18 腐っても変態でも美人ではある
もう語るべき人物などいないと、そう思われているかもしれないが実はいる。
知るわけねぇよ誰だよそれはと言われても実際にその通り。
こいつの名前が出るのは今回が初めて。じゃあ誰なのかと言われれば、そいつは俺を目の敵にする、俺の幼馴染の初恋の相手である。
まぁこうやって奴のことを語ることができるまでになったというのは、俺が随分大人になった証拠だろう。
とはいえ、嫌いな相手のことについて長たらしく話す趣味はないので端的に。
なぜ奴が人気者かという話だ。
うちの学校の一番の花形はバスケ部。
彼は強豪校と名高く全国の常連である我が校のバスケ部でエース、さらにはイケメン長身とくるわけだから必然的に人気者なのである。
学内外に無数のファンクラブがあり、彼が校内に所有するスネ夫は実に五十体を越えるという。
そんなやつにぼっちの身でありながらにして口ごたえをした俺の勇気ならぬ無謀さに我ながら拍手を送りたくなる。
で。なぜ今頃になってそいつの話を持ち出したのかと言えば、それは変態とのショッピングを終えた翌日の日曜日に、偶然奴のある噂を耳にしてしまったのだ。
変態にも日曜日はあるようで、朝から何の連絡もこなかったのをいいことにコンビニで一人立ち読みをしていたところ、うちの生徒が数名、店の中に入ってきた。
そしてその会話をデ○ルマン級の地獄耳で傍受。
すると
「聞いたか?成田君、あの冷血の魔女に告白するらしいぞ?」
「ああ、昨日本人から聞いたよ。明日の放課後、屋上に呼び出すって」
「でも、あの桐島ってやつ相当やばいんだろ?」
「らしいな。だけど成田君に告白されてノーって言うやつなんているのかよ」
という会話が聞こえてきた。
ほう。と思ったのが最初。
この「ほう」についてはまぁ後ほどだ。
次に思い浮かべたのは詩の顔。
成田は詩のことを好きでも何でもなかったのかと知ると、嬉しいような悔しいような複雑な気分になった。
と同時に、詩の選択はどうやら成田をフッた、なんていう認識では伝わっていないのだと知るとなぜか安心した。
どこまでも幼馴染想いな俺は、幼馴染もののAVの紹介記事を立ち読みしながら次に桐島の顔を思い浮かべた。
あいつ、告白されてどう答えるつもりだろうか。
まさかOKを出すとは思えないが、それでも成田は人気者だ。あまり邪険に扱うと批判されるどころでは済まず、実害を加えられかねない。
いくらドMな彼女でもあまりにひどい行為を受けるのは望んでいないだろうし。いや、そうだろうか?うん、まぁそれはいいとして。
明日の放課後、一体どんなことが起こるのかと一気に不安になりながら、今度はハーフ美女のヌード写真を袋とじのせいでお預けになり悶々とする。
そいつらに見られないよう、話を聞いたあとさっさと店を出て帰宅。
昼間からダラダラとパソコンに向かい、動画を見たり小説を書いたりしながら有意義な時間を過ごしていると、夕方になり携帯がなる。
「もしもし志門君、昨日はありがとう」
と澄んだ声で話す桐島。
「いや、まじで二度とパンツを投函するな。次にやったら縁を切るからな」
「私と志門君の赤い糸はもう既にぐー結びで固く結ばれたわ」
「勝手に切れてる糸を結び直すな!」
どうやら変態は俺の運命に強制アクセスできるらしい。
……なんて冗談はさておき。
「で、何の用だ?」
「明日の放課後なんだけど、活動の一環として備品を買いにいかない?」
「昨日やっとけよ……で、何買うんだ?」
「椅子が古いから買い替えたいわ。あ、すけべな奴じゃないわよ」
「わかっとるわ!」
すけべな椅子って、あれ一体どこに売ってるんだ?
アダルトショップ、かなぁ。高校卒業したら行ってみようかな。
……じゃなくて
「予算はあるのか?」
「ないからあなたの本を今からブックオフに売りに行くの」
「売ってたのお前か!」
自分でいうのもなんだけど、俺の本を売っても椅子、買えないよ……
「うそうそ、あれはうちの家宝が無くなった時の代わりにするから」
「そういえばあの画像消したのか?」
「ええ。昨日現像しに行ってからデータは消したわよ」
「なんてことを!?」
カメラ屋さんにあの写真を見られたのか?
いやいやこの街ってあそこしかカメラ屋ないんだけど……もう行けないよ俺。
「結局予算ないなら買えないじゃないか」
「そうね、とりあえず予算申請から始めないとだわ。明日はその辺の手続きからね」
と、少しだけ部活らしい会話をして電話を切った。
腐っても優等生、しっかりしてるところがあるからこそよくわからない。
はぁ……もうすこしまともなら。
……まともなら何だって言うんだ?
好きにでもなると言いたいのか俺は。
ないない、いくら美人でもあれはない。
だから見た目に騙されて明日無謀にも変態に告白しようとする成田は随分と愚かで滑稽だ。
そう言う意味で俺は「ほう」と思ったわけで。
さて、明日の放課後が騒がしくなることだけは確かなので今日はさっさと風呂に入って寝るとしよう。
柚葉も部屋にいるようだし、さっさと風呂に入ろうと脱衣所にむかう。
そして風呂を沸かそうとガチャっとドアを開けた。
するとそこには女の人が裸で立っていた。
「……やだっ、のぞき?」
「す、すまん……じゃなくてなんでいるんだ!」
急いで我に返って目を伏せたが、桐島イリアが裸で風呂場に立っていた。
俺は彼女の生まれたままの姿を思い切り目に焼き付けてしまった。
「汗かいたからシャワー借りてたのよ」
「そうじゃなくてなんで家にいるんだ!」
「え、これから柚葉ちゃんとディナーに行くのよ」
「なんとまぁ」
もちろんドアを閉めて、姿の見えない彼女と話しているのだが、あまりに見たもののインパクトが強すぎて気が動転している。
な、なぜだ。彼女の何も身につけていない下半身は既に拝見済みだというのに、興奮してしまっている。
バクバクと鳴り止まない心臓は、俺の下半身に血液を供給してくる。
……ダメだ、変態の裸で興奮なんかするな。
「志門君、パンツとってくれない?」
「自分でとれよ!ていうかほんと何してくれてるんだ!」
「あら、覗かれたのは私の方だからあなたはむしろ得したでしょ?」
「目の毒だ!」
ああ、こんな形で女の子の裸を初めて見てしまうなんて。
俺の理想は暗い部屋で、そっと俺の手で一枚一枚脱がしていきながら徐々にその全貌が明らかになっていくような、そんなロマンチックなものを想像していたのに。
こんな裸ん坊万歳みたいなシチュエーションは違う、断じて違うんだ!
「ねえ、そこどいてくれないと出れないわ」
「で、出るから!ちょっと待って!」
「もしかして私の裸で興奮した?」
「す、するもんか!」
「え、しないの?もしかしてあなた……そういう病気?」
「どういう病気だよ!」
などとツッコミながらも俺は急いで避難した。
不本意ながらに変態の入浴シーンを覗いてしまった俺は、やはり変態なのかもしれないと自虐的になりながらリビングのソファでうなだれる。
すると髪を乾かしながらラフな格好で桐島がやってきた。
濡れた銀髪は艶っぽく、とても色気のある雰囲気を纏う。
そのせいもあり、どうもあの裸が頭から離れず、彼女の方を見れない。
「さてと、髪が乾いたら柚葉ちゃんお借りするわね」
「……何が目的だよ」
「パンツ嗅がせるならまず周りから、ということよ」
「そんなことのために妹を使うな」
なんだよそのわけのわからない格言みたいなやつ。
周りを固めても俺はお前のパンツを嗅いだりしない。
しかしこんなやり取りの最中に柚葉が部屋から出てきてしまい、結局二人のディナーデートを阻止することは叶わず。
妹は変態に拉致されてしまうのである。
「じゃあおにい、行ってきます」
「ああ、気をつけてな」
「大丈夫だよ、桐島さんが一緒だから」
「だから言ってるんだよ……」
妹を見送る時に俺は見た。
桐島が俺の方を見てニタッと笑ったのを。
そしてチラッとスカートの中を見せてきたことを。
もう裸を見たのでそんなことで動じたりはしない。
しかしなぜなんだ。
なぜ、妹とディナーに行くというのに。
紐パンなんだ?
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