マッドハター in 不思議の国のアリス

八塚かずや

マッドハター in 不思議の国のアリス


私の名前はマッドハター。

何て言うことはない。ただの道化師だ。

不思議の国のアリスという物語を動かす、ただの駒の一つ。

誰の印象にも残らないし、それが絶対のルールだ。


アリスは子供だ。

自分の気持ちだけで結婚式場から逃げ出すような無鉄砲な少女だ。

この世界での常識も受け入れられない子供。

だが、そんな常識に囚われない少女ゆえに、世界を動かすことが出来る。


白兎やダム、ディー、チェシャ猫、アブソレム。

彼らは被害者であり、加害者だ。アリスに行動の指針を与える存在だ。

アリスのような幼子は、気持ちの移り変わりも激しい。

だから、きちんと物語が進むように──アリスを逃がさないために、彼らは必死に赤の女王に怯える被害者を演じなければいけない。


赤の女王は、孤独な女王だ。

彼女一人で世界が完結していると本気で信じているし、実際にそうだった。

私が幼いころから、彼女はずっと孤高の存在であり続けた。

だから、彼女と私は決別した。


赤の女王が村を焼いて出ていった日、私は焼け跡をただ呆然と眺めていた。

悲しい思いも、復讐心も大して湧いてこなかった。

それは、私がそういう風に作られた存在だからだろう。

別にそれが悲劇だとは思わないし、同情もいらない。


ただ、今目の前のアリスは私をどう思っているのか……アリスという目を通して、観客たちは私をどう思っているのか。それを考えると不思議と胸がざわついた。

いや、これはきっと気のせいだろう。

この作られた世界において、私はあくまで道化師。

感情なんて持ってはいけない。そんなの誰も望まない。

だから私はアリスを見て、観客が望むよう最大限コミカルに笑う。


「やぁ、アリス! 不思議の国へようこそ!」


**

書いているうちに思いましたが、かなりベタですね。

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マッドハター in 不思議の国のアリス 八塚かずや @yadukarion

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