幸福の花嫁
※残酷描写有
※バッドエンドの一種です。
ーー私、エネミー・ヴァイオレットはこれから、好きな人と結ばれて幸せな結婚式を挙げる。
ドレスの色は彼の色に染まれるように真っ白に。添える色は彼の瞳に合わせた黄色と、彼の髪の毛を染めるピンク色。元々旅していたブラッドとソワードは勿論、敵対していたアルバート達も、恋敵のアリスだって招待したら来てくれた。私の事が大好きなお父様に結婚の事を伝えに行くと、まだ子離れが出来ないのか大人気なく泣いてしまって彼と一緒に苦笑したものだ。彼の仕える主人、この国の王様である人は私の婚約者だったらしいけれど、彼の手を握って断ると笑顔で祝福してくれた。我ながら、恵まれ過ぎていると思う。お父様のエスコートでバージンロードを歩き、国中から集まった招待客達の祝福の声と拍手の音が私たちの幸福を後押ししているように思う。
「……エネミー」
白いタキシードに身を包んで、髪を結い上げている彼は、いつもの眼帯ではなく、しっかりと目を覆い隠す黒い眼帯を付けている。世界一カッコいい、私の旦那様になる相手はーーそう、何を隠そう私の事を救ってくれて導いてくれた私だけの勇者様、シザリス・リッパーの事。名残り惜しげに私の手を握るお父様の手を離し、私だけを見てくれるシザリスの手を取った。白いレースで出来たベールからは表情が窺いにくいけれど彼の甘く低い声から察するに、私に見惚れてくれたのだろうか。
だとしたら、嬉しい。
「これから、幸せになりましょうね。シザリス」
「ああ」
【無限なる夢幻】
ーー本当に馬鹿な事をしてしまったと、思う。この地獄を創り上げた少女は、真っ白なウェディングドレスに身を包み、炎で焼かれた教会の焼け跡の中でも美しく笑っている。ブラッドもアリックスも、アリスも。ソワードを含めた俺の家族だってコイツは殺して見せた。
「助けて、シザリス」
あの夜。震える声で、泣きそうに潤んだ瞳で俺を抱きしめる彼女の腕が余りに細くて、可哀想だと思った俺は、愚かにも抱きしめ返してしまった。あの時はただ、可哀想な少女を慰めているつもりだったけど。あの時俺は、エネミー・ヴァイオレットという『魔王』を殺すべきだったんだ。殺すべきだった。殺さなければいけなかった。どうして、どうしてこうなった? 『招待客』として彼女が椅子に置く奴らは確かに俺と親しい者ばかりだった。狂いそうなくらいの腐臭を放ち、責めるような瞳で俺達の結婚式を見守っている。街を焼く炎の音だけが拍手のようにパチパチと音を発していた。父親であるという魔王は恐ろしいくらい震えて、声も出せずに泣いていたけれど、エスコートが終わった瞬間用済みとばかりに首を刎ねられた。いっそ俺がああなってれば。あんな事をしなければよかった。少女の形をした『魔王』の事なんて可哀想だと思わなければ、俺の妹も、相棒も、親友も死ななかった!
「誓いのキスを」
司祭を真似てか、スラスラとそれっぽい言葉を並べて結婚式を進めているエネミーは、恥じらうようにベールを上げて、目を閉じる。何も出来ない俺は、彼女が望むように頬に手を添えて、宝物を扱うように彼女の唇にキスをする事しか出来ない。
「これから、幸せになりましょうね。シザリス」
「ああ」
機械的な回答に満足する目の前の『魔王』は、世界一幸福な花嫁のように笑っていた。
こぼれ話集 あるむ @madorum
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