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 翌日の昼休み、私と先生は新人スカウトのため、廊下から一年生の教室を覗いて回っていた。


「おっ? あの坊主頭、いいな」


 新田先生が目をつけたのは、下手糞に髪を刈られた小柄な少年だった。

 教室の真ん中辺りの席で、一人弁当を食べている。

 先生はずかずかと教室に入り込み、私はそのすぐ後について行く。

 少年の目の前で立ち止まると、相手は呆けたような顔で先生を見上げた。


「なあ君、野球部かな?」

「へ? は、はい」


 この期に及んで自分に用事だとは思っていなかったのか、一瞬答えに詰まった少年だが、聞かれたことには素直に答える。


「そうか、今の時期、野球部の新入部員は結構キツイだろ」

「え……あ、はい、まぁ……」


 先生の言葉に、少年は小さな声で答えた。


「経験者の即戦力だけ優遇されて、それ以外はずっと用具磨きとランニングってとこか」

「はい……」

「思ってたのと違うし、全然楽しくない。むしろ苦痛だよな」

「……ですね」

「死ぬ部に転部しないか?」

「………………します」


 それはそれは、鮮やかな手腕だった。


 後から聞いたところ、運動部の一年生は、昔から死ぬ部への転部率が高いのだとか。


「コツがあんのさ、コツが」


 その自信の示す通り、先生は残り三人の新入部員も瞬く間に集めてしまった。


大矢だいや乱志みだしです。元野球部です」

「ウッス、入水いりみず藻屑もくずっス。元水泳部ス」

九尾くび玖々莉くくりでーす。元吹奏楽部でーす」

福土ふくどきよ。元バド部」


 元文化部がいることを疑問に思ったが、先生曰く、吹奏楽部の一年目は実質運動部なのだそうだ。


「俺は顧問の新田しんでん燃侍ねんじ。高校時代は皆と同じ死ぬ部で、一応インターハイにも出た。何かあれば気軽に相談してくれ」


 先生の自己紹介に、新入部員らが目を見開く。

 気持ちはわかる。死ぬ部の経験者に教えを乞う機会なんて、滅多にあるものではない。


「ほら、部長も自己紹介しな」


 先生はそう言って、自分に集まった注目を丸ごと私に投げ渡した。


 部長。私が部長か。

 私が部長になった時には、既に部員は私一人だった。

 名ばかり管理職な今までとは違い、ちゃんと部員、後輩がいる中での部長だ。

 私はちょっとした感慨に耽りつつ、威厳を込めて名乗りをあげた。


「……ぁ……ぁぅ……えっと…………と……とと鳶尾とびお、り、理世りよですぅ…………………はぃ……」


 これで部員五人と顧問一人。

 部の活動条件は満たした。


 死ぬ部、再始動だ。

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