第128話 リヨン復活

「このエロザル下半身クソ勇者が! 病気で寝込んでいるのをいいことに、なに晒しくさってんのよ!」


 俺はベッドから蹴り落とされたことで、目を覚ました。

 蹴ったのはもちろんリヨンだ。


「ちょ、痛いんだが……なにも蹴り落とすことはないだろ。勇者スキルを使ってない時は、痛いもんは痛いんだぞ」


 気を許して無防備に熟睡中だったこともあって――危機を察知する勇者の直感は、残念ながらこの程度では発動しない――無様にも顔から床に落ちた俺は、赤くなった鼻をさすりながらリヨンに抗議したんだけど。


「はぁ!? 蹴るに決まってんでしょうが! なに堂々と私のベッドに入り込んでんのよこの淫獣勇者! ヤったのね!? ヤりやがったのね!? その汚れた聖剣を私の中におっ立てやがったのね!? このヤリチン! 舌噛んで死ね! 今すぐ!」


 ブチ切れ中のリヨンに、俺の言葉は通じない。


「おいおい、なに言ってんだよ。リヨンが一緒に寝てくれって言うから、添い寝してやったんだろ? そのまま俺も寝ちゃったのは悪いと思うけどさ。あとヤってはないぞ」


 俺は事実を事実のままで伝えたんだけど。


「はぁ? この私が? クロウみたいな下半身の聖剣をおっ立てることしか考えてないエロ猿に? 一緒に寝て欲しいって頼んだ!? そんなこと言うはずないでしょうが! バカは休み休み言いなさいよね!」


 さらに激怒したリヨンに、追加でゲシゲシと踏まれてしまった。

 すっかり元気になったみたいで、とりあえずそこは良かったよ。


 あとリヨンみたいな美人に素足で蹴られたからか、なんかちょっと気持ちよくなってる自分がいるような、いないような……。


「いや、マジなんだって! 本当にリヨンに頼まれたから、病人には優しくしないとなって思って一緒に寝て、抱きしめてあげたんだ」


「この私が!? 言うに事欠いて、下半身で生きているようなアンタに抱いてってお願いしたっていうの!?」

「そうだぞ?」


「今も盛大に下品な物をおっ立ててる節操なしのエロ猿に、この私が!? っていうか、汚いものを堂々と見せびらかしてんじゃないわよ!」


「これはただの生理現象だっての! 男はみんな朝になったらこうなるの!」


 言いながら、俺は両手で股間を隠した。


 だがしかし、朝勃ちとは自分の意思とは関係なく起こるもの。

 これは男に生まれた以上は仕方がないんだよ。


「チッ……100歩――いえ100万歩譲ってそうだったとして、本当にヤってはないんでしょうね?」


「何もしてないよ。ただ添い寝しただけだから。本当に本当」


「じゃあ……」

「え?」


「じゃあなんで私は、裸にひんかれてたのよ! アンタも裸だし、どうみてもヤられてるでしょこれ!」


 リヨンは全裸でシーツにくるまった、いわゆる裸シーツの状態だった。


 そんなリヨンが怒りに任せて強烈にガンガンと俺を蹴り始める。

 しかもあきらかに俺の股間を狙っている。


「ちょ、おい! さすがにそれはアウトだから! 当たり所が悪かったら折れるって!」


「もはやアンタの存在の方がアウトだっつーの! このレ●プ魔! 2度と立たないように今ここで永遠に封印してやるわ!」


 ちなみにリヨンは勇者パーティとして何年も戦っただけあって、格闘戦も並の戦士よりはるかに得意である。

 そんなリヨンの鋭いローキックが、俺の股間をたて続けに狙ってくる。


「だから誤解なんだってば! 熱っぽくて苦しいからって、リヨンが自分でパジャマを脱いだんだよ! 覚えてるだろ?」


「はんっ! ボーっとしてたからまったく記憶にないし、汚らわしい記憶を思い出す気もないわね」

「そこは落ち着いてちゃんと思い出そう! ほら、一緒に横になった後すぐだよ!」


「そう言えば、うっすらとそんな記憶もあるような、ないような……」

「だろ!?」


 良かった。

 無事に俺の無実は晴れたようだ。


「じゃあクロウには少しもエロい気持ちはなかったのね? 私の身体も変に触ったりはしていないってことなのね?」


「それはその……」

 その問いに、俺は明確な答えを告げられないでいた。


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