第129話 痴話喧嘩?

 心の中だけで白状しよう。


 あの後、添い寝しながら俺は寝落ちてしまったんだけど、寝落ちする前にちょっとだけ、リヨンのお尻とか胸をお触りしてしてしまったのだ。


 本当にちょっとした出来心で、ちょびっとだけ。


 だってリヨンは俺のことを好きだったんだし、俺だって別にリヨンが嫌いなわけじゃないんだから、そんな2人がベッドで裸で抱き合っていたら、ちょっとくらい触っちゃったりもするだろ!?


 ふにょふにょ、ふわわ~んしちゃうだろ!?


「やっぱやることやってんじゃないの、このクソエロ猿!」


「だから痛い痛い! 痛いってば!」


「痛くしてんのよ! あーやだ! ボーっとしてた間に、クロウに好き放題に凌辱された悪夢が蘇ってきたわ」


「聖剣に誓って、凌辱とかはしてないから! だいたい昨日はリヨンだって『クロウが好き』とか『抱いて』とか言って、嬉しそうに甘えてきただろ? そりゃ俺だって、ちょっとくらいはエッチな気分にもなってもしょうがないじゃないか!」


「なにゃっ!? わ、わわわ私がアンタを好きな訳ないでしょ! な、なな何をトンチンカンなことを言ってるのかしら! へへへ下手な言い訳はやめてよね!」


 もはや怒髪天を衝く勢いで怒り散らすリヨン。

 怒りのボルテージに比例してキックも激しさを増してゆく。


 ガンッ!

 ドゴン!

 バキン!


 くっ、リヨンのやつ、勇者パーティ時代よりもさらに蹴りに磨きがかかっているぞ!?

 まさにキックの鬼だ!


 魔王を倒して平和になっても、なお鍛練を怠らない高い意識!

 さすがリヨンだ!


 だが今はそれが、容赦なく俺に襲いかかってきてるけどな!


 くっ、だめだ。

 もはや何を言っても俺の言葉は聞いてもらえない。


 このままだと、俺の聖剣はリヨンキックによってへし折られてしまう!


 勇者スキルを使うか?

 だがこんなことで勇者の力を使ったと知れたら、師匠(先代勇者)にボコされる……!


 俺がリヨンの鋭いローキックを全裸で必死に防御していると、


「はいはい、痴話喧嘩はそれくらいにしてね」


 アリスベルの声が聞こえてきた。


「朝からお盛んですね」

 さらにはフィオナの声まで聞こえてくる。


「あ、アリスベル!? フィオナ!? えっとその、これには深い事情があってだな──!」


 俺は股間を両手ガードしながら、慌ててアリスベルたちに顔を向けた。


 リヨンの蹴りが俺の尻に炸裂してベチンと盛大な音を立てたが、もうそれはいい。


 アリスベルとフィオナは2人一緒に、執務室とこの部屋を繋ぐドアから、部屋の中を覗き込んでいた。


「あ、アリスベル。それにフィオナも……」


 そしてリヨンもさっきまでの威勢はどこに行ったのやら、アリスベルとフィオナに視線を向けながらピタリと動きを止める。


 ふう、とりあえず鬼神リヨンの攻撃は止んだか。


 だが一難去ってまた一難である。


 というのも今の状況を説明すると、俺とリヨンはベッド脇で、全裸と全裸シーツで乳繰り合っている。

 そんな俺たちを、入り口のドアから覗き込むアリスベルとフィオナ。


 やっべぇ!

 これどう見ても、妻に浮気現場に踏み込まれた夫じゃん!


 もはや絶体絶命。

 完全に言い訳不能な状況じゃん!


 今回はマジで俺、何もしてないのに!

 アリスベルとフィオナを悲しませないように、必死に込み上げてくるえっちな欲望を必死に抑えたのに!


 なのになぜ!


 どうする俺?

 どうする!!??

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