第19話 文化祭(5)


 文化祭2日目。

 今日はまずは美術部の売り子からだ。私は描いていないが、何人かでマンガを描いて同人誌を作ったのだ。売って部費の足しにするらしい。私と、2年生の先輩の2人で午前中を受け持つことになっている。


 今のところほとんど客は入ってきていない。まだ、時間が早いからだろう。


 誰か入ってきたと思ったら、安藤だった。両手に花状態である。くっ。

 小学生に嫉妬してどうする。

 おそらく安藤の妹と、うさみんの妹だろう。


「うむ。」


 安藤は私に声を掛けて絵を見て回る。「うむ」って何だ安藤。お前は社長か?もっと何かあるだろう?確かにすでに朝の挨拶を教室で済ませているがもっと何かあるだろう?


 今回はちゃんと心の中で突っ込みを入れたので、安藤一味は鑑賞を続けている。


 安藤が私の絵の前で立ち止まり、じっと私の絵を見続けている。ちょっと恥ずかしい。今回はテーマのせいで普段の絵と雰囲気が違うのだ。


「稲葉さん、行ってきなよ。」


 しばらくの間、安藤が私の絵の前で立ち止まっているものだから、先輩が気を利かせてしまった。


 安藤のもとへ向かう。妹たち2人が興味深そうに私を見ている。安藤は妹を溺愛しているかもしれない。第一印象は重要だ。


「安藤、見に来てくれてありがとう。」


「ああ。告白をしに来た。」


「何だって?」


 今、告白と言ったのか?安藤、妹連れで告白する気か?こんな朝っぱらから?

 しまった、早く告白しろとねだったのがまずかったのか?

 これは、私が悪いのか?私のせいだというのか?


「稲葉、俺の恋人になってくれ。」


 安藤は私が制止する間もなく告白しやがった。やっれくれた。いや、告白してくれた?私は喜ぶべきなのか?・・・よし、喜ぼう。喜ぶことにするのだ!


「もちろんだ。受けて立つ。」


 私は胸を張って答えた。そして、続けた。


「安藤、早く告白してくれと頼んだがもう少し時と場所を選ぶべきでは?」


「大丈夫だ、入口の先輩にこれから告白するからあまりたくさんの客が来るようなら入口で止めてくれと言っておいた。」


 入口を見ると、3年生の先輩がサムズアップしていた。大きめの紙に何か書いて手に持ち、入口を塞いでいる。


 美術室の中には私、2年生の先輩、安藤、妹2人の5人しかいなかった。これは、時と場所を選んでいるのか?


「稲葉の絵の前で告白したかった。」


 場所は選んでいた。


「妹連れでもか?」


「妹連れでもだ。」


「安藤、なぜ妹に告白するところを見せる?」


「見たいと言った。」


「見たいと言ったら、妹に告白するところを見せるのか?」


「今回は、稲葉が快諾してくれると思ったから。」


「妹連れのせいで断られるとは考えなかったのか?」


「稲葉がそんなことで断るはずがない。」


 私たちは何を議論しているのだ?これは告白なのか?告白はまだ続いているのか?とにかく話題を変えよう。


「なぜ私の絵の前で告白を?」


「稲葉の絵が好きだからだ。」


 安藤は私の絵を見て続けた。


「この女性のうっとりとした表情。俺もこんな表情で稲葉に見つめられたい。」


 安藤、何を言っている。とてもうれしくはあるが、今回の絵のテーマはホラーだ。


「安藤、褒めてもらってうれしいが、その女が見つめているのは手に持った頭蓋骨だぞ。」


「こんな風に見つめられるならば頭蓋骨でも構わない。」


「安藤、血迷ったか?」


「そう、血だ。このワイングラスに入っているのは血だろ。俺の頭蓋骨を眺めながら、俺の血を飲むがいい。」


 だめだ、安藤が壊れた。


「私にそんな性癖は無い!」


「知っている。」


「だいたい安藤はこの絵を見るの初めてだろ?」


「ああ、正直驚いた。実は、小学4年生の時・・・」


 安藤が話し始めた。







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