第3話 少年の不可解な謎


 少年の覚醒を伝えようと帳場に急いだが、父の姿はなかった。ならば先にと、柚は台所にすっ飛んで、お粥を運んできた。数日はなにも食べていない様子だったから、やや薄めに作ってもらった。


 部屋に戻ると、少年は身を起こし、きちんと正座して蒲団の横にいた。身なりはともかく、折り目正しい少年だった。起きているのか、寝ているのか、判断がつきかねるほどに目が開いていないが、食べる準備は万端だった。


「はい、お粥をどうぞ。お椀、持てますか。熱いから、気をつけてね。でも、いきなり食べないで、白湯を先に飲んだほうがいいと思うわ。ねえ、どこから来たの? 名前は? どうして倒れていたの?」


 いくら話しかけても、いっさい語ろうとしない。柚が教えたように、少年はまず白湯を口にしたあと、おなかの中にかき込むというか、流し込むような勢いでお粥を一気に食べ終わると、また蒲団の上に倒れ、ぐうぐうと寝てしまった。


「よっぽど、減っていたのね」


 少年の体に、そっと蒲団をかけ直してやる。蒲団にくるまってあたたかくして寝たほうが、熟睡できるだろう。とにかく空腹で、疲労がたまっていそうだ。つけ加えるならば、体の垢もひどく積もっている。次に少年が起きたら、その隙に蒲団を一式、取り替えなければ。雨天が続かないと嬉しいが。


 ふと、寝返りを打った少年の細い首に、紐が絡みつきそうになっているのが見えた。


「あぶない。首に絡まったら、大変」


 柚は少年を起こさないようにそっと、紐を緩めた。紐の先は、懐に忍ばせた革袋に続いていた。丈夫そうな革の袋。かなりずっしりと重そうで、毎日首から下げっぱなしにすれば、体には負担になるかもしれない。多少引っ張ったぐらいでは動かない。肩が凝りそうだ。現に、首もとにはすでに紐の痕がついている。


 なにが入っているのだろう。


 悪い、とは思うけれど、袋の中身への好奇心がむくむくとわきあがる。素直な好奇心だった。ほんの一瞬だけ考えたけれど、いいえ、人のものを勝手に触るなんて、だめだという心の声が聞こえた。甘い誘惑に良心が打ち勝ち、柚を諌める。


 それなのに。


 袋を、もとの懐へ無理に押し込もうとしたとき、少年が再度寝返りを打ったため、計らずも、中身の一部がこぼれ落ちた。不可抗力だった。


 百両? 

 ううん、もっとあるかもしれない。


 見たこともない小判の枚数に、柚は腰が抜けそうになった。黄金色の小判のほかにも、小さな金銀の粒。柚は慌ててお金をかき集め、革袋にしまい直した。幸い、少年に目を覚ます気配はない。残らず、全部しまえただろうか。


 ほう、と柚はため息をついた。鼓動の高鳴りが止まらない。こんなにたくさんの金銀を触るどころか、目にしたのははじめてのこと。身なりの目立つ少年が、大金を所持して街道を歩いていたなんて、危険過ぎる。


 この子。解せない。何者?

 お金を持っているくせに、少年の身なりはひどく汚く、行き倒れなんて。



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