37 放課後変タイム

「さて、今日はこの部の活動内容について新人であるあなたに説明するわ」

「はい、よろしくお願いしますノーパン先輩!」


 史上最大の危機という言葉を安易に使いたくはないのだが、今は間違いなく俺史上最大のピンチであると言える。


 後輩を手に入れて得意げに語るのは変態一号こと桐島イリア。

 同じ変態の先輩に受け入れてもらって嬉しそうなのは変態二号こと高宮ひなみ。


 そしてその変態同士の様子を実況でお届けするのは、なぜか変態にのみ好かれるという特異体質の持ち主、俺こと志門司。


 ……頼むから大人しく読書をしてくれないものだろうか。


「まず、志門君の小説の中から誤字を見つけるの。まぁ、なくても適当に改ざんしてオケーよ」

「はい、楽しそうですねそれ!」

「改ざんすんな!」


 しかしこの二人、俺という一人の男子を取り合う仲にしてはギスギスしていない。

 それどころか仲が良さそうだ。やはり変態同士、波長が合うのか?


「さて、あとは志門君の所有権について。彼は頭の先から来世までずっと私のものだからあなたには何ひとつとして譲らないわ」

「でも、彼は私の仕事仲間ですからお仕事の間は必然的に私の性奴隷になっちゃいますね」

「彼は遅漏のインポだから無駄よ」

「じゃあ私のおっぱいで復活させてあげます!」

「勝手に人を勃たないキャラにしないでくれますか!?」


 一見すると仲良さげだが、実はそうでもないようだ。

 お互い、この際だから俺はどちらのものかとはっきりさせたいご様子。


 もちろんどちらのものでもないのだけどね。


「とにかく、あまり変なことをすればあなたの黒歴史である一冊が世に出ることになるから覚悟しててね」

「うっ……あの一冊を人質に取られるのはさすがにきついですね。わかりました、彼と二人きりになっても変なことはしません」

「よろしい。するなら三人の時にしましょうね」

「はい、先輩!」

「三人でもダメだよ!」


 変態二匹が俺を狙っている。

 これはあまりに由々しき事態である。


 いや、放置してなくとも既にヤバい状況だ。

 うーん、何か二人の気を逸らすだけの活動をしないと、俺は骨の髄まで貪られてしまう。


 ……そうだ。


「せっかくひなちゃんもいるんだし、読書部の時間を使って執筆活動しない?仕事と部活を兼ねるっていいじゃんか」

「なるほどですね。それは良案だと思いますけど、ノーパン先生は何かできることあるんですか?」


 ひなちゃんの声のトーンが仕事モードに切り替わった。

 もう懐かしいとすら思うタムッチ先生に早変わり。これはいい流れだ。


 しかしだ、たしかに彼女の言う通りイリアは素人だし何をしてもらったらいいんだ?

 俺が文章書いてタムッチ先生が絵を書いたらあいつやることないじゃん。


「私、こう見えても漫画家を目指しているから絵には自信あるのよ」


 なぜか靴下を脱ぎながら、イリアが自慢げに話す。

 そして脱いだ靴下をなぜか見せてくる。


「何してるんだよ」

「この刺繍、私のオリジナルよ。かわいいでしょ」

「へ、へぇ」


 そこには萌えな感じの猫の擬人化キャラが足の裏部分に大きくプリントされていた。

 確かにうまい。そして可愛い。


 タムッチ先生がいなかったらこいつに挿絵をお願いしたいほどに出来がいい。


「ひなちゃん、絵はあなただけの専売特許ではなくってよ」

「確かにお上手ですけど所詮素人ですね。私はこう見えてプロなのでその辺の違いははっきり分かります」

「へぇ、それじゃああなたのアマチュア時代の『ストロベリー先輩』の時の絵と比べたらどうかしら」

「そ、そのタイトルを口にしないでください!」


 ひなちゃんがあたふたしている。

 ストロベリー先輩なんて作品は訊いたこともないが、それが彼女のアマチュア時代のデビュー作なのだろう。


 しかしそこまで恥ずかしい出来なのか?うーん、彼女はプロになる前から評判が良かったって聞いたけど。


「と、とにかくノーパン先輩には手伝いだけしてもらうことにします。あくまで作品作りのメインは私とツカサ先生ですからね」

「いいわよ。あまーい筆はあんあんあんってセリフを証明してあげる」

「あの作品のセリフを使わないでください!」


 あまーい筆はあんあんあん。

 なんとも意味の分からない言葉だ。


 ……なんかその作品、ちょっと読んでみたいな。

 今度イリアの家に行った時にこっそり見せてもらおう。


 ……いや行かないけどね!


「じゃあ早速作品作りね。何をすればいいのかしら」

「ええと。とりあえず今タムッチ先生と作ってる漫画の続きからやっていきましょう」

「ノーパン先輩は少し見学しててください」

「ええ、私は志門君の下のお世話をするわ」

「いらんことすんな!」


 こうして、読書部の活動指針が決まった。

 作品を作るという一つの目標に向かっていけば変態たちも大人しく、仲良くしてくれるだろうと俺は期待したわけだが……


「そういえばひなちゃん、それ何カップ?」

「アイカップです!」

「うわ、将来絶対垂れるやつね」

「そういう先輩こそ貧乳だからって僻まないでください」

「私は誰もが大好きなDカップよ。ちなみにあなた毛はどうしてるの?」

「もちろんつるつるです!先輩は剛毛そうですねー」

「私のは一流の庭師が手入れした如くの整備っぷりよ。見る?」

「見ます見ます!」

「やめろ!」


 結局作品作りなど始まらず、ただ変態がパンツを脱ごうとしたところで今日の部活動は終わった。


 毎日こんなやり取りが続くと思うとお腹がいっぱいというか胸焼けする。

 そして下校中も変態たちの戯れは続く。


「ノーパン先輩、明日もよろしくお願いします!」

「言っておくけど私はあなたが志門君を狙っていることは許してないから」

「えー、それじゃあせっかく部室にプレステファイブ寄付しようと思ってたのにやめときますねー」

「志門君のことは好きにしなさい」

「おい、ゲームで俺を売るな!」


 変態二匹は黙るということを知らない。

 ていうかうるさい。


「さてひなちゃん、私は志門君をお送りするから」

「私も送ります!」

「いいえ、これは私の仕事なの。そうしないと彼に穴という穴から酷いものを」

「おい人聞きの悪いこと言うな!」

「酷いものは言い過ぎたわ、お粗末なものを」

「もっと酷いわ!」


 結局。ひなちゃんもイリアも俺の家までついてくることになった。

 うーん、これ毎日続くのか?それはそれで困るななぁ。


 だって


「おかえりおにい……ってひなちゃんとイリアお姉ちゃん?遊びに来てくれたんだ!」

 

 だって柚葉は二人の変態と大の仲良しなんだもん。

 そりゃあ家の前まで来た二人を追い返したりしないよね。

 ……早く部屋で一人になりたい。


「柚葉ちゃんお邪魔するわね。お茶は紅茶でお願い」

「ゆずー、私はココア―」


 変態は基本的に図々しい。


「おい、うちは喫茶店じゃあないぞ」

「じゃあ今からノーパン喫茶に早変わりね」

「帰れ!」


 一人はすぐに脱ぎたがる。


「先生がノーパンでもいいですよー」

「ふざけるな、俺にそんな趣味はない」

「じゃあ丸裸にしてあげますよ」

「何がしたいんだよ!」


 一人はすぐに脱がせたがる。


「おにい、二人に失礼でしょ!早くお茶淹れろ!」

「は、はい……」


 そんな二人の肩を持つ妹。


 俺は家の中での市民権を完全に変態に奪われてしまった。


 こういう時、詩がいてくれたらと思うのだけどそういえばイリアは詩にフォローしてくれたのだろうか?

 学校でもずっと話しかけてこなかったし。


「おいイリア、詩に昨日の件はちゃんと説明してくれたのか?」

「ええもちろん。男は皆おっぱいの前では無力だと弁明しておいたわ」

「フォローになってねえよ!」


 そもそも。変態に何かを頼るということ自体が間違っていた。

 この後変態たちがリビングにはびこる中で、詩に電話をかけて懇切丁寧に言い訳をして謝罪したのは言うまでもなく。


 そして二人がいるのならと、詩が遊びにくるという流れになるのも必然で。

 

 放課後ティータイムならぬ放課後変タイムは続く。


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