RTA〜多分これが一番早いと思います〜
魔娘記RTA
俺の朝は一杯のコーヒーから始まるーー。王の護衛として日々奔走する俺には休みと言える休みがそもそも無いので今日も徹夜二日目。そろそろカフェインの力で元気になってくる頃である。
「シザリスちゃ〜ん」
「はい」
なんとも間の抜けた、馬鹿にしてるとしか思えない声で俺の名を呼ぶこの男は何を隠そう俺の雇い主であり、一応親友でもあるアリックスだ。つまりはこの国の王様である。人使いの荒さと歪みきった性癖が無ければ、歴代の王の中では一番優秀だと思うし実際コイツが治世し始めてから争いという争いも起きない上に国民からの不満もほぼ無いので完璧と言える。
「明日から一週間、休みをあげようと思って……と、言ってもついでに魔王を殺して来て欲しいんだけど。シザリスちゃんの実力ならパパーッと出来るっしょ? やって来て」
「楽勝すぎる! やります!」
「じゃ、お金はこれ使って。余っても返さなくて良いよ。ああ、ちゃんと報酬金も出るから安心してね。じゃ」
書類整理をし続ける苦痛から解放される喜びで思わず言ってしまったが、魔王討伐って、それ勇者的な人の仕事ではないか? いや良いけど……それにしても一週間休める上にお金も貰えるとか、裏があると思うくらい優しくて恐ろしくなってきた。何やら上機嫌で退室しようとするアリックスを止めようとしたその時、ものすごい轟音と共に扉が破壊された。
「……ッ! アリックス!」
とりあえず最優先に守るべき存在であるアリックスを背後に守り、武器を構える。一応俺も優秀な護衛なので、このくらいは出来る。破壊された衝撃で煙が舞い、そこから此方へ歩み寄ってくる堂々とした小さい足音と、禍々しい程に強い魔力ーーまさか、あっちから先に来たのか?
「ここに王様が居るって聞いたのだけれど。合っているかしら……あら、いるじゃない。こんにちは、初めまして。私は魔王の娘であるエネミー・ヴァイオレットって言うの。この国の王、アリックス様に求婚しに来たわ」
煙も薄くなり、相手の姿が現れた。菫色の少し跳ねている猫毛の髪。紫色の宝石のような瞳は美しく、此方にーーというより、俺の後ろにいるアリックスにのみ向けられている。人形の様に端正で、ゾッとする程魅せられてしまう微笑みを浮かべながら一方的に、捲し立てる様に話しかけてくる幼い少女は、プリンセスラインの黒いドレスに青い薔薇と真珠を散りばめた花嫁のような格好に身を包んでいる。そのまま俺を無視して背後のアリックスの元へ真っ直ぐに歩みより、放心しているらしいアリックスの手を握る。
「ねえ、私をあなたのお嫁さんにして欲しいの。私だけを愛して、私だけを見てくれるって誓ってくれる?」
「…………是非、よろしく、お願いします……」
頬をほのかに赤らめながら熱の籠った視線で真っ直ぐにアリックスだけを視界に捉え、縋るような口調で告白する魔王の娘。多分好みど真ん中である美少女からこんなに真っ直ぐな求婚をされて断るアリックスでは無い。崩れ落ちるように跪くと、此方も熱の籠った瞳で魔王の娘を見つめ、そのまま手の甲にキスまでしやがった。完全に俺は場違いすぎるので退散しないと面倒そうだな……と、音を立てないよう一歩ずつ確実に、出口へと進む。頼むからあと三十分くらい二人の世界入っててくれ。
「ーーシザリス。婚儀の準備を」
「……仰せのままに」
そんな俺に目敏く気付きやがったアリックスは、真剣な口調で命令を下す。深く頭を下げて了承の返事をした俺は、近くにいた使用人達に命令を飛ばしまくりながらも、これから多忙になるであろう日々を思うと胃痛がした。
ーーそれから半年後。国で盛大過ぎる婚約パーティーが開かれた。王妃になる幼いながらも美しい魔王の娘、エネミー・ヴァイオレットを一目見ようと国中から人が押し寄せて地獄かと思った。アリックスからは婚儀を急かされていたが、これでも相当早いペースで行っているので許して欲しい。
この後俺に熱烈な恋愛感情を向けてくる新人メイドが現れたり、王妃に一目惚れをして執事にまで上り詰めた後の相棒が現れたりするのだが、これはまた別の話。
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