第13話


 サラサさん、お疲れ様です。


 絆創膏の話は他愛もなくはないですよ

 ほっこりしました。


 では、こちらこそ他愛もない話を一つ

 

 マンボウは、太陽が眩しくて死ぬらしいです。

 サメに襲われるかもしれないと思い込んでも死ぬらしく

 皮膚に海水が滲みても死ぬらしい。

 また、仲間が目の前で食われたショックでも死ぬらしいのです。


 なので、

 作中の女が『マンボウに憧れる』というのは

 弱さに従順で儚く命を放棄したがっている

 という意味のつもりでした。


 明日も仕事、頑張ってください。


               長江洸


     ※ ※ ※


「………?」


 更紗がこのコメントを読んだのは、ドラッグストア『サンカヨウ蒲田店』駐車場でのことだった。


 車を降りる前、不意に思い立ってスマホを確認すると、【LABIY】からの返信を知らせる通知が届いており、ほとんど反射で【LABIY】を開いた。

 

「えー、面白い。今、このタイミングなんだ。…あのときのマンボウの質問の答え。」


 今日、更紗は仕事中にうっかり怪我をしたために、同い年くらいの一般工員の女性から絆創膏を貰った。


 彼女は最近他の工場から異動してきたため、工場内の諸事情をあまり知らない。

 そのため怪我をした更紗にすぐさま駆け寄ると、何の躊躇いもなくポケットから可愛らしい絆創膏を取り出して貼ってくれた。

 

 それだけでも十分嬉しかった更紗は、満面の笑顔でその女性に礼を述べた。


 だが喜びは礼だけでは収まらず、なんとしても誰かとこの嬉しさを共有したくて、昼休憩、愛車に駆けていってはすぐさま長江にチャットした。


 そして仕事を終えるとまたすぐに愛車に乗り込んで、更紗は機嫌よく強めにアクセルを踏んだ。



「…うーん、返信どうしよう。」

 

 貰った絆創膏と同じ商品を購入し、さらに子供用に菓子でも添えてお返しとしようと考えていた更紗は今、スマホを片手に駐車場に降り立っている。


(………。とりあえず、あとで色々考えよ。)


 不器用な更紗は、一度に多くの事柄を同時進行で考えることはできない。

 今は絆創膏を買うことに集中することと決め、とりあえずスマホを鞄に投げ入れた。


     ※ ※ ※


 『サンカヨウ』は全国展開している大型のドラッグストアだ。そのため扱う商品点数があまりにも多く、更紗はどこに何があるのか、入店してすぐにわからなくなった。


「なにかお探しですか?」


 すると、40代くらいの白衣を着た女性店員に話しかけられた。人見知りの更紗は一瞬一歩後退したが、


「あ、あの、この絆創膏と同じ商品、ありますか?」


 おずおずと絆創膏を貼っている指を女性店員に見せてみた。


「ああ、ミルミルちゃんの絆創膏ですね。ございますよ。こちらです。」


 このキャラクターが『ミルミルちゃん』と言うことも今初めて知った。そのミルミルちゃんの絆創膏の置いてあるコーナーまで女性に案内してもらいながら、更紗はその女性の後ろ姿をずっと見ていた。


「こちらです。」

「わー、色んな種類があるんですね。」

「そうですね。ミルミルちゃんは今人気なので、色んなタイプの絆創膏が出ていますね。ミルミルちゃんの絆創膏ではこちらが人気ですね。大小さまざまな種類が同梱されているので。でもお客様のと同じ、となりますと、こちらの商品となります。」


 女性は絆創膏を2つ手に取り、更紗の前に差し出して丁寧に説明をしてくれた。

 さすがプロだな、と感心し、ふと、彼女の名札を見ると、「登録販売者(研修中)」とある。


(「研修中」…?)


 女性は、40歳を越えているように見えるのに、「研修中」の身であった。


「…あ、ご丁寧に、ありがとうございました。」

「いえ。とんでもないです。また何かありましたら、お声かけください。」

「あ、あの!この絆創膏を付けるくらいの子供が好きそうなお菓子とか、わかりますか?絆創膏のお礼に差し上げたくて、」

「でしたら、こちらになります。」


 女性は手を広げ、更紗を案内しようと穏やかに微笑んだ。その笑顔が眩しくて、更紗は一瞬、息を飲んだ。


「………」


 案内してくれる女性の後ろを再び歩きながら、背筋が伸び、颯爽と案内して歩く研修中の女性が、何故か無性に格好よく見えて、更紗の胸は少し高鳴っていた。

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