他人のふりである。
「すでに告白は終わっていたのか・・・そんなすぐに? 今までのやり取りは告白ではなかったのか。では、一体何なのだ?」
「コントじゃないかしら?」
「なるほど。」
安藤、納得しないでくれ。
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告白も終わったので今度こそいったん終了です。
もちろん何か書くかもしれませんが・・・
安藤君は家を出る前にポケットの中を確認するべき。 まこ @mathmakoto
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