第134話 乙女なリヨン
「そう言えば何の話をしてたんだっけ?」
「リヨンが腹を空かせてるって話だな」
「うるさいわね、人間なんだからお腹くらいすくでしょ」
「ではせっかくですので、宮廷料理長にご馳走を用意してもらいましょう。いいお肉が入ったと言ってたので、ここは豪勢にビッグなステーキとかどうでしょうか?」
「マジか! 朝からステーキとか最高かよ!」
セントフィリア王国は王都復興のために支出が跳ね上がっているせいで、財政が極めてひっ迫している。
そのため国王の俺にとってもビッグなステーキは御馳走だ。
ちなみに俺、普段の朝ご飯は安い豆料理とかお米をいっぱい食べています。
お米、美味しいよね!
「リヨンさんはステーキとか食べれそう? 食欲は回復してる?」
「正直、お腹は減っているわね。元気になった身体が、エネルギーを欲している気がするわ」
「じゃあステーキで決まりだね」
「リヨンさんのは、食べやすいように赤身の多いところにしてもらいましょう」
「アタシちょっと行って、一緒に準備してくるから」
「それでしたら私もご一緒します。昔からフルーツの盛りつけは得意なんです」
「待って、だったら私も行くわ」
「リヨンさんは今日の主役でしょ? 食事の準備の方はアタシたちに任せて」
「そうですよ。せっかく願いが叶ったんですから、勇者様と積もる話でもして下さい。後で呼びに来ますよ」
「2人とも本当にお節介なんだから……。でも、ありがとう」
「じゃあまた後でねー」
「どうぞごゆっくり」
深々と頭を下げるリヨンと俺を残して、アリスベルとフィオナが食堂へと向かいかけ――、
「おにーさん、分かってると思うけど、リヨンさんは病み上がりなんだから無茶させちゃだめなんだからね?」
くるりと振り返ったアリスベルが最後に一言、念押しのように言い残してから、今度こそ部屋を出て行った。
途端に部屋の中が静かになる。
「ずっと気付かなくてごめんな」
2人きりになったのもあって、俺は改めてリヨンに詫びを入れた。
「ずっと言わなかった私も悪いし、おあいこよ」
照れ隠しのように、プイっとそっぽを向きながら言ったリヨン。
「かもな」
俺は小さく苦笑しながらリヨンを後ろから抱きしめた。
「ちょっとクロウ、やめてよね」
「少しだけ良いだろ?」
「だって……汗かいちゃってるし」
「気にしないから。俺もう、さっきからリヨンが可愛くて可愛くて仕方なくてさ」
「か、可愛いって――」
「アリスベルにも言われたから、無理はさせない。ギュッとするだけだから。な?」
「……うん」
リヨンがさっきまでとは打って変わって乙女のように小さくうなずいた。
「しんどくなったら言うんだぞ」
「うん、ありがと。……クロウの身体って大きいよね」
「一時期は腰痛で動けなくて体力もかなり落ちてたけど、最近また鍛えてるからな。身体を動かすのは好きだし」
「若者の更生施設に入り浸って、新兵候補を散々しごいてるって聞いてるわよ?」
「2,3人、センスのある有望なのがいてさ。ねじ曲がった性根さえ直せば化けると思うと、つい、な」
しかもあいつら、俺が勇者で国王だって分かっていても気にせず本気で向かってくるから、俺も容赦なくシバキ倒せるんだよな。
王国騎士が相手の模擬戦だと寸止めしないといけないのとは、大違いだ。
そう、俺はあいつらの学習能力のなさを矯正してやっているのだ!
「クロウは強すぎるんだから、ストレス解消もほどほどにね」
「リヨンは優しいんだな」
「そんなんじゃないし。もぅ、クロウの馬鹿……」
リヨンが甘えたような声で呟く。
な、なんだよリヨンのやつ。
抱きしめた途端に甘えたモードかよ。
マジで普段とのギャップが激しすぎて、俺の心が空の果てまでピョンピョンしちゃいそうなんだが!?
だがしかし。
病み上がりのリヨンに無茶をさせるわけにはいかない。
俺は気づかいのできる男なのだ。
俺は朝ごはんができるまで、そのままリヨンと静かにイチャイチャすることにした。
………………
…………
……
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