第127話 リヨンと2人、ベッドで裸で――。

「ごめん」

 だから俺は小さく呟くと、リヨンを安心させるように抱きしめる手に力を入れた。


 リヨンのお願いは聞いてあげられないけど。

 それでも俺は、リヨンのことを大切に思っているんだってことが伝わるように、俺は自分の想いをしっかりと込めてリヨンの身体を抱いた。


 これが今の俺にできるギリギリ精いっぱいだったから。

 これ以上は踏み出せないから。


「……………………無理言ってごめんね」

 長い沈黙の後、リヨンは小さく呟くと、甘えるように強く抱き返してきた。


「俺の方こそごめんな。リヨンの気持ちに応えられなくてさ」

「ううん、悪いのはわがまま言った私だから」


 そう言うとリヨンは俺にしがみついたまま、胸に顔をうずめてきて――なぜかリヨンがもそもそし始め、何をしてるのかと思ったら急にパジャマを脱ぎだした。


「なんでパジャマを脱ぐ!?」

「熱っぽくて暑いから。くっついたら余計に暑いんだもん」


「じゃあ離れるか――」


「ダメ。ほらクロウも暑いでしょ? 脱がせてあげるね」

「脱がさなくていいから!」


「じゃあ自分で脱いでよ」

「なんでそうなる!?」


 なにが「じゃあ」だ!


「普通、病人のお願いは誠心誠意聞くものよね?」

「一般的にはそうだろうけど、これはちょっと違うっていうか……」


「あー疲れたー、死んじゃうー。脱いでくれないと死んじゃうー」

「んなこと言われても・……」


「脱いでよ? ほら、早く」

「いや、だからさ……」


「脱げったら脱げ」

「まぁ、脱ぐだけなら……?」


 過労で倒れたリヨンの心身を労わるためにも、なるべくお願いは聞いてあげたかった。

 あと、普段なら絶対に甘えてこないリヨンに甘えられて、俺もちょっとまんざらではないというか。


 こうして俺とリヨンはベッドで真っ裸になってしまったのだった。

 そのお互いに一糸まとわぬ状態で、リヨンはまたまた俺にギュッとくっついてくる。


「これで、くっついても暑くないね」

「そ、そうだな」


「気持ちいい……安心できる……」

「それなら良かった」


 しばらくするとすー、すーと規則正しい寝息が聞こえてきた。


 どうやら本当に暑いから脱いだだけで、他意はなかったようだ。

 やれやれ、このままえっちな展開に持ち込まれるのかと思って心配したよ(主に俺の精神が持ちこたえられるかと言う意味で)。


「でもそうだよな。過労で倒れたんだもんな。しっかり眠るんだぞリヨン」


 俺は優しく声をかけてからベッドを出ようとしたんだけど、しかしリヨンはいつまで経っても俺をギュッと抱きしめたまま、離そうとはしない。


 俺を抱きしめたまま、気持ちよさそうに熟睡している。


「ははっ、俺は抱き枕か?」


 俺は小さく苦笑してみせたんだけど、その実、内心は焦りに焦っていた。


 おいおいおい!

 これはヤバいだろ!?


 俺の聖剣がリヨンの素肌に触れてしまっているんだが!?


 改めて言おう。

 リヨンは超が付くほどの絶世の美女で、スタイルも抜群だ。


 そんなリヨンと今、俺は互いに全裸で抱き合っているのだ。

 お互いにギュッと抱きしめ合って、素肌と素肌が触れ合い、足とかも絡み合っている。

 柔らかい感触が至るところから伝わり、甘い匂いがすぐ近くでしてくるのだ。


 はぁはぁ、落ち着け。

 落ち着くんだ俺。


 これは病人を介護しているのであって、それ以上でもそれ以下でもない!


 決してえっちな交わりなんかではないのだ!!

 ないんだからね!


 だから鎮まれ俺のイケナイ聖剣!!!!!!!!!


 俺はともすれば誘惑に負けそうになる己の心を必死に叱咤激励しつつ、リヨンが離してくれるまでは一緒に居てあげようと思って――いつの間にかそのまま眠りこけてしまったのだった。


 ………………

 …………

 ……


 そして翌朝を迎えた。

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