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「リヨチャンパイセ~ン!」

「……ぁ…………くくくく九尾、さん……?」

「クが多いわ! 距離が遠い! 玖々莉でいーよー」

「………ひぇ……くくくく玖々莉、さん……」

「クが多いわ! んふふ、ウケリ・リ~!」


 新入部員の一人、玖々莉さんは若者言葉を話すギャル系の少女だ。

 たまに言葉の意味がわからないこともあるが、概ね友好的な態度で接してくる。見掛けによらず良い子だ。


「リヨチャンパイセン、今から部活行く?」

「………ひゃ、ひゃぃ……」

「おっ、アクス・ハープ・タンポポ~! あーしもお供いたしゃしゃしゃーす!」


 シャが多いわ、とは思うが、それもギャル語の文法なのだろう。

 私は先輩らしく異文化に理解を示し、玖々莉さんと連れ立って部室に向かった。


 部室の梁から下がる共用の縄は、毎週メンテナンスを欠かしていないし、年に一度は新品に交換している。

 玖々莉さんはその日に首を吊って死んだ。

 初めて死ぬのに、とても立派な死に様だった。


 § § §


「一年は皆、一で死んじまったなぁ」


 ソファに深く座った新田先生が、部室の天井を見上げて呟く。

 少し前まで賑やかだった部室は、また以前と同じに戻った。

 いや、私一人の時よりは、顧問の先生がいるだけマシか。


 天井で揺れる縄に、玖々莉さんの姿を幻視する。


 部室を見回す。

 あの本棚には、大矢君が線路に飛び込む前に見ていた時刻表や、福土さんが飲んだ自家製の毒薬が入っている。

 その隣の段ボール箱には、入水君が海に沈む時に使った、重り付きの足枷が入っている。

 前の顧問の先生がお腹を裂いた短刀もある。その介錯に使った日本刀も。

 代々の先輩や、私の同級生の使った道具も沢山。

 いつ、誰が何を使ったかを記録したノートも。


「まーた暇になっちまったなァー」


 先生は大きく伸びをして。


「死ぬかぁ」


 そう言って、ローテーブルで遺書を書き始めた。


「なぁ鳶尾。野球部の顧問、何て言ったっけ?」

「…………ぁ……や、柳生先生、ですぅ……」

「あんがと。じゃ、そいつでいいかァ。大矢の敵討ちってことでなー」


 さらさらと慣れた手付きで早期自主退世の書式を作成し、代理人の欄に「小夜啼高校野球部顧問の柳生」と記入して、血判を押す。

 代理人の名前は、個人を特定できれば正式な氏名である必要はない。


「鳶尾、焼身って見たことあるか?」

「……ぁ……なぃ、です……」

「おっ、じゃあ見せてやろう! 灯油の買い方も教えてやる。ガソスタ行くぞー!」


 それから新田先生と私は、大急ぎで新田先生の焼身の準備をした。

 灯油を買って、書類を役所に提出し、役所から見届け人を連れてくる。

 夕刻、新田先生は校庭で灯油を被ってライターで火を付けた。

 しばらくして先生は炭になり、そのまま一言も喋らなくなった。

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