第8話【移動中】
「ねえ、良かったの? 宝物のように見えたけれど」
「宝物は持ち歩かない趣味なんでね。あのまま問い詰められるのも、追いかけられるのもゴメンだね」
「ふぅん、そうなの」
興味が無さそうな口ぶりだが、面白がっているのが雰囲気で伝わってくる。悔しいのでほっぺむにむにの刑を執行してみると、必死こいて頬を膨らませてくるのが楽しい。永久に触っていられるぞこれ。
「……やふぇふぇ」
「やめな~い」
「……女装ロリコン勇者さん、こんな街中で女の子の神聖なほっぺを触ってるなんて信じられません。僕も触って良いですか?! 優しくします!」
無事にブラッドと合流し、もちもちのエネミーをブラッドに託して宿への帰路を歩く。適当に相槌をうったり受け流したりしながらも、俺の思考は何処か別の場所——否、ソワードの事でいっぱいだった。俺の黒歴史を具現化した存在。大好きで、愛おしいから遠ざけた妹。
俺が、世界一嫌いな人間のこと。
小さい頃、具体的に言うのであれば旅に出る十六歳までの俺は、何処までも愚かで、無知だった。自分の才能を認めたくなくて、妹の才能が欲しくて、欲しくて、妬ましかった。何も知らない癖に俺を尊敬する瞳を失望に染められたら、もっとずっと、楽だっただろう。ごめんな、ソワード。俺はお前の
「シザリスさん、ボーっとしてますがどうしたんですか?」
「……いやー、昔馴染みに会いすぎてさ。ちょっと思い出に浸っちゃったわすまんすまん。で、エネミーがなんだって?」
「貴方でも思い出とかってあるんですね。そう、エネミーさんが遂に私の腕の中で寝てくれてるんですよ! 愛らしくて潰したくなりますね……!」
「お前怖えよ今後一切うちのエネミーさんに近寄んないでくれないか?」
「冗談ですよ、冗談……っと、そんなことより、さっきから僕たちの事尾行してる団体さんって、シザリスさん目当てなんでしょうか。殺意に満ち溢れてますけど」
後ろを振り向くと、さっき置いてきた筈のソワードやアリスさんの姿。そして隣にいた筈のブラッドの姿は無く、背後は壁である。絶体絶命、という奴だろうか。
*
——むかしむかし、ある名前すらない森に囲まれた閉鎖的な村に、一人の男の子が産まれました。彼の名前はシザリス。私からすれば二人目の弟であり、これから『勇者』を偽る男として、罪悪感や劣等感に苛まれながら生きていく……いや、全てに呪いをかけてこの世から去る事を選ぶ『愚者』の物語が始まります。
続きはまた来週、この場所で。
魔娘記R※休載中 あるむ @madorum
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