第126話 リヨンの本音

「優しくしてくれなかったら、もう仕事手伝わないもん」


「なぬっ!? その、それは困る。超困る。マジで困る。今リヨンに国政から抜けられたら、本当に困るんだ。それだけは勘弁してくれないか?」


「じゃあ、抱いてよ? お願い聞いてくれたら、これからもずっとクロウのこと手伝ってあげるから。私が死ぬまでずっと、永遠に」


「それとこれとは話が別だと思うな~! 仕事とプライベートはちゃんと分けないとさ!」


「そんなこと言ってるわりに、仕事をさぼって抜け出して街に遊びに行ったり、アリスベルやフィオナと隠れて職場えっちしたりしてるくせに」


「あ、はい。誠にもっておっしゃる通りです」


 それを持ち出されると、まったく言い返せない俺だった。


 でも一応ほら、結果的には、全王家の落としだねのミズハを救けだしたり、地上げで大儲けしようとしてた不貞高級官僚を懲らしめたりと、正義な結果には繋がったんだよ?


「ね、クロウ。何もずっとなんて言わないから。今だけでいいから。今だけ私に優しくしてくれたら……1回だけ優しくしてくれたら、国も安泰。みんな幸せでしょ?」


「だめだ。アリスベルとフィオナが悲しむんだ。2人とも俺の大事な人で、裏切りたくない」


「私よりも? 国よりも? 国民よりも?」

「リヨンもアリスベルもフィオナもセントフィリア王国も国民もみんな大事なんだけど、大事の方向性が違うっていうか……」


「関係はここだけの話にするって約束する。絶対に誰にも言わない。抱いてもらえたら、私も未練を捨てて、次に行けるから」


「未練……」

 リヨンは俺に、そこまでの想いを――。


「だから、ね? このままだと私、クロウのことを想ったままお婆ちゃんになっちゃうよ」


「リヨン……もしかしてずっと昔から俺のことを好きだったのか? それこそ勇者パーティで一緒にやってた頃から」


「今さらの質問ね」


 俺は今さらながらにその事実に行きついて愕然とした。

 つまりリヨンはずっと俺のことが好きで、でもそれを隠すために、照れ隠しで俺にだけきつく当たっていたのか?


 確かにそうと考えれば、これまでのリヨンの全ての行動につじつまが合う。


 俺にだけああも当たりがきつい割に、俺が無茶な頼みごとをしにいくと文句を言いながらもきっちり頼みを聞いて完璧すぎだろってくらいに仕上げてくれるし。


 何も言わなくても、あれこれ気を利かせてくれて、俺が気付かないことまでいろいろと手助けしてくれる。


 そういったもろもろのことにも納得がいった。


「そうだったんだな……」


 アリスベルに運命を感じて、出会ったその日に、腰痛を治してくれたお礼とか街を助けてあげた恩とか押し売りしつつ、ごり押しのごり押しでなし崩しえっちして今に至る俺とは正反対の、箱入り娘のような純情さだった。


 だが1つだけ言わせて欲しい。


 おまえ初恋したばかりの子供かよ!?


 純情乙女と好きな子を虐めたくなる男子児童が、心の中で高次元で同居してんじゃねーよ!

 そんな複雑な乙女心、普通は気付かねぇっつーの!


「だから今だけ、クロウの優しさを私にちょうだい。それでもう綺麗さっぱり未練は捨てるから。お願いクロウ」


 リヨンが切ない口調で懇願をする。


 俺はリヨンがずっと秘めていた想いを知ってしまった。


 リヨンに抜けられたら今のセントフィリア王国はまともに運営できない

 そして口外しないと言った以上、リヨンは絶対に口外しないだろう。

 墓まで持って行ってくれるはず。


 そして俺個人としても、リヨンみたいな美女とはえっちしたい。

 すごくしたい。

 超したい。

 いますぐしたい。

 ヒャッハー!今夜はフィーバーだぜ!ってハッスルしたい。


 だから俺が「合理的な選択」をするのであれば、リヨンのお願いを聞いて抱いてあげるのが正解だった。


 だけど俺には合理的な選択はできなかった。


 アリスベルとフィオナを裏切ることはできなかったんだ。

 国家万民と2人の女の子を天秤にかけて後者を選ぶ。

 政治も事務もできないだけでなく、俺はどこまでも国王として失格だった。

 どこまでも自分の事ばかりしか考えていない。


 俺はなんてダメな国王なんだ……。

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