04 これもある意味では告白
「何してるんだ変態」
「あぅうう!もっと言っ……失礼取り乱したわね」
情緒不安定な変態は俺の家のリビングにあるソファに座り俺のパンツを嗅いでいた。
なんだこの光景は。まるでアダルトビデオの世界の中に迷い込んだような気分だ。
もっともそんなマニアックなものを見る趣味はない。俺が好きなのはギャル女子高校生もの一択だ。変態との戯れではなく同級生ものが……あれ、この変態も同級生、か。
「あのさ、ここ俺の家なんだけど」
「知ってる。だから来たの」
「そうじゃなくて、人の家で他所様のパンツの匂いを嗅ぐな!」
「なによ、私がもらったものをどうしようと私の勝手でしょ?」
「こんな時だけまともそうなことを言うな変態め!」
「きゅうううっ!もっと言って!」
「……」
真正の変態ここに極まれり。
俺の見ていた孤高の優等生美女は、クールでもツンデレでもなんでもない。
ただの変態だ。
ドMなのか匂いフェチなのか声フェチなのかはたまた全部かそれ以上か。
とにかくこいつは変態であることに違いはない。
しかし本当に冷血の魔女と呼ばれた彼女と同一人物なのかと疑いたくなるほどに目の前のそれは乱れている。
見てみろ、はぁはぁ言いながら次に俺の靴下を取り出して……顔に擦り付けた。
その後、靴下をうっとりと見つめながら赤面。
目は既に焦点が合っていない。
うん、こいつやばい奴だ。
平気で人の部屋に忍び込んでパンツ泥棒してその場で穿いてしまうタイプのやばい奴だ。
だからさっさと追いだしたい。
しかしこいつの恰好はまるでお泊まりでも決め込むかのようにリラックスに富んだスウェット。
フワッとしている生地はとても着心地がよさそうだ。
「……で、何しにきた?」
「え、パンツの感想聞きにきたのだけど」
「先に言っておくが俺は嗅いでないし今後も嗅ぐつもりはないぞ」
「なんで?」
「なんでってそりゃ……そんな変態みたいな真似できるか」
お前みたいな、とも付け加えてやりたかったが。
おそらくご褒美にしかならないため却下。
「そう、じゃあどんなパンツなら嗅いでみたいと思うの?」
「まるで俺が嗅がない理由が他にあると言いたげだな」
「だって、好きな人の匂いだったら気になるのが普通じゃない?それは変態じゃなくてもそう思うわよ」
「まぁ、それは……ん?」
待て、今こいつとんでもないことを言ったような気が。
好きな人の匂い。ということはすなわちこいつは俺のことが好きだから俺のパンツを嗅いでいる、という認識でいいの、か?
い、いやいや言葉の綾だ。それにもし仮にそうじゃなかったとしても、こいつが俺を好きだからなんだと言う話だ。いくら美人でもこんな変態に好かれたところで……
「私、なんとしても貴方に私のパンツの匂いを嗅がせてみせるわ」
「な、なんでそこに拘る……」
「別に靴下でもいいけど」
「そういうことじゃねえよ!」
ダメだ、やっぱりまともに会話ができない。
ああ、よかったよ。こいつに淡い恋心とか抱いてなくて。そんな気持ちがあったらこの後僕死んじゃうよ……
「と、とにかく今日は帰れ。妹に変な誤解されたら困る」
「え、もしかしてあなた実の妹に欲情する系?変態ね」
「お前にだけは言われたくねえよ帰れ!」
「ああんっ!」
「……帰ってくれ、頼むから」
なんで我が家でこんな変態に頭を下げないといけないのか。そんな葛藤もあるにはあったが、それよりも今はこいつを帰らせたくて必死にお願いした。
「わかった、今日はお土産もいただいたし帰るわ」
「そうしてください……」
変態に手土産を用意した覚えなどさらさらないが、まぁそれで納得するのなら俺の衣服達も奪われた甲斐があったというもの。
玄関まで見送りに出たのは何もこいつを気遣ってではなく、ただ本当に家から出て行くところを確認するためだ。
そしてちゃんと玄関のドアを開けて外に出ようとする彼女を見てホッとしていると、彼女がこっちを見る。
「な、なんだよ」
「好き」
「……へ?」
告白をされた。
「あなたの匂いが」
違った。
「あなたの匂い、大好きよ。ずっと嗅いでいたい、とだけ伝えておくわ。じゃあ」
俺は今しがた同級生の女子から、自宅の玄関先で素敵な愛の告白、ではなく歪んだ性癖を告白された。
……寝よう。疲れてるんだきっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます