第135話「しちゃってるし!」「しちゃってますね」

「しちゃってるし!」

「しちゃってますね」


 俺とリヨンを呼びに来たアリスベルとフィオナが、部屋の扉を開けるなり呆れたように言った。


「こ、これはその、あの……!」


 慌ててシーツで裸体を隠したリヨンが顔を真っ赤にする。


「リヨンさんに無理させないようにって言ったのに、まったくもうおにーさんは……」

「正直、勇者様の下半身を甘く見ていました」


「念のため、タオルと着替えを持ってきて正解だったね」

「まさかとは思いましたが、完全にアリスベルさんの読み通りでしたね」


「待ってくれ。無理はさせてないぞ? 『初めてだから、優しくして……』ってお願いされたから、すごく優しくしたし」


 俺はただちに言い訳――かなり厳しいがしないよりマシ――をしたのだが、


「あんたはなに恥ずかしいことを、他人にペラペラとしゃべってんのよ!」


 リヨンが俺をゲシゲシと蹴り始めた。


「だって2人が呆れてるから、最低限の説明は必要かなって思ってさ」


「これだから自分の保身しか考えない男は……! それと、そんなセリフは絶対に言ってないから。クロウの聞き間違いだから」


「いや、言ったぞ」

「言ってないわよ!」


 ゲシゲシ。

 ゲシゲシ。

 次から次へとリヨンキックが飛んでくる。


 しかしその動きにはいつものようなキレがなかった。


「くっ、なんだか身体に違和感が……まだ股に何か挟まってるような、おぞましい感覚があるわ……。くっ、後で覚えておきなさいよこのクソエロザル勇者!」


「さっきはあんなに甘えてきたのに、酷い言われようだな……ハッ、これが最近、庶民の読み物の中で流行っているらしいツンデレってやつなのか!?」


 俺は今、ツンデレを身をもって実感しているぞ!

 アリスベルもフィオナもツン要素はゼロだもんな。

 なんか新鮮。

 ふふふっ。


「はぁ!? 全然デレてないし。クロウの見境ない下半身の処理に、仕方なく付き合ってあげただけなんだからねっ!」


「仕方なく? 『大丈夫だから、もっと強くしていいよ……』とか言ってたじゃん」

「だからそういうことをペラペラ言うなって、言ってんでしょうが!」


 ゲシゲシ。

 ゲシゲシゲシゲシ。


「はいはい、痴話喧嘩はそこまでね」

「ふふっ、仲が良さそうで何よりです」


「リヨンさんもすっかり元気になったみたいだし」

「身体だけでなく、心も満たされたんじゃないでしょうか」


「愛だね~」

「愛ですね~」


「だからそういうのとは違うんだってば!」


「違っても違わなくてもいいから。もう朝ごはんの準備ができてるから、おにーさんもリヨンさんもタオルで身体を拭いて、服を着てね」

「今から行けば、ちょうどいいタイミングでステーキが焼き上がりますよ」


 アリスベルとフィオナが、特に気にした様子もなく話を進めていく。


「ま、お肉に罪はないものね。美味しいものは美味しいうちに食べたいわ」

 リヨンも毒気を抜かれた様子で、すっかり元の調子を取り戻していた。


 その後、俺とリヨンは身体を拭いて新しい服に着替えると、4人揃って王族用の食堂へと向かった。


 焼きたてのビッグステーキはとても美味しく、朝の一汗をかいて腹ペコグーだった俺は、追加でもう一枚食べさせてもらい、とてもご満悦だった。



 こうしてかつて勇者パーティで苦楽をともにし、今は国を支える重臣として働いてくれていたリヨンは、晴れて第3王妃となり。


 今まで以上に俺に尽くしてくれるようになったのだった。



 後日。

 俺はリヨンの執務室を訪れていた。


「リヨン、仕事は順調か?」

「もうほとんど終わってるわね」


「さすがリヨンだ、頼りになるよ」


 リヨンをねぎらいながら、俺はデスクワーク中のリヨンに後ろから覆い被さるようにして、その柔らかい身体を抱きしめた。


「ああもう! 仕事中に抱きついてこないでよね、突っ込むことしか頭にないサル以下のインモラル勇者が!」


「そんなこと言って、身体は正直なくせに。むふふ……」


 俺が優しくお触りを始めると、リヨンが恥じらいの仕草を見せる。


「ちょっ、こんなところでダメだってば……」

「何がダメなんだよ?」


「だって誰か来るかもしれないし……」

「それなら鍵を閉めたから大丈夫。な、リヨン。いいだろ?」


「まだ仕事中だから、ダメ……」

「さっきほとんど終わってるって言ってたじゃん。な、リヨン……」


「もう、ほんとクロウはしょうがないわね……」


 むふふ、リヨンはごり押しでお願いすると、すぐに可愛い乙女になっちゃうのである。


(ただしガチで仕事が残っている時はブチギレて、しばらくえっちしてくれなくなるので、その辺りの見極めが肝要だ)


「んー、柔らかくていい匂いだ」

「……優しくしてよね?」

「任せとけ。最高に優しくするっての」


 その後、執務室プレイでめちゃくちゃえっちした。



 もちろんリヨンだけでなく、アリスベルやフィオナを愛するのも忘れはしない。

 俺はできる王様だから3人を平等に愛するのである。


 セントフィリア王国は今日も平和だった。


(リヨン編 -完-)

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